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異世界英雄と22の召喚獣  作者: 十回十
Episode:1 黎明のコルアンディ
20/40

準備

 玉座の間でゼノン王子との口論の末、王の提案で試合をすることになった俺。

 あの後すぐ、王子からの指定で試合の場所は王都内の闘技場、開始時刻は13時からとなった。

 俺とサルバは玉座の間を後にするとユスティ城を出ようと城内を歩いていた。


「なあリオ。あんな啖呵切ってよかったのか? 相手はあのゼノン王子だぜ、いくらお前でも分が悪いんじゃないか?」

「なんだサルバ、心配してるのか? お前は昼飯の心配でもしとけ、勝負は俺の勝ちだからな」

「な、なんでだよ。俺は別にビビってなかったじゃないか!」

「いやお前、お手本みたいに綺麗に腰抜かしてたじゃねえか。ちゃんと見てたからな」


 俺がそう言うとサルバは悔しそうな顔を浮かべて拳を握りしめていた。

 気付かれないとでも思っていたのだろうか。

 横目でサルバを見ていると、後ろから俺たちに声をかけてくる女性の声があった。


「そこのお二人さん、ちょいと待ちな。アンタらと少し話がしたい」

「あ~、どなたです……か……?」


 俺がそう言いながら振り返るとサルバも同じく振り返った。

 だが、声がしたと思った方向には誰の影もなく、俺とサルバは互いに顔を合わせ首を傾げた。

 そうしていると、先ほどと同じ声が上から降ってきた。


「なにアホみたいな顔してんのさ、アタシはここだよ」


 その声に誘導されるように二人で天上を見上げると、吊り下げられたシャンデリアに小さな丸っこい影が乗っていることに気がついた


「そうそう、ここだよ。……よっと」


 どこか高齢さを感じさせる穏やかな口調をしたそれは、軽快な身のこなしで俺達の前に降り立った。

 その姿は――


「……ね、猫?」

「失礼なガキだね、アタシゃ立派な精霊だよ」


 いや、どこをどう見ても猫なんですが……

 声の主はまるまると太った四肢の短い猫だった。

 いや、なんかどこかで見た覚えがあるな……なんかニュースで……

 俺は電車の中でなんとなく見ていたニュースを思い出し、目の前にいる精霊(自称)に類似する生き物を思い出した。


「ああ、マヌルネコ!」

「ま、まぬ? アタシの名前はシーマだよ。何かと間違えてるんじゃないのかい?」


 俺はそう言われよく見てみると、不機嫌そうな表情を浮かべるシーマと名乗った猫には体にはいくつかの光る模様のような線が入っており、たしかに少しファンタジーチックな要素が含まれている。

 というか、猫が喋る段階でファンタジーか。

 俺がそんな事を考えていると、大口を開けて固まっていたサルバが俺に注意してきた。


「お前リオ、こんな高位の精霊に失礼だぞ! 申し訳ありませんシーマ様。なにぶんこいつは知らないことが多いもので、どうかご容赦を」


 サルバはシーマの前に跪き頭を垂れた。

 この猫が高位の精霊? でも、サルバを見ると只者ではなさそうだし、一応謝っておくか。


「えぇ……。す、すみません……でした」


 俺もなんだか納得がいかなかったがとりあえず頭を下げて謝った。


「ふむ、そっちの瞬撃の坊やはなかなか弁えているじゃないか。アンタは長生きしそうだね」

「ハハッ、お褒めに預かり光栄です」


 シーマは満足げな表情でサルバにそう言うと、真顔で俺の方を向き本題に入った。


「さて、こんな茶番をしてる暇はないんだよ。アンタら、特に英雄リオと話がしたいってアタシの可愛い子達が言ってるんだ。二人一緒でいいからアタシに付いて来な」

「可愛い子たちって、一体だ――」

「可愛い子たちですか! いいですねぇ! ほら行くぞリオ」

「え、おい、ちょっと!」


 後ろを向き返事を聞かないで行ってしまおうとするシーマに俺が質問をしようとすると、興奮した様子で会話に割って入ってきたサルバに腕を掴まれた。


「なっ!? お前のどこにそんな力があったんだよ! 俺より筋力低いはずだろ!」

「ふっふっふ……リオよ、いいことを教えてやろう。人には数値で測りきれない力があるってことをなあ!」

「こういう時に言う台詞じゃね―だろ!」


 サルバが俺のことを力ずくで連行し、そんなやり取りをしていると、シーマに先導され城の中を進んでいった。



◆◇◆◇◆◇



 シーマに案内された場所、それはユスティ城の敷地内に存在する緑豊かな庭園だった。

 色とりどりの花が咲き、鳥のさえずる声が聞こえる美しい庭、その一角に石造りの屋根付きテラスがあった。

 俺たちが案内されるがままテラスに近づくとそこには4人の人影が見えた。

 俺はサルバに引っ張られながら確認すると、そのうち2人はソフィアとエマだった。

 そして、もう2人はというと……


「ディーン、お砂糖取ってちょうだい。足りないわ」

「イリス嬢、入れ過ぎですぜ。それじゃ直接砂糖食ってる方がマシですよ」

「うるさいわね、今は甘いものが欲しいのよ。帝国との和平はできないわ、弟は英雄にバカなことを言い出すわでイライラしてるんだから」

「あ、あの~、イリスお姉さま」

「なに? ソフィ……あ……」


 そこで見たのは先ほど王の隣に立っていたイリス姫がこれでもかとティーカップに角砂糖を投入している姿と、それをやんわりと止めながらも砂糖の入った容器を差し出している謁見の時に見た神製合金(オリハルコン)認識票(タグ)を持つ男だった。

 俺とサルバが来たことを知らせようとしたソフィアの視線を追うようにイリス姫が俺達を見た。

 すると、数秒言葉を失っていたが何事もなかったように俺たちに挨拶をしてきた。


「ごきげんよう、お二人とも。私は第一王女、イリス・ウィン・レオミュール・フォン・コルアンディ。そしてこちらはディーン・サルダスト将軍。先ほどは愚弟が失礼なことをいたしました。どうかご容赦ください」

「あ、ああ。はい」

「いえいえ、全然気にしていませんから大丈夫ですよ。ハッハッハ」


 イリス姫は先ほど見えていた態度とは打って変わって凛々しい大人のオーラを漂わせ、俺達の前まで来るとスカートの裾をつまみ上げ、お手本のように綺麗なお辞儀をして見せた。

 俺はあまりの変わりぶりに驚きうまく言葉が出なかった。

 仕事とプライベートを分ける人というのは聞いたことがあるが、実際に見るのは初めてだ、すごい変わり様だな。

 そして、その変わりぶりを一緒に見ていたはずのサルバは、いつもと変わらぬ調子で話しかけていた。

 なんというか、流石だよお前は。


「どうぞこちらに。ディーン、お茶を用意して」

「はいはい、少々お待ちを」


 俺たちがソフィアたちの近くに座ると、ディーンと呼ばれた男がテーブルの近くにあった移動台からお茶の支度をして持ってきた。

 目の前に置かれたティーカップに紅茶が注がれているのを見ていると、イリス姫が俺たちに質問してきた。


「……さっきの、見ました?」

「え、ああ。色々と大変なんだなあと思いながら見てたよ」

「そっか、ならもういいかな」


 そう言うとイリス姫は肩の力を抜きリラックスした状態となり、醸し出していたオーラもいつの間にかなくなっていた。


「お互い、気を張らないでお話しましょ」

「おや、いいんですかい? 英雄以外に一般人もいるようですが」

「関係ないわよ、無理に取り繕ってもその分疲れるだけだもの」


 将軍と姫がそんなやり取りをしていると、俺たちをここまで連れてきたシーマがソフィアの膝に乗っかり、頭をテーブルの上に出した。


「ババ様、二人を案内してくれてありがとう」

「なあに他でもないソフィアの頼みとあれば、これぐらいお安い御用さね」


 そう言うとソフィアがシーマの頭を撫でた。

 ……やっぱり飼い猫だな。そうにしか見えん。

 俺がそう思っていると、イリス姫が砂糖を入れているときと同じような口調で話をしてきた。


「さっきはごめんなさいね。うちの弟は時々暴走してしまう時があって、今回も自分が帝国軍との戦いに期待されていないと思い込んであんな事を言ってしまったみたい」

「期待されてない? どういうことだ?」

「実はね、帝国軍が来る少し前から私とソフィアそしてお父様、アスター王から聖剣の使用控えるよう言い渡されていたのよ」

「帝国軍が来る前から、か……」


 俺がそう言うとイリス姫の言葉に続けるようにソフィアが話をし始めた。


「今から二ヶ月前、モンスターの大量発生による大規模な戦闘がありました。戦場となった場所はヘルファイアゲート付近。今帝国軍が駐在している場所に近かったですね」

「モンスターの大量発生か、原因は解ってるのか?」

「いえ、詳しいことはまだ……」


 ソフィアが俯き表情を曇らせると、イリス姫が変わって続けた。


「今思えば、あの時から帝国側の侵略が始まっていたのかもしれないわね。発生してたモンスターはコルアンディではなくスルーフに生息している種類のものばかりだったから」

「確かにそうかもしれないですね。……その時、イリスお姉さまとゼノンお兄様が出陣し聖剣の力を使ってモンスターを殲滅したのですが、そこでゼノンお兄様は突然意識を失い急ぎヘブリッチへ帰還したんです」

「意識を失った?」


 俺がそう言うとイリス姫が質問に答えた。


「ゼノンがモンスターの大群を相手にしている時、私は散らばった少数のモンスターを相手にしていたの。だけど、聖剣の輝きが収束したのを見届けてからゼノンの元へ向かうと、あいつは聖剣を握ったまま全身から血を流して倒れていたのよ」

「は!?」

「全身から!?」


 俺とサルバは驚きのあまり大きな声で反応してしまった。

 全身からっておいおい大怪我じゃねえか。

 しかし、俺は王子が謁見の時に、何の支障もなく。と言っていたのを思い出し、流石におかしいと思い質問した。


「さっき王子は聖剣と一緒に何の支障もなく戦ってきたって言ってたよな? なんかおかしくないか?」

「たしかに、そうだな。一体どういうことなんだ?」

「……ゼノンはへブリッチに帰還して、回復魔法をかけたわけでもないのに急速に回復したわ。三日後には何もなかったように王都へ帰っていったわよ。ただ、その時の戦闘の記憶を失ってね」


 憶えていない? 何だそりゃ。

 まさかそれも聖剣の影響だったりするのか。

 俺とサルバが絶句しているとソフィアが話を続けた。


「お兄様が眠っている間、おかしいと思った私はへブリッチの研究機関にお兄様の身体検査をするように指示を出しました。一般的な身体機能の他に魔力系統の検査も……。結果が出たのは一週間後。私はその結果を見てどうなっているのか訳が分からなくなってしまいました」

「……というと?」


 俺は恐る恐る聞くと、ソフィアは深呼吸をして平静を保ちながら答えた。


「お兄様の体は……全身の骨や筋肉が今にも崩れそうなほどズタズタになっていて、体を流れる魔力もグチャグチャに乱れていたんです」

「これは他言無用にしてほしいんだけど、王都の医者によると今のゼノンは生きているのも不思議な状態だそうよ」

「その頃からゼノン王子は聖剣の使用を制限されてる。まあ、当然だわな。ポンポン使われてまた大怪我したらたまったもんじゃない。だが、今まで聖剣を振るって戦ってきた王子からすれば、それは納得できないことかもな」


 ディーンがそう付け加えるとソフィアが静かに頷いた。

 するとサルバが悲しそうな顔をして言った。


「たしかにそうだな、俺だってギルドに突然武器を押収されてクエストに行くなって言われたらそりゃあ怒るし、理由を言われても全く身に覚えがないから不信感を抱く。王子はそんな状態だったのか」

「信じられるものがない状況か……」


 俺も少し思うところがあったが王子は試合で負けたら今後一切、聖剣を使わないことを約束した。

 王子のことを思えばこそ勝たなければ。

 ……ただ、そんな状態のやつを相手にどう戦うか、なかなか難しいな。

 俺が王子をなるべく無事に負かす方法を考えていると、それを察したのかイリス姫がこう言ってきた。


「今回の試合、ゼノンには聖剣の使用禁止を言ってあるし、この前みたいな状況にはならないと思うけど……どれだけ言ってもわからないあいつの、腕の一本や二本折るくらいの気持ちで挑んでね」

「え!? い、いいのか? だって生きてるのも不思議なくらいだって」

「あいつは昔からこうと言ったら曲げない頑固者なのよ。あなたとの試合だって、きっと勝つことしか考えていないと思う。だからこそ、私達がどれだけ心配してるのかが伝わるくらい思いっきりやってほしいの」

「そうか……わかった。王子にはしばらくベッドと仲良くしてもらうくらいにはやってやるさ!」


 イリス姫の言葉にソフィアやエマ、ディーンは俺を真剣な目で見つめてきた。

 やってやろうじゃねえか。

 俺は四人の思いに応えるように握りこぶしを見せて返事をすると、グゥゥと意気込んだせいか腹の虫が鳴ってしまった。

 その音にソフィアやディーンがクスクスと静かに笑う。

 これは、恥ずかしい……

 俺は熱くなった顔よりも音を出した腹の方を抑え、その場の空気を壊すようサルバに大声で言った。


「おいサルバ、飯食いに行くぞ! 腹が減っては戦はできねぇ! もちろんお前の奢りでなあ!!」

「お前! せっかくいい話してたのにそれかよ! てか俺の奢りかよ!」

「ったりめーだ、コノヤロウ! 勝負の話は忘れてね―からな!」


 俺とサルバが立ち上がり城中に聞こえそうなほど大声で話していると、イリス姫が思わずといった感じで吹き出し、昼食の提案をしてきた。


「それなら城で食べていけばいいわ。満足がいくまで沢山食べていって頂戴」

「ほ、本当ですか! ありがとうございます! ありがとうございます!!」

「あ、こらテメー逃げやがったな! 今日はいいとして違う日に必ず奢ってもらうからな!」


 そんなこんなで俺たちは城で昼食を取ることとなり、王子との勝負に万全の状態で挑む準備をした。

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