表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界英雄と22の召喚獣  作者: 十回十
Episode:1 黎明のコルアンディ
40/40

講義

 ラケルに引きずられ多目的ホールに連れてこられた俺はまたもや放り出され、床に突っ伏した。


「ふぎゃっ!?」

「さあ、楽しい楽しい魔法陣構築の時間だ。完成するまで付き合ってもらうからな、そのつもりで」


 ガチャン! と勢いよくホールのドアの鍵をかけるラケル。

 俺は流石に恐怖を感じ、ラケルに恐る恐る聞いてみた。


「あのー……魔法陣構築って具体的にどんな事するんですか?」

「ん? ああ、そんなに恐がらなくてもいい。なぁに、君のさっき写し取った魔法について根掘り葉掘り穴だらけになるまで聞き倒すだけだよ、フフフ」


 んなこと言っても俺も〈AULA〉で知り得た以上のことは知らないぞ。 

 そう思い、俺が意見しようとするとラケルは俺に言葉を発させないようなタイミングで喋り始めた。


「いいかね。連結魔法とはとてもデリケートなものなんだ、今回の場合は特にね」

「は、はぁ……でも俺もそこまで魔法について詳しく知ってるわけじゃないぞ? 俺のいたところでは何か勉強や研究をして魔法が使えるようになるわけじゃない。敵を倒してレベルアップしたり、クエストをクリアすれば魔法を覚えられたんだ」

「……ふむ、こちらとはなかなか違うものなのだな。……で、あればだ。君には魔法とマナの基礎から教えてあげよう。大丈夫だ、私にかかれば講義なぞさほど時間のかかるものではない」

「え!? いやそこまでしてくれなくても」


 正直、講義と言われるとなんだか受けたくなくなってくる。

 でもまあ、変におっさんに講義されるよりか美人教師にされる方が幾分かマシか。

 俺はこれも魔法の再現をするためだ、と言い聞かせ講義を受けることにした。


「安心したまえ、私はこう見えても学院長から一目置かれるほど優秀な指導者だぞ」

「まあ、お手柔らかにお願いします」

「よろしい。それではまずこの世界に溢れるマナについてどこまで知っているかな?」


 ラケルはホールに設置された教壇に立ち俺に質問してきた。

 俺も近くに置いてあった椅子に座るとラケルの質問に答えた。


「あー、確かこの世界に常にあるエネルギーで、魔力って呼ぶときもある。でよかったっけ?」

「そう、その通り。アンフォールド、フロート、アナライズ」


 ラケルがそう言うと先ほどまで持っていた魔紙を宙に浮かべて広げると、何やら俺の後ろ側に動かしそのまま何かをし始めた。


「気にしないでくれ。君への講義をしながら魔法陣の解析をするだけだから」


 マジかよ。

 つまり俺に魔法の基礎を教えるのは作業と同時並行でもできるくらい簡単ってことか。

 俺がそう思っているとラケルが講義を続けた。


「君の言った言葉に付け加えるならば、マナは純粋な状態のものを無属性と呼ぶこともある。そしてマナが何らかの影響を受けて変質すると様々な属性へと変わるわけだ」

「へぇ~」


 なんかここらへんは〈AULA〉の設定資料でも書いてあった気がするな。

 俺がそう思い出しているとラケルはとんでもないことを言い始めた。


「それともう1つ。純粋なマナは肉体にとって有害なもので摂取しすぎると肉体がマナに還元されてしまう。つまり、マナと一体化して消滅してしまうのだ」

「それは初耳なんですけど!?」


 消滅だと何だそりゃ。

 俺は思った疑問をラケルにぶつけた。


「え、つまり魔力を使いすぎると消滅するってことか?」

「いや違う。人が魔法を行使する際に消費されるのは体内で生成、蓄積した魔力だ。だがそれ以外の方法、例えば禁忌魔法を行使しようとすればそれは周囲のマナを大量に摂取することになる。禁忌魔法が禁忌とされる所以だな」


 な、なるほど。

 俺は〈AULA〉で禁忌魔法を使うとHPが減っていったことを思い出し、今の説明に納得した。

 そういうことだったのか。

 あっちじゃHPが減る代わりにめちゃくちゃ強い魔法が使えたが、それはこういう理由があったからなんだな。

 俺が感心しているとラケルが続けた。


「さてそれでは、禁忌魔法のことは一旦置いておいて次は属性についてだ。こちらの世界では火、水、地、風、光、闇の6つの基礎属性と雷、氷、重力の3つの融合属性があるがこの点はそちらと違いないかな?」

「ああ、俺のいたところにも6の基礎属性と3の融合属性、合計9属性あった」

「では融合属性はそれぞれどの属性が融合したものかな?」

「俺の方では雷は火と光、氷は水と風、重力は地と闇だったけど」

「大丈夫、こちらでもそのようになっている」


 俺は余裕そうな顔で答えるとラケルは次の質問をしてきた。


「では属性間の関係性について、君のいた世界ではどのようになってるか教えてくれるか」

「ああ、対極になっているのが火と水、地と風、光と闇。融合属性にはそういうのは無くて、相乗効果があるのは火と風と闇、水と地と光だな」

「……よろしい、では補足よう。こちらの対極関係の属性は反発し合うマナのことだ、対極魔法とはその反発する力を利用している。一方で相乗関係の属性は必ず反応してしまうマナのことだ、これを利用しているのが共鳴魔法。対極魔法は発動しようとしても失敗してしまうことが多いが、共鳴魔法は発動させやすい代わりにその制御が難しい」

「そうなんだ……」


 今まで強力な魔法のカテゴリーとしてしか見ていなかったが、そんな違いがあるんだな。

 俺はいつの間にかラケルの説明を食い入るように聞いていた。


「ふふっ、そんなに熱心に私の講義を聞いてくれるのは嬉しいぞ。生徒の中には私の講義を子守唄か何かと勘違いしている者もいるからな」

「へ、へぇ~ソウナンダ」


 俺は授業で居眠りしていた経験が何度もあることを思い出し、少しばかり気持ちのこもっていない言葉を出してしまった。

 

「では続けよう。先程上げた対極魔法、共鳴魔法は属性関係を利用した特殊な魔法だが、この2つ以外にも魔法の発動方法の違いで特殊なものがある。それが――」

「秘伝魔法と禁忌魔法だな」

「そうだ。その様子だとかなり詳しそうだな」

「いや、そんなこと無いよ。なんとなく俺が知ってるのは上辺だけってのが聞いててわかったから、できれば説明してほしい」


 ラケルはなんだか嬉しそうに俺に説明してくれた。


「では、秘伝魔法とは自身と契約を結んだ精霊と共に魔法を行使する方法。そして禁忌魔法は先ほど述べたように周囲のマナを体内に取り込み行使する方法だ」

「俺のいたところでもそれは同じだったな、禁忌魔法は使うとどんどん傷ついていったけどそれはさっきのマナの説明でわかった」

「ふむ。では2つの魔法の命を削るという部分以外の決定的な違いについて話しておこう」


 違い? HPを削る以外に何か違いがあるのか。

 俺は身を乗り出して聞いた。


「それは……自然環境に影響を与えるかどうかという点だ」

「環境?」

「そう。秘伝魔法ではどれだけ強力な魔法を行使しようとも、それは精霊の仕業……世界の法則に則った技なのだ。これは時が経てば自然と元に戻る。だが……」

「禁忌魔法は戻らない?」

「当たらずとも遠からず」


 ラケルは教壇から離れ俺の近くまで来て覗き込むように言った。


「禁忌魔法は周囲のマナを吸収し絶大な効果や威力の魔法を行使することができる。その関係上、行使した場所のマナが著しく低下してしまうんだ。マナの低下による影響は計り知れないものがある。本来ならば満ちているのが当たり前、というのが私たちの世界なのだからね」


 なるほど、マナがいたるところに溢れているのがこの世界の法則なのに、それを崩してるから影響が出てしまうってことか。

 なかなかにリスクの高い魔法ってわけか。

 でも、減ってしまったマナって補充とかされないのだろうか?

 俺はラケルに聞いてみた。


「なあ、その減ってしまったマナはずっと減ったままなのか? なんかマナを出す物を置いといたら回復とかしない?」


 するとラケルは目を輝かせて答えた。


「そうだよ。マナを大量に放出する存在がそこにあればいい。今現在の研究ではその役目に一番ふさわしいと有力視されているのは精霊だ」

「精霊が?」


 俺は精霊と呼ばれる者たちについて思い出してみた。

 〈AULA〉では世界中どこにでもいる身近な存在だったのは覚えているが、それが禁忌魔法の問題を解決するのか。


「我々人間は体内でマナを生成することができる。だが、その能力は他の生物と比べると弱いものなのだよ。人間よりマナを生成できる生物を我々はモンスターと呼ぶが、精霊はモンスターから見ても別格だ」

「そうなのか」

「ああ、精霊が一度に生成できるマナの量はモンスターが一生をかけて生成する量の数倍だということが研究結果として出ている。ただ、その生成量をもってしても低下したマナを補うほどの量はすぐには用意できないだろうな」


 するとラケルは途端に伏目がちになり話を続けた。


「時が経ち、研究によって精霊の体がコアと呼ばれるものを核として形成されており、その核も含めて全て高密度のマナでできていることが判明すると精霊はマナ回復に大きく貢献する存在と取り上げられるようになった」


 ん? 体全部がマナでできてるってことは、まさか……

 俺がその疑問を投げかける前に表情を見て察したのかラケルが口を開いた。


「君が思っていることはだいたい当たっていると思うよ。マナが低下した場所で精霊を殺せば体を構築しているマナは霧散しその場所のマナは元に戻る。過去に何度かそういった事が行われていたのは事実だ。ただ、かなりの量の精霊を殺さなくてはならないけどね」

「え、でもそれは」

「ああ、わかってる。精霊にも我々と同じように意志があり感情がある、生きているんだ。だからこそ、精霊を殺さないで済む方法としてそこにいてもらうのさ」

「どういうことだ?」


 俺は訳が分からなくなってきた。

 精霊を殺さないで済むようにマナが低下した場所にいてもらう?

 俺が疑問符を浮かべているとラケルが説明してくれた。


「精霊というのはね、この世界が生み出した環境安定のための存在なんだよ。彼らはマナを取り込み、増大して放出することができる、というのが最近わかったんだ。これは精霊自身が体内で生成したマナにも適用される。つまり、精霊がマナの低下した場所にいるだけで、時間はかかるだろうがもとに戻るというわけだ」

「なるほど」


 それなら精霊を殺さなくてもいいってわけか。

 ラケルは気を取り直すように俺の後ろにある魔紙を手に取り言ってきた。


「昔の人間は結果を急いてしまったがゆえに精霊を殺すなどという愚行を行った。まあ、ここらへんはこちらの世界の歴史だ。さて、必要なことはキミに伝え終わった……それでは構築に移ろうか!」


 先ほどの表情はどこへやら、ラケルは獲物を定めた獣のような目で俺を見てきた。

 流石に俺はその目にゾッとし、一歩後ろに下がるがラケルはそれを見逃さなかった。


「逃さんぞ英雄。この連結魔法が完成するまで付き合ってもらうからな」

「ヒィっ!?」


 俺は女性とは思えないほどの力で腕を掴んでくるラケルから逃げることができず、そのまま質問の嵐を身に受けることとなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ