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異世界英雄と22の召喚獣  作者: 十回十
Episode:1 黎明のコルアンディ
38/40

連結魔法

 レオンとイレール会長は俺が連結魔法について聞くととても詳しく教えてくれた。

 特にレオンは興奮気味に詳しすぎるくらい情報をよこしてきた。

 あれだな、レオンはどっかの研究親子と似た性質があるな。

 ともかく教えられたのはこうだ。

 まず、連結魔法は単身で発動する魔法よりも若干威力や効果が衰えてしまうということ。

 

 次に、本来発動できない魔法を連結魔法として発動する場合、当人たちがスクロールなどの記憶媒体に魔法陣を描くのではなく発動できる人間が描かないといけない。

 これは発動できる人間が分割した魔法陣を用意しないと、陣の構築の際にどこかに不備があることが多いからだそうだ。

 最後に、本来発動できない法位、位相の魔法を発動する場合はそれに応じた人数が必要だということ。

 法位とは魔法の難易度のことを指すもので難易度の低い順に最下位、下位、中位、上位、最上位と別れている。

 そして位相とはとの魔法の威力や効果の強さを表すものだ。

 これは弱い方から第1相、第2相と続き最終的には第10相まである。

 位相は大体の場合は法位とリンクしているもので、第7相や第8相と言われるとそれは上位の魔法でもある。

 この人数の話はつまり中位、第5相までしか魔法が使えないやつらが連結魔法で上位、第7相の魔法を発動させようとした場合それ相応の人数が必要というわけだ。

 俺は今の話を聞いて試しに上の法位や位相の魔法を発動させたい場合、どれくらいの人数が必要なのかを2人に聞いてみた。


「そうですね……私達が授業で行ったのは下位、第4相まで発動できる者たちが10人集まってようやく中位、第5相の魔法を発動できましたわ。それ以上のことはわかりませんわね……レオン、あなたなら何か知っているのではなくて?」


 会長さんがそう聞くとレオンは腕を組み、頭をかしげて少し考え込むと思い出したように言った。


「そうだなぁ……文献で呼んだことがあるのは中位、第6相の魔法使いが100人集まって上位、第8相の魔法を発動したってことくらいしか僕は知らないなぁ」

「そこまで知っていれば十分な気もしますけれど」

「いや、リオさんが本当に聞きたいところはそんなことじゃない気がするけど。ですよね、リオさん」

「え? そ、そうなんですの?」


 すごいな、俺の考えが読めるのか?

 俺は言いたかったことを取られた気分で言葉を返した。


「まあ、そうだな。俺が聞きたいのはその先の問題、魔法の種類の問題だ」

「魔法の種類……あ!」


 会長さんは俺の言葉を聞き気付いたようだ。

 そう、魔法というのは法位や位相といった単純な難易度や威力の分け方だけではなく、その発動方法や発動する魔法の属性関係によって種類が違ってくる。


「魔法には色々と種類がある。精霊の力を借りて発動する秘伝魔法、自身のマナだけではなく周りのマナも取り込んで発動する禁忌魔法、属性関係で対極にあるもの同士を組み合わせた対極魔法、同じく属性関係で相乗効果のあるもの同士を組み合わせた共鳴魔法。そういった通常とは違った種類の魔法を連結魔法として発動する場合どれくらいの人数が必要なのかな? と思っただけさ」

「なるほど、たしかにそうですね。……ですがそこまでいくと私たちにはわかりませんね」

「そうか……ならこの学院で連結魔法に詳しい人は誰かな? 教えてほしい」


 俺がそう言うと2人は考える暇もなくほぼ同じタイミングでとある人の名前を言った。


「ラケル先生かな」

「そうですね、ラケル先生しかいませんわね」


 2人はそのラケルという人の名前を口にするやいなや微妙な顔をし始めた。

 なんだ、その会いたくないみたいな顔は。


「どうかしたのか?」

「いや……その……」

「ラケル先生は、この学院きっての変人でして……できれば会いたくないな、と……」


 え、なにそれ怖い。

 ていうか生徒からも変人扱いされてんのかよ、しかも会いたくないって……一体どんな人なんだ。

 そういやさっきから黙ってるけどこいつは話を理解してんのか?

 俺はボーッとした様子で後ろをついて歩くサルバに話しかけた。


「おいサルバ。お前今の話ちゃんと理解できたか?」

「え゛っ!? あ、ああ。なんとなくは?」


 コイツは100%理解できてないな、仕方がない。

 俺はなるだけ諦めたような顔を見せないようにこやかにサルバに言った。


「……わかった。前には力仕事があったら頼むよ」

「おう! 任せとけ!」


 俺は二人の言葉に恐ろしさを感じながらもそのラケルという人のところまで案内してもらうことにした。



◆◇◆◇◆◇



 学院の校舎の隅の方にある研究室。

 そこに俺たちは向かっていた。

 なんでもそのラケル先生とやらは教師としての手腕は素晴らしいらしいのだが、いかんせんスイッチが入ると暴走する癖があるらしいのだ。

 ……なんかこっちの人ってそんな感じの多くね?

 そんな事を考えているうちに件の研究室に着いてしまった。

 レオンが研究室のドアをノックすると俺は深呼吸をして心を落ち着けた。


「ラケル先生、入りますよ~」


 すると中から女性のしっかりとした声が聞こえてきた。


「はい、どうぞ! あ、こらベルくん! それはこっちの箱だ」

「ああ、すみません先生!」


 どうやら誰かもう1人中にいるみたいだ。

 ベルってどこかで聞いた名前な気がするけど……

 俺たちが研究室の中に入ると、そこは大量の木箱で埋め尽くされており荷造りをしているようだった。


「ラケル先生! 先生にお会いしたい方を連れてきました!」

「なに、私に客? もし軍人だったらそいつの名前を聞いといてくれ、あとで軍浦会議にかけてやる! もちろん罪状は私の大事な資料ちゃんたちの引っ越し作業を邪魔した罪だ!」


 え、なに? 軍法会議?

 俺はなんだかものすごい言葉を来た気がして呆気にとられてしまった。


「いえ、違います! リオさんという方です!」

「なにリオ!」


 レオンが俺の名前を言った途端、部屋の奥の方から重い物を地面に落とす音が連続で聞こえてくる。

 それこそ研究室自体が揺れるほどのものだ。

 そして、俺達の前を遮っていた箱の山が何者かによって取り払わると、軍服に白衣を着た黒髪の女性が現れた。


「どこだ! リオはどこだ!」


 女性は血相を変えて俺のことを探している。

 俺はその表情に圧倒されながらも名乗り出た。


「お、俺がリオだが、あんたがラケルか?」

「おお、君が英雄リオか! はじめましてだ。私はラケル・ヴィカンデル、ここの非常勤講師で王国軍魔法部隊の総隊長をやっている者だ」

「王国軍魔法部隊の総隊長……って、ぇええっ!?」


 俺は思わず復唱して驚いてしまった。

 は? 総隊長? なんでこんなところで先生やってんの?

 俺は疑問を投げかけようとしたがそれよりも早くラケルの手が俺の手を掴み、これでもかと振り回してきた。

 握手のようだが、俺の知ってる握手とはいささか違いすぎる。


「いやー嬉しいなぁ! まさか会いに行こうとしていた人が向こうから来てくれるなんて感激だ!」

「は、はぁ」


 俺はラケルの言葉に気圧されるように答えた。

 会いたかったってどういうことだ。

 ……とりあえずこの暴走してる人をなんとかしないと話が先に進めない。


「握手はいいから話に移ってもいいかー!」

「おっと、いやぁすまないね。つい興奮してしまって」


 ラケルは舌をチロッと出しふざけたように謝る。

 この人は本当に軍人なのか? エマとは大違いだな。

 俺はそこまで思うと、アイアスやディーン将軍のことを思い出し軍人っていうのは意外とこういう人が多いのかもと思ってしまった。

 するとラケルは手を離し俺に聞いてきた。


「それで、私に話とは何かな?」

「ああ、実は連結魔法について聞きたいことがあってな。あんたなら知ってるだろうって、そこの2人が教えてくれたんだ」

「ふむ、なるほど」


 俺がそう言うとレオンと会長さんをちらっと見るラケル。

 するとラケルの後ろの方から二人に声をかけてくる者がいた。


「あー! レオンにイレール! あんたたちこんなところで何やってんの? もしかして私を手伝いに来てくれたり――」

「いや、違うよ」

「違います。私たちはこの方々をラケル先生のところまでお連れしただけです」

「そんな殺生な……」


 会長さんと同じ制服を着た赤毛の女生徒は2人にすがるような目で話しかけたと思ったら、速攻で否定され今度は涙目になりながら助けを求めるように言ってきた。

 なかなか表情がコロコロ変わる子だ。

 まるでサルバみたいだな。

 ……いや、それはこの女の子に失礼か。

 俺がそう思っているとラケルが笑いながら女の子に提案した。


「そうだ、ベルくんも彼に自己紹介しといたらどうだ。なんたって彼は異世界から来た英雄だぞ?」

「え!? そ、そうなんですか!」

「あ、ああ。まぁな」


 俺がそう答えると女の子はラケルの前まで出てきて自己紹介をし始めた。


「ベル・アルクィンです! そこの2人と同じ高等部2年で得意なことは運動と食べること、苦手なのは勉強で、特に歴史とか錬金とか……あと色々です!」

「そこまで言うか普通」

「いや、なんか言っとかないと勉強できるように思われても困るし!」

「あなたを見て勉学に秀でていると思う方がおかしいと思いますが」

「会長ヒドい!」


 俺はその会話を聞いて苦笑いをしていた。

 ベルは最初に見た通り活発な女の子なようだ。

 ……そういえばこんなに女性がいるのにやけに静かだな。

 俺はそう思いサルバの方を見てみると、やつはラケルを見て固まっていた。

 なんだか様子が変だと思った俺はサルバの顔の前で手を振ってみたが何の反応も示さない。

 俺はそのまま声をかけてみた。


「どうしたお前? おーい、聞こえてるかー」

「……つ…………い」

「ん?」

「美しい……」


 あ、これは。

 俺がサルバの言葉を理解し静止しようとした時にはすでに遅かった。

 やつは一瞬消えたかと思うとラケルの前に跪きいつものアレをしていた。


「美しい、美しすぎる! あなたは天使か? いや、それ以上……美の女神! あなたのように美しい女性を私は見たことがありません! どうか私めに夜のお時間を戴けないでしょうか。ぜひとも夕食にお誘いしたいのです!」


 サルバのその様子を見ていた学生3人は各々リアクションを取り、レオンは驚き、会長さんは固まり、ベルは恥ずかしそうに両手で口元を抑えていた。

 あぁ、始まっちまったよ……

 俺はそう思うとサルバの後頭部を思い切り殴る用意をしていた。

 が、俺が拳を振り下ろす前にラケルが言葉を返した。


「ああ、いいぞ」


 ……え?

 今なんて?


「男からこんな風に食事に誘われたのは初めてだ。この後時間があれば付き合ってやろう」

「あ……ありがたき幸せ! このサルバ最高の夜をお約束致します!!」

「「「「ええええぇぇぇぇえええええっ!?」」」」


 俺は学生たちと一緒になって叫んでしまった。

 まさか、サルバの誘いを断らないやつがいるなんて。

 俺が驚いて口をあけっぱなしにしているとラケルが何事もなかったかのように俺に聞いてきた。


「それで、連結魔法の何について聞きたいのかな?」

「ハッ!? ああ、すまない。実は……」


 俺はラケルの言葉で現実に戻され連結魔法について話を聞くことにした。

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