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異世界英雄と22の召喚獣  作者: 十回十
Episode:1 黎明のコルアンディ
23/40

白桔梗と黒騎士

 司会者席の隣に用意された王族専用席。

 ソフィアとイリスが2人の試合を見ていると突然黒い雨が降り出し、地面から見たこともない人型のモンスターが現れた。

 警護にあたっていた兵士が鞭のようにしなるモンスターの腕や足の攻撃を受け、いとも簡単に倒されていく。

 幸い死んではおらず怪我をしているだけのようだが、それを見たソフィアは驚きと恐怖で腰を抜かしてしまった。

 動けないソフィアを守るように兵士に混ざってエマは槍で、イリスは剣で戦っている。

 しかしモンスターは攻撃を受けると受けたところから分裂し、その数を増やしていった。

 イリスや他の兵士が魔法を唱えるが一瞬動きが止まるだけで倒すまではいかず、倒しきれないモンスターにどんどん退路を絶たれ周りを囲まれてしまった。


(もうダメ……誰か……助けて……)


 モンスターが一斉に襲いかかって来た瞬間、ソフィアは思わず目を瞑り祈った。

 すると……


「ア゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛!?」


 突然、モンスターの苦しそうな声が聞こえてきた。

 ソフィアは恐る恐る目を開くと、そこには光の奔流によって消滅していっているモンスターたちの姿があった。

 モンスターに襲われていた者たちも光に飲まれていたが、体に何の影響もなくモンスターだけが消えていった。


「この光……まさか!?」


 光の奔流が収まるとイリスが慌てた様子で闘技場内を見た。

 ソフィアはイリスの慌てた様子が気になり視線を追うと、そこにはリオに抱えられてぐったりとしているゼノンの姿があった。


「お兄様!」


 その状況を見てソフィアは理解した。

 さきほど自分たちを救った光は聖剣フィーニスのものだったのだ。

 ソフィアは抱えられたゼノンが心配で目が離せないでいると、ふいに後ろから怒号にも似たエマの声が聞こえてきた。


「危ないソフィー!」

「え?」


 ソフィアが振り向くと、そこにはモンスターの攻撃から身を挺して庇うエマの姿があった。

 モンスターは先ほどまでとは違い腕を鋭い刃のように変化させ、エマの鎧を切り裂く。

 倒れかかってくるエマをとっさに抱きとめると、ソフィアは自分の手に温かいものを感じた。

 彼女が自らの手を恐る恐る見るとそこには鮮やかな血が付いており、その光景に戦慄し言葉も出せないほど怯えてしまった。


「ソフィアしっかりしなさい! はやくエマに回復魔法を!」

「……は、はい!」


 イリスがモンスターの攻撃を剣で受け止め、ソフィアを正気に戻させるために声を荒げる。

 その声に我を取り戻したソフィアは慌てながらもエマに回復魔法を放つ。


「エクストラヒール! リジェネレイション!」


 ソフィアは自分の魔力残量のことなど考えずにエマに回復魔法をかけた。

 すると出血が止まり徐々に傷口が塞がっていくのが見てとれる。

 エマを攻撃したモンスターたちはどうやら消滅させられたあと再び出現したようだった。

 黒い雨が地面に当たったそばから新たなモンスターが湧き出ている。

 イリスや兵士たちがなんとか食い止めているがモンスターたちの攻撃が激しくそう長く保ちそうになかった。

 ソフィアは回復に大量の魔力を一気に消費したせいか、それとも恐怖のせいか定かではないがエマを抱えたまま動くことができなかった。


「ソフィア! エマを連れてあなただけでも逃げなさい、ここは私たちが食い止めるから!」

「そ、そんな……お姉さまはどうするのですか!」

「いいから! このままでは全員死んでしまうわ!」


(それじゃお姉さまが死んでしまう、そんなのは嫌だ!)


 ソフィアがイリスにそう言われ反論しようとしたその時――


ヒヒーンッ!!


 2人の頭上を何か黒いものが通り過ぎ、それと同時に力強い馬の嘶きが聞こえてきた。

 そしてそれはソフィアたちに襲いかかるモンスターを着地と同時に倒しその姿が露わになった。

 尖ったデザインの黒い鎧を全身に着込み、右手に長大な馬上槍を構えた人だった。

 だが普通の人間ではありえないことに、その下半身は馬の体をしていた。

 人間の上半身に馬の体を持つ生き物、ケンタウロスだ。

 黒い鎧のケンタウロスは暗闇の中をほのかに照らすような青い目を兜から覗かせソフィアたちに告げてきた。


「我が名はクロロス……話が主、リオの命により……貴殿らをお守りする……一刻も早く、この場より去ろうぞ」

「ま、待って。ゼノン王子を助けに行かないと! それに他の観客たちはどうするの?」


 イリスお姉さまがそう言うと、クロロスは左手に抱えていたものを見せる。


「王子は……ここに」

「お兄様!」


 抱えていたのは先ほど倒れ込んでいたゼノンだった。

 クロロスは全身鎧を着た王子をまるで赤子でも持つように軽々しく持ち、こうした話している間に襲いかかってきたモンスターも右手の槍の一振りでいとも簡単に倒していた。


「他の民のことは……案ずるな……他の者が……あたっている」

「それってどういう」


 イリスがそう聞くと周りからモンスターの悲鳴が聞こえてきた。

 その声は闘技場中のいたるところから悲痛な叫び声が響き渡り、そして消えていく。


「始まったようだ……」


 クロロスが静かに言うとソフィアたちは周りを確認した。


「こ、これは……」


 彼女たちの視線の先では想像以上の事が起こっていた。



◆◇◆◇◆◇



「よし、いいぞ。その調子で頼む!」

「主様の頼みとあれば是非もない、ワシの全力をみせてやろうかの!」

「うふふ、愛しい旦那様に喜んで頂けるのであれば、これくらい容易いことです」


 ……なんだか今、旦那様とか言われた気がするけど気にしないでおこう。

 俺は白い着物姿の女性、シラユキを見ながらそう思った。

 彼女は姿こそ人だが人間ではない、その証拠に膝から下には八重咲きの桔梗が咲いている。

 彼女はアルラウネ、植物の精霊だ。

 シラユキは両手を広げると周りの状況を把握するためのスキルを発動する。


「マルチサーチ……情報共有」

「了解じゃ、ほれいくぞ! トリップトラップ!」


 シラユキのマルチサーチで闘技場をすっぽりと覆う広範囲を探知し、範囲内のデモンゴーレムの位置と状態を確認。

 情報共有してパンドラがトリップトラップでデモンゴーレム全員に罠をけしかける。

 〈AULA〉のときもやっていた広域殲滅用のコンボだ。

 これを繰り返している間はデモンゴーレムが新たに出現しても即殺することができる。

 俺は観客席の方を確認すると一般人を襲おうとしていたデモンゴーレムが皆地面から出現した棘に串刺しにされたり、空から墓石が降ってきたり、鉄の棺に吸引されて出てこなかったり、三角木馬の餌食になったり……

 てかなんか三角木馬って前も出してたよな、もしかしてパンドラってあれが好きなのか?

 三角木馬がデモンゴーレムの股を引き裂き体を真っ二つにしているところを見てると、若干こっちまで痛くなってくるんだが、やめろと言うわけにもいかないしな……

 俺は見て見ぬ振りをすることにし、デモンゴーレムを発生させていると思われる魔法陣の対処に入った。


「あの魔法陣がきっと原因だよな……となると」


 地面を手で触り先ほどまで光を放っていた魔法陣がそこにあったことを確認する。

 俺は左手に白い魔法陣を展開しウィンクルムに這わせた。


「マギアエンチャント・パージディスペル!」


 ウィンクルムの刀身は白く輝きあたりを照らし始める。

 そして俺は地面に向かって技を繰り出した。


「はぁぁああ! カラミティドライブ!」


 ウィンクルムで斬りつけると、その余波で地面が揺れる。

 そして、先ほどまで光っていた魔法陣が再度出現し、一撃加えられたところからひび割れ、ガラスが砕け散るように魔法陣は粉々に砕かれ消滅した。

 すると、闘技場を覆っていた暗雲はたちどころに消え去り、元の快晴が顔をのぞかせた。


「よし、これでデモンゴーレムが追加で湧くことはないはずだ。パンドラ、シラユキもうひと踏ん張りだ、頼む!」

「ホイホイ、任せておれ」

「お任せください旦那様。お掃除はすぐできますからね」


 ふぅ、これで一安心かな。

 俺は召喚獣の二人が残っていてくれて本当に良かったと心の底から感謝していた。

 すると、空からラルフの鳴き声が響いてきた。


「ラルフ! 見つけたか?」


 俺がそう聞くとラルフは俺たちの近くまで飛んできて空中で頷いた。

 そうか、見つかったのか。

 そんじゃ、仕返しに行くとしますか!

 俺はラルフに道案内をさせその後を全速力でついて行った。



◆◇◆◇◆◇



 闘技場観客席、その一番高い位置にある席に目には見えない何者かが座っていた。

 その何者かはデモンゴーレムによる事態の収束を確認すると立ち上がりその場をさろうとしていた。


「近くにいるとは思ってたが、まさか観客席にいたとはな」


 透明な何かは自分の進路を塞ぐように立ちはだかった人物に驚愕し、思わず声を出しそうになるが、今自分は誰にも見えていないはずだと言うことを自分の体を見回し確認する。

 そして自分に話しかけてきたのが王子と戦っていた英雄だということに気が付いた。


「見つけたぜ、犯人さんよぉ! そんなちゃちな透明化魔法なんざ使っても、ラルフの目はごまかせねぇぞ! オラァ!」

「……!?」


 何者かはリオの白く輝くウィンクルムの斬撃をくらいそうになったが、間一髪回避に成功し衣服の一部を切り裂かれただけで済んだ。

 だが、その影響からか自身にかかっていた透明化の魔法が解除されてしまい驚愕していた。


「貴様……その剣一体どうなって」

「ふっ、俺のウィンクルムには今、魔法を打ち消す魔法が付与されている。お前の魔法なんてないも同然ってわけだ」


 姿を表した黒いローブ姿の人物は低めの情勢の声でリオに問いかけてきた。

 そしてリオの説明を聞くと振り返り逃げようとする。

 だがそれは空中にいたラルフによって妨げられた。


「っ!? あれは飛竜!?」


 女は空中から目の前を急に雷で攻撃され怯んでしまった。

 ラルフはそのまま女に近づき、両足で女の肩を掴み逃げられないように足を浮かすまで上昇する。


「観念するんだな、お前はもう逃げられない」

「……ふっ、それはどうかな」


 ラルフに捕らえられた女にリオがウィンクルムの切っ先を向けたその時、女の姿が忽然と消えた。


「なっ!?」


 俺が辺りを見渡すが女の姿はどこにもない。

 ラルフも驚き女を探しているがリオと同じく見つけられていないようだ。

 するとどこからともなく女の声が響く。


「今日は面白いものを見せてもらった。その礼と言ってはなんだが、コレ受け取ってくれ……きっと仲良くなれるよ。ハッハッハッハッ!」


 女の声が鳴り止むと、突然地面が揺れリオは体制を崩しそうになる。

 そして、闘技場の建物にヒビが入り空に複雑な黒い魔法陣が展開される。


「今度は何だってんだ!」


 リオが叫び空を見上げると、魔法陣から巨大な黒い翼が現れ街に影を作る。

 そしてその全容が露わになるとそれは……

 血のように赤い目をした巨大なドラゴンだった。

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