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異世界英雄と22の召喚獣  作者: 十回十
Episode:1 黎明のコルアンディ
27/40

変容

 王子と試合をしたその日の夜。

 アスター王からユスティ城での宿泊を許可された俺とサルバは城で一晩過ごした。

 それから朝早くに俺のワープゲートを使い、ルシアを連れて3人でカナリッチ山脈の頂上に来ていた。

 目的はアスター王から聞いた情報が本当かどうか確かめるためだ。

 インベントリから取り出した単眼鏡をサルバにも貸し帝国軍の様子を見る。

 するとサルバがいかにも嫌そうな顔をしながら口を開いた。


「なんだあれ……気持ち悪りぃ……」


 俺もサルバと同じく、一番手前にいるゴライアスを見て同じ言葉を吐きそうになってしまった。


「そうきたか」


 俺たちの目に映ったもの、それは――


異形腫瘍体(マリグナント)……」


 城の外から見える通路や監視塔、そこにはエマから聞いていたゴブリンやオークが見えていたのだが、その全員が異形腫瘍体と化していた。

 頭部や腕部、脚部などが肥大化や硬質化したモンスターたちが城中を闊歩している。

 さらに、ゴライアスの足元。

 テントが張られ小さな集落や村のようになっている場所にはミノタウロスやジャイアント、翼のないドラゴンがいるのだが、そちらも見る者全員が変容していた。


「どうやらアスター王から貰った情報は本当だったようだな。クソ面倒くさいことになったぞこりゃ」

「おいおいリオ、何だありゃ! あんなやつら見たこと無いぞ。戦争ってあいつらと戦うのか!?」


 サルバは単眼鏡から目を離し、初めて見た異形腫瘍体に驚きを隠せないでいる。

 そりゃそうか、ただでさえ異形腫瘍体は嫌悪感を抱く見た目をしている。

 それがあんなに集まってたら、端的に言って蠢くグロ画像だ。

 俺は同情しながらサルバに言った。


「ああ、そうだ。嫌になったんなら参加しなくてもいいぞ、お前は無理して戦う必要ないんだからな」

「……何言ってんだ。言ったろ、でかいことしに来たって。むしろ、敵があんだけ気持ち悪いやつらなら、こっちもお構いなしに倒せるってもんだ」


 サルバはそう言うと再び単眼鏡を覗いた。

 どうやら焚き付けてしまったようだが、気合を見せてくれるとこちらとしても少し安心する。

 俺は単眼鏡の使い方をサルバに教えなくてよかったと今思っている。

 なぜなら、帝国軍のモンスターたちのレベルを知ることがないからだ。

 俺はそう思うと単眼鏡の簡易情報表示モードを起動した。

 〈AULA〉での異形腫瘍体はランクAからA+。

 つまり、レベル100から150までしか存在しない。

 ということは……

 俺は適当な雑兵と思われるゴブリンを単眼鏡の中心に捉え、簡易情報を見る。


マリグナントゴブリン・軽度

レベル:120 ランクA

HP15,349/15,349 MP18,461/18,461

エレメントスコア:900


 やっぱり、サルバと同じくらいのステータスがありやがる。

 たしか、サルバは世界に10人しかいない神製合金(オリハルコン)の冒険者なんだよな。

 それと同じかそれ以上のステータスのモンスターが30万……

 はっ、無理ゲーだなこりゃ。

 俺は単眼鏡を動かしながら他の様々なモンスターの簡易情報を見ていく。

 どうもさっき見たゴブリンは弱い部類のようだ。

 見るモンスターを変えるたび、レベル120以上の個体しか出てこない。

 ハハッ、笑っちまうなぁ。

 俺が呆れ気味に笑うとサルバが声を上げた。


「おいリオ、あれ見ろよ! 城の上の方にある広場みたいなとこ!」


 俺はサルバに言われるがまま城の上方を見た。

 するとそこには発着場のようになっている場所があり、一騎だけ異形と化したドラゴンが停泊していた。

 だが、サルバが注目したのはそこではなかったようだ。

 見るとそこにはドラゴンを撫でている一人の人物がいた。

 2mは超えるであろう大柄な体、重厚な鎧に身を包み背中には背丈と同じくらいの大剣を背負っている。

 そして、俺はその人物を特定する重要な特徴を捉えた。

 頭から生やした4本の角、目元にある隈取。

 間違いない、あれはハイオーガ。

 つまりエマから聞いていた帝国軍指揮官、アルクトス将軍だ。

 俺はすかさず将軍のステータスを確認する。

 すると……


「なあリオ。あいつだけ他のモンスターと違ってなんというか、普通じゃないか? なんかおかしいよな……ってリオ、大丈夫か?」


 俺はどんな顔をしていたんだろうか。

 将軍のステータスを見た後、単眼鏡から目を離し色々と考えてしまっていた。

 俺の様子が変だと気付いたサルバがかけてくれた声で俺は冷静になった。

 サルバに気を使わせないように、なるべく平常心で声がけに答えた。


「あ、ああ……俺は大丈夫だ。そういえばお前には言ってなかったな。帝国軍の指揮官はハイオーガのアルクトス将軍ってやつらしい。おそらくアイツがそうだろう」

「マジか!?」


 俺の言葉を聞くやいなやサルバは再び将軍を見直した。

 すると、ルシアが俺に寄り添い、心配そうに俺に声をかけてくれた。


「リオ、大丈夫? なんか変だよ」

「ああ、ありがとうルシア。ちょっとな……でも大丈夫だ。もう平気だから」


 俺は今見た情報が嘘であってほしかった。

 そう思い再び単眼鏡で将軍を見る。

 将軍はさっきと変わらずドラゴンを可愛がるように撫でている。

 俺は再度、簡易情報を確認する。

 ……だが、結果は変わらなかった。

 最初に見た情報と同じものが提示されていた。

 俺は目を離し、大きなため息をすると、その情報を受け入れサルバに言った。


「お前さっき将軍だけ普通に見えるって言ってたよな。その原因がわかった。というか、なんで帝国軍があんなふうになっているかの原因もわかった」

「本当か!? なんだ、なんであんなになっちまってるんだ?」

「それはユスティ城に帰ってから話す。何度も説明するのは面倒だ」

「えぇ……まぁいいや。お楽しみは後にとっておこう。もったいぶってつまらないこと言い出したら承知しねぇぞ」


 サルバは何故か得意げにそう言った。

 俺はその言動に少しだけ気が楽になり、思わず口元が緩んでいた。

 そんなことを言い合っていると、俺はすっかり平常心に戻りやるべきことを思い出す。

 敵の戦力確認は済んだ。

 あとは……


「あの城の中を確認しておきたいな」

「よっしゃ潜入だな! なら俺にやらせてくれ。こう見えても俺は潜入クエストで失敗したことないんだ」


 えぇ……本当かよ……

 俺はそう思いながらサルバの挙手を却下した。


「駄目だ。いくらお前が潜入得意だと言っても、今回は駄目だ」

「なんでだよ! そこまで強く言うんなら、なんか理由があるんだろうな!」

「ああ、理由はある。まずはアレだ」


 そう言うと俺はゴライアスを指さした。

 サルバは指先をた辿って同じくゴライアスを見たが、わけがわからないといった感じでボケっとした顔をして首を傾げた。


「ゴライアスには近づくものを拒むバリアが全方位に張られている。これは目に見えないもので人もモンスターも、更には攻撃も通さない」

「はあ!? なんだそりゃ……って、じゃあやつらはどうやって城の中に出入りしてるんだよ」


 お、流石に気がつくか。

 俺は単眼鏡でゴライアスの足元に広がっているテント群を見た。

 するとちょうど見張りか何かの交代なのか、城の中から来た者と外の者が入れ替わる場面を見ることができた。


「ちょうどいい、サルバあれを見ろ」

「んぇ? なんだよ、ただ交代してるとこだろ」

「そうだが、見るところはそこじゃない。奴らの胸元に何か付いてないか?」

「あ? そういえばなんかバッジみたいなの付けてるな」

「そう、それだ」


 俺がそう言うとサルバは頭上に疑問符を浮かべ、アホみたいな顔で俺の方を向いた。


「やつらはあのバッジを身に付けているからこそバリアを通り抜けられる。あのバッジはゴライアスの体から取れる素材でできている物だ。つまり――」

「つまりあのバッジがないと潜入はできないって話か!」


 サルバは晴れた表情で俺の言葉を遮り答えを言った。


「そう、その通り。……なんだが」

「ん? なんか問題でもあるのか?」

「ああ、あのバッジを手に入れるためにはゴライアス付近に展開しているやつらから奪うしかない」

「え、でもあいつらかなり密集してるぞ」

「そう、そこなんだよ」


 俺は眉間に指を当て頭を抱えると、現状を再確認する。


「ゴライアスの足元に展開している奴らはかなりバリアに近い位置にいる。アスター王から聞いた話だと帝国軍のやつらはあの場所から動いていないそうだから、バッジを持っているやつらはあそこにしかいない」

「ってことは、あそこにいるやつらから奪うってことか?」

「いやそれはリスクが高すぎる。バッジを奪うのに失敗したらテント周りのやつらに気づかれるだけでなく、城にいるやつらにもすぐ通達が行くだろう」

「じゃあどうすんだよ」


 それが問題なんだよ。

 〈AULA〉の時は、ゴライアスが出現する際は必ず近隣の村や町が襲われて、襲っているモンスターからバッジが確保できたんだ。

 だが今回はそういったことが起きていないらしい。

 本来は入るための鍵を持ってきてくれるやつらがゴライアスの近くで動かない。

 ゲームならバグ報告まっしぐらの案件だ。

 しかも、バッジは制作方法がわからないからゴライアスの素材がいくらあっても作れないときてる。

 さて、どうしたもんか。

 俺が唸りながら単眼鏡でゴライアスの周りを確認していると、突然レンズに大きな瞳が映った。

 俺は慌てて目を離すと、そこには単眼鏡の反対側から覗くルシアがいた。


「あのバリアが邪魔なら私がぶっ壊しちゃおっか?」

「いや、それじゃ駄目なんだよ。そんなことしたら今すぐ戦争になっちまうだろうが」

「ぶぅ~、面倒くさい」


 頬を膨らませて拗ねるルシア。

 仕方ないだろう、今ここで戦争を起こすわけにはいかない。

 まだ何の準備も整ってないんだからな。

 まあ、潜入とかするような性格じゃないのはわかっていたが。

 俺はルシアの性格を思いながら単眼鏡を覗いて、何か潜入の糸口はないかと考えながらゴライアスの背に乗った城をくまなく見ていた。


「なんか、なんか手段は……ん?」


 俺は城をくまなく見ていると、城の頂上にある巨大な樹に巣を構えている鳥型モンスターを見つけた。

 〈AULA〉にはいなかったモンスターだな。

 そのモンスターは巣から飛び立つとテントが設置してある場所よりも遠くまで飛び、小型のモンスターを捕まえては巣に持ち帰っている。

 すると巣の中から雛が頭を出し親に餌をねだるように口を開く。

 鳥型モンスターはかなりの数飛んでおり、それに伴い巣の数もかなりあった。

 俺はサルバに見ていた鳥型モンスターのことを聞いてみた。


「なあサルバ、あの飛んでるモンスターってなんだ?」

「え? ああ、ありゃシルバーイーグルだな。標高の高い山頂とかに生息してるモンスターだよ。自分より小さな獲物しか狙わないから人は襲わないし、やつらの排泄物には植物の成長を促す特殊な効果があるんで、よく捕獲クエストの対象になってるやつらだ」

「自分より小さなモンスターしか狙わない……」


 俺はそれを聞き、いいことを思いついた。


「サルバ、ありがとう。おかげで潜入方法が思いついたぜ」

「なに、本当かよ!?」

「ああ、お前がいいこと言ってくれたおかげだ」

「俺の言ったこと? ……どれだ」


 サルバは腕を組み考え込んでしまった。

 さすがに話を聞いてほしいのでやめるように言うと、俺はさっそく思いついた方法をサルバとルシアに話した。

 上手くいけば城の構造が全部わかる。

 さっそく俺たちは潜入のための準備をし始めた。

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