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楽しいサッカークラブのつくり方  作者: カミサキハル
【第二章】双子の従姉妹
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考えて、動く

(す、すごいなぁ)


 由依のプレーに藍那は驚きを隠すことができなかった。

 得点を入れるために後先を考えずに体を投げ出す。彼女の献身的なプレーは藍那の想像を越えていた。


「わたしも、あんなふうにプレーしたらいいのかな?」

「しなくていいわよ」

「あ、千佳ちゃん」


 千佳は点を取られたあと藍那に声をかけるべく、彼女に近づいていた。彼女の呟いた言葉が聞こえ、千佳は首を横に振って否定した。


「チームに貢献する動きは別に構わないけれど、最後の得点のシーンは真似をするほどじゃないわ」

「そうなの?」

「怪我をするだけよ」


 メリットはほとんどない。由依のプレーも一歩遅かったら線上にボールを置くことができず、得点にならなかった可能性もあった。


 由依の足が速く、ボールに追いつくことができたらできたプレー。

 藍那が真似をしたころで上手くいくはずがなかった。


 そもそも今は練習で三対三をしている状況。怪我をするようなプレーを自ら行わなくてもいい。


 そんな考えが千佳の頭の中で浮かぶ。


「藍那には藍那のできることをすればいいわ」

「できること……」

「一昨日のとりかごのこと、覚えている?」


 とりかご。今と同じ河川敷で行った三人で回すボールを二人の鬼が取るゲーム。


「動きの基本はそのときと同じよ。味方がボールを持っているときはパスを受けやすい場所に移動」

「相手がボールを持っているときは?」

「ボールを前――ゴール方向にいる相手にパスを出されないようにパスコースを防ぐのよ」

「ドリブルをしてきたら?」

「そうね……」


 千佳は腕を組んで考える。


「ボールを取ろうとして、無闇に飛び込まない。相手がパスをしようとしているのか、抜こうとしているのか、考えるのよ」

「考える……」

「そう。そしてボールを蹴る瞬間に足を出してボールを取る」


 振りかぶっているときがチャンスだからね、と千佳は付け加える。

 彼女の言葉に藍那はうなずいた。


「まあ今考えても分からないこともあるわ。みさきも言っていたけど、ゲーム中で考えて動いてみて。経験しないといけないから」


 サッカーを頭で理解しても実際に体を動かさないと分からないことが多い。

 理解できても思うように体が動かなければ意味がない。特に藍那のようにサッカー初心者だとなおさらだ。


 実践あるのみだと千佳は思う。


「が、がんばる」

「失敗を恐れないで」

「うん……」

「藍那ちゃん、千佳ちゃんー。再開するよー」


 みさきが二人に声をかける。

 千佳は「フォローするから」と言ってポン、と藍那の肩を叩く。そしてミニゲームを再開するため、みさきからボールを貰うべく後ろに下がる。


(考えて、動く)


 藍那は叩かれた場所をさすり、言葉を反芻する。

 とりかごをしたときもそうだったが、考えながら動くことは難しい。


 考えている間も状況は変化し、彼女の動きがどうしても遅れていたからだ。

 一歩遅れがちなプレーになっていることは藍那も理解している。


(経験を積めばできるようになる、のかな?)


 練習を積み重ねることで自然とプレーができるようになるのか、今の藍那には分からない。

 だけど千佳が言うことはもっともだと感じた。

 それにフォローすると言ってくれたのだから、その言葉に甘えることが一番だと藍那は思った。


(失敗を、恐れない)


 それは気持ちの問題。一度深呼吸をし、頬を叩いて前を向いた。


「千佳ちゃん、何を話していたのー?」


 一方でみさき。彼女は千佳にボールを渡しながら尋ねる。

 幸い由依や理紗はプレスをかけてこない。


「吉野さんの真似をしようとしていたから、止めたのよ」

「あんなプレーを見たら、感化されるかもねー」

「それはそうと、吉野さんをどうやって止める?」


 千佳とみさきは先ほどのプレーで由依にスピードで振りきられていた。あのスピードは脅威だと二人は理解していた。


「スピードに乗られると、追いつけないよねー」

「対応策はあるの?」

「スピードに乗せさせたらいいんじゃないー?」

「それ、対応策でも何でもないじゃない……」


 的の外れた答えにため息を吐く千佳。するとみさきは「チッチッ」と言って人差し指を振った。


「要は得点をさせなければいいんでしょー」

「得点させない?」

「由依ちゃんを見てよー」


 みさきは由依を指差す。先ほどのプレーの影響か彼女は肩で息をしていた。


「あと何回か同じ事をさせれば体力はなくなるはずだよー」

「その「何回」で点を取られたら意味がないでしょ?」

「由依ちゃんに追いつかなくても、ゴールされるボールに追いつけばいいんだよー」

「……ボールが止まる前にクリアするってこと?」

「そういうことー」

「なるほどね」


 合点がいった千佳はうなずく。


 みさきが言いたかったことは二つ。


 一つは由依を走らせて体力を無くさせること。そうすれば脅威がなくなる。

 動けなくなれば、相手が二人なのと同じ意味を持つ。攻撃も守備を楽になるはずだ。


 そしてもう一つは体力のある間の由依の対応として、ゴール直前でボールを奪うこと。

 つまりライン上にボールを止めることで得点だから、ボールが止まる前に蹴り出せ、ということだ。


「そのためにも千佳ちゃんが上手く由依ちゃんを追い込んでねー。ゴールを防ぐのはあたしがやるからー」

「分かったわ」


 好き勝手にはやらせない。それは二人の共通の認識だった。


 話を終え、千佳はドリブルでボールを前に運ぶ。攻撃をしていた由依と理紗は自陣まで戻っていた。

 ポジショニングとしては由依が前で理紗がその後ろ。ゴールライン付近には美紗がいる。


 藍那はというと、由依と理紗の間をうろうろしていた。彼女なりに千佳からボールを受け取ろうと考えているのだ。


(さて、どう攻めようか)


 ドリブルで攻め上がることは簡単だ。由依を抜くことは千佳にとって造作もない。

 そのあとに理紗が詰めてくることも想像できる。それをかわすこともできる。


 問題なのは美紗。彼女だけは抜くことが難しいと直感で感じていた。


 生粋のディフェンダー。


 そんな言葉が千佳の頭に浮かぶ。

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