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異世界英雄と22の召喚獣  作者: 十回十
Episode:1 黎明のコルアンディ
21/40

英雄vs王子

 コルアンディ王国、王都にある国内屈指の巨大闘技場。

 これから執り行われる俺と王子の試合を見るために、大勢の国民が巨大な闘技場の観客席を埋め尽くす勢いで観戦しに来ていた。

 昼飯をユスティ城で済ました俺はその観客の数を目の当たりにすると、出場者の待合室に入りエントリーコールを今か今かと待っていた。

 闘技場内につながる出入り口から聞こえてくる騒音にも近い歓声。

 なんで……こんなに……

 俺はそんなことを考えながら外を睨んだ。


「ふぅ、まったくすごい数だな。一体どこからこんなに湧いて出てきたんだか」


 前屈みになり肘で体を支えるよう椅子に座る俺に声をかけてくるサルバ。

 どうやら外に行けない俺の代わりに場内がどうなっているのか伝えに来たようだ。


「なあ、俺と王子の試合が決まったのって、ほんの4時間くらい前の話だよな」

「ああ、そうだな」

「……なんでこんなに満員御礼状態なんだ? ありえないだろ。なんだ、もしかして俺と王子が戦うのって前から決まってたことなのか?」

「いや、そうじゃないみたいだぜ。さっきこんなの拾った」

「うん?」


 そう言って俺になにかの紙を渡してくるサルバ。

 それは、俺と王子の試合を報じる文面がでかでかと書いてあるチラシのようなものだった。

 えー、なになに……

 闘技場の伝説、ゼノン王子再臨! 腕鳴らしの相手はなんと異世界から来た英雄だ! 相手は本当に異世界から来た者なのか、それを明かしてくれるのは我らが王子! 今回もまた血湧き肉躍る激しい戦いを俺達に見せてくれ!

 とな。

 俺はそれを見た後サルバに聞いた。


「なあ、これって誰が配ってんの?」

「あ~、たぶん闘技場の運営やってるやつらじゃないか? さっき聞いた話だとそれ、王都中にばら撒かれてるらしいし、そんなことすんのそいつらしかいないだろ」


 なるほど、闘技場運営にいいように餌にされてるわけか。

 しかし仕事が速いこと。

 どうやって知ったのか俺と王子が試合をすることを嗅ぎつけて、王都中にばら撒けるだけ大量に刷って、雨のように降らせたわけか。

 ここに書かれている通り、それだけ王子が闘技場の伝説として通ってるわけね。

 俺はサルバに王子のことを聞いてみた。


「なあ、ここに書かれてる伝説ってなんだ?」

「それか? 王子は昔な、闘技場で連続1000人切りを達成した唯一の戦士なんだよ」

「ブッ! せ、1000人斬り!?」

「ああ。聖剣を使わないで魔法銀(ミスリル)の冒険者や闘技場の荒くれ者を相手に連続で確か1012人……だったかな、試合で打ち負かしたんだよ」


 ハァァァァ……初耳なんですけどぉお!?

 聖剣を使わないでもそんだけ強いのかよ。

 サルバがまるで自分のことのように誇らしげに言っているのを見て、俺これからそいつと戦うんだけどなぁ、と思っていた。


「いやぁ、あれはすごかったぜ。なんせ10日連続で挑んでくるやつら全部倒しちまったんだからな!」

「は!? え、なに。その連続って通算記録とかじゃなくてマジで連戦してたのか!?」

「ああ、そうだぜ! だからスゴイんじゃないか!」


なんだそりゃ、どんな持久力だ化け物か。

 ていうか10日連続って、単純計算でも1日で100人倒したってわけか。

 なるほど、そりゃ伝説やら最強やら言われるわけだ。

 となると気になるのは王子に勝ったやつ。

 俺はサルバにそこらへんを聞いた。


「なあ、その時王子を倒したのって誰なんだ? できればその人の戦い方も教えてくれ、王子との試合を有利に進める参考になるからな」

「ああ、いいけど。多分参考にはならないぜ?」

「なんで? なんかそんなに特殊な戦い方だったのか?」


 俺がそう言うとサルバは思い出しながら言った。


「いや、そうじゃなくて。最後は王子が自分から負けを認めたんだよ」

「は? どういうこと」

「王子が最後に戦ったのはさっき会ってたディーン将軍。王子の攻撃を全部防ぎきったもんで、これ以上自分には手がないっつって負けを宣言したんだよ」


 全部防ぐってすごいな、なるほどそういうことか。

 大体わかったが、その戦い方は俺にはできないな……

 俺ができそうにないことを確信し唸っているとサルバが口を開いた。


「な、参考にならないだろ? 決闘の時にお前の動き方を見てたが、お前はどちらかと言うと回避が主体の戦い方だろ。ディーン将軍の真似をしようとしても無理無理」

「そうだな……けどサンキュー。バカみたいな持久力があるって分かっただけでも儲けもんだ。あまり試合を長引かせるとこっちが不利になりそうだなこりゃ」


俺がそこまで言うと闘技場内から俺の名前を呼ぶ声が聞こえ、観客が一層湧き上がるのがわかった。

 そろそろか……

 俺は場内へ向かう間際、サルバに言った。


「帰ってきたらなんかお祝いでもしてくれや。伝説を打ち負かしてくるんだからな」

「バーカ、そんな事するかよ。お前にとっちゃ王子なんて楽勝だろ? できて当たり前のことを祝う趣味はねえ」

「……ふっ、そうかい。そんじゃ行ってくるわ」


 俺はサルバから信頼の眼差しを受け取ると、後ろに手を振り場内へと向かっていった。



◆◇◆◇◆◇



 闘技場内への階段を上り、出口付近で待機する俺。

 すると、観客席の方から何かの魔法を使って大きくした司会の声が聞こえてきた。


「会場にお集まりの皆さん! 今日は突発のイベントにも関わらずお集まりいただきありがとうございます! 今日のイベントマッチは、なんとあの1000人切りを達成した伝説が3年振りにこの地に帰ってきた! 帝国との戦い前の腕鳴らしということで、今日はゼノン王子が参戦だ!」


 司会の声に応えるように会場内がわあっと盛り上がりを見せる。

 そして、司会は俺の紹介をし始めた。


「今日の挑戦者は、伝承にある異世界から召喚された英雄! おいおい、冗談だろって? そんな冷めた声は実力で吹き飛ばしてくれ! 東門からの入場です、英雄リーーオーー!!」


 俺は呼ばれると場内に足を踏み入れる。

すると、真上から照りつける太陽がまるでスポットライトかのように俺のことを照らす。

 俺は部屋から出た時の明暗差で一瞬顔に手で影を作る。

 ワールドカップのサッカーフィールドのように広い、硬い地面に砂が敷き詰められた戦いの舞台。

 周りはそれを取り囲むように全方位に観客席がある。

 俺は手を軽く振りながら中央付近まで歩を進めると、歓声が雨のように降り注いできた。


「そして! 我らが第一王子! 最近デスクワークばかりで体は鈍ってないか? そんな事を言うやつらは全員ぶっ飛ばす! 西門からの入場です、王子ゼーーノーーン!!」


 司会がそう言うと、俺が入ってきたのと反対側の出入り口から身の丈とほぼ同じ大きさの大剣を背負い、鎧を着込んだゼノン王子が現れた。

 おお、王子は大剣使いか、なんかアンディを思い出すな。

 俺が〈AULA〉でよく大剣を使っていた友人のことを思い出していると、中央付近まで来たゼノン王子が俺に話しかけてきた。


「はっはっは! どうだこの観客の数! 貴様がサルバ殿と決闘した時とは比べ物にならない目の数だろう! これで決闘の時のありえない回避、イカサマは使えんぞ!」


 こいつ、俺とサルバの決闘を知っている? どうやって知ったんだ。

 それに、こんなに観客のことを言うってことは、闘技場運営に情報をやったのはこいつか。

それにしても回避? イカサマ? ……ああ、サルバに間合いを詰めたやつのことを言ってるのか。

 別にイカサマでもなんでもないんだけどな。

 俺はそう思うと少し頭を掻いてからゼノン王子を見据える。


「どう思おうが勝手だが、人の目を増やしたところで俺は弱くはならないぞ。ま、集まってくれた皆様のためにも俺の勝つところを見せないとな」


 俺はそう言って大剣ウィンクルムを取り出し王子に切っ先を向けて構える。

 すると王子も体験を抜き構えて言ってきた


「ほざけ! 勝つのは俺だ! 民を、この国を……家族を守るのは俺だ!」


 お互いに武器を構え睨み合うと司会からの掛け声が聞こえてきた。


「それでは、一対一の真剣勝負! 開始ぃぃいい!!」


 俺はその掛け声がかかると王子が動くよりも先に……

 後ろに飛び退き王子との距離を取った。


「なっ!?」


 俺が大剣を構えていたので近づくと思っていたのだろうが、そんな化け物じみた持久力と魔法銀程度ならほぼ一撃で倒せるであろう怪力と最初から切り合うつもりはない。

 俺の行動に驚き動きが遅れた王子に、飛び退きながら左手を光らせマナショットをマシンガンのように連射し食らわせてやった。

 とっさに俺の攻撃を大剣でガードし、後ろにほんの少しだけ後ずさる王子。


「う、うぉぉおお! 卑怯な!」


 うるせー、これが俺の戦い方なんだよ。

 改めて王子を睨み簡易情報を確認する。


ゼノン・ティール・ゾンバルト・フォン・コルアンディ

レベル:100 職業:重剣士

HP31,104/31,357 MP20,901/20,901

エレメントスコア:1800


 ……金属鎧を装備してる割にはエレメントスコアがあるな。

 〈AULA〉でいう金属鎧は属性耐性が1も振られていない、完全な対物理特化の防具だ。

 属性耐性が付与された防具か、それとも武器に属性が付いてるか。

 前者は難易度の割に付与できる耐性が低いので、普通は後者だが。

 さて、どっちかな。


「試してやるか、サドンインパクト!」


 俺はマナショットを止め、左手に緑色の魔法陣を出現させるとそこから王子に向かって空気圧の砲弾を発射した。

 砲弾はガードしていた大剣に見事命中し、王子の体が大きく後ろに吹き飛ぶ。


「う、うぉぉああ!?」


 俺はすかさず吹き飛んでいる王子のHPを確認する。


HP28,983/31,357


 確認をすると、吹き飛ばされ倒れたと思われる王子の体を隠すように土煙が上がる。

 ふむ、ガードをしているにしても思ったより削れないな。

 ということは前者か。

 俺がそう思うと、土煙の中から王子が俺にまっすぐ突っ込んできた。


「うぉおおお! 舐めるな! マイティストライク!」


 王子は大剣を真上から振り下ろそうと構える。

 想像以上の速度で接近され大剣による一撃が俺の体を完全に捉える。

 ……だが、俺は次の瞬間王子から離れ、戦闘開始時よりも距離があいた。

 どうやら王子には俺が移動したのが見えたらしい、振りかざす大剣はそのままに俺の方を見た。

 

「んなっ!?」


 驚きの声を上げる王子の大剣は空を斬り裂くのではなく、その場に残された半透明の俺の残像を斬った。

 そして、残像は膨れ上がりその場で小規模な魔力による爆発を起こした。

 驚きを隠せない表情で爆発を受け固まる王子。

 そりゃそうか、この技は結約剣士(ユニオンナイト)しか使えない攻防一体の技。

 今俺が使ったのはサルバ戦でも使ったファントムステップという技。

 これは自身の幻影をその場に残し、短距離転移により回避をするものだ。

 残された幻影は攻撃をされると無属性の魔力爆発を発生させ、爆発に巻き込まれた者をほんの少しだけ拘束状態にする。

 拘束する時間は短いが、次の手を準備するのには十分すぎる時間だ。


「マギアエンチャント・アダマントウォール!」


 俺がそう唱え黄色い魔法陣を刃に這わせると、ガラスのような刀身が黄色く光り、その姿を鋼鉄の分厚い板に変えた。

 金属鎧ってことは打撃に弱いよな。

 俺はまだ拘束から開放されていない王子に向かって特殊な跳躍をする。

 バーストリープ、これはマナショットを食らった相手に付与されるマナサインを目印に、瞬間的に接近と離脱ができる技だ。

 足元に衝撃波を発生させ急速接近する俺、それを目で追う王子。

 俺は自分の攻撃が完全に入ったと思い空中でスキルの名前を叫ぶ。


「カラミティドライブ!」


 ほのかに光を宿し渾身の力で振り下ろされる鉄塊。

 だが、それは王子の体に届く前に硬いものに遮られる。


「ほほお! やるなお前!」

「ぐぁぁああ! 舐めるなと言っただろう!」


 なんと王子は俺の一撃が入る瞬間、拘束状態を強引に解除し大剣で受け止めてみせたのだ。

 俺の攻撃を受け止めると同時に地面に王子の足がわずかにめり込む。

 そして大剣を地面に刺し、俺の攻撃を地面に誘導した。

 王子が柄に力を入れるのに気がついた俺は攻撃を受けるまいと再びバーストリープを使い、今度は王子から距離をとった。

 すると、距離をとった時に発生する衝撃波に負けず、大剣を切り上げる王子。

 距離をとった先で目を光らせながら思わず笑みを浮かべ王子を見ると、汗だくで同じように笑み俺を見返してくる王子。

 なかなかやるな……楽しくなってきた。

 拘束を解くタイミングや俺の攻撃を流してカウンターに繋げる技量。

 こちらに来てから初めてのまともな戦闘に、そして王子の戦いっぷりになんだか嬉しさを感じる。

 俺は〈AULA〉で戦ったプレイヤーたちのことを思い出しては脳内で投影し、楽しさに震えているのを感じていた。

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