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楽しいサッカークラブのつくり方  作者: カミサキハル
【第二章】双子の従姉妹
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ファミレスにて

 ファミレス「ココフル」。敷瀬駅(しきせえき)から歩いて数分の立地条件が良い場所。

 フードの値段は手頃なため、夕方のこの時間帯は学校帰りの学生が集まる場所となっていた。

 藍那と由依はその学生の中に混じり、空いていた席に案内される。


「ふぅ」


 リュックを空いている座席に置き、座ると由依が大きく息を吐いた。藍那もエナメルバッグを床に置くと由依の正面に座る。


「やっと落ち着けるわ」

「そ、そうね」

「とりあえずドリンクバーと……」


 由依はメニューを開き、眺める。ドリンクバーを頼むことは決定事項だったが、走ったり理紗との電話のせいで心身ともに疲れてしまっていた。


(甘いものを食べたい)

「あ、これ頼んでもいい?」


 そんなことを考えていると、一緒にメニューを見ていた藍那が指差す。

 それはフルーツとアイスが入っているパフェ。

 甘いものを食べたいのは藍那も同じだったらしい。


「いいわね。私も頼もうかな」

「じゃあ、押すね」


 呼び出しベルを押す。

 しばらくして店員が訪れ、ドリンクバーとパフェを注文する。


「ドリンク、取ってこようか?」

「ううん、自分で取りに行くよ」


 二人はドリンクバーに向かい、それぞれの飲み物を入れる。

 藍那はオレンジジュース、由依はメロンソーダをコップに入れ、席に戻った。


「パフェが来る間に……大嶋さん、サッカーは楽しい?」


 ジュースを飲みしばらくして由依は尋ねる。

 理紗たちから逃げてきて、ただ落ち着くためにファミレスに入った訳ではない。

 彼女が聞きたかったのはサッカークラブについてだ。

 ただ本題に入る前に藍那と親しくならないといけないと感じていた。


(気楽に話すことができるようにならないと)


 緊張しているのか、藍那の態度はどこかよそよそしく感じていた。常に由依の視線を気にしている、様子をうかがっているように見える。

 緊張しているだけならそれを和らげる、他愛もない会話をしたらいい。理紗と同類と思われているなら、誤解を解かなければならない。


「うん、楽しいよ」

「あの双子とサッカーをするのは大変じゃない?」

「えっと……まだ昨日しか一緒にしていないからよく分からない、かな」

「よく分からない?」

「う、うん」


 昨日初めて知り合って岸本姉妹のことを藍那はよく知らない。路面電車内で理紗が彼女に声をかけてきて、流れで一緒にボールを蹴ることになった。

 あれが関西特有のノリと勢いというものだろうか。


(半ば強引だった気がするけど)


 それは純粋にがしたくてうずうずしていたのではないか、と藍那は今更ながら思う。

 厚かましくは感じなかった。


「サッカーも上手いし明るい性格だから、すぐに馴染めたんだと思う」

「サッカー上手いんだ」


 由依は理紗たちとは夏休みなどの長期休暇のときにしか会わなかった。毎年のように由依の家へ岸本姉妹は訪れていた。

 ただその目的は従姉妹同士が会うため、というよりは互いの両親が会うための意味合いが強かった。

 しかも由依は中学ではサッカー部のマネージャをしていたため、実際に岸本姉妹と一緒にいた時間は短い。

 晩御飯を一緒に食べてはいたから親しくはなっていたけど、実際に会っていた時間はそれぐらい。


 すれ違ってばっかりだった、と由依は感じている。


 そのため従姉妹といえどもお互いのことをよくは知らなかった。

 連絡をよく取り合うようになったのは岸本姉妹が敷瀬市に引っ越して来てから。

 その連絡も敷瀬市のことなど、地域についての質問だった。


「上手かったけど、美紗ちゃんにずっと左足にパスを出されて文句を言っていたね」

「右足しか蹴れないんだ」

「そうみたい……わたしも人のことは言えないけどね」


 苦笑交じりに藍那は言う。


「そういえば、大嶋さんってサッカー初心者なんだよね? 理紗が言っていたわ」

「うん」

「高校からサッカーを始めるなんて、大変でしょ?」

「大変だけど、楽しいから平気だよ」

「楽しい、ね」


 ふと中学時代のサッカー部のことを由依は思い出す。

 練習は楽しくできていたけど、人数が十一人とぎりぎりで試合では交代枠を使えずいつも大敗していた。

 マネージャーとしてはいつも心苦しかった。

 でも楽しくサッカーができていたと思う。


(って、それは今は関係ないわね)


 思考を元に戻す。藍那は苦笑交じりに話すこともできているから、緊張もほぐれてきたと由依は思った。

 従姉妹の双子が迷惑をかけていたと考えていたことも杞憂だったようだ。


「それで、サッカークラブのことなのだけど」

「うん」

「どんなサッカークラブなの?」

「えっと……」


 天井を見上げて、藍那は頭の中を整理しながら口を開く。


「わたしね、サッカーがしたくて、サッカークラブを作ったの」

「作った?」

「うん。本当は敷瀬GFCに入るつもりだったんだけどね。解散しちゃっていたから……」


 その話を由依は聞いたことがあった。人数が少なくなってしまい、三月に解散したクラブ。

 その事実を知って、藍那はサッカークラブを作ったということになる。


「サッカーをしたいなら「備丘(びおか)GFC」に入ればよかったのに」

「……大人数が駄目なの、わたし」

「……サッカーは十一人でやるのよ」


 由依は呆れたように言う。奇しくもその言葉は昨日、千佳が言っていた言葉と同じだった。


「控えを含めたら十四、五人にはなるわよ」

「う、うん。頑張るつもり……」

「はぁ。今は何人いるの?」

「えっと……五人だよ」

「試合するにはあと二人は必要ね」

「二人?」

「試合できる最低人数は七人よ」

「そうなんだ」

「はぁ」


 無計画にサッカークラブを作ったように由依は感じた。

 だけど作ることに従姉妹を含めて四人、賛同したことになる。

 女子高生――しかも違う高校を通う人が集まってクラブを作ることは常識離れしていると思った。

 考え方が同じ高校生だと由依には思えない。

 加えて藍那から話を聞いていると、不安しかない。


(だからかな)


 藍那を放っておけない。少しだけでもクラブに参加して手伝ってあげてもいいと思う。

 同時に試合ができなくても楽しくボールを蹴ることができてもいい、とも由依は思った。

 決して岸本姉妹が迷惑――もとい、参加しているから手伝うわけではないと、彼女は心に言い聞かせる。


「次はいつみんなが集まるの?」

「……来てくれるの?」

「……まぁ、気になるし」


 体験入部よ、と由依は付け加えた。それでも構わなかったのか、藍那は笑みを浮かべて「ありがとう」と頭を下げた。


「お待たせしました。フルーツたっぷりアイスパフェです」


 店員が二つのパフェを持ってきた。二人の前に並べ、伝票を置くと一礼して去っていく。


「とりあえず食べようか。アイスが溶けちゃったらもったいないし」

「うんっ……あれ?」

「どうしたの?」


 藍那が素っ頓狂な声を上げたのを見て由依は首をかしげた。そして藍那の視線の先を見る。


「げ」


 そこにいたのは岸本美紗。ファミレスの入口で一人、案内されるのを待っている。


「あっ」


 美紗は藍那たちに気づくと手を振り、案内しようとしていた店員に声をかける。

 そして藍那たちのテーブルに向かうと、当たり前のように由依の隣に座った。


「待った?」

「いや、待っていないから」


 美紗の言葉に由依は頭を抱え、突っ込みを入れた。

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