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異世界英雄と22の召喚獣  作者: 十回十
Episode:1 黎明のコルアンディ
31/40

ネガ

 俺たちのことを襲ったは目からドロドロと粘り気のある淀んだ謎の液体を垂らしながらこちらに近づいてきている。

 液体は落ちると煙を上げ、音を立てながら地面を溶かしているように見える。

 だが、少し経つと地面に染み込んでいき跡を残していってしまった。

 俺はサルバを吹っ飛ばした老爺の腕を見た。

 するとその腕は目と同じく淀み、人間の腕とは思えないほど筋肉質で太いものになっていた。

 一体どうなってるんだ……

 俺はそう思いながらも老爺の簡易情報を見てみる。


バジル・バート

レベル32 職業:山小屋管理人

HP5,164/5,164 MP3,497/3,497

エレメントスコア:0


 ……は?

 俺は思わず目を疑ってしまった。

 サルバを片腕で吹っ飛ばした相手がレベル52だと?

 俺は表示された簡易情報をもう一度よく見る。

 さいわいにも老爺の歩く速度は遅くまだ俺たちまで少し距離がある。

 そして俺は簡易情報の端に小さく表示されたアイコンに気付いた。

 老爺の出している淀みと同じ色の九芒星。

 これは……!?

 俺はそれを見つけるとその場の全員に聞こえるよう大声で叫んだ。


「全員、対ネガ戦闘用意! 相手は人型1体、段階は軽度。全員アイツの攻撃を食らうな!」

「わかった!」

「心得ました」

「な、なんだそのネガってのは!?」

「いいから! お前も今からあの爺さんの攻撃を食らわないことだけ考えてろ!」

「は? な、なんだかよくわからないけど、わかった!」


 サルバは俺に強く言われ、疑問符を浮かべながらも銃口を老爺に向けた。

 しかし……


「うおっ!? 何だこいつら、離れろ!」


 サルバの周りには先ほど俺たちを取り囲んでいた山羊たちが集まり、攻撃の邪魔をするように突進や蹴りを入れている。

 あまりの妨害にサルバが銃を山羊に向け撃とうとする。


「待てサルバ、そいつらを撃つんじゃない! できるだけ山羊をひきつけてくれ!」

「はあ!? ひきつけてどうすんだよ!」

「そいつらが邪魔できないようにしてくれれば俺がなんとかするよ!」

「……くっそ、わかったよ! そのかわり後でちゃんと説明しろよ!」

「ああ!」


 説明するとも。

 こいつに関する知識がなかったら後々大変だ。

 俺は老爺を見据えた。

 老爺はこちらに向かってきてはいるがその速度は遅く、こうしている間に俺までたどり着けないほど足元がおぼつかないでいる。

 こいつはネガ状態になっている。

 だが、おそらく元は普通の人間。

 〈AULA〉の時は町や村のNPCがネガになることなんてなかったが、ここは異世界。

 アルテルのしてくれた説明も不十分だったし、こちらではありえることなのかもしれない。

 となると……

 俺はウィンクルムをしまうと、インベントリから透明な煌めく液体の入った小瓶を取り出した。

 そして2人に指示を出す。


「ルシア、シラユキ、やつの動きを封じてくれ。動けなくなったところで俺がこいつを飲ませる」

「わかったよ!」

「はい、旦那様」


 そう言うとルシアはブラキウムイラを装備し老爺に走っていく。

 近づいたルシアに対して反応するかのように、先ほどサルバを吹き飛ばしたのと同じ腕を振りかぶる。

 ルシアは身をかがめると武器で腕を防ぎ力比べの状態になった。

 その時、金属どうしがぶつかるような耳が痛くなるほどの音と、激しい火花が散った。


「くぅぅ、重っ!? とりゃぁああ!」


 ルシアは力比べに気をやっている老爺の隙を突き、足払いで老爺の体制を崩した。

 そして後方にいたシラユキがスキルを発動する。


「ナスティヴァイン!」


 すると地面から鞭のような無数の蔦が伸び、倒れた老爺の体に巻き付くとその動きを封じた。


「ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

「クッ……なかなか……強い……!?」

「ナイスだ、シラユキ! あとは俺が」


 俺はシラユキの拘束が長く持ちそうにないことを悟ると、すぐに走り出し老爺の顔に近づく。

 そして小瓶の蓋を開けると、叫ぶのに開けっ放しになっている口を抑えて液体を流し込んだ

 その瞬間――


「ガァァァアアアッ!?」


 開けた状態に固定された口から小瓶の液体が侵入して来るのをまるで拒絶するかのように大声を上げる老爺。

 それと同時にシラユキの蔦を引きちぎりそうな勢いで暴れ始めた。


「おとなしくしろ!」


 ルシアが光を放ち獣の姿に変わると、前足で老爺の体を上から抑え身動きができないようにする。

 それでも抵抗する老爺の体はルシアの前足をわずかに動かすほど暴れる。

 そして……


「よし、これで全部だ!」


 俺が小瓶の中身を全て飲ませたことを告げてから数秒。

 老爺はさっきまでの暴れぶりが嘘のようにおとなしくなり、静かに目を閉じていった。


「や、やったのか!?」


 山羊の相手をしていたサルバがこちらの様子を確認してそう言う。

 ルシアも暴れなくなったのを確認すると足をどけた。

 すると、先ほどまで淀みに染まっていた腕がみるみるうちに老爺の腕へと戻っていった。

 俺はそれを見て再度簡易情報を見ると、ネガのアイコンが消えているのを確認した。


「ふぅ~、なんとかなったな」


 俺がそう言うと老爺の体を抑えていた蔦が地面の中へと戻り、サルバを襲っていた山羊たちもまるで興味を失うように襲うのを止め四方へ散っていった。


「……ったく、なんだったんだ今のは。説明してくれよリオ」

「その前に、この爺さんはレベル32の一般人だ」

「はあ!? 一般人だと?」

「ああ、しかも職業は山小屋管理人……戦闘職業ではないただの老人だよ」

「山小屋って……まさか、あれのことか?」


 サルバは下の方に小さく見えるこぢんまりとした山小屋を指して言った。


「ああ、おそらくそうだろう」

「おいおい、そんな爺さんが俺を吹っ飛ばすほどの怪力をしてたってのか? 冗談きついぜ」

「たしかに、冗談きついな。だがこの爺さんはネガ状態だった。それで説明がつく」

「さっき叫んでたやつか。そのネガってのは一体何なんだ?」


 サルバが不機嫌そうに聞いてくる。

 そりゃそうか。

 世界に10人しかいない神製合金(オリハルコン)としてのプライドが黙っちゃいないだろう。

 俺はすぐに結論を言った。


「ネガってのは、邪神ヴァルザの影響を受けた者がかかる状態異常だ」

「……は?」


 俺は目を丸くしているサルバを気に留めず話を続けた。


「俺のいた〈AULA〉では邪神の影響を受けたモンスターからの攻撃を受けると発現する状態異常だった。ネガ状態に陥るとその進行段階に応じて周りを無差別に攻撃していくんだ」

「それがこの爺さんだって?」

「ああ、爺さんの進行段階は軽度。凶暴性が増し誰彼構わず襲いかかる状態だ」

「さっきお前は攻撃を食らうなって言ってたよな。あれはなんでだ?」


 そこまで説明するとサルバは腕を組み俺に質問してきた。

 俺は真剣な表情で答えた。


「……ネガってのはな、感染するんだよ」

「感染? 流行り病みたいにってことか?」

「まあ、そんなところだな。ネガにかかっている者の攻撃を受けると、受けた者もネガになる。攻撃を受けているとネガが溜まっていって、溜まり具合によってあんな風になっちまうんだよ」


 〈AULA〉で言うとネガの状態異常値が一定以上になると段階が進み、さっきの爺さんのように発症する。

 ゲーム的な説明が通じないだろうからこれが妥当だろう。


「こ、怖ぇなそれ……ん? 俺最初に殴られたよな、もしかして俺もそのうち……!?」

「ああ、それは大丈夫だと思う。ちょっと腕出してみ」

「え、ああ」


俺はインベントリから円盤に棒がついた道具を出し、棒の先端を出されたサルバの腕に押し当てた。

すると円盤に着いた針が僅かに動き、古い体重計のようにサルバのネガ進行率を提示した。


「進行率5%。これくらいならまだ大丈夫だ」

「ちなみにその進行率って、どのくらいになるとあの爺さんみたいになっちまうんだ」

「50%で軽度、75%で重度。あの爺さんは軽度だったから50%超えてたんだろうな」

「……もしそれが100%になると、どうなる?」


 サルバは恐る恐る聞いてきた。

 ……やっぱり気になるよな。

 〈AULA〉の時はそんなでもなかったが、こちらでは大事だし伝えておこう。


「100%に到達すると、死ぬ」

「……え」

「50%を超えるとネガ状態のやつから攻撃を食らわなくても自然に数値が上がっていって、100%になると死亡する。こっちでは復活の手段がないとアルテルから聞いてるから、かなり危険な状態異常だ」


 俺がそう言うとしばらく沈黙が流れる。

 サルバは真顔で固まっていたが、しばらくすると額に汗を流しながらものすごい剣幕で俺に聞いてきた。


「な、なあ。さっき爺さんに飲ませてたあれ、もしかしてそのネガを治す薬だったりしないか?」

「あ、ああ。あれはネガに対する完全治癒薬だ。そうでもしないと爺さんを殺すしかなかったからな」

「……その薬ってまだあるか?」

「あぁ、心配なのか。だったらほれ、抗進薬だ」


 俺はそういって白い液体の入った小瓶を放おって渡した。

 サルバは慌てて落としそうになったがなんとか受け取った。


「それ飲めばネガに対するある程度の耐性と自分のネガ進行率を徐々に下げる効果が……って聞いてねえし」


 俺が説明をする前にサルバは坑進薬を一気飲みしていた。

 5%くらいなら自然回復でも間に合うんだけどな。

 まあ、いきなり死ぬかもしれない状態って言われたらそうもなるか。

 俺がサルバを見てそう重っているとルシアが話しかけてきた。


「リオ、このおじいさんどうする?」

「そうだな、ここじゃ危なそうだしとりあえず山小屋まで運ぶか。ルシア、ちょっと俺と爺さんを乗せて山小屋まで飛んでくれ」

「うん、わかった」


 ルシアの背中に爺さんを乗せた後、俺も乗りシラユキに指示を出した。


「シラユキ、また城の中の情報を共有してくれ。爺さんを運んで帰ってきたらまたレーミーと感覚共有するからな」

「わかりました旦那様。お気をつけて」


 そう言うとシラユキはその場で頭を下げて俺たちを見送ってくれた。

 ちなみにサルバはと言うと、坑進薬を飲み干したあと手近にあった岩に腰掛け息を整えていた。

 サルバじゃなくても誰でもああなるだろうな。

 でも、なんでこの爺さんはネガ状態になったんだ?

 帝国軍が異形腫瘍体(マリグナント)になったことは聞いていたが、ネガ状態になったやつがいるなんて聞いてないな。

 ネガの状態がわからなくても、あんな風になっちまうんだ。

 なにかしら異変が起きてることくらいわかると思うが。

 俺はそんな事を考えながら爺さんを連れて山小屋へと飛んでいった。

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