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プロローグ
春から夏に変わり暖かい風が吹く中、彼女は校門の前に立っていた。目の前では彼女と同じ紺色を主とした制服の上着を着た学生が通りすぎていく。
そんな中、ポツンと立っている彼女の両手には数十枚の紙が抱えられていた。視線はその紙に向けられている。
緊張しているのか、彼女は紙に書かれた文字を目を通しながら何度も大きく深呼吸をしていた。
「……よし」
小さく呟くと、意を決して顔を上げる。その唇は微かに震えていたが、彼女にはやらなければいけないことがある。
校門を出て帰途につく女子高生を見つけ近づき、両手に抱えていた紙を一枚突き出した。
「じょ、女子サッカークラブ、は、入りませんか!」
その声は裏返っていたが、伝えたいことがはっきりと聞こえる声。
それはサッカーをするためにクラブに勧誘するという、今できることの最大限。
これは小さな物語。
彼女とその周囲がサッカーを通じて成長していく、ただそれだけの物語。
読んでいただきありがとうございます。