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楽しいサッカークラブのつくり方  作者: カミサキハル
【第二章】双子の従姉妹
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三対三

 千佳が持ってきたマーカーで長方形を作る。大きさはだいたいペナルティエリアの四分の一。大きすぎず小さすぎずといったところ。

 マーカー間には地面を削って線を引いてある。


「メンバ分けはどうする?」


 作ったコートの真ん中に自ずと集まり、美紗が尋ねた。

 彼女の頭の中にメンバ分けの方法が二つ思い浮かぶ。一つはじゃんけん。例えばグーとパーだけでじゃんけんし、同じパターンのメンバがチームを組む。

 もう一つは円になって「一」と「二」の数字を交互に言い、同じ数字の人がチームを組む方法。

 じゃんけんだと同数になることに時間がかかる可能性があるから、後者を実施するほうが効率的だと美紗は思う。


「んー、これでいいんじゃない?」


 由依が理紗と美紗を引っ張り、引き寄せる。


「血縁関係バーサスそうじゃない人」

「……由依、言い方考えようね。でもその分け方はいいかも」


 美紗は由依の方法に同意する。サッカー未経験者も両チームに分かれるし、戦力の分散にもなっている。

 連携面を考えると美紗と理紗がいるチームのほうが有利だと感じた。


「いいんじゃないかなー」

「構わないわよ」


 みさきと千佳がうなずく。彼女たちも異論はなかった。美紗は藍那と理紗を見たが、こちらも不満はない表情。


「じゃあ……はい、これ」


 由依は手元に持っていたビブスを理紗と美紗に差し出す。


「用意周到やな」

「中学のサッカー部の備品よ。昨日部屋を整理していたら出てきたのよ」

「返さなくてええのか?」

「今日使ったら、洗って返すわ」

「……さいですか」


 問題がありそうだが、ビブスことで話をこじらせても意味がない。理紗は素直にビブスを受け取り、体操着の上に着る。


「ルールはどうするの? タッチ数の制限とかあるの?」

「そうね……」


 美紗の質問に千佳が腕を組み考える。三人のチームでタッチ数に制限をかけると状況の判断を意識をしながらプレーすることになるから、練習にはなると思う。ただコートがの広さを考えると、ドリブルも必要な場面が必ず出てくる。

 それにタッチ数に制限をかけると三人が常に走ることが前提となる。


 チラッと藍那を見る。走ることが前提となると彼女の体力が心配だった。一昨日とりかごで鬼をしていたときに走り続けていたが、途中で肩で息をするほど疲れ切っていた。


 それも数回しただけで。


 基礎体力がない藍那のことを考えるとタッチ数は無制限のほうがいい。

 そうすれば千佳やみさきがフォローに回ることができる。


「タッチ数に制限をかけないわ。ただしゴールはシュートせずゴールライン上で止めること」

「なるほど。そうすれば、ボールが外に出たときに取りに行く回数が減るわね」


 千佳の提案に美紗は納得する。プレー外の無駄なことが減るし、シュートの打ち合いがなくなる。必然的にパスをつないでゴールを目指すミニゲームになる。


「ルールはそれぐらいかな」

「了解や」


 理紗はうなずくと足元に置いていたボールを拾い、両手で持つ。


「攻める方向はうちらが川方向、千佳たちが土手方向でええよな?」

「それでいいわよ」

「じゃあ、いくでっ」


 そう言い、理紗はボールを蹴り上げた。インステップで強く蹴られたボールは高々と空をのぼっていく。


「はぁ……」

「高く蹴り過ぎよ」

「そうだねー。千佳ちゃん、ボールの硬さは?」

「……少し硬めかしら」

「理紗、ヘディングよ」

「うちの頭を割る気かっ」


 西日に照らされたボールが上空で一瞬止まり、落下し始める。

 さすがに誰も取ることができない。六人は落下ポイントから離れる。

 誰にも触れられなかったボールは地面に落ち、バウンドする。その高さも二、三メートルの高さまで跳ね上がる。


「ふっ」


 二回目に落ちる場所を予測し、最初に動いたのは千佳だった。足の甲でボールの勢いを吸収すると攻める方向に体を向け、周囲を見渡す。彼女がいる場所はほぼコートの真ん中。みさきは自チームのゴール正面、藍那は右側に立っていた。

 相手側は理紗と美紗が敵陣中央のやや後ろに構え、千佳の正面には由依が立ちふさがっている。

 由依は千佳を見ると笑みを浮かべた。


「本郷さん、勝負しよ?」


 三対三の目的はこれだったらしい。由依が手招きをしている。

 彼女は千佳と勝負をしたかったのだ。


「……いいわよ」


 挑発を受けた千佳はボールを取られないよう適度な距離を保ち、由依と相対する。中学ではマネージャ兼プレーヤーだったと藍那から聞いている。試合には出ていないと言っていたけど、藍那とは違い完全な素人ではない。

 千佳は右足でボールを内側からまたぐ。由依はしっかりと千佳の動きを見ていて動じない。

 ボールを横に転がすと、由依も横に動く。簡単には突破させてくれないようだ。


(だけど)


 昨日の男子サッカー部との練習を思い出す。昨日は六対六のミニゲームをした。

 寄せは速いし、気を抜けない。油断したら足を出されて、ボールをすぐ取られる。

 今みたいに前を向いて対峙することなんて稀だった。


 だから余裕を持ってプレーすることができる。


 改めて由依を見る。距離感は適度だが、ディフェンスの仕方が素人だと分かる千佳に体の正面を向けた立ち方。本来なら半身になって腰を低くして構えるのが定石。


(よしっ)


 短く息を吐き、由依に仕掛ける。由依の左側をドリブル突破。右足のアウトサイドでボールを蹴り、体を由依とボールの間に入れる。


「っ、このっ」


 由依は右足を使い横に跳び、左足を伸ばす。だがボールには届かない。千佳の足を引っかけそうになるが、彼女はボールを前に転がすとすぐさまジャンプし由依の伸ばした足の上を超える。


「私の勝ちね」


 由依の横を通り過ぎるときに、千佳がポツリと言う。そしてドリブルのスピードを上げた。


「まだよっ」


 完全に背後を取られた由依は体を反転させ、由依を追いかける。


「由依、千佳ちゃんの右側から体を寄せて!」


 由依がドリブル突破されたことを確認し、美紗が指示を出す。指示を出された由依はその言葉に反応し、千佳の右側から体を寄せる。


 千佳は由依の動きを見てボールを左足に持ち替える。腕と体を使い、体を寄せる由依の邪魔をする。その腕を由依は掴み、無理やりにでもボールを取ろうとしてくる。

 前を見ると美紗がボールを取ろうと近づいてきているのが見えた。


(このままだと……)


 ボールを取られる。さすがにこの状況を一人で打破することは無理。


「千佳ちゃんー」


 ミニゲーム中とは思えない間の抜けた声で名前を呼ばれ、手を叩く音。チラッと音の鳴る方向を見ると、みさきがボールを要求していた。


 その位置は千佳から見て左後ろ。フリーで構えていた。


 千佳はすかさずボールを左足のアウトサイドで(はた)き、みさきへ渡す。同時に由依の掴んでいる手を振りほどくと縦へ走る。みさきもその動作を見てダイレクトで彼女の前へパスを出す。


 今度は美紗が由依に変わって千佳へと体を寄せる。反応が早かった分、上手く千佳の前に体を入れることができた。


「っ、邪魔!」

「こっちは邪魔をしているの!」


 悪態をつく千佳に美紗は言い返す。守る側からすれば当然の行為。文句を言われても止める必要はない。


 ボールは誰にも触れられず、ゴールラインを割る。


 ここまでの一連の流れほ一分ほど。目まぐるしく状況が変わっていた。


「……はぁ」


 四人の動きを見ていた藍那は感嘆の声をあげることしかできなかった。

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