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異世界英雄と22の召喚獣  作者: 十回十
Episode:1 黎明のコルアンディ
5/40

異形腫瘍体

 リオは鞘に収まった状態のウィンクルムを片手で持ち、異形の拳を軽々と受け止めていた。

 そしてそのまま力任せに押し返し、払うように薙ぐことでウェアハウンド2体を後退させた。


「来てそうそう殴り掛かられるってのは一体どういうことだ。……ったくキレちまいそうだぞ、オイ!」


 リオはウェアハウンドを睨みつけ殴ってきた個体を得物で指したあと、剣圧で音がなるほど上下に振り啖呵を切る。

 ウェアハウンド達はリオの言葉をまともに聞く様子もなく、ただただ警戒し臨戦態勢をとっている。

すると魔法陣近くの少女はリオに驚嘆の眼差しで聞いた。


「あ、あなたが……英雄……?」


 リオは落ち着きを取り戻し、ウェアハウンドを見据えたまま少女に答える。


「英雄かどうかは知らんが、アルテルに頼まれてここに来た。リオだ、よろしくな」

「よかった、成功……した……」


 少女は安心したのか涙をこぼし、青年の背中を見つめた。


「お、おいどうした。まさか、泣いてるのか? ……勘弁してくれよ」


 横目でチラと見ると、そこには自分のことを見つめながら情けない顔で泣いている少女が見えた。

 リオは驚き目を丸くしたが、すぐに困ったような顔をして左手で頭をポリポリと掻いた。

 すると突然――


「「「GaAaアアああAAアアAaアアあああっ!!」」」


 異形のウェアハウンド3匹が咆哮し、リオに襲い掛かってきた。


「なんだ、空気読んでもうちょい待ってくれないのか。仕方ない……」


 リオは右手に持った大剣を鞘から引き抜き、水晶のように透き通った刀身を露わにした。


「んじゃ、遊ぼうか。異形腫瘍体(マリグナント)ども」


 リオは大剣を構え鋭い眼光でウェアハウンドを捉えた。

 それと同時に腕と足が変異した個体が近づき攻撃してくる。

 リオもウェアハウンドを迎え撃つため走り出す。


「エネルゲイア!」


 走り出すと同時にそう叫び、左手の平に半透明の魔法陣を浮かべ魔法を発動した。

 発動した魔法が身体を一瞬光らせると、リオは大剣を振りかぶる。


「まずはお前だ、筋肉ダルマ」


 お互いの攻撃が交わると思ったその瞬間、いつの間にかリオは腕の肥大化したウェアハウンドの後ろで背を向けていた。

 次の瞬間、巨腕で殴りかかったはずのウェアハウンドは縦に両断された自分の姿を見ることとなった。

 音を立てながら噴水のように吹き出る血液、むせ返るほどの鉄の匂いが一気に立ち込める。

 ウェアハウンドの首は一瞬の間に切断され、自身で作った血溜まりに頭が落ち崩れるように二つに切り裂かれた身体も倒れた。


「次はテメーだ、骨野郎」


 リオは剣についた血を払い飛ばし振り返ると、白い足のウェアハウンドに言い放った。

 強固な白い足でリオを突き刺そうと、素早い動きで襲いかかるウェアハウンド。

 だが、リオは攻撃を紙一重でかわし大剣を構えた。


「スライトエッジ!」


 不規則な動きで仕掛けられた攻撃を回避しながらウェアハウンドを斬り刻む。

 断末魔と共に辺りに散らばる肉片、その中に赤黒い宝石のようなものが混じっていた。

 拳ほどの大きさの宝石は地面に転がると色を失い、鈍い音を立てて砕け散る。


「さて……最後は」


 リオが少し離れた場所にいる頭の膨張したウェアハウンドの方を向くと突然、いくつもの火炎球がリオを襲った。

 火炎球は全て命中し、何度も爆発による轟音が部屋中に響く。

 しかし――


「なんかしたか、風船頭」


 リオの身体には傷ひとつなく、そのままゆっくりとウェハウンドに歩み寄っていく。

 ウェアハウンドは飛び退き次の魔法を撃つために詠唱を始める。


「UOZNVHGJQPV! DZGVJHNZHS! MVVWOVHSLDVJ! HLMQXXFGGVJ!」


 今度は火炎球だけでなく水の弾丸、針の群れ、風の刃とさっきよりバリエーションに富んだ魔法が連発される。

 ……だが、放たれた魔法はリオの身体に到達する前に虹色の結界のようなものに阻まれる。


「……なんだ、全部第7相の魔法じゃないか。そんなんじゃ俺にダメージは与えられないぞ?」


 リオは向けられた魔法などお構いなしにゆっくりと歩を進め、左手をかざし魔法陣を浮かべた。


「バーンナウト!」


 赤い魔法陣から飛び出したのはあらゆるものを焼き尽くさんとする紅焔。

 直進する紅焔は向かってくる幾つもの攻撃を飲み込み、ウェアハウンドまでも飲み込んで全てを焼き尽くす。

 炎が止む頃に残ったのは熔解し抉れた地面と、さきほどまで立っていた敵の黒い残骸だけだった。


「す、すごい……これが、英雄の力……」


 座り込む少女がそう言うと、倒れているエマと騎竜のそばに行くため立ち上がろうとする。

 だが召喚に大量の体力とマナを消費したためか、ふらつき転びそうになってしまう。

 すると、戦い終えたリオが他にモンスターがいないか警戒しながら少女の肩を支え受け止めた。


「おい、大丈夫か?顔色悪いぞ」

「あ……はい、私は大丈夫です。それよりもエマたちを……」

「エマ?」


 少女が指をさすとエミーと呼ばれた女性と騎竜が倒れていた。

 どうしても女性の方へ行きたいのか、支えた腕を振り払い向かおうとする少女。

 リオはヤレヤレと言いたそうな顔をしながら少女を抱き上げた。


「キャッ!? な、なにを」

「そんなんじゃまともに歩けないだろ。ちょっと待ってろ、今連れてくから」


 リオはお姫様抱っこの状態で急ぎエミーのもとまで近づく。

 少女は抱きかかえ上げられている間、少し恥ずかしそうに頬を赤らめて目を伏せていた。

 ゆっくりと少女を下ろすと、リオは膝を付きエミーの状態を確認した。


「こりゃひでぇ。あいつらの毒が回り始めてるな」

「そんな、何とかならないのですか!」


 少女はウェアハウンドの毒の存在を知っていたのか、すぐにことの重大さが分かったようだ。

 ウェアハウンドの毒は人を死に至らしめる毒、ゲームのときもかなりの速度でHPを持っていかれるものだったとリオは思い出していた。


「アンタ……えっと名前は? 解毒剤は持ってるか?」

「私はソフィア、です……解毒剤、ですか? いえ、持ち合わせていません。ウェアハウンドの毒に対抗できるようなものは、この国にはないのです」


 少女はエミーの逃れられない死を悟ったのか大粒の涙をボロボロと零し、まともに話せるような状況ではなくなってしまった。

 リオは少女の涙を見かねて口を開いた。


「あ~……仕方ねぇ。おいアンタ、貸しひとつな」

「……え?」


 そう言うと、リオは立ち上がり左手を横に突き出し詠唱しはじめた。


「アドベント、アルカナオートマトン・クララ」


 すると青と緑二色で構成された魔法陣が手の先に現れ、そこから人の形をした何かが飛び出してきた。

 それは、大きな肩がけバックを携え首に聴診器をかけた目に優しい金色の髪を持つ女性看護師だった。


「ハイッ、お呼びですかリオ?」

「あぁ、クララ。こいつらを診てやってくれ。必要ならスキルを使ってOKだ」

「リョーカイしましたぁ!」


 元気な笑顔とともに少々オーバーリアクションな敬礼をしたクララは、早速一番の重病人であるエミーを診はじめた。

 手をかざし歯車のような魔法陣と展開するクララ、その状況を泣きじゃくっていた少女は言葉も出ないといった表情で見つめていた。


「アラアラ大変、これは特殊変異型のHHウィルスですね、他の傷も酷いですけど……ソレジャ、すぐに治しちゃいますね」

「へ……?」


 見ていた少女は、何を言っているのか理解できないと言った感じで思わず声を出した。

 展開された魔法陣が消えると、クララは先程とは違い優しい手つきで包み込むようにエミーの前に手をかざした。


「全てのものに癒しと浄化を……メディカルエリクシア」


 すると手の中で緑と青のきらめく粒子のようなものが渦を巻き、それをエミーに降り注がせた。

 粒子が身体に浸透していくと、エミーの身体が温かな光りに包まれた。

 少し経つと戦闘で受けていた切り傷や熱傷が煙のように消え、突き刺さっていた白い突起物は抜け落ちて傷もなくなっていた。

 エミーの表情は先程までの苦痛に耐えるものから子供の寝顔のような安らかなものへと変わり、呼吸にも乱れはなく静かな寝息をたてている。

 それを見た少女は驚き言葉を失っていた。


「ヨシ! これで大丈夫です。サアサア、他の子も診ちゃいますよ~」


 クララが手をワシワシと微妙にいやらしい手つきで動かしていると、隣で見ていたリオが思い出したように扉の方へ向かっていった。


「あ……どこへ?」

「他にさっきみたいな奴らがいないか見てくる。アンタも相当きてるみたいだし、クララに診てもらっててくれ」

「……はい……あの、ありがとうございます。英雄様」

「そいつを治したのに関しては貸しひとつだからな。忘れんなよ」

「イッテラッシャ~イ」


 そう言うとリオは大剣を持ち直し、クララの見送りを聴くと扉の向こうへと消えていった。

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