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楽しいサッカークラブのつくり方  作者: カミサキハル
【第二章】双子の従姉妹
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帰り道(由依と美紗)

「もう日が暮れるね」


 ファミレスを出て由依は伸びをしながら言う。時刻は十八時半。敷瀬駅の向こうから見える西日がまぶしい。


「じゃあね、大嶋さん」

「はい。明日はサッカーしましょう」

「分かったわ」

「藍那ちゃん、今日は理紗が迷惑かけてごめんね」

「だ、大丈夫だよ」


 遭遇することは回避できたので実害はなかった藍那。どたばたした放課後だったが、迷惑とまでは感じていなかった。

 だからこそ謝られたら困ってしまう。むしろ理紗のおかげで由依に会えたとも考えていた。


「じゃあ、また明日」


 藍那は笑顔で手を振り、電停へと向かう。美紗と由依も手を振り返し、帰途につく。

 美紗と由依の家は敷瀬駅の西側にあった。ファミレスや駅前にある電停は駅の東側。二人は駅を超えて反対側に行かなければならなかった。


「ねえ、由依ー。お願いがあるんだけど……」

「無理よ」


 美紗が何を言いたいのか理解している由依は即答し首を横に振る。


「まだ何も言っていないのに……」

「理紗の行動については私も被害者なのよ。文句は理紗に言いなさい」

「……分かったわよ」


 大きくため息を吐く美紗。これ以上は由依にお願いや愚痴を言っても仕方がない。

 空を見上げ美紗は昨日、今日の理紗の行動を振り返る。

 昨日二人は家に帰って風呂に入り、晩御飯を食べたあと、理紗が両親に由依のことを聞いていた。

 まずは由依の家の電話番号を教えてもらい、そして電話をかけていた。そしていつの間にか由依のスマートフォンの番号を聞き出していた。

 同時に何故か由依の今の姿の写真まで手に入れていた。


 どうやったらそんなことができるのか。


 その行動力には妹の美紗も引いてしまっていた。同時に頭の中で警告音が鳴っていた。


 触らぬ神に祟りなし。


 そう考え、美紗は理紗の行動に関わることを止めた。

 それが間違いだったのかもしれない。


 翌日には理紗は昼休みにみさきと合流、由依をサッカークラブに入れるために結託し、暴走。東山高校まで押しかけ、由依と藍那に迷惑をかけた。


 その間に美紗はというと、理紗がいなくなったことに気に留めていなかった。駅前のファミレスで軽くご飯を食べたあと、スポーツショップに寄ってスパイクを磨くためのブラシやクリーム等を買おうと考えていた。

 そのファミレスに入ると、由依と藍那が二人いるのが見えたのだ。藍那と目が合い、想定外の組み合わせだったから、美紗は気になり強引に二人のテーブル席に座ったのだった。


 そして今。美紗と由依は一緒に帰っている。


「……そういえば」

「なに?」

「美紗とこうやって話をするのは初めてかな?」

「……そうだね」


 由依の言葉に美紗は過去を遡る。確かに美紗の言う通りで、二人だけで話したことがない。

 夏休みなどの休みしか会うことがなく、先月まで全然別の地域に住んでいたのだから、当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが。


「由依から見て、私たち双子はどう見えているの?」

「年に数回しか会わないのに、馴れ馴れしい従姉妹」

「……え?」

「冗談よ……半分は」

「ええー」


 肩を落とす美紗。しかし気持ちを切り替え、由依のほうを見る。


「気になっていたんだけど、どうして中学校でサッカー部のマネージャーをしていたの?」

「もともと運動することは好きだったのよ。特に走ることはね。中学でも陸上部に入ろうか悩んでいたくらい」

「だったら陸上部に入ればよかったんじゃないの?」

「練習がしんどかったのよ」


 好きだからこそ、厳しい練習に耐えることができる。最初は由依もそう考えていた。


 だけど現実は違った。


 由依の場合は「好きだからこそ、楽しくやりたい」という思いが強かった。

 全く楽しくなくて、一週間ほどで陸上部はやめた。


「メンタルが弱いね」

「うるさい」

「好きだからこそ、楽しく感じるのに」

「……」

「……はいはい。これ以上は何も言いません」


 由依に睨まれた。美紗は軽く頭を下げ、陸上部の話を止める。


「じゃあサッカー部のマネージャーはどうして始めたの?」

「なんとなく、かな」

「なんとなく?」

「うん。私の中学ってクラブ活動は必須だったから」


 文化系の部活には入りたいとは思うことはできず、だからといって他の運動部に入っても陸上部と同様、しんどいと感じると当時の由依は考えていた。


 だから比較的楽で、近くでスポーツを感じると思ったサッカー部か野球部のマネージャーをしようと考えたのだ。


「なんとなくで入って、楽しかったの?」

「楽しかったわよ。チームは弱小だったけど」


 人数が十一人でぎりぎり。しかも少数精鋭ではなく、寄せ集め。

 部活を掛け持ちしている人はおらず、純粋にサッカー好きが集まった部活だったと由依は感じていた。

 だからこそ素人だった由依はサッカーについて色々教えてもらい、知識が増え、基本的なボールの蹴り方や動きを覚えることができた。


「練習には参加していたけど、さすがに男子に混じって試合に出ようとは思わなかったわ」

「試合にでないと面白くないでしょ?」

「怪我をしそうだったからね」


 サッカーはボディコンタクトが多い。由依が男子から体を寄せられたら、当たり負けして吹っ飛ばされる可能性が高い。

 怪我をする、しない以前にチームにも迷惑がかかるから、試合に出ることは止めていた。


 その代わり試合ではマネージャーとしてサポートに回り、チームが試合に集中できるように心がけていた。


「鍛えが足りないなぁ」

「美紗と一緒にしないでよ」

「サッカークラブに入るなら、鍛え方を教えるよ?」

「……お願いしようかな」


 体験で入ると藍那には言っていたが、由依は彼女が作ったサッカークラブに入ることを決めていた。

 藍那が中学時の由依自身に似ていたから。どこか放っておけなかった。

 真面目な彼女を無下にはできない。


 雑談をしているうちに駅の西側にたどり着き、駅の隣にあるバスターミナルを越える。そしてその先にあった交差点に到着すると美紗が立ち止まった。


「私、こっちだから」

「分かった」

「……理紗には私からも怒っておくから」

「頼むわよ」

「じゃあ、また明日。私もサッカーをしに行くと思うから、よろしくね」

「うん」


 美紗は手を振り、点滅している信号機の横断歩道を駆け抜ける。


「……ふぅ」


 走り去っていく美紗をしばらく見たあと、由依は息を吐いて彼女の家へ歩きだす。


「さて、スパイクはどこに片付けたかな」


 高校に入ってから手入れをしていない。革が硬くなってしまっているはずだから、明日までに少しでも柔らかくしておきたい。

 由衣は明日が待ち遠しかった。

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