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異世界英雄と22の召喚獣  作者: 十回十
Episode:1 黎明のコルアンディ
4/40

英雄召喚

 異世界フィーリア、メディウム大陸全土を統治するコルアンディ王国。

 王国の中央、フィーリアにおいて最高峰であるケントルム山の付近に、太古の昔に邪神との戦いで捨てられた都、廃王都ロージアン。

 崩れた建物や地面に刻まれた傷跡、魔法の痕跡が邪神との戦いが凄まじいものであったことを物語っている。

 荒廃してからは多くのモンスターが住み着き、めったに人の近づくことはない静かな場所。

 だが、今日に限っては違った。

 廃墟に押し寄せる馬に乗った兵士たち、その中に美しい金の髪を持つ可憐な少女がいた。


「姫様をお守りしろ! なんとしても召喚の間まで無事お連れするのだ!」

「「「ォオーッ!!」」」


 大剣を背負った初老の男が鼓舞するように言い放ち、後ろから続く20人ほどの兵士たちはそれに応えるように声を上げた。

 勇猛なる兵士たちは姫と呼ばれた軽装の少女の盾となるかのごとく、瓦礫の影や住居の残骸から飛び出してくるモンスターらと交戦をはじめた。

 襲い掛かってくるモンスターはその殆どが巨大な四足の獣ハウンド。

 口からは様々な属性のブレスを吐き、爪には人をたやすく死に追いやる猛毒を秘めている。

 数十匹のハウンドが襲いかかり、進行を妨げる。

 乗っていた馬を狙われ振り落とされる兵士たち。

 装備した盾でブレスを防ぎ、頭を砕く勢いで襲いかかる大口を抑えていた。

 すると突然、空から影がさし盾を構えていた兵士を空に攫い放り投げた。

 戦場となった廃墟の上空には有翼のモンスター、ガーゴイルが我が物顔で飛んでいたのだ。


「道を開けよ、モンスターども!」


 手にした大剣でモンスターを薙ぎ払う男の声を聴くと、兵士たちは各々叫声を上げモンスターたちに武器を振るう。

 だが、ハウンドは俊敏な動きでかわし、ガーゴイルの堅牢な身体には刃が通らない。


「くっ、やはり一筋縄ではいかんか……」

「アイアス殿!」


 大剣の男が振り返ると、自分達がやってきた方角に騎竜を駆る金髪の女性の姿が見えた。

 女性は手にした槍でモンスターを倒しながらこちらに来ているのを確認する。


「私と姫様でトラウィス城へ一気に駆け抜ける。アイアス殿は一瞬でいい、奴らの隙をつくってくれないか」

「心得た! エマよ、必ずや姫様を送り届けよ!」

「ええ必ず……姫様こちらへ」


 そう言うとエマと呼ばれた騎竜の女性は、兵士に守られていた姫に騎竜へ乗るよう促した。

 姫は頷きエマの後ろへ飛び乗るとアイアスに声をかける。


「アイアス、今この場の誰も死んではいけません。全員生きて帰るのです」

「おまかせを姫様! この剛牙のアイアス、全身全霊をもって皆を生還させてみせましょう!」

「……頼みましたよ」


 少女が2人に目配せをすると、エマは準備完了と言わんばかりにアイアスに向かって頷いた。

 アイアスはニヤリと笑い闘志の籠もった目で答えると、モンスターを切り伏せながら群れの中へと走っていく。


「うぉぉおおおっ! どけどけ化物ども!!」


 2人からある程度距離を取り自分にモンスターの注視が集まっていることを確認すると、眼前にそびえる山を震わせる勢いで叫びはじめた。


「スリック……ロアァァアアア!!」


 大剣を掲げ雄叫びを上げると空気がビリビリと痛いほど震え、アイアスの身体が輝きを放つ。

 すると、その場にいる全てのモンスターがアイアスの方を向き他の兵士を無視して襲いかかっていく。


「姫様しっかりお掴まりください、行くぞハール!」


 エマが叫ぶと騎竜も咆哮し、吹き抜ける風のようにモンスターの間を駆けていく。

 目指すは廃墟群を抜けた先、古城トラウィス内部にある召喚の間である。


「皆、もうしばらく持ちこたえてください……必ず英雄を召喚してみせます……」


 少女は少し不安げな表情を浮かべ、エマとともに召喚の間を目指した。



◆◇◆◇◆◇



 古城の中を駆け回り最奥にある重たい扉を開くと、そこには今では読むことができない複雑な文字が並べられた巨大な魔法陣が描かれていた。

 部屋の床に深く彫られた魔法陣はその巨大さ故に、宮廷舞踏場のように広い部屋の半分以上を使っていた。

 騎竜の背から急ぎ飛び降りた少女は魔法陣に向かい、懐から取り出した虹色に光る宝石の首飾りを中心の窪みに嵌め込んだ。

 すると、魔法陣が中心部分から広がるように虹色に光りだす。

 少女は中心の首飾りを見ながら静かに後ずさり、魔法陣の外に出るとその場で跪き手を合わせ、神に祈るように詠唱をはじめた。



Petite(ペティエ) et(エト) accipietis(アッキピエーティス), pulsate(プルサーテ) et(エト) aperietur(アペリエートゥル) vobis(ウォービース).――Dona(ドーナー) nobis(ノービース) pacem(パーケム).」



 すると、少女の身体から蛍のような淡い光がいくつも出ては魔法陣に吸収されていく。

 詠唱を終えた時、少女は全身から力が抜けていくのを感じ倒れそうになってしまう。

 既の所で持ちこたえなんとか座り姿勢を維持すると、じわじわと小さな地震のように部屋全体が震えはじめる。

 震えが止まると同時に魔法陣から光の柱が天井を突き破り空へと伸びていった。

 少女は汗だくの身体で光の柱を仰ぎ見ると安堵の表情をこぼした。

 だが――


「姫様、お気をつけください!」


 そんな少女にかけられたのは、部屋にひとつしかない扉を警戒していたエマからの緊急通達だった。

 その声に反応し少女が振り向くと、出入り口のそばにいたはずのエマが少女のすぐ近くまで飛ばされてきた。

 嗚咽を漏らしながら扉の方を睨みつけるエマ、その視線の先にいたのは人に近い形をしたモンスターだった。

 爛々とした赤い目を持つ数体のウェアハウンド、ハウンドが二足歩行になり知能が増したモンスターだ。

 ウェアハウンド全員が鋭い爪を構え、牙をむき出しにして唸って威嚇しているが、その中に異様としか言えない姿の個体がいた。

 地面に着いて余りあるほどに肥大化した腕を持つアンバランスな体型の個体。

 下半身から歪んだ白い突起物を幾つも生やし、足の原型がわからないほどになっている個体。

 そして頭部が膨張し血走って焦点の定まらない目をした個体がいた。


「異形種どもめ……」


 少女に支えられながらエマは手にした槍で体を支え立ち上がった。

 そして自身を鼓舞するように叫ぶと、騎竜と共にウェアハウンドに戦いを挑んでいった。


「ハァァアアアッ!!」


 一人と一匹はお互いに熟達した動きでウェアハウンドの攻撃をかわし、いなし、反撃し、その数を徐々に減らしていく。

 しかし――


「あ゛あ゛ア゛ア゛A゛a゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!」


 腕の肥大化したウェアハウンドが騎竜の反応速度を超えた一撃を放ち、殴られた騎竜は部屋の壁へと激突しぐったりと倒れ込んだ。


「ハール!」


 エマが叫び騎竜を見たその一瞬、白い足のウェアハウンドが目にも留まらぬ速度で攻撃してきた。

 回避しようとするが反応が遅れ、鎧を砕くほどの一撃を貰ってしまう。

 ウェアハウンドの蹴りは肩に突き刺さり、そのまま足先の白い部分を射出してエマを後退させる。

 後退した先には為す術なく座り込む少女がおり、もう後には引けない状況になっていた。

 エマが少女のことを確認していると頭の膨張したウェアハウンドが詠唱をはじめた。


「UOZNVHGIRPV、UOZNVHGIRPV、UOZNVHGIRPV、UOZNVHGIRPV、UOZNVHGIRPV」


 するとウェアハウンドの周りに複数の火炎球が現れ、様々な角度から一斉にエマを襲う。


「うおぉおおお! ――ガぁっ!?」


 エマは肩に白い突起物が刺さったまま槍で火炎球を切り弾いたが一発だけ弾き漏らし、後ろの少女の盾になるようにその身を焦がした。

 少女の悲鳴が部屋中に響き爆煙が立ち込める中、巨大な腕がエマを騎竜と同じ場所へと吹き飛ばした。

 倒れたエマは口から血反吐をはき、気を失ってしまう。


「エミー! ……異形種、あなた達は……どうして……」


 少女は自分を庇ってくれたエマの名を叫ぶと目に涙を浮かべウェアハウンドに問うた。

しかし答えが帰ってくるはずもなく、無情なる異形の巨腕が少女に振りかぶられる。


 その時――


「ずいぶん粋な歓迎の仕方じゃねぇか……え、おい?」


 魔法陣から伸びた光の柱がひときわ輝き、光が落ち着く頃には異形の拳を剣で受け止める黒衣の青年、リオが立っていた。

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