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異世界英雄と22の召喚獣  作者: 十回十
Episode:1 黎明のコルアンディ
30/40

邂逅

 ケペック博士の捕らえられている牢屋。

 そこに訪れたのは巡回でも監視でもない、この城の主アルクトス将軍だった。

 将軍は博士の様子を確認すると、不敵に笑い質問してきた。


「ケペックよ、決心はついたか?」

「……前にも答えたと思うが、私は帝国の軍門に下るつもりはない」

「こんな牢屋の中で、1人壁に向かって教鞭をとるよりかよほどマシだと思うがね」


 将軍は目を閉じわざとらしいため息をつくと、先ほどの笑みは失せ標的を定めるような鋭い眼光を博士に向けてきた。


「お前の頭脳は貴重だ、帝国にとっても有益なものとなるだろう。こちらとしては上級貴族の席を用意する準備があるが……お前は興味ないだろうな」

「なんだ、わかっているではないか。私は地位などに興味はない。研究のために必要なものがあればそれでよい」

「金か……随分と安い男だな。それとも、俺の思い違いかな?」


 将軍は腕を組み真剣な表情をしているのだが、時折その顔には獲物を前にした野獣のような凶暴なものと、人を小馬鹿にし嘲笑うようなものが見え隠れしている。

 その様子からは、とても不安定な危うさを感じる。


「だがな、私は王国から十分な額の研究費用を貰っている。それに、王国の皆には今まで世話になった恩義も感じている。どう転んでも帝国になど行きはせんよ」


 博士が突き放すようにそう言うと将軍は突然吹き出すように笑いはじめ、挙句の果てには腹を抱え牢屋の反対側にある通路の手摺を握りしめ、なんとか体勢を保とうとしている。

 その様子を見ていた俺は将軍に恐怖を感じ、背筋に悪寒が走った。


「ハァハハッハハアハッハ! イヒィ、イヒィィ! 牢屋の壁に一日中数式を並べる、研究しか頭にない男が、恩義を感じるぅ!? 冗談にしては面白すぎるぞ、ケペックゥ!」

「……笑いたければ笑うがいい、私はこの状況になって初めて感じることができたのだ」

「フフハッ、フハウアッ! アハアハハッ! 違う、違うなケペック! お前はただ興味のあることを解明し終わって、暇になっただけだろう! 次の研究対象が現れたらそんな感情なんぞ忘れて没頭する、ただの狂人よ!」

「……そうかもしれんな。だが、今感じているこの感情に偽りはない!」


 博士がそう強く言うと、将軍はピタリと笑いを止め、博士の方を向き直してはこれでもかと言うくらい顔を檻に近づけ、瞳孔の開いた瞳を向けてきた。


「我々は5日後、王国から取引の返事を聞こうと思っている。内容は王国にある遺物武器(アーティファクト)2つを引き渡すこと、応じなければその場で開戦だ。我々帝国軍30万が王国を蹂躙し尽くすだろう」

「遺物武器を? 馬鹿な、そんな要求アスター王が応じるわけがない!」

「フッ、フフッフゥッ……そんなのわかりきってるんだよぉ、ケペックゥ……」


 将軍は檻から顔を離しながらねっとりとした口調で博士の言葉に反した。

 隠れているレーミーの視界からは博士の表情がわからないがその言葉を聞いた途端、後頭部に汗がにじむのが見え、なんとも言えない恐怖を感じているのがわかる。


「王国は取引に応じないだろう……だが、それでいい。我が軍はすでに全部隊が異形腫瘍体(マリグナント)へと変化し終えた。後5日もあれば、さらなる変化が期待できよう! 奴らを無残に葬るには十分すぎるくらいだ……フヘッ、フヒハァハハハッ!」

「なぜ……」

「あぁぁ?」


 博士が将軍の笑い声を遮るように口を開いた。

 すると博士は前傾姿勢になり構えながら質問した。


「なぜ遺物武器なのだ。使えもしない武器よりも聖剣のほうがお前らにとっては都合がいいのではないか? 戦力がほしいのならば遺物武器などいらないだろう」


 遺物武器が使えない? どういうことだ。

 俺は博士の言葉に疑問をいだき、同時に将軍の返答を心して聞いた。


「……あぁ……聖剣かぁ……あれは確かに、戦力としては手に入れたい物ではあるなぁ」

「だったらなぜ」

「だがなぁ! あんな手垢まみれの神の力、我々には必要ないんだよぉ! 我らが欲するは純粋なる力! 何者をも寄せ付けない真の神の力だ!」

「っ!?」


 博士と俺、レーミーは舌を出し今まで話していた男と同一人物とは思えない異形とも呼べる表情を見せる将軍に驚いた。

 さらに、檻を両手で掴んで壊れるくらいに揺さぶっている将軍を見ると博士は一歩後ろへ下がり、レーミーも体が震えているのが伝わってきた。

 すると将軍は突然檻を揺さぶるのを止め、さっきまでと同じ顔へと戻ると話を続けた。


「少し喋りすぎてしまったかな。しかし、久しぶりにこんなに笑ったなぁ。フフッ、フッフフ……あぁ、いいことを思いついたぞ。ケペックよ、礼と言ってはなんだが5日後の開戦後、手始めに王城ではなくお前のいた研究所に進路を取ってやろう」

「な、なんだと!?」

「本当は王城に向かい遺物武器を回収するつもりだったが、気が変わった。遺物武器は蹂躙のあとで探すでもかまわん。どうせ逃げられないのだからな!」

「それはどういう……」


 将軍は博士のその言葉を聞くとニヤリと気味の悪い笑みを浮かべた。


「地上は我々が国中を隅々まで探してやろう、海にはタイラントリヴァイアサンが待機している。空に逃げようものならば、アスカロンによってことごとく打ち払われるだろう! もう逃げ場はどこにもないんだよ……フフッフフフゥ、アーッハッハッハッハッハァ!」


 博士からは表情が見えずともわかる動揺が伝わってくる。

 俺もその言葉を聞き戦慄した。

 あの口ぶりからするとタイラントリヴァイアサンもあいつらが放ったもので間違いないだろう。

 つまり、王国は帝国の手の者によってすでに包囲されているということだ。

 これは想像以上にヤバい事態だ、はやく王城に戻って知らせないと。

 俺がそう思っていると将軍は笑うのを止め少し渋い顔を博士に向けた。


「だが、ただお前の研究所に進路を取るだけでは面白くないな。もっとお前に見せつけるようになにか……ハハッ! そうだこうしよう」


 将軍はまるで少年のような屈託のない笑顔で言ってきた。


「ケペック。お前には息子がいたな、たしかその息子には許嫁の竜騎士も」

「な、なぜそれを」

「フフッ、あぁだがもう少し欲しいな。そうだ、お前の別れた妻も用意しよう」

「なにっ!? カシアに何をするつもりだ!」


 博士の怒号は牢屋を震わせ耳が痛くなりそうなほどだった。

 そんなことなどお構いなしと言った様子で将軍は話を続ける。


「ちょっとしたショーだよ、お前の為のな。なぁに、この城中のモンスターの慰みものになってもらうだけだお前と、お前の息子の前でな」

「なん……だとぉっ!!」

「そうして壊れてしまったら息子もろとも処刑してやろう、お前にはもちろん特等席で見物してもらうぞ。……あぁ、それとも魔法で意識のあるまま体を操作して、お前に処刑させるのもありか。クッフゥフフフ、楽しい見世物になりそうだなぁ! なあケペックゥ!」

「き……さまぁ!!」


 博士が獣のごとく檻をぶち破りそうな勢いで将軍に突進する。

 だがしかし檻は破れず、将軍は遊ぶように跳んで後退した。


「おっとぉ。俺に逆らうとどうなるか、肝に銘じておけぇ? あぁ、楽しみだ。アーッハッハハッハア!!」

「待て! この外道がぁ!」


 高笑いをしながら牢屋を去っていく将軍。

 博士が檻の隙間から腕を伸ばし将軍を掴もうとするが、到底届かずただただ将軍の背を見るだけとなってしまった。

 あいつは絶対許さない。

 アディーにもエマにも、博士の元妻カシアさんにも指一本触れさせない。

 それに、あんなやつに王国を蹂躙なんてさせない。

 なにがあってもだ。

 俺が心のなかでそう誓うと、ルシアの声がふと聞こえてきた。


「リオ、大変だよ!」

「どうした、なんかあったのか?」

「そ、それが」


 俺は一旦レーミーとの感覚共有を止め、俺本体の視界を確認した。


「な、なんだこいつらは」


 すると、そこには俺たちを取り囲むように集まる山羊の群れ。

 見るとその全てが俺たちに威嚇していた。


「わかんない、突然集まってきてこんな状態に」


 俺はルシアの言葉を聞き山羊をよく見てみると、それは〈AULA〉でも非アクティブ、つまりおとなしい性格の動物たちだった。

 そして、群れの中から1人の老爺が現れた。

 ボサボサに伸ばした白髪に見事に蓄えられた髭。

 俯きながら群れの中から出てきた老人は何かぶつぶつと言っているが声が小さく上手く聞き取ることができない。


「あー、何だ爺さん。なんか俺達に用か? 悪いが今立て込んでるんだ、それにその山羊あんたのだろ? 今すぐどっかに連れてってくれないか」

「…………」


 老爺はサルバの問いかけに対し何か反応するわけでもなく、ずっと俯いたまま何かを言っている。


「おい、聞いてるのか爺さんよ!」


 サルバが痺れを切らし胸ぐらをつかんで怒鳴ると、老爺の目には瞳がなく、絵の具を適当に混ぜ合わせたように黒く淀んでいた。

 すると首の座っていない赤子のように首が曲がり、目から淀みが涙のように溢れてきた。


「な、何だこれ!?」


 サルバが老爺を突き飛ばすと、岩にぶつかり体制を崩すがすぐさま元の姿勢に戻り徐々に何を言っているのか聞き取れるようになってきた。


「……こから…………いけ」

「なんだって?」

「ここから……出ていけぇェェエエ!」


 突然、人とは思えないほどの大声で叫び始める老爺。

 そして、はっきり言葉を発したかと思った次の瞬間、まるで壊れかけのスピーカーから流れるような歪で汚い警告音のような音を爆音で発すると、サルバに向かいヨボヨボと走り出し腕を振り上げてきた。

 するとサルバは構え、握りこぶしを作り親指だけ自分の方に向けると余裕そうな口調で言った。


「お前、俺を誰だか知ってるのか。「瞬撃」の二つ名を持つ神製合金(オリハルコン)の冒険者だぞ? 世界に10人しかいない逸材の俺に、そんなノロマな攻撃が当た――」


 その瞬間、ブォンッ! と風切り音を出しながら尋常ではない速度で腕を振り、老爺はサルバの顔面を殴打した。


「ブふぅっ!?」


 サルバは殴打された衝撃で山の斜面に沿うように転がっていった。

 だが、途中あった出っ張った岩に捕まりなんとか下まで転げ落ちずに済んだ。


「な、何だ今の!? 急に腕が早くなったぞ!」


 老爺はサルバを殴ると、俺のことを睨み始めた。

 絶対になにかおかしい。

 俺は恐怖を感じ、ウィンクルムを取り出すと臨戦態勢に入った。

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