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異世界英雄と22の召喚獣  作者: 十回十
Episode:1 黎明のコルアンディ
11/40

侵略

 徐々に日が傾いてきた頃、研究所の応接室でこの国の現状を説明するためソフィアが神妙な面持ちで話しはじめた。


「コルアンディは今、突如現れた帝国を騙る軍勢と戦争に入るかの瀬戸際にいます」


 俺は戦争という言葉を聞き、より一層真剣に話を聞くことにした。


「そして私達の国が直面している問題は、5人の英雄に関係することでもあります」

「というと?」


 すると、嬉々としてメモを取っていたアルドヘルムが手を止め口を開いた。


幻竜騎士ミスティックドラグナークレソン、殲斬奪者(シーズレイダー)ブルズアイ、壊星術士アストラルディザスターコ・イ・ヌール、神創義肢(ゴッドハンド)アフロイド、聖歌法医(ヒールクワイア)ヤキドーラ。この5人の英雄はそれぞれ己の武器を残して忽然と姿を消たことが伝承と調査によって分かっています。そしてそのうち、クレソンとヤキドーラの武器……我々は遺物武器(アーティファクト)と呼んでいますが、私達の国コルアンディはその2人の遺物武器を秘宝として所有しております」

「遺物武器……」

 

 俺は〈AULA〉の時には聞いたことのない遺物武器という言葉に反応し、同時にアルドヘルムの出した覚醒職業の5人に心当たりがあった。

 確か3周年記念として開かれた大会のチャンピオンチームがそんな名前の面子だったことを覚えている。

 特にクレソンとコ・イ・ヌールは決勝戦前にゲーム内で対戦を申し込まれたのでよく覚えていた。

 そういえば、あの大会以降姿を見ていないなと俺が思い出していると、ソフィアが話を続ける。


「2週間ほど前に現れた帝国側は、最近になって一方的に遺物武器の引き渡しを要求してきています。応じなければ国を滅ぼすとも……。返答期限は10日、今日は3日目です」

「物騒な話だな……帝国っていうのは、世界最強の軍隊を持つスルーフ帝国のことか?」


 スルーフ帝国とは海を挟んだ向こう側、コルアンディから西側のウォンディア大陸にある一国である。

 〈AULA〉では、武を重んじ所有する軍隊は世界一の強さを誇ると噂に名高い武装国家、という設定だった。

 ゲームの時はコルアンディにスルーフが侵略するなんてシナリオ無かったはずだが、さっきの5人の英雄や消滅した邪神のこともあるし、大分〈AULA〉のシナリオからは大きく離れてしまっているみたいだ。

 俺はそう思い確認も兼ねて帝国の特徴を出すとソフィアが俺の質問に答えてくれた。


「はい、そうです。やつらはスルーフ帝国を名乗っています。……ですが、なにかおかしいのです」

「おかしい?」

「はい、偵察からの情報によると現在スルーフ帝国軍はここから南、ルズコート平原に巨城獣ゴライアスを3頭用意し居座っていますが……情報によると兵の中に人が見当たらないそうなのです」

「え、確か帝国って人の国だよな。それなのに人がいない?」


 〈AULA〉でのスルーフ帝国は人族の国であり、亜人族の兵士やモンスターを使役する兵士がいたが、それにしたって人が一人もいないのはおかしい。


「はい。……リオさんはこちらのことに詳しいのですね。これもアルテル様がお作りになられた〈AULA〉というモノのおかげなのでしょうか?」

「まあ、そんなところだ。そういえば気になってて確認したいんだが、〈AULA〉の方ではここの所長はケペックっておっさんなんだけど、そんな名前の人いるか?」


 俺はここに来てから疑問に思っていたことを聞いてみた。

 するとソフィアはその名前を聞くと目を伏せ、一瞬ちらとアルドヘルムの方を見たのを俺は見逃さなかった。

 俺がアルドヘルムの方を見るとさっきまでの興奮はどこへやら、急にさみしげな顔をして俺に言った。


「ケペックは私の父です。2週間ほど前にヘルファイアゲートの調査に単身向かい消息を絶ってしまいました。いつも誰かを連れて行動するように言っていたのですが、あいにくどうしようもない自由人でして……。調査の場所は帝国軍がいるルズコート平原からもそう遠くはない場所です。捕らえられているか、あるいはもう……」


 だんだん声が小さくなっていくアルドヘルムになんと声をかけたらいいか一瞬迷ってしまった。

 確かにその状況だと帝国軍に見つかっている可能性が高いだろう、だがまだ死んだと決まったわけではない。

 確証が得られるまでは諦めないほうがいい、俺はそう思いアルドヘルムに言った。


「そんじゃあ、絶対探し出してお灸を据えてやらねぇとな。大丈夫だ心配すんな、アルテルが作った〈AULA〉じゃケペックのおっさんはそう簡単に死ぬようなやつじゃない。生存能力に関しては神さまのお墨付きだぞ」


 事実、〈AULA〉におけるエアハート研究所所長ケペック・エアハートは、どんなに危険な場所にいても、どんなに死にそうな状況になっても研究に対する情熱を絶やさず、俺たちプレイヤーにクエストをふっかけてくることから、付いたあだ名が「不死身おじさん」だった。

 俺はそのことを思い出しながらアルドヘルムに言った。


「リオ殿……ありがとう。ええ、帰ってきたら説教をしてやりますよ」


 アルドヘルムはぎこちない笑顔を俺に見せそう言った。


「ああ……あーそうだ、俺に対して敬語とか使わないでいいよ、堅苦しいの苦手だし、それになんだかむず痒い」


 俺がそう言うとアルドヘルムはくすりと笑い、さっきまで出していた声量まで戻っていた。


「なんだか、私が思っていた英雄とは大分違う人だねキミは。わかった、改めてよろしくお願いするよリオ。僕のことはアディーとでも呼んでくれ」

「ああ、よろしくなアディー」


 俺とアディーはさっきした握手とは違い、しっかりとお互いの手を掴み堅い握手をした。


「すみません姫様。少々話が脱線してしまいました」

「いえ、よいです所長。リオさん、私やエマも所長と同じようにしても?」

「ああ、全然構わないよ。むしろそうしてくれ」


 俺が笑顔でそう答えると、ソフィアの説明しているときの硬い表情にほんの僅かだが余裕が見えた。

 エマもソフィアのその表情を見ると、少し安心したように見せた。


「さて、話を戻すか。ソフィアもうひとつ確認したいんだが、こっちのスルーフ帝国の皇帝はジョルディ・シェラマールで合ってるか?」

「いえ、それが……現在、皇帝に即位しているのはベリアルと名乗る者なんです」

「なっ!?」


 おいおい、どうしてそこでその名前が出てくるんだよ。

 俺が知っているベリアルというのはスルーフ帝国にいたレイドボスの名前だ。

 なんでレイドボスが皇帝に?

 俺は思い浮かぶ疑問を胸にしまいつつソフィアに違う質問をした。


「そいつはいつ皇帝に即位したんだ? 皇帝を名乗るくらいだ、スルーフの他の皇族様も認めてたりするんじゃないのか?」

「それが、私達に即位の情報は入っていないんです。それどころか帝国軍が現れた頃から他の国との通信魔法が一切繋がらなくて……」

「なんだって? それじゃあ、他国の動向が一切わからないってことか?」

「はい……」


 通信魔法とは〈AULA〉であったコミュニケーション機能の1つ通話機能のことだろう。

 ゲームの頃は拠点同士の連絡にしか使えず、フィールドに出ているプレイヤーには繋がらないためあまり使われることのない機能だった。

 帝国軍が現れた頃に使えなくなったということは原因は奴らにあると考えるのが妥当だな。


「遺物武器は邪神を討滅した英雄が使っていたもの。どれほどの力が秘めているかわからない武器を、得体の知れない者たちに渡すわけにはいかないと国王は決意しました。そして、この緊急事態に国王は応援を要請することにしたのです、それが伝承にある英雄」

「つまり、俺ってことか……ちなみにこっちの戦力は?」


 俺がそう聞くと、エマが渋い顔で答えた。


「コルアンディの兵力は歩兵3万、銃士8000、魔法兵6000、竜騎士1万、医療兵2000、その他4000、計約6万だ。物資は食料に関しては問題無いと思われるが、薬や弾が心もとないのが現状だ」

「なるほど……」


 戦争に関する知識なんてものは持ち合わせてはいないが、6万なんて数の軍がいるなら戦力としては結構いい感じなのでは?

 ゲームだったらどれだけレベルの中途半端な奴らでもそんな数いたら結構な脅威だぞ。

 俺はそう思いつつ帝国側の戦力を詳しく聞いてみた。


「居座ってる帝国軍の亜人やモンスターは何がいる? あと数は? どれくらいの戦力が向こうにはあるんだ?」

「それが……」


 ソフィアが急に言い淀むと、隣のエマが質問に答えてくれた。


「帝国側の兵力は主にゴブリン、オーク、ミノタウロスが大半を締め、その他アンデッドやハウンドも散見された。指揮役にはハイオーガの存在を確認している。大型はジャイアントやドラゴンがいることも分かっている。……我々が確認しただけでもおよそ30万。ゴライアス1頭に10万の兵力があると思われる」

「はぁぁああっ!? 大軍勢じゃねぇか!!」


 俺は思わず立ち上がり大声で怒鳴ってしまった。

 そんな敵の数〈AULA〉の大規模レイド戦だってありえない。

 俺が経験したことがあるのはせいぜい敵が1万くらいのレイド戦だ。

 しかも、そのレイド戦は俺と同じように覚醒職のやつらが50人、100人集まって行なうものだった。

 これは、想像以上の戦力差だ、今の俺の状況も伝えておいたほうがいいな。

 俺は落ち着きを取り戻すと椅子に座り、静かに言った。


「いきなり大声出してしまってすまない……全員、聞いてほしいことがある」

「何ですか?」

「ソフィア、俺ここに来る前に所有してる召喚獣は22体いるって言ったよな」

「はい、確かそうですね」


 ソフィアはそれがどうかしたのかと言わんばかりに疑問符を浮かべながら答えた。

 俺は少し言いにくそうに続けた。


「実はな、さっき確認したんだが……召喚獣が足りないんだ」

「へ? それは一体……」

「本当は22体いるはずなんだが……今は10体しかいない」

「「「……え!?」」」


 俺の発言に一斉に驚くフィーリアの3人。

 仕方がないだろ、事実なんだから……

 俺の召喚獣は〈AULA〉では、アルバドムスに12体、ウィンクルムに10体登録していたのだがフィーリアに来てから確認すると、アルバドムスに9体、ウィンクルムに1体しかいないのだ。


「そ、それでも私達からするとすごい数を所有してますけど……なにか問題が?」

「召喚できる奴らの中に大規模戦闘が得意な奴らは少ない、帝国軍がそれだけの数いるとなると結構厳しい戦いになるかもな」


 俺がそう言うとフィーリアの3人、特にソフィアは信じられないといった顔をしてしばらくの間沈黙が流れた。

 そりゃそうか、形成を逆転するために呼んだ英雄が勝てるか怪しい戦力しか無いっていったらな。

 だいたいなんで召喚獣が足りないんだ。

 リオにしてもらって確認したときにはちゃんと全員いたぞ。

 ……こうなったら聞いてみるか。


「ソフィア、アルテルと話がしたいんだがどうすればできる? あの野郎、なんで召喚獣が足りないのか問いただしてやる」


 それを聞くと、すこし難しい顔をして考え込んだ後ソフィアは申し訳なさそうに答えた。


「ごめんなさい。アルテル様にこちらから交信するというのはできないんです」

「……マジか」

「大昔からアルテル様と交信をする研究はあったそうだけど、残念ながらそのどれもが失敗しているね……」


 アルドヘルムがソフィアの答えに付け加える形で教えてくれた。

 あー、マジかー。

 ってことは、今ある戦力で帝国軍をどうにかしなきゃいてないってことだな。

 長い話に飽きたのか静かに寝息を立ててているルシアをよそに、4人は帝国軍について更に詳しい情報の共有をすることにした。

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