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異世界英雄と22の召喚獣  作者: 十回十
Episode:1 黎明のコルアンディ
18/40

ユスティ城

 城下町での歓迎を受けた俺たちはコルアンディの王が住まうユスティ城へとたどり着いた。

 いかにもな洋風建築の巨城に俺は〈AULA〉で見たユスティ城と同じ見た目であることに少しほっとしていた。

 白を基調にした美しい城、装飾のように生えた植物がいっそう城の美しさを際立たせている。

 ゲームの設定でもそうだったが、この美しさはこの城が今まで侵略されたことがないことを表している。

 邪神との戦争で王族が住んでいたもともとの城、トラウィス城は戦場と化してしまい、王は城ごと王都ロージアンを放棄した。

 その後、戦争が終わってから避難した土地に新たに建設されたのがこのユスティ城だ。

 こちらで言うところの500年間、この国は城に傷ひとつつけることなく平和な生活をしてきたということだな。

 俺がそんなことを思っているとソフィアとエマが城門前の衛兵と話をしているのが見えた。

 しばらく話をしていると、ソフィアがこちらに戻ってきた。


「王への謁見ができるのは9時過ぎからです。少し時間がありますから城の中で待ちましょう」

「もしかして、俺も城に入っていいのか?」

「ええ、もちろんです」

「よっしゃ!」


 サルバは嬉しそうにガッツポーズをすると子供のような目で城を見上げた。

 あんまりはしゃいで王の前で変なこと言わないでくれよ。

 と俺も内心ワクワクしながらそんな事を考え、先導するソフィアのあとをついて行った。



◆◇◆◇◆◇



 城の内部へと通された俺達はやけに広い待合室に入ると、エマとソフィアは用があると言って部屋から出ていった。

 俺がソファに座ると、サルバがぎこちなく向かいのソファに座り何かそわそわしている。


「……どうしたサルバ。まさか、ビビってんじゃないだろうな?」

「な!? ば、馬鹿言うんじゃねぇよ。ビビってねぇし……神製合金(オリハルコン)認識票(タグ)貰ったときだってアマツ城で王直々に進呈されたし……」


 ほほぉ、これは完全にビビってますねぇ。

 しかしこいつはアマツ城で神製合金を貰ったのか、結構遠いな。

 アマツ城とは俺が〈AULA〉で最後にいたリィス皇国の王城のことだ。

 リィス皇国は件の帝国と同じウォンディア大陸にある国だが、コルアンディからはやはり海を渡らないと行くことができない。

 サルバは結構色んな所を渡り歩いてるみたいだな、この世界の情報を集める時は聞いてみるのもいいかな。

 あまり鵜呑みにしないように気をつけながらだが……

 俺がそんな事を考えているとサルバが気を散らすように俺に質問してきた。


「そ、そういえばお前、あんなに高価なものホイホイ使っちまってよかったのか? 精製されたマナ結晶ってかなりレアなものだろ」

「え、そうなのか?」

「そうなのかってお前、マナ結晶を精製するなんて並の錬金術師でもかなり難しいじゃないか」

「あー、そうなのか。まあでも精製に使う素材は腐るほど持ってるし……それに俺、錬金の熟練度カンストしてるしなあ」

「カンスト? なんだそれ」


 精製したマナ結晶を作るためにはマナキューブというアイテムが必要なのだが、そのアイテムはボス戦やダンジョンのクリア報酬の中でも参加賞のような扱いをされている。

 おかげでインベントリや倉庫に邪魔になるほど貯まってしまっている。

 錬金の熟練度が上がれば上がるほどマナキューブの使用用途は増えるのだが、色々なアイテムを作るにしても余りあるほどに貯蔵されてしまっているため、10個使おうが100個使おうが問題はない。

……ってかそうか、カンストって言っても通じないのか。

 あぁ、このバカにどう説明すればいいものか。

 俺はそう考えながらなるべくわかりやすく説明をした。


「えっとな……つまり、できうる限界まで錬金術を熟達しているから、並の奴らが困難なことを俺なら容易にできるってことだ」

「そう、要するにリオはスゴイんだよ」


 お前は余計な茶々を入れるなルシア、サルバが混乱したらどうする。

 俺はそう思いながら一瞬ルシアの方を見てからサルバの様子を見ると、奴は腕を組み首を縦に振って理解したようなジェスチャーをしていた。


「なるほど……ん? リオ、お前の職業(クラス)って錬金術師なんだっけ?」

「いや違う、結約剣士(ユニオンナイト)だ」

「……聞いたことない職業だな、それって錬金関係の職業なのか?」

「いや、どちらかと言うと魔法剣士や召喚術師に近い職業だが」

「ん? 並の錬金術師では困難ことが容易くできる魔法剣士や召喚術師に近い職業……んん?」


 あ、やばい。俺の発言で混乱させてしまったらしい。

 あとで俺の職業とかいろいろ説明しておくか。

 俺たちがそんな事を話していると、扉をノックする音が部屋に響いた。


「はい、ぞうぞ」

「失礼します。リオさん、戻りました」

「そ、ソフィア!? その格好は」

「えへへ、似合っているでしょうか?」


 扉を開けたのはエマだったが、その奥からドレスを身に纏ったソフィアが現れた。

 薄い桃色を基調にした可愛らしいドレスで、ソフィアは少し恥ずかしそうに俺達の前に来て全身が見えるようにクルッと回ってみせた。

 その傍らにいるエマは軍人っぽさを残した礼服を来ており、ソフィアのことを見守りながら佇む姿はとても格好良いものだった。


「ああ、二人ともよく似合ってr」

「おお! お二人ともよくお似合いで! まさに地上に降り立った天使と女神! このサルバ、お二人の麗しい姿を見るために生まれてきたのだと今確信しました!」


 こいつ……さっきのビビってた姿を二人に見せてやりたいわ。

 サルバが俺の言葉を遮りソフィアの前に跪くと、その手を取り頭を垂れた。

 その瞬間、何か金属の擦れる音がしたと思うとエマは礼服の腰に携えていた儀礼用と思われる刀を抜き、刀身をサルバに向けていた。


「生きる目的を達したのなら今すぐここで死ぬか? それとも姫の手を離して死刑台に向かうか……どちらか選べ」

「ひ、ヒィっ!? どうか、命だけはお助けを」


 エマのサルバを見る目はあらゆるものを凍てつかせるような鋭い目をしている。

 サルバはすぐさまソフィアの手を離し土下座をすると、その姿勢のまま後ろに下がった。

 おっかねぇ、ありゃあ氷耐性60以上あっても防げないな。

 そんなことをしているとソフィアがエマを止めに入った。


「エマ、私は気にしていないので大丈夫ですよ」

「……姫がそうおっしゃるなら。命拾いしたな瞬撃の」

「い、今の殺気……アンタただのお付きじゃないだろ。一体何者なんだ」

「私はソフィア姫直属の親衛隊隊長だ。姫の身の安全を確保するのはもちろん、貴様のような不埒なゴミを片付けるのも私の使命だ」


 サルバが恐れながらもエマに尋ねると、冷たい口調で言い放たれた。

 なるほど、あの視線は確かに人を殺せそうなほどだ。

 俺がそう思っていると、ソフィアが謁見について話をしてくれた。


「王への謁見はもう少しだけ時間があります。謁見にはゼノン第一王子とイリス第一王女も同席するそうです」

「ゼノン王子、か……」


 昨日から耳にしていた俺以外に幻透鋼(アンオブタニウム)の認識票を持ってる奴か。

 ソフィアの話では幻透鋼は勇者と異世界から来た英雄のために作られたということだが、その王子が今の勇者ってことでいいのかな。

 俺はゼノン王子のことが気になりソフィアに聞いてみた。


「なあ、ソフィア。いろんな奴からゼノン王子が幻透鋼の認識票を持ってるっていうのを聞いたんだが、それって本当なのか? もし本当なら、王子ってまさか勇者なのか?」

「兄、ゼノン王子は確かに幻透鋼を持っています。ですが、歴史上に存在する勇者と同じというわけではありません」


 俺はさらに疑問が湧いてしまい、思わず首を横に傾けてしまった。

 勇者じゃないけど幻透鋼を持ってる、どういうことだ?


「……サルバさんは神製合金の冒険者なので知っているとは思いますが、認識票というのは単に身分証明のための品というわけではないのです」

「そうそう、リオはそんな事も知らないのか?」


 サルバはいつの間にかさっきまで座っていたソファに戻り、自分の認識票を指で遊びながらニヤニヤして俺のことを見ていた。

 うっせ! 俺は昨日来たばかりで知らないことのほうが多いんだよ。

 俺はサルバを一瞬睨むと、ソフィアにできるだけ優しい表情で聞いてみた。


「昨日、ソフィアからは認識票は身分証明に使えるとしか聞いていなかったが、それ以外に何か意味があるのか?」

「はい。認識票に記録された情報は、有事の際にその者に対処できるよう作戦の立案や行動の基準に使われます……ごめんさい。騙すようなことをしてしまって」

「……そういうことか。いや、気にしないでくれ」


 なるほど、認識票にあれだけの情報が入っていたのは登録した奴が敵に回った時、的確に対処できるようにするためなのか。

 たしかに、ロージアンで敵の攻撃に耐えていたアイアスや決闘の時に見せたサルバの銃の腕などはなかなかのものだった。

 それが敵になった時、対処に失敗すると甚大な被害を被るのは目に見えている。

 だからこそ、耐久値や攻撃力などの情報が必要になってくるってわけね。

 そして、認識票の等級が上がれば上がるほど危険人物ってわけだ。

 面白いことしてるじゃねえの。

 冒険者からは憧れの一品だが、見る奴が違えばそれは危険を示す目印ってわけか。

 ということは、ゼノン王子っていうのはまさか……


「今の話からすると、もしかしてゼノン王子っていうのは」

「リオさんの想像しているとおりだと思います……第一王子ゼノン・ティール・ゾンバルト・フォン・コルアンディは勇者の聖剣を扱える者にして、この国最強の戦士です」

「そうきたか。聖剣ねぇ」


 歴史上、邪神ヴァルザを消滅させたという6人。

 そのうちの1人である勇者の武器を扱える……か。

 それは、危険人物としてマークされてもおかしくないわな。

 だが、勇者の武器を扱えるっていうのは一体どういうことなんだろうか。

 俺は元いた世界の知識からてっきり勇者の武器を使える奴は次の勇者だ、みたいな感じかと思ったが違うのか。

 俺は疑問をソフィアにぶつけてみた。


「勇者の武器が扱えるなら、その王子が勇者ってわけじゃないのか?」

「いえ、王子はあくまでも聖剣の力を一部使えるだけで、真の力は発揮できないのです」

「というと?」

「聖剣は己を使うに相応しい者を選びますが、真の勇者が現れない限り鞘から剣を抜くことができる者がその力を限定的に使うことができるのです。そして今は真に勇者と呼べる者が現れておらず、代々聖剣を守ってきた王族の中でも聖剣を抜くことができたゼノン王子が聖剣を所有しています」


 聖剣って言ってもいろいろあるんだな……

 つまり、ゼノン王子はいうなれば仮初の勇者ってことか。

 ソフィアは話を続けた。


「聖剣は勇者が持つと光り輝き、一振りで千の邪悪を切り裂き、万の驚異を滅ぼすと言い伝えられています。ですが、王子にはそこまでのことはできません」

「でも、近しいことはできるってことか」

「はい。10年前、まだ王子が11歳の時に王都近くにモンスターの大群が現れました。ですが王子は聖剣の力を使い一振りで敵を全滅させたのです。それまで王国は度々モンスターの脅威に晒されることがあったのですが、この件以降どんなに強大な敵が襲いかかろうとも、コルアンディを脅かす敵は全て王子が倒してきました」

「俺も10年前の戦いは噂に聞いたことがあるぜ。確か1万くらいの大群を一瞬で滅ぼしたってな」


 サルバがソフィアの言葉に付け加えるように言ってきた。

 なんだか今の話を聞いて、さっき歓迎してきた人達があんな表情をしていたのかわかった気がした。

 モンスターを全滅させてから10年間、王子は聖剣でこの国を守ってきた。

 その事実から人々は今回の戦争も被害なく無事に終えるだろうと、無責任だが王子を信じているのだろう。

 でも、気になることがある。

 そんなに強い奴がいるのに、なぜ俺を呼んだのかがわからない。

 アイアスは俺がいることでこの国を救えそうだと言っていたが、どういうことなのだろうか……

 俺はそんな疑問を抱えソフィアに聞いてみた。


「なあ、ソフィア。どうして俺を呼んだんだ? そんなに強い奴がいるなら俺なしでも帝国に勝てるんじゃ」


 俺がそう聞くと、ソフィアは言いよどみ少し暗い顔をして答えた。


「……実は、王子はもうほとんど聖剣の力が使えないのです」

「え、それってもしかして真の勇者って奴が現れたってことか?」

「違います……さきほど聖剣は真の勇者でないと力を限定的にしか使えないと言いましたが、あれは聖剣が力をそれだけしか貸してくれないというわけではないんです」


 俺はその含みのある言葉を聞いて嫌な予感がして確認した。


「おい、まさか」

「……はい。聖剣の力が十分に使えないのはその者の体が耐えられないから。王子の体には聖剣の力を使う度に力の代償とも言える負荷がかかっているんです。それこそ死ぬかもしれないほどの負荷が」


 なんだそりゃ……

 それじゃまるで命を引き換えに力を与える魔剣じゃないか。

 そんな物を使って国を守ってきただと。

 そんな危険な武器、使う前から何かしらわかっていたんじゃないのか。

 俺は聖剣について聞いてみた。


「聖剣を使う前に、そんな危険な物だってことくらいわかってたんじゃないのか? あと王子の体には何か影響は出ていないのか?」


 ソフィアは俺に真剣な、すがりつくような目で言ってきた。


「過去に聖剣を扱える者はいましたが、これまでは一度だけの使用で済んでいました。ですが近年になってモンスターが活発になりはじめて、生きているうちに複数回聖剣を使用したのはゼノンお兄様が初めてだったんです」

「それで聖剣の悪影響がわからなかったってか」

「その通りです。お兄様の体はもう限界に近い状態で、帝国との戦争にも赴けるかどうか怪しいんです。……ですが、お兄様は帝国を相手に自分が先陣を切って戦うと言っているんです」


 ソフィアは涙目で俺に訴えかけてきた。


「お兄様は世間を知らない成人前の王族だと言って私の言葉を聞いてくれません、ですからリオさんにお兄様を止めてほしいのです。異世界から呼んでおいてとても勝手なお願いだということはわかってますが、どうかお兄様を、ゼノン王子を助けてください!」

「私からもお願い致します。どうかゼノン王子をお救いください!」


 そう言うとソフィアとエマは俺に深々と頭を下げてきた。

 頭を下げる直前、俺に向けられた2人の目は真剣そのものだった。

 また難しいことを言ってくれる。

 ……でも、誰かのために自分を犠牲にしてきた奴が、死に行くのをみすみすほっとくなんてできないな。


「美味い飯……」

「えっ?」

「この国で一番美味い飯。俺が今一番欲しいのはそれだ」

「じゃ、じゃあ!」

「なんとかしてやるよ、王子も戦争も」

「ありがとうございます、リオさん!」


 俺が引き受けるとソフィアはさっきとは違う涙を流し、嬉しそうに言った。

 エマも俺の言葉を聞き安心した様子で微笑んだ。

 さてと、大変そうだがやると決めたからには全力だ。

 まずは謁見の時に同席するっていうゼノン王子から話を聞かなきゃな。

 俺は気を引き締め、謁見の時を待った。

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