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異世界英雄と22の召喚獣  作者: 十回十
Episode:1 黎明のコルアンディ
15/40

決着

 前後左右から俺に向かってくる弾丸。

 かわすために跳び上がったり、弾着すれすれのタイミングで回避すればその隙に奴のクイックドロウが襲ってくる。

 しかもあの光の色は雷属性の属性攻撃か、厄介な……

 雷属性の属性攻撃の多くは超速度で放たれるものが多くほぼ必中する。

 そんなものを奴のクイックドロウの速度で繰り出されたら、さすがの俺でも反応しきれるかわからない。


「だったら……!」


 俺は上でも横でもなく正面から迫りくる弾丸の奥、サルバに向かってまっすぐ駆け出した。

 だが、風属性の属性攻撃である追尾弾は俺のことを追い続けている。


「ハッハー! 弾丸に当たりに行くとは、勝負を捨てたか。拍子抜けだぞ英雄!」


 傍から見たら弾丸に向かって走り出した風に見えているであろう俺にサルバは笑顔でそう言うと、左手の構えを解こうとした。

 そして、すべての弾丸が一点に集まり、ギャラリーが一斉にサルバの勝利を告げる場面に注目したその瞬間――

 俺はサルバの目の前にいた。


「かわしてやったぞ、クソ野郎」

「なっ!?」


 サルバが驚いたと同時にさっきまで俺がいた場所で小規模な爆発が起きる。

 俺はそんなことなど気にせずサルバを睨みつける。

 突然、目の前に現れた俺に驚きながらもサルバは左の銃を構え俺に撃ってきた。

 俺はウィンクルムを盾にし、放たれた弾丸を刀身で受け止めると、雷を纏った弾丸は止まった時点で砕け散った。

 俺はそのままの流れでウィンクルムを鞘にしまい、サルバの横っ面にウィンクルムで一撃お見舞いしてやった。


「ブフゥッ!?」


 サルバは潰されたカエルのような変な声を上げ、建物の壁までぶっ飛んだ。

 壁に激突し、力なく崩れ落ちるサルバの簡易情報を俺はすかさず確認した。


サルバ・リリェホルム

レベル:100 職業:双銃士

HP15,497/17,116 MP20,534/20,534

エレメントスコア:1900


 よかった、死んではいないな。

 かなり控えめに殴ったが、HPの10分の1ほど削れてしまっている。

 もし今後、決闘なんてことになったらもう少し優しくソフトに殴ろう。

 俺がサルバのHPの減り方から力の入れ具合を学んでいると、審判役の冒険者が俺の勝利を告げた。


「勝者、異世界からきた英雄リオ!」


審判役が高らかそう叫ぶと、静かにしていたギャラリーがその声に気付かされたように急に沸き立った。


「悪いな、あいつは俺にとって大事な存在なんだ。お前にくれてやる気はねーよ」


 俺は捨て台詞のようにサルバにそう言った。

 立ち上がらないところを見ると気絶しているのだろうサルバを蚊帳の外に、決闘を見ていたソフィアや冒険者達が俺のもとに集まって勝利を称えてくれた。


「リオ! アンタやるねぇ!」

「スッゲェ! さっきの弾丸どうやってかわしたんだ? やり方教えてくれよ!」

「さすが私のリオ! 勝つと思ってたよ!」


 しれっと冒険者に混ざってルシアが俺に笑顔で称賛の言葉を送ってきている。


〔誰のせいでこんな事する羽目になったと思ってんだ? あとで説教な〕


 俺はすかさず心の声でルシアに呼びかける。

 すると、満面の笑みが失せどんどん青ざめていった。

 俺がその様子を笑顔で確認すると、建物の中からエマが出てきた。


「な、なんですかこの騒ぎは!?」

「あ、エマ。思たよりも早かったですね」

「姫様これは一体」

「ああ、えっと……」


 ソフィアがエマの方に小走りで近づくのを見ると、俺はスターに群がるファンのように集まってきた冒険者を軽くあしらいながらかき分けサルバの元へと向かった。

 そして、サルバの状態を確認したがやはり気絶しているようだった。


「おい、誰かこいつを介抱してやってくれないか?」

「よっしゃ、任された」


 群衆の中にいた人一倍体の大きな筋骨隆々のアマゾネス風の女性が名乗りを上げた。

 よかったなサルバ、起きたら美女が待ってるぞ。

 俺はその場を任せエマたちの元へと向かった。

 どうやらソフィアが今回の件について説明してくれているようだ。

 エマに対し必死に伝えようとしているのが見える。


「……なるほど、それでこの騒ぎですか」

「申し訳ない、うちのルシアが変なこと言うからこんなになっちまって」

「いえ、冒険者どうしの決闘など見慣れているものですから大丈夫です。それよりも決闘相手は無事なのですか?」

「ああ、気絶してるだけだ。それにあそこの彼女が奴を介抱を引き受けてくれたよ」


 俺はエマに騒ぎを起こしてしまったことに対する謝罪とサルバの安否を伝え、俺を追ってきたルシアの頭をデコピンするとアマゾネス風の女性を見て言った。

 見ると彼女はサルバを軽そうに抱え上げ、そのままどこかへ連れて行ってしまった。


「な、なるほど。では宿に向かいましょうか」

「そういえばアイアスは? あのおっさん煽るだけ煽って姿が見えないんだけど」

「ああ、アイアスならあそこに」


 ソフィアがそう言って指をさすと、さっきまで俺たちがいた席で酒の入った容器を持ったまま突っ伏し、豪快ないびきを掻いて寝ているアイアスがいた。

 酔っ払った勢いで煽っといてそのまま寝てしまうとは、はた迷惑なおっさんだ。

 俺はそう思うと、今後アイアスが酒を飲んでいる場面に出くわしたらできるだけ近づかないようにしようと心に決めたのであった。



◆◇◆◇◆◇



 俺たちは冒険者ギルドを後にすると、ソフィアたちが使っていた宿に向かった。

 俺が想像していたファンタジー世界の古ぼけたものとは違い、建物はしっかりとした作りの綺麗な建物だった。

 宿は中心部からそう遠くない所にあり、聞くと遠方から来た学者や貴族のお偉いさんも泊まるような場所だった。

 店主は俺たちを快く歓迎してくれて、そのまま夕食を済まし、明日の出発時間を確認すると各々借りた部屋に入り夜を明かそうとしていた。


「……っとこんなもんかな」


 俺は部屋に備え付けの机に向かい、今日知りえた情報やこれから知らなくてはならない情報を少々ぶ厚めの手帳に書き込んでいた。

 この手帳は〈AULA〉のときに作ったもので、MAPやモンスターの情報がびっしりと記入してあるもので、こちらでも使えるようで少し安心した。

 俺が手帳に鉛筆で書き込んでいると、横からルシアの悲しげな声が聞こえた。



「ねーえー、終わった?」

「ん? あともうちょっと。……そうだよな、こっちのモンスターの情報とかも集めないとな、万が一〈AULA〉の時と弱点や生態が違ったら対処に支障が出ちまう」

「ねーねー、まだー?」

「あー、はいはい。終わったよ」


 俺が椅子を引き声の方を見ると、床に正座しているルシアがいた。

 彼女はもうかれこれ1時間ほど正座の姿勢でいる。


「あふぅぅ……足が……痺れる……リオ、ひどいや」

「なにが酷いだ。もう夜遅くて周りに迷惑がかかりそうだったから、説教はやめて正座の刑にしたんだろうが。お前、さっきの冒険者ギルドでのこと反省してるんだろうな?」

「うぅ……は、反省してます」


 ルシアはバツの悪そうな顔で俺を見ながら言った。

 なんか最近こんな顔をよく見るな。

 俺はそのままルシアに聞いた。


「そういえばお前にはまだ聞いてなかったけど、アルバドムスやウィンクルムにいた召喚獣が減ってることについて何か知ってたりしないのか?」

「私は何も知らないよ。なんだか尋問みたいで怖いよリオ」

「そりゃな、なんせ死活問題だからな」

「帝国軍の大軍勢のこと?」


 一応少しは聞いてたのね。

 俺はルシアの質問に大きく首を縦に振った。


「そうだ。いくらなんでも30万の軍勢はきつい、数が多すぎる」

「そんな奴ら私の広範囲攻撃で吹き飛ばしてあげるよ!」

「バカ! お前のあのスキルは広範囲すぎるんだよ! 下手しなくてもこっちの陣営まで大ダメージ食らうわ!」


 こいつは何を言い出すかと思ったら、広範囲すぎるうえに自分も含めて敵味方関係なく致命傷ダメージを与えてしまう技を、危なすぎて〈AULA〉ですらめったに使わなかった技をぶちかまそうなんてできるわけ無いだろう。


「お前あの技は俺が使用許可するまで封印だからな。やたらめったら撃たれたらたまったもんじゃない」

「えー!? だって〈AULA〉のときの戦争では開幕一発目に撃ったじゃん! そりゃ敵に近づいてた何人かは死んじゃったけどさ」

「今回はわけが違うんだよ。こっちの世界の人達はあっちの奴らとと違っ……て……ルシア、お前今〈AULA〉のときって言ったか?」

「え? うん、言ったよ」


 俺の聞き間違いではなかったようだ。

 〈AULA〉でのことを知っている? いや、もしかして憶えている?


「ルシア、お前もしかして〈AULA〉でのこと憶えてたりする?」

「当たり前でしょ! 私とリオの大切な思い出だよ!? 忘れるわけないよ!」

「あ、ああ。そうか、なんかスマン」

「そうだよ! 〈AULA〉の時はずーっと私にかまってくれてたのに、こっちに来てから全然かまってくれないじゃん! なんでなの? もしかして私のこと嫌いになっちゃった?」


 ルシアは涙目になりながら俺にそう言ってきた。

 たしかに、ログインしてる時はルシアと一緒にいることが多かったし、色々なクエストやイベントにも一緒に参加していた。

 そうか、こいつは〈AULA〉の時の記憶があるからかまってくれないとか言ってたのか。


「嫌いにはなってないぞルシア。ただゲームの時とは状況が違うんだ。だからお前にかまってやれる時間が前と違って少なくなるかもしれないけど、どうかわかって欲しい」

「本当に嫌いじゃない?」

「ああ、本当だ。ただし、あのスキルは封印する。使うのは俺が指示した時だけにしてくれ」

「うん。わかった」


 俺はルシアからの返答を聞くと正座を解いてもいいと言った。

 するとルシアは俺に抱きつきわんわんと泣き出した。

 さすがの俺も人に泣きつかれた経験などなく、ルシアの行動に驚いてしまった。

 ……そういえば人じゃなかったな。

 ルシアの種族は魔族、召喚獣として契約して人型に変身できることを知った時にキャラクタークリエイトの要領で俺が容姿を決めたのだ。

 そのことを思い出すと、今自分に抱きついているのが自分が完璧と思うまで長い時間を費やして決めた容姿の女性だということに気が付き、俺は赤面してしまった。


「ほ、ほら。明日早いからもう寝るぞ」

「うん」


そう言って寝る準備をし、ベッドに横になるとなぜかルシアが俺のベッドに入ってきた。


「……なぜお前は同じベッドに入ってくるんだ」

「なぜって愛し合ってる2人が寝る時は一緒なのが常識でしょ?」

「確かにお前のことは好きだが、愛してるってのは……」

「でも、リオは私のこと愛してるって言ってくれたじゃない。ほら、こっちに来てから初めて私を呼んだ時に」


 俺はそんなことを言っただろうかとロージアンでの戦闘を思い返してみたが、正直言ったかどうだか憶えていない。

 言ったような、言ってないようなそんなあやふやな記憶だ。


「とにかく、2人で寝るには狭いからそっちのベッドに行け。なんだったらウィンクルムに戻っていいんだぞ」

「やだ! 絶対どかないもん!」


 そう言うとルシアは俺のことを腕で思いっきり抱きしめはじめた。

 だがそれは力が入りすぎてもはや苦しさや痛さを覚えるほどだった。


「おま、や、やめろ……それ以上締めると……息が……」

「やだやだ! リオと一緒に寝る」


 おま……く、苦しい……

 筋力1104というこちらの世界ではありえないステータスの全力の締め付けが俺の胴体を襲う。

 そして、体が上下に分かれそうなほど締められると俺は気を失った。

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