カーディッチ魔法学院
イリス姫に案内され城の貯蔵庫に来た俺たちは烈火のマナキューブの山を見て圧倒されていた。
〈AULA〉での烈火のマナキューブはそこまで大きいわけでもなく、せいぜい1cm四方の小さなサイコロ状のものだった。
だが、こちらでは1つ1つが10cm四方のものになっていた。
「デカっ!?」
俺が目の前に置かれた赤く輝く烈火のマナキューブの山を見て驚いてるとイリスが口を開いた。
「あら、何をそんなに驚いてるの? 自分から要求したものでしょう」
イリス姫はどうやらオフモードに切り替えたようでさっきまでの口調とは打って変わってラフなものに変わっていた。
「イリス姫、アンタほんとに切り替わると差が激しいな」
「仕方ないでしょう、これくらいしないと公務は勤まらないの。公私はきっちり分けないと身が持たないのよ」
「んで、まだ仕事中だと思うけど」
「今はいいのよ、お父様や兵もいないし。ちょっと休憩ね」
すごいな、俺には絶対できないわ。
俺がそんなふうにイリス姫に呆れと尊敬の眼差しを送っているとサルバが聞いてきた。
「なぁリオ。こんだけ貰うはいいんだけどさ……コレ、どうやって運ぶんだ? まさか全部台車で運ぶのか?」
俺はそう言われ山の中から1つ手に持って重さを確認してみる。
……意外と重い。
見た目は10cm四方のでかいサイコロなのだが、ずっしりと重さを感じる。
なんだこれ、〈AULA〉の時のやつは片手で軽く持ててピンポン玉みたいな軽さだったのに、こっちのはまるでダンベルだ。
測ったわけではないが恐らく5kgくらいあるんじゃないか?
それが3000個か……
なかなかな肉体労働になりそうだが、俺には考えがあった。
「コレに関しては大丈夫だ。適任がいる」
「そう、それじゃ兵を呼ばなくていいかしらね。もう少し休憩できそう」
俺の言葉を聞くやいなや後ろの方で腕を組み壁にもたれかかると目を閉じるイリス姫。
かなり疲労が溜まっているのか目を閉じると少しだけ表情が緩んだ。
なんか俺も連勤の時はあんな感じだった気がする。
俺はそんなことを思い出しながらも左手に魔法陣を展開した。
「アドベント、ルーラーオブトレジャー・パンドラ!」
魔法陣から現れ宙を舞うパンドラ。
今回は彼女の得意分野だ。
俺は早速パンドラに特殊能力を使用するように指示する。
「パンドラ、俺の素材倉庫を開いてくれ」
「あいわかった。ちと待っておれ」
そう言うとパンドラはその場で短く舞いを披露すると、黒いブラックホールのような穴が空間に出てきた。
サルバやイリス姫が驚いているのがわかったが俺はそれに構わず次の指示を出す。
「しまうのはコレ、烈火のマナキューブだ。数は3000個な」
「あいあい」
パンドラが誘うように舞い始めると、地面に置いてあった沢山の烈火のマナキューブが淡い光を帯び宙に浮かび始めた。
そして今しがた開けた穴の中に赤く輝くサイコロが次々に吸い込まれていく。
「おぉー! すげぇ!」
サルバが感動とも取れる声を上げ終わる頃にはパンドラは舞を止め、目の前に置かれていた山は削られたようになくなっていた。
するとイリス姫が残った烈火のマナキューブを見て言ってきた。
「……しっかり3000個移動したのね。しかし、すごいわねその穴。一体どこに繋がっているの?」
パンドラがマナキューブをしまい終わったのを確認すると俺は少し得意げに答えた。
「あれは俺の倉庫に繋がってる。まだ空きがあったんでな、しまわせてもらった」
「そんな事ができるのか」
サルバが関したように言ってくる。
するとパンドラが胸を張りサルバに威張るように言った。
「当然じゃ、ワシは宝物庫の妖精じゃぞ? 主様と契約している今、我が宝物庫は主様の倉庫じゃ」
「へぇ~」
サルバがパンドラを興味津々といった様子で見つめると急にパンドラが俺の後ろに隠れた。
「主様! こやつのワシを見る目がイヤラシイのじゃ! 何なんじゃこいつは!」
「はあ!?」
パンドラにそう言われて声を荒げるサルバ。
彼女は年端も行かない幼女の姿をしているが、服装は露出度の高い踊り子のような格好をしている。
俺はそんな格好なら誰でも見てしまうだろうと思ったが、万が一ということもあるので一応確認した。
「お前……そういう趣味だったのか」
「だれがそんな目で見るか! 俺の好みはもっと年上だ!」
大声で反論してくるサルバ。
……うん、違そうだし大丈夫だな。
「悪かったって、疑ってねぇよ。パンドラも違うそうだから、な」
「主様がそう言うなら……わかったぞ。そこな小童もスマンかったな」
「ああ……って小童!?」
パンドラはそれだけ言うとそっぽを向いてアルバドムスに帰っていってしまった。
俺は微妙な笑いを浮かべ、後ろの方からイリス姫の隠れて笑うようなクスクスという声が小さく聞こえてきた。
俺はぽかんと口を開けているサルバをよそに気を取り直し言う。
「よし、そんじゃカーディッチに向かうか!」
「お、おう……なんか納得できねぇ!」
「ふふっ、それじゃ休憩はここまでね。学院の方には連絡しとくわ」
「ああ、ありがとう」
俺はそう言うと、どうにも腑に落ちない様子のサルバを引き連れその場を後にした。
◆◇◆◇◆◇
王都ウェストルの東側、世界三大魔法学院に名を連ねる王立カーディッチ魔法学院はそこにあった。
赤いレンガで構成された背の高い立派な校舎がそびえ立つ学生ひしめく学舎。
綺麗に掃除された校舎や歩いている学生たちの姿を見ていると、校舎の造形など色んな所が全然違うのになぜか自分の学生時代を思い出す。
俺とサルバは制服姿の学生を見ながら校庭横の舗装された通路を進んでいた。
しかし学生が多いな、いや学校だから当たり前なんだけど。
もうすぐ戦争だし、こういう時ってさすがに授業とかはないはず……だよな。
それにしても……
「おい、あれ見ろよ」
「え? うぉっ、マジかよ!」
「ねぇあれって」
「ええ神製合金の冒険者さんよ」
「やっぱり! すごくない!?」
なんだか学生からものすごく見られてる気がするな。
なにか本や素材アイテムと思われる物や、剣などの武具を運んで作業をしている学生たちからまるでスターでも来たかのような反応の声が聞こえてくる。
俺は聞こえてくる声の向かう先、サルバの方を横目でちらっと見てみた。
そこには、鼻を伸ばし恍惚とした表情の男がいた。
お前、本当にサルバか?
あんまりにも顔が緩んで元の形が分からなくなってるぞ、おい。
そんな事がありながらも俺たちは校舎に入ると、そこで出迎えてくれた学生に学院長室と思われる部屋へと案内された。
そして部屋に入ると小太りの男が俺たちを迎えてくれた。
「ようこそ。私はこの王立カーディッチ魔法学院の学院長、トゥーマス・ベリルンドと申します。以後お見知りおきを」
「サルバ・リリェホルムです。こちらこそどうぞよろしく」
「リオだ。早速で悪いんだがここの錬金精錬炉とマナ圧縮装置を使わせてもらうぜ」
「はい。お話はイリス姫様からお聞きしております。あいにく教師陣が戦争の準備のため手が離せない状況でして、設備まではそこの学生がご案内します」
学院長はそう言うと隣に立っていた学生を手で案内した。
すると女学生は俺たちに向き直し、綺麗にお辞儀をして軽い自己紹介をした。
「イレール・ルノアールと申します。以後お見知りおきを」
「彼女はこの学院の生徒会長で優秀な学生筆頭でもあります。何かありましたらぜひ彼女を頼って下さい」
「よろしくお願いします」
そう言って顔を上げる会長さん。
動く度に輝くウェーブのかかった綺麗な金の長髪に、母性を感じさせる包み込まれそうな優しい笑顔。
まだあどけなさが残る顔立ちからは美しさと愛らしさを感じる。
はっきり言って学生とは思えないほど美人だ。
俺はそう思うのと同時にサルバの方をすぐさま睨んだ。
そしてサルバの状態を確認すると、やはり今にも口説きだしそうな目と口元をしていた。
おい、こんなところでやめろよな、おい。
俺はこっちに来てから一番キツい目つきで睨むと、サルバもそれに気が付いたのか動き出しそうになっていた体をもとに戻しビシッとまっすぐ立ち直した。
それを見ると俺は会長さんに返事をした。
「ああ、こっちこそよろしく頼むよ」
「こんな美人に案内されるなんて光栄だ。よろしくお願いします」
サルバは俺のした軽い会釈と違いきっちりとしたお辞儀で応えると会長さんは微笑んで返した。
「それではご案内します。どうぞ」
会長さんは移動し部屋の扉を開け、手で部屋の外を案内していた。
俺たちはあとについていき学院長室を後にした。
◆◇◆◇◆◇
俺たちは校舎から離れ、途中図書館と思わしき建物を通り過ぎると学院の端の方にある建物に向かっていた。
途中で学生たちに何度も会ったのだが、学生たちは会長さんのことも噂話していた。
「ああ会長……今日もお美しい」
「もうすぐ戦争だってのに会長は凄いな、いつもと同じじゃないか」
「俺なんかもうすでに手が震え気味だってのによ」
「会長が連れてるのってもしかして、世界に10人しかいないっていう神製合金の冒険者?」
「そうみたいよ。そんな人と一緒に歩いてるなんてやっぱり凄いわ会長」
俺はサルバの方を見てみた。
またさっきみたいな変な顔してないだろうな。
すると、そこには緩みきった顔ではなくとてもしっかりとした顔のサルバがいた。
なんだかいつもより爽やかさを感じる気がする。
……もしかして、会長さんの手前あんなひどい顔をしないように頑張ってるのか?
俺がそう思いながら見ているとふとサルバのことを褒める声が聞こえた。
「ねぇ、あの帽子かぶった冒険者さんすっごいイケメンじゃない?」
「あ、そうかも。なんか冒険者って小汚いイメージあるけど、あの人は違うね」
「うん、それになんかやる時はやるって感じするよね。カッコいい」
それを聞いた途端、メチャクチャ爽やかだったサルバの顔が一瞬だけさっきの緩みきった正直引くレベルの顔になった。
ホントに一瞬だけ。
あー、こいつメチャクチャ頑張って顔作ってんな。
俺は何か学生から褒められる度に、時折コマ送りの一コマレベルで変わるサルバの顔を見ては笑いそうになり我慢していた。
そんなことが後ろで起きているとは知らないだろう会長さんは俺たちを施設の場所へと案内してくれた。




