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異世界英雄と22の召喚獣  作者: 十回十
Episode:1 黎明のコルアンディ
24/40

魔剣竜

 空に広がる黒い魔法陣、その中から現れたのは血のように赤い目をした、ユスティ城と同じくらい巨大なドラゴンだった。

 一見ドラゴンとわかるフォルムが見えたのでただの大型モンスターかと思ったのだが、俺の考えはどうやら甘かったようだ。

 出現したドラゴンには二対の翼があり、蛇のように細い体には無数の黒い宝石がはめられている。

 そして、極めつけは……そのドラゴンの頭部には巨大な剣のような角が生えていた。


 「おいおい、マジかよ……!」


 俺はあのドラゴンを知っている。

 あれは〈AULA〉でもプレイヤーに持て囃されていたレイドボス。

 伝説の武器の名を冠する竜、魔剣竜ダインスレイフだ。

 俺は一般人が逃げられたか確認するため闘技場内を見渡す。

 パンドラとシラユキのおかげでデモンゴーレムは全滅していたが、観客の避難にはまだ時間がかかっているようだ。

 こんなところであいつと戦うわけにはいかないな、どこか街から離れないと。

 俺がそう考えながらダインスレイフの方を見ると、出現してから悠々と空を漂っていたやつと目が合ってしまった。


「っ!? やっべーかも……」


 俺の勘は見事に当たり、ダインスレイフは俺の方を見て空が割れるかと思うほどの咆哮をした。

 ああ、コレはマズイな。

 驚きのあまり取り乱すラルフをなだめながら、俺はクロロスに念話を試みる。


〔おい、クロロス。聞こえるか?〕

〔……我が主……何用か……〕


 よかった、ルシア以外とも使えるようだ。

 俺はダインスレイフを見据えながらクロロスの状況を確認する。


〔そっちの状況はどうだ? ソフィアたちは安全なところまで護衛できたか?〕

〔はい……誰一人として欠けること無く……王城までお護りいたしました〕

〔よっし、んじゃあ俺のところまで戻ってきてくれ急いでな!〕

〔……御意〕


 俺がクロロスと連絡を取り終わるとパンドラとシラユキが俺の元へ駆け付けた。


「ぬ、主様、何じゃあれは!?」

「細かいことは割愛するけど、あいつはどうやら俺に用があるらしい。みんな一旦戻ってくれ、ありがと」

「ぐぬぬ……わかった。主様、気をつけるのじゃぞ!」

「旦那様、どうかご無事で」


 そう言うと二人と一匹はアルバドムスに戻っていった。

 さてと、〈AULA〉の時のあいつの最初の行動パターンは咆哮して、しばらく旋回してからの突進のはずだが……

 俺が思い出しながらダインスレイフを見ると、やつは俺の予想を悪い意味で超えてきた。

 ダインスレイフの体にはめ込まれた黒い宝石が、尾の方から徐々に赤く発光してきているのだ。

 やばい!? あれはブレスの準備行動だ!

 俺はとっさに召喚獣を呼び出す。


「ヤバっ!? アドベント、スピリットカーバンクル・レーミー!」


 俺は左手から白と黒の魔法陣を展開し、額に宝石を着けたネズミのようなモンスターを召喚する。

 キュキュと鳴くレーミーを右手で掴むと、そのままダインスレイフに向かってレーミーを全力で投げ飛ばした。


「レーミー、ジェムバリア! あいつのブレス跳ね返してやれ!」


 ちょうど俺が投げ飛ばしたタイミングでダインスレイフが大口を開け赤黒いレーザーのようなブレスを発射した。

 空中でキュキューと悲鳴を上げていたレーミーは俺の指示とともに勇ましい声を上げ、ダイヤモンド状のバリアを展開し、見事に禍々しい闇の奔流を跳ね返してみせた。

 奴もまさか自分のはなったブレスがそっくりそのまま返ってくるとは思わないだろう。

 俺の想像は当たり、ダインスレイフは跳ね返ってきた自分のブレスをもろに食らった。

 すると、跳ね返した反動でレーミーが俺のもとまで帰ってきた。


「ああ、痛い痛い、悪かったって」


 バリアを張ったことで額の宝石の輝きを失ったレーミーが、キャッチした俺の顔をポコポコと叩く。

 まあ、本当はあまり痛くないんだけど。

 こんなことをしている場合ではないと俺が思い返すと、先ほどよりも鋭い咆哮が俺の思考を戻す。

 ダインスレイフは俺のことを完全に敵として認識し、狙いを定めたようだ。

 その証拠に奴の剣のような角から赤いオーラが放出し、その切っ先をこちらに向けている。

 俺はレーミーを肩に乗せるとウィンクルムを持ち直し詠唱を始める。


Animae(アニマエ) dimidium(ディーミディウム) meae(メアエ).――《盟友召喚》マルコシアス!!」


 ウィンクルムの切っ先に現れた半透明な魔法陣から狼の姿でルシアが姿を表す。


「ウオォォーーーン!! やっと出番だ!」


 俺は喜ぶルシアの背に乗り飛び立つよう指示をする。


「ルシア、奴は今完全に俺のことを狙ってる。街中じゃまともに戦えないからあいつを連れてできるだけ遠くに行くぞ!」

「わかった! しっかり捕まってて!」


 俺とレーミーを乗せてあっという間にダインスレイフと同じ高度まで上昇するルシア。

 奴は空中にいる俺たちに向かって標的を定め突撃の準備行動をし始めた。

 二対の翼から赤い粒子を放出し、まるでジェット機のように速度を急激に上げ突っ込んでくる。

 ルシアはそれを背にし、闘技場上空から輝きの大地方向へ上昇しながら飛んでいく。

 俺は後ろを向きダインスレイフの簡易情報を確認する。


ダインスレイフ

レベル:150 ランク:A+

HP907,386/1,022,067 MP884,018/889,237

エレメントスコア:4500


 情報を確認した俺はダインスレイフの注目度(ヘイト)を俺から離さないため白と緑の魔法陣を展開する。


「こっちだよ間抜けぇ! ジャッジメント!」


 魔法陣からやつに向かって7つの光刃を飛ばし、俺は光刃が着弾するのを見ると再度ダインスレイフの簡易情報を確認しHPの減り具合を見た。


HP907,386/1,022,067


 ……ん?

 何かの見間違いだろうか、俺は目をこすり再度確認する


HP907,467/1,022,067


「なんで減ってねぇんだよ!」


 いや、それどころかHPの自然回復が始まってしまっている。

 ダインスレイフが持て囃されていた理由、それは属性耐性値が全て50ありどんな属性の魔法攻撃ダメージも半減させてしまう防御性能と、ダメージを与えた分だけHPを回復し自身を強化するとかいう壊れた性能があるからだ。

 いくら半減する耐性値があったからと言っても、俺が今使った光と風の複合魔法によるダメージが入っていないのはおかしい。

 俺は雲を抜けかなり上空まで行ったことを確認するとルシアに指示を出す。


「ルシア、奴の突撃をかわして体に近づいてくれ。俺が攻撃をしてもそのまま飛び続けてくれ!」

「はいよ!」

「よし、エネルゲイア! リインフォース・ストレングス!」


 俺は半透明の魔法陣を展開し能力強化の魔法とポケットに入った装飾品の効果を発動し、できうるだけ物理攻撃力を上昇させる。

 ルシアは急激に速度を落としダインスレイフの攻撃を華麗にかわすと、奴の体に手が届きそうな距離まで近づく。

 俺はそこまで来るとルシアから飛び移りマギアエンチャントを解除し連続で技を繰り出した。


「フェリスホイール! カラミティドライブ! ライドバックデルタ!」


 体ごと捻りながらの連続回転斬撃から強烈な斬撃につなぎ、ダインスレイフの体を中心に三角形の軌跡を描きながら切り刻んだ。


「ギャァァァァアアアア!!」


 切り裂かれた痛みからかダインスレイフの叫び声が鳴り響く。

 俺はライドバックデルタの効果でルシアの背中に瞬間移動した。

 俺は苦しそうにしているダインスレイフのHPを確認する。


HP68,376/1,022,067


 さすがにレベル差があるのでかなりダメージを与えられた。

 俺が使える技の中で一番ダメージを稼げるコンボでそこまで削れれば問題ない。

 連続で削れれば倒せる、俺はそう思い再度ルシアに接近するよう指示を出そうとしたその瞬間――

ダインスレイフは俺の知らない攻撃をしてきた。


「ガァァァァアアアアア!!」

「うおっ!? ま、マジかよ!」

「うわぁぁああああ!?」


 ダインスレイブは先ほど吐いたブレスを再び吐き、体を捻り回転しながら全方位に攻撃してきた。

 ルシアはその攻撃をかわそうと俺を振り落とさんばかりに激しく飛び回る。

 そして、攻撃がやんだと思ったらやつは自身の目の前にブレスで限界まで膨れ上がった風船のように球を作ると、その中に突っ込んでいった。

 すると、そこから赤黒い闇を纏ったダインスレイブが現れ、先ほどとは比べ物にならない速度で俺たちに突っ込んできた。


「なっ!?」


 ルシアもその姿を見て回避しようとしたが、急に速度を上げたダインスレイフに反応しきれず俺たちは奴の攻撃をまともに食らってしまった。

 くっそ……痛え……

 視界の左端に見える自分のHPが一気に半分ほど持っていかれた。

 レベル差があってもレイドボスか、まさか一撃でここまで持ってくなんてな……

 俺とルシアは攻撃によって吹き飛ばされ、雲よりも高い位置から落下してしまっている。

 遠くにいるルシアを見ると状態異常の気絶を貰っており行動ができないまま落下している。

 この高さから地面に叩きつけられたら〈AULA〉じゃなくても死んじまうぞ。

 俺が今まで感じたことのない浮遊感に踊らされ、思うように体勢を定められずにいるとダインスレイフが再び俺目掛けて突っ込もうとしているのがチラと見えた。

 ヤバイヤバイ、またあれを食らったら次は……

 俺の脳裏に死という言葉がよぎる。

 くそったれが! 早くこの状況をなんとかしないと!

 俺が額に汗をかき、思考が止まりかけたその時――


「キュキュ! キュキューッ!!」


 俺の耳元でレーミーが大声を出した。

 俺ははっとして肩にしがみついているレーミーのことを見ると、額の宝石が輝きを取り戻している。

 さきほど使用してから時間が経ち、再びジェムバリアが使用できるようになった証だ。


「ありがとな、レーミー……なんとかしてみるさ!」


 俺はそれを見ると冷静さをなんとか取り戻し、この状況を打破するため動く。

 とはいっても思いついたのは成功するかどうか怪しい方法だ。

 だが、これしかない。

 俺はレーミーを掴みダインスレイフに向ける。

 そしてやつが突っ込んできたタイミングでレーミーに指示する。


「レーミー! ジェムバリア!」

「キューキュー!!」


 俺達の前に現れるダイヤモンド状のバリア。

 それはダインスレイフの突撃を防ぎ、逆にダメージを与えた。

 ダメージによりのけぞり、同時に纏っていた闇が霧散するダインスレイフ。

 そして俺は気絶しているルシアに念話を試みる。


〔ルシア! いつまで寝てるんだ! 頼む起きてくれ!!〕


 俺は何度も繰り返しルシアに叫ぶ。

 だが、ルシアは目を覚ます気配がない。

 俺は雲を抜け地面が見えて来たのに気づき、喉が潰れる勢いでルシアに叫んだ。


「〔あいつに勝ったらキスしてやるから! だから早く起きてくれ!!〕」


 俺がそう叫ぶとダインスレイフが態勢を立て直し再び突っ込んできた。

 ルシア頼む……

 俺が突っ込んでくるダインスレイフを睨みつけると、急に落下の浮遊感がなくなった。

 そして、やつの攻撃を避けられた理由を伝えてくれる声がした。


「大丈夫リオ? 遅くなってゴメン」

「ああ、ルシア。よかった……」


 俺はルシアの背に乗せられていることが分かると、安堵からため息をついてしまう。

 そして、気を取り直しダインスレイフを見据える。


「さあ、あのクソ野郎にたっぷり仕返ししにいくぞ!」

「おう!」

「キュキュ!」


 俺たちはダインスレイフにリベンジをするため、やつに向けて飛んでいった。

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