爆轟マナ結晶
会長さんに案内され、校舎から離れた場所にある特殊研究棟へ案内された俺たち。
そこには錬金精錬炉とマナ圧縮装置以外にも様々な装置が置かれていた。
こんなに色々置いてあるのか、想像以上だ。
設置された物は〈AULA〉で見た事がある物もあったが、逆に見たことがない物の方が多かった。
ほほぉ、なんか知らない装置とか見るとちょっとワクワクするな……いかんいかん、下手に触って壊したら大変だ。
俺はそう思うとサルバの方を見た。
するとこいつも物珍しそうに通り過ぎていく装置を見ていた。
一応言っておくか。
「おい、変に触るんじゃないぞ。壊しでもしたら大変だからな」
「お、おう。そんなことわかってるよ」
ああ、わかるぞ。
見たことないものってなんか触りたくなるよな。
でも今は我慢だ、頑張れサルバ。
俺がそんなことを思っていると会長さんがとある装置の前で立ち止まった。
「お二人とも、こちらの装置が錬金精錬炉、マナ圧縮装置になります」
「おお、これが」
「……」
サルバが会長さんに言われるまま目の前にある装置を見て声を上げたが、俺はその装置を見てまたかと思ってしまった。
なんでこっちのものは〈AULA〉よりデカイんだろうな。
そこにあったのは魔法陣がいくつも描かれた金属の筒状の装置、それと寝かした円柱状のタンクのような装置だった。
いや確かに俺の見たことあるのもそんな形だったが見上げるほどはデカくなかったぞ。
せいぜい人1人くらいのデカさだったはずだが……
俺はそう思いジロジロと装置を見ていると、装置の影から白衣を着た研究員らしき男が出てきた。
「む、何だ君たちは?」
「ディヴィ先生、こちらはサルバさんとリオさん。今日、錬金精錬炉とマナ圧縮装置を使う人たちです」
「ああ、君たちが。私はこの学院の教師で特殊研究棟の管理人を仰せつかっているディヴィ・ファウラーだ。よろしく」
「リオだ、よろしくな」
「俺はサルバ、よろしく」
褐色の肌に銀の髪、180cmは超えていそうな長身に端正な顔立ち。
スラっと伸びた足や細い線の体はまさに雑誌に乗っていそうなアイドルのようだった。
お互いに挨拶を交わすと会長がディヴィさんに聞いた。
「先生はどうしてここに?」
「あぁ、学院長に言われてこいつの整備をしてたんだ。最後に使ったのは一月ほど前だからな……まったく、人使いの荒いやつだ」
「あ、あはは」
会長さんが苦笑いをしていると、錬金精錬炉にかかった梯子を降りてくる人影が姿を表した。
それは服を煤や油のようなもので汚した茶髪の男子学生だった。
「まあ、レオン! あなたこんなところにいたのね。探したんだから」
「え? ああ、ゴメン会長。確かお客さんが来るんだよね、今支度するからちょっと待ってて」
「もう遅いわ。お客様はここにいますもの」
「へ? おわっ!?」
レオンと呼ばれた男子学生はバランスを崩し足を滑らせて梯子から落ちてしまう。
俺とサルバが慌てて受け止めようとするが、会長さんが手で静止し彼は何の問題もなく地面に着地した。
す、すごい……
今、頭から落ちたのに空中で姿勢を変えて綺麗に着地したぞこいつ。
「っとと、危ない危ない」
「もう、なにしてるんですか。ここにいたのが私だったから良かったものの、ベルさんでしたら装置を壊してでもあなたを受け止めようとしてましたわよ」
「あ、あはは。ゴメンゴメン」
「もしそんな事になったら、ベルにはここの装置を全て掃除してもらおう」
「うわぁ、それは大変だぁ」
彼が言った通りかなり大変だろうな。
今俺達が通ってきただけでも20を超える巨大な装置が置かれていた。
それを全部って……いや、装置を壊してそれくらいで済むなら優しいか。
俺がそんなことを思っているとレオンが俺たちに挨拶してきた。
「お騒がせしました、僕はレオン・カレスティア。会長と同じ高等部2年、普通の生徒です。よろしくお願いしますね」
「あ、ああ。俺はリオだ、よろしく」
「サルバだ、よろしく。しかしさっきのはすごかったな! ここの生徒さんはあんなこと平然とできるんだな」
「い、いやぁ」
サルバが先ほどの着地を褒めると、レオンは頭を掻きながら照れていた。
すると会長が呆れたように口を挟む。
「いえ、あんな動きここの生徒誰もができるわけではありません。彼が特殊なだけですよ」
「え? でもさっき普通の生徒って」
サルバがそう言うと会長が続けた。
「彼は身体能力も頭脳も他の生徒と比べるとズバ抜けていますわ。正直、自覚がないのが腹立たしくなる時があるくらいには」
「へぇ~、スゴイんだなレオンは」
「あ、あはは。それほどでも」
「自身の能力を正しく理解できていない。故愚か者と呼ばれるのだ、お前は」
「せ、先生今のは傷つきますよ……」
レオンは色々と言われているが、俺から見るとなんだか楽しそうに見える。
相当仲いいんだな、見ているだけでも分かる。
俺はそんなことを思っていたが、目的を思い出し話を切り出した。
「あー、そろそろいいか?」
「あ、そうでしたね。すみません」
「私は他にやることがあるので失礼させてもらう。何かあったらそこの愚か者に聞いてくれ。では」
そう言うとディヴィさんはその場を後にし、建物から出ていった。
かなり信頼してるみたいだけど、彼学生だぞ大丈夫か?
「えぇっと、今日は装置を使うんですよね。使い方とかは大丈夫でしょうか?」
「あ~、それがな……こんなに巨大な錬金精錬炉とマナ圧縮装置は見るのも初めてなんだ。できれば説明してもらえると助かるんだが、あと作業も手伝ってもらえると非常にありがたい」
「私はかまいませんよ」
「それでは僕たちにおまかせください!」
……なんか今目が輝いた気がしたんだが、ほんとに大丈夫か。
俺はその目の輝きにアディーやケペック博士のことを思い出し若干不安になった。
◆◇◆◇◆◇
その後、レオンの説明や手伝いのおかげで無事使い方を把握することができた。
俺が説明を受けている間後ろの方でサルバはウトウトしていたので、あとであいつには肉体労働の方を頑張ってもらおう。
レオンの説明はとてもわかりやすくすぐに理解することができた。
さて、じゃあパンドラを呼びますか。
「そういえば精製に使う素材はどこにあるんです?」
「ああ、今持ってるやつを呼ぶから少し離れててくれ」
俺はそう言うと左手に魔法陣を浮かべ詠唱を始めた。
「アドベント・ルーラーオブトレジャー・パンドラ!」
俺がパンドラを呼び出すと、会長さんは驚き目を丸くしていたがレオンは興味津々と言った様子でニヤリと口元を緩め瞬きもしていなかった。
「呼んだか主様」
「ああ、さっきしまった烈火のマナキューブを出してほしいんだ」
「それくらいお安いご用じゃ。どこに出そうかの」
俺は装置の置かれている周辺を見回したが、先ほどのあの量を置いておける場所はなさそうだった。
「なあレオン、会長さん。ここの近くに大量に資材を置いて置ける場所ってないか?」
「そうだな……研究棟の外にある歩道横なら空いてるかな」
「そうですね、ここから近くと言ったらそこくらいしかないですわね」
「そうか。おいサルバ、出番だぞ!」
俺は近くにあった椅子に座り肘をついて今にも寝そうになっていたサルバを叩き起こし要件を伝える。
「ん゛ぁ゛あ゛!? な、なんだ!」
「今から建物の外に烈火のマナキューブを出すから、お前は呼んだら言った個数だけこの装置まで持ってきてくれ!」
「おう! 任せとけ!」
飛び起きたサルバは胸を張り叩くとやる気満々ということを主張してきた。
ああ、頑張ってくれ! 俺は絶対にやりたくないけどな!
さっそく外に出て歩道横の芝生に貰ってきた烈火のマナキューブ3000個を取り出した。
パンドラが宙で舞うと次々と黒い穴から出てくるアイテムの群れ。
赤く輝く大きなサイコロは綺麗に整頓され、ピラミッドのように積み上がった。
「すごい、こんなに……」
「アスター王が言うには城の貯蔵分の約8割だって言うからな。大事に使わねぇと」
「そんな量を戴けるなんて……リオさんあなたは一体……」
「まあ、そんなのはどうでもいいのさ。今は早く作るもの作らねぇと」
俺たちはサルバを外において装置の前まで戻ってきた。
さてと……
「まず、今から作るものの説明をしておくな。今から錬金精錬炉で精製するのは爆轟マナ結晶と呼ばれる物だ。これは衝撃が伝わったり火が近くにあると強烈な爆発を発生させる代物だから、近くに火の元になりそうなのがないか確認してくれ」
「はい」
「わかりました」
2人が建物の中にそう言ったものがないか確認しに行くと、漂っていたパンドラが俺に質問してきた。
「主様、ワシはどうする?」
「ああ、パンドラはまだ取り出すものがあるからそのまま待機。あとは、もし爆轟マナ結晶が爆発しちまったらトリップトラップでシャドウガードナーを出してくれ」
「了解じゃ。カッカッ! 確かにあやつなら爆発なんぞ屁でもないわな」
パンドラのトリップトラップはただ罠を出すだけのスキルじゃない。
宝物庫を守るために必要な番兵を出すこともできる。
シャドウガードナーは物理系の攻撃が一切効かないモンスターだ。
そいつに守って貰えば、たとえこの研究棟が吹き飛んでも大丈夫。
……俺たちはな。
俺はさっきディヴィさんが言っていた言葉を思い出しながらそう考えていた。
あ~、やらかしたら大変だなぁ……
俺がそんな事を考えているとレオンと会長さんが帰ってきた。
「確認できましたわ。火の元になるようなものはありませんわよ」
「こっちも、全部確認してきました」
「2人ともありがとう。そんじゃ、はじめますか。パンドラ、倉庫を開けてくれ」
「はいなのじゃ」
俺はパンドラに倉庫を開けるように指示し、黒い穴の中に手を突っ込むと浮かび上がった倉庫の詳細画面を操作し必要なものを取り出し始めた。
「必要なのはムスペルの火酒10本、ミラージュスピリットのコア5個、ラヴァドレイクの竜宝玉1個、そして……」
俺は建物の外に聞こえるように大声で叫んだ。
「サルバー! 烈火のマナキューブ10個持ってきてくれー!」
「あいよー! 任しとけー!」
1個持ったときに感じた重量が大体5kgだとすると、10個で50kgか。
まあこれから3000個を10個ずつ持って来てもらうわけだが……頑張れサルバ。
そんな事を考えていると思ったよりも早くサルバがアイテムを持ってきた。
「結構早かったな、その調子で頼むぞ」
「おうよ!」
そう言うと外に戻っていくサルバ。
俺たちも錬金精錬炉でも精製に取り掛かり始めた。
レオンと会長さんに精錬路の横に設置された素材投入口に素材を投入してもらう。
そして俺は精錬路の下部に設けられた小窓から中の様子を確認する。
色や光の具合を見てボタンを押し炉の取り出し口からアイテムを出す。
ここらへんは〈AULA〉でもあったミニゲーム要素だ。
俺はタイミングを見計らい、ボタンを押した。
すると取り出し口からは白と赤と黄色に明滅する透き通る球状のアイテムが出てきた。
「おっし、まずは1つ!」
そう言うと二人が近づいてきて爆轟マナ結晶を覗き込む。
「へぇ、これが」
「リオさん、この結晶は一体どれほどの威力を持った物なんですの?」
「ああ、そうだな……この研究棟くらいならコレ1つで消し飛ばせるんじゃないかな」
「「えっ!?」」
2人はそれを聞くと驚きのあまり裏返った声を出した。
アハハ、まあそうだよねー。
俺は再度2人に警告した。
「今のは比喩表現でも何でもないからな、慎重に精製していこう」
「は、はい!」
「恐ろしいですわね……」
俺たちは再び作業に戻っていった。
予定している爆轟マナ結晶の精製数は300個。
慎重に、でも素早く作っていこう。
まだこれは次のものを作るための必要アイテムなんだから。
俺は〈AULA〉でやっていたのとほぼ同じ作業に懐かしさを感じながら今の作業に取り組んでいた。




