三人のサッカークラブ
「で、結局誰も興味を持ってくれなかったと」
「うぅ……」
「まー仕方ないよぉ。千佳ちゃんの高校も同じだったんでしょ?」
「……そうだけど」
「だったら藍那ちゃんを責めるような言い方をしない。スタダで甘いものを飲みながら一服しましょー」
敷瀬駅前のカフェ「スタダ」。丸いテーブルを三人の女子高生が囲んでいた。
各々購入した飲み物に口を付け、会話をしている。
「みさきも駄目だったのね?」
「この時期にメンバ募集するのも遅いからねー」
みさき、と呼ばれたくせ毛のショートヘアーの少女は飲み物を一口飲むと、天井を見上げる。
「だって五月ですよー。楽しく過ごす予定だったゴールデンウィークはメンバ募集の準備でつぶれちゃったし」
「……ごめん」
「あ、藍那ちゃんは悪くないよ」
真っ直ぐな髪でボブの髪型の藍那にみさきはあわてて言う。
「悪いのは見学しに行こうとした敷瀬GFCが解散したことだよ」
「そうよ」
千佳がみさきに同意する。
「三月から四月初めにかけてメンバ募集していたのに……すでに解散していたなんてあり得ないわ!」
ドン、とテーブルを叩く。近くのテーブルで飲食していた客が驚いて三人のほうを振り向いた。
「千佳ちゃん、うるさいー」
「……こほん」
千佳は頬を赤らめ咳払いをする。そして肩にかかっていたセミロングの髪を首を動かして揺らし、前髪を触りながら何事もなかったかのように飲み物を飲む。
「そういえば他にサッカークラブはあったけど、千佳ちゃんはそっちに行かなかったんだよねー」
「他のサッカークラブ?」
「知らない? 地元の強豪女子サッカークラブだよー」
首をかしげる藍那にみさきが説明する。
「中学の時に試合をしたことがあるけど、強かったなぁ」
「試合したことがあるの? みさきは男子に混じってサッカーをしていたのに、戦う機会なんてあったの?」
「毎月練習試合の対戦相手に選ばれていたのだ」
中学のサッカー部顧問がクラブの監督と知り合いでねー、とみさきは付け加える。
「男子のクラブや部活と試合をして強くなっているみたいだよー」
「なるほど」
「で、藍那ちゃんはそのクラブチームのことは聞いたことがなかった?」
「う、うん」
みさきに尋ねられ、藍那はおずおずとうなずく。
「わたし、サッカーはよく分からないから……」
「それは答えになっていないよー」
「あいた」
脳天にチョップをされ、藍那は頭を抱える。そしてチョップをしたみさきのほうを上目遣いに睨む。
「うー」
「全然怖くないよー。どっちかというと可愛いだねー」
「……うー」
「みさき」
「はいはい。ごめんね藍那ちゃん」
千佳に注意され、みさきは頭を下げる。藍那は頭を押さえていた手を離し、膝の上に戻すと、その両手の親指を回す。
「みさきちゃんが言っているクラブチームは「備丘GFC」のことだよね?」
「そうだよ」
「私はネットで調べたんだけど、よく分からなかったの……」
藍那は天井を見上げ、頭の中を整理しながら、口を開く。
「募集していることは分かったんだけど、どんなクラブか想像できなかったの」
「あー、あのサイトの内容からは分かりにくいかぁ」
藍那の言葉にうなずくみさき。彼女は次いで千佳を見た。千佳は藍那が何を言おうとしているのか分からず少し首を傾け、脳裏で言葉の意味を考えている。
「千佳ちゃんはサイトを見た?」
「ええ。全国大会にも何度か出場している強豪クラブ。あとクラブ内でも三、四チームはあるわね」
「……えっと」
「藍那ちゃん、千佳ちゃんはサイトでここを見ていたんだよ」
みさきはスマートフォンを取り出し、備丘GFCのサイトを開く。そしてサイト上部の項目から「実績」をタップした。
すると、遷移したページにこれまで出場した大会の成績が表示される。
ページを開いたみさきは藍那に見せる。藍那はその内容を読む。
「地区大会優勝や準優勝が多いね」
「でしょ。それにチーム名の後ろにAとかCがあるでしょ? これは同じクラブ内に複数のチームを持っているから、分けて書いているんだ」
「……もしかして、人数が多い?」
サッカーは十一人で試合をするものだ。それが備丘GFCの場合はサイトを見る限り四チームはある。ということは最低でも四十四人以上はクラブにいることになる。
そのことを頭に思い浮かべながらみさきは藍那の言葉にうなずいた。
「……それは、駄目」
すると藍那は小声で言い、首を横に振る。そして上目遣いで二人のほうを向く。
「十人以上、人が多いのは、無理」
「あのチームが嫌い、とかじゃないんだ」
「サッカーは十一人でやるのよ……」
藍那の言い分に二人はため息を吐く。
彼女が人見知りで、ものすごく緊張しやすい性格だということは知り合って数日もたたないうちに実感していた。
「サッカーをするなら、その緊張しやすいのは治さないといけないわ」
「わ、分かっているよ」
「苛めちゃ駄目だよ、千佳ちゃん」
「私は苛めてなんかいないわよ」
千佳はため息を吐く。
(みさきといると調子が狂うわ)
緊張しがちでどこか自信なさげな大嶋藍那。
マイペースでおっとりとした口調の川内みさき。
知り合ってからまだ二週間ほどしか経っていない。けどその期間で一緒にいることが多かったから、千佳は彼女たちの性格をなんとなく把握できていた。
(まあ、これはこれで新鮮だから不快ではないけど)




