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楽しいサッカークラブのつくり方  作者: カミサキハル
【第二章】双子の従姉妹
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どこかで見たことがあるような……

「昨日は、ほんまごめん!」


 藍那と由依が河川敷に到着し、最初に見た光景は理紗の土下座だった。

 頭を地面に擦りつけた行動に二人は言葉を失ってしまう。


「……えっと」

「昨日、学校まで押しかけたでしょ。その謝罪だって」


 土下座をしている理紗のそばに立っていた美紗が言う。美紗は姉の行動を見下ろしていた。

 その表情が冷たいのは気のせいだと藍那は思いたい。


「わたしは気にしていないか……」

「許さないわ」


 藍那の言葉を遮って、由依が言う。


「口で言うだけなら誰でも言えるわ」

「吉野さん……」


 藍那は由依のほうを見る。由依はというと、藍那に向けて人差し指を口に当てていた。

 ただその口元は笑みを浮かべ、目元も緩んでいる。


 本気で怒ってはいないらしい。


「どうしたらええんや?」


 理紗が顔を上げる。美紗は理紗に顔を見せないよう背中を向け、腕を組み考える素振りを見せる。


「とりあえず、ランニングしてきなさい。このグラウンドを十周ほど」

「……鬼がおる」

「なにか言った?」

「はい、よろこんで!」


 理紗は立ち上がると全力でグランドを走り出す。


「吉野さん」

「なに、大嶋さん?」

「どうして走らせたの?」

「昨日私たちが走ったことの仕返しよ」


 グラウンドを走る理紗を見ながら由依は言う。


「それに反省をしているのなら、言うことを聞くかなって思ったのよ」

「それだけ?」

「うん」


 うなずく由依に藍那は大きなため息。

 やり過ぎかどうかは置いといて、由依は根に持つ性格のようだ。


「ねえ、美紗。もう一人いたと思うんだけど?」

「川内みさき、だったっけ? 彼女なら反省文を書いているんじゃないかな」


 もう少ししたら来るんじゃないかしら、と美紗は付け加える。


「理紗は?」

「昨日から書いていたわ。昼休みには渡された形式で書き終えていたわ」


 用意周到なのか要領がいいのか、由依は呆れてしまう。


「反省していないのかしら……もう十周増やそうかな」

「吉野さん、それは横暴だよ」

「冗談よ。増やすとしても五……やらないわよ」


 藍那にジト目で睨まれ、由依は前言撤回する。藍那の睨みは怖くはなかったが、そんな顔をされたら罪悪感が生まれ撤回するしかない。

 これ以上は何もしない、と意思表示するために両手を上げる。意思が伝わったのか、藍那は睨むのをやめた。


「ところで今日はこの四人でボールを蹴るの?」

「あと千佳ちゃん……本郷千佳ちゃんが来るよ」


 由依の質問に藍那が答える。


「本郷千佳?」

「わたしたちの中で一番上手いかな」

「そうだね。状況判断も的確だったわね」


 千佳のパスやドリブルを昨日見ている藍那と美紗は彼女のプレーを頭に思い浮かべながら話す。

 正確なトラップやパス、そしてドリブル。とりかごをしたときの状況の判断の良さ。どれも他の三人とは別格だった。


「そうなんだ」

「昨日も千佳ちゃんの高校のサッカー部で練習していたんだって」

「どこの高校なの?」

「吉川高校」

「スポーツ校じゃないの」


 由依は目を丸くした。


 吉川高校。そこは敷瀬市内でスポーツで有名な私立高校だった。

 中学時代で県大会や全国大会などに出場し、有名だった学生を市内からかき集め「強豪校」の肩書きが付けられている。

 サッカー部も当然強く、地方大会の常連で数年に一度は必ず全国大会に出ている。


 ただし、それは「男子」サッカー部 のこと。


「そういえば、女子サッカー部は今年の春に無くなったって聞いたわ」

「そうなの?」

「男子と比べると実績があまりなかったし、それにクラブチームで強豪の「備丘GFC」があるしね」


 本気でサッカーをしたいのなら皆、クラブチームに入っている。そのため入部する人が少なくなっていたと、風の噂で聞いていた。


「本郷さんはその「備丘GFC」には入らなかったのね」

「そうだよ。理由は知らないけど」

「ふーん」


 由依は腕を組み、思案顔で空を見上げる。

 そして何か嫌なことを思い出したのか、表情を曇らせた。


「遅れたわ」


 藍那が由依の表情の変化に気付き、声をかけようとしたところで、千佳がグラウンドに到着した。由依は腕を組むのをやめ、彼女のほうを見る。


「あなたが本郷さん?」

「そうよ……もしかして昨日藍那が言っていた吉野さん?」


 千佳の言葉に由依は大きくうなずき、彼女ををじっと見る。


「なに?」

「やっぱり、中学の最後の大会で試合をした気がする」

「……どこの中学?」

「名乗るほどの学校じゃないわ。一回戦で負けたし」


 その言葉で思い当たったらしく、千佳は手を打つ。


「ああ、あの十人のチームの」

「容赦なかったわよね。二桁での大敗が中学最後の試合になったわ」

「……推薦がかかっていたからね」


 トゲのある言い方にムッとしながらも千佳は言い返す。

 中学時代、千佳は高校のスポーツ推薦を取るために必死だった。談志に混じってサッカーをしていた分、推薦を取れるかどうか不安だったのもある。

 心に余裕がなく、久しぶりに公式戦でスタメン出場した結果、一回戦で戦った由依のチームを完膚なきまでに叩き潰してしまったようだった。


 一方千佳の返答に由依は、眉間にしわを寄せ彼女を睨む。


「それで、推薦で入った吉川高校の女子サッカー部は……」

「ちょ、ちょっとストップ、由依!」


 早口になり、詰め寄ろうとする由依を美紗が慌てて制止する。


「落ち着いてって。そこまで言う必要はないでしょ?」

「……まぁ、そうね。ごめんなさい、本郷さん」


 素直に謝る由依。千佳は息を吐くと藍那のほうを向いた。


「こんな性格だとは聞いていなかったんだけど」

「はは……」


 何も答えることができない。藍那は笑ってごまかすしかなかった。


「とにかくっ! 過去のことは置いといて、ボールを蹴ろうよっ」


 美紗が手を叩いて言う。この重い空気、どうにかして変えなければこの後が辛い。

 努めて明るく振る舞い、二人のほうを見る。由依は千佳を睨み、千佳はそっぽを向いている。


「……由依?」

「分かっているわ」

「千佳も無視しないで、ね?」

「そうね」


 美紗に言われ、二人は向き合う。そして互いに右手を差し出し握る。


「美紗の言うとおり、過去のことはいいわ。一緒にサッカーすることになるなら、むしろ心強いし」

「マネージャだったって聞いていたけど、あなたもプレーヤーとしてサッカーをするのよね?」

「そのつもりよ。足の速さと体力には自信があるわ」

「それは楽しみだわ」


 手を離し、笑みを浮かべる。二人の行動に藍那と美紗はホッと息を吐く。


「あれー、何しているのー?」


 千佳と由依が相対しているところに、みさきが到着した。状況が飲み込めていない彼女は首をかしげている。

 そんなみさきを見て由依が何か思いついた表情になった。


「……ねえ。三対三をしない?」

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