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楽しいサッカークラブのつくり方  作者: カミサキハル
【第一章】サッカークラブの三人と新しい二人
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出会い話と今後

「あの……本郷さん」


 声をかけられ千佳は思考を現実に戻す。


「もしかして、その「備丘(びおか)GFC」に入りたかった?」


 不安な口調で藍那は千佳の顔をうかがう。


「そんなことないわ。あのクラブ、私は嫌いなの」

「嫌い?」

「練習の効率が悪いのよ」


 一度見に行った練習を思い返す。

 人数が多く、ごった返ししていた練習風景。練習内容が細かく分けられていて、十分な練習ができているとは思えなかった。


「あれだけ人が多いと練習にならないわ」

「でも、新しくクラブを作るとなると、練習以前の問題になりそうだけど?」

「まぁ、ね」

「どうしてー?」

「……色々事情があるのよ」


  千佳は言葉を濁す。みさきはそれ以上追求することはしなかった。

 沈黙が三人の間に流れる。


「わ、わたしは感謝しているよ!」


 沈黙に堪えきれなかった藍那が思いきった口調で言う。


「まさか、クラブを作ることに賛成してくれるとは思っていなかったし……」


 藍那の言葉に千佳とみさきは出会ったときのことを思い出す。


 学校が異なる三人が集まったのは偶然だった。

 彼女たちが知り合ったのは備丘GFCとは異なるサッカークラブ「敷瀬(しきせ)GFC」の体験会に参加する予定だったグラウンド。

 しかしグラウンドにいたのは千佳、みさき、藍那の三人。他の体験者やクラブ関係者らしき人はおらず、ただただ三人は戸惑った。

 そんな中「ただ待つならボールを蹴ろう」とみさきが持ってきていたボールを取り出し、千佳と藍那を誘った。二人はその誘いに乗り、ボールを蹴ることにした。

 一時間ほどボールを蹴っていると、クラブ関係者がやって来て「解散したから体験会は中止」という事実を知らされた。


「解散したことを聞いたときは衝撃的だったよねー」

「そうね」

「でも、あたしはやっぱり藍那ちゃんがクラブをつくろうと言ったことのほうが衝撃的だったかな?」

「そ、そう?」


 みさきに言われて、藍那は少し戸惑ったように言う。


「普通は「他のクラブを見に行こう」ってなるのに、解散したことを聞いた瞬間に「だ、だったらクラブをつくりませんか?」って言うんだもん」


 当時の藍那の口調を真似してみさきは言う。藍那は恥ずかしそうに顔を下に向けた。


「あの時はその事しか思いつかなかったから……」

「あたしはクラブを作ることは面白いと思うから賛成したんだけどねー。千佳ちゃんは?」

「私は他のクラブに入るよりはいいかな、と思ったのよ」

「……よかった」


 ホッと藍那は胸を撫で下ろす。


「でも大きな問題はあるよ」

「そうね」

「問題?」

「まずは人数が足りないこと」


 みさきは人差し指を立てる。まずサッカーの試合をするためには最低でも七人は必要。だけどその人数で試合をしても一方的に攻め込まれて勝てないことが目に見えていた。


「十一人は必要だよねぇ」

「九、十人くらいでも試合はできると思うけど、勝つ前に試合が面白くないわ」

「だねー」

「じゃあ、あと七人は必要?」

「そうよ」

「……人数が多くなることは怖いけど、が、頑張って集めましょう」

「お、その意気だよ、藍那ちゃん」


 募集にやる気を出している藍那にみさきは笑みを浮かべる。


「だけど問題はほかにもあるんだよねー」

「なに?」

「指導者は欲しいかなー。やっぱり個々で練習するには限界があるだろうし」

「確かにね」

「練習試合を組んだり公式大会への出場申請も指導者に任せたいし」

「丸投げね」

「だってあたしたち高校生じゃ無理でしょ」


 さすがに学生がほかのクラブに行ってお願いしても、難しいとみさきは考えていた。そこは指導者の伝手があれば、すんなりことが進むかもしれない、とも感じていた。

 千佳もみさきの言おうとしていることを理解したのか、首を縦に振った。


「そうね。指導者については高校の男子サッカー部の先生に聞いてみるわ」

「千佳ちゃん、お願いー」

「分かったわ。ほかに問題は……」

「……ユニフォーム」


 ぽつりと藍那が言った。


「試合をするなら、ユニフォームが必要だよね?」

「そだねー。人数が集まってから意見を聞いたほうがいいかもしれないけど、原案は作っていてもいいかも」

「……わたしがつくってもいい?」

「お?」


 藍那の言葉にみさきは目を丸くした。


「なにか案でもあるの?」

「す、少しだけ……」

「じゃあ、藍那ちゃんに任せよっか。千佳ちゃんもいい?」

「異論はないわ。それでみさきは何をするの?」

「んー、あたしは情報収集しよっかなー。クラブを作るために何が必要なのか調べておくよー」


 そういうとみさきは残っていた飲み物を一気に飲み干し、立ち上がる。


「今日はここまでにしよー。このままいてもクラブ創設の進展はなさそうだし」

「そうね」

「ということで、これから河川敷のグラウンドに行かないー? ボール蹴ろうよー」

「う、うん」


 うなずく藍那。彼女も飲み物を飲み切ると立ち上がって、エナメルバッグに手をかける。


「千佳ちゃんはー?」

「私も行くわ。でも交通手段は別々よね?」

「あたしは自転車。藍那ちゃんは路面電車で移動?」

「そうだよ」

「私も自転車だけど、一度家に戻って着替えてくるわ」

「じゃ、じゃあ、グラウンドで集合でいい?」

「ええ」

「オッケー」


 そうして三人は喫茶店をあとにした。

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