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2019年/短編まとめ

二月の友人達は愛を知らずに恋を謳う

作者: 文崎 美生

普段、なかなか使わない湯呑みを口元に寄せ、中身を啜る。

割と静かな部室周りに小さな足音が聞こえ、目を細めた。

近付いて来る、そう考えていると、丁度この部室の前で止まり、控えめなノックの音に扉が開く。


「あれ、(サク)ちゃん一人?」

「……嗚呼、崎代(サキシロ)くんか」


窓に寄り掛かけていた体を起こし、扉の方を見る。

「一人だけど」答えながら、ちょいちょい、と手招きをして手前のソファーに座らせた。

コン、と音を立てて湯呑みを置く。


MIO(ミオ)ちゃん辺りにでも呼ばれた?」

「うん……。そうなんだけど」

「MIOちゃんならさっき、(アヤ)ちゃんとオミくんを呼びに行ってから、未だ戻って来て無いよ」


緩く首を振れば、ソファーに身を沈めた崎代くんは「そっかぁ」とぼんやり頷く。

それから赤い縁眼鏡の奥で、赤とオレンジが渦巻いて混ざり合う瞳を揺らす。


「あれ?」

「何?」


きょとん、と丸まった目が湯呑みを映す。


「作ちゃんが日本茶飲んでるなんて珍しいね」

「嗚呼……多分、この後、お茶するからさ」


指摘されて、湯呑みを持ち上げる。

中を覗けば明るい黄緑が見えた。


「勝手に一人で紅茶とか珈琲飲んでたら怒られるから……。仕方無くだよ」


はぁ、と短く息を吐く。

若干渋味の強くなってしまったこのお茶は煎茶で、完全に抽出温度を間違えている。

玉露もあったがそれは文ちゃんが個人的に飲んでいるもので、ボクがほいほい淹れて良いものではなかった。

現に煎茶すらまともに淹れられないボクには、ハードルが高過ぎる。


渋味を舌の上に走らせながら「それに、崎代くんだってそれで呼ばれたんでしょう」と告げた。

ズズッ、と音を立てて啜ったがそれに重ねるように「え、そうなの」と言われ、ボクは眉根を寄せて「え、そうでしょう?」と首を捻る。

二人で目を見て、瞬きをした。


「俺、お茶のために呼ばれたの?」

「そうじゃないの?MIOちゃんだし」

「MIOちゃんだし……」


もう一度、はて、と首を捻り、湯呑みやマグカップを入れている戸棚を漁り、残っている湯呑みを出す。

ボクと崎代くんの間に横たわるテーブルの上にある急須を傾けて、渋味の強い煎茶を注いで手渡した。

「ありがとう」と言って受け取ったものの、口を付けて見事に眉間に皺を産んだ。


「バレンタインがあるからでしょう」

「バレンタイン……」

「まぁ、あんまり好きなイベントでは無いしね」

「え?そうなの?」

「いや、ボク等の身内での交換はするけど」


眼鏡の硝子越しに目を丸めた崎代くんに、緩く首を振って答える。

毎年恒例のチョコレート菓子交換会こそが、ボクのバレンタインデーだった。

甘いチョコレートの香りを思い返し、鼻を鳴らして「赤の他人から貰う手作りってさぁ」目を細める。

それに対して崎代くんは、僅かに首を捻った状態で、うん、と相槌を打つ。


「得体が知れないよねぇ」

「……え?」


ボクは崎代くんを通り過ぎた先、部室と廊下を繋ぎ、隔てる扉の方を見ていた。


「だって、バレンタインだよ?愛の行事だよ?」


湯呑みを握る。

崎代くんが困惑したような声を上げていたが、ボクは更に続けて「本命だよ?告白だよ?」と口にした。

湯のみの中に残ったお茶を胃の中へ一直線に流し込み「自分の一部を混ぜると、両思いになる……」呟く。

テーブルに置いた湯呑みはゴン、と音を立てる。

ついで「あ……」崎代くんが気付いたらしい声を上げた。


「髪の毛?唾液?血液?」

「うぇ……。ちょっと待って、作ちゃん……。ごめんって」

「別に怒ってないよ」


急須を開けながら答える。

崎代くんに注いだソレで最後だったようだ。


「ただ、崎代くんは他人の手作りが食べられるのかぁ、と思っただけだよ」

「いや、俺、去年も美術部の後輩から貰ったし……」


文化部の中でも、部員の多い美術部。

男女比は女の方が多い。

部員同士で和気藹々としている姿は、部外でも見掛け、美術部に数度お邪魔している中でも、その様子は見受けられた。

まぁ、貰うわな、と内心では頷きながら「軽音は?」と問う。


崎代くんは美術部以外で、軽音楽部に所属していた。

軽音楽部での活動様子はあまり見ないが、文化祭当日にはステージの上に立ち、マイクを握る姿を見た。

窓から入り込む冬の空気にも関わらず、文化祭当日の体育館に篭った熱気を思い出す。

しかし、目の前の崎代くんは「男ばっかじゃん!」と声を荒らげ、ボクは態とらしく笑い声を上げて、それもそうだと、相槌を打った。


当然のように軽音楽部でのチョコレートの遣り取りは無く、しかし、MIOちゃんからは貰ったと言う崎代くん。

それに関してボクは「だろうね」ともう一度頷く。

「ウチで一番チョコレートを配るのはMIOちゃんだからね」思い浮かべるのは、バレンタイン当日に朝から紙袋いっぱいのチョコレート菓子を引き摺って来るMIOちゃんだ。


「因みに、当たり前だろうけど、一番貰うのはオミくん」

「やっぱり……」

「まぁ、MIOちゃんは他人じゃ無いしね」


それに、とボクは更に続ける。


「もしも得体の知れない物を入れようものなら、オミくんからも文ちゃんからも鉄拳制裁だよ」


右手を握り込み、シュッシュッ、と言いながら突き出す。

それを見て苦く笑った崎代くんは「つまり、見張ってるんだぁ……」と若干目を遠くした。

窓の外に向けられた目を見ながら、ボクは突き出した右手を解き、ひらり、と手の平を見せる。


「後は、単純な牽制だよ」

「牽制……?」

「『ボク達の料理レベルはこれ位ありますけど?これ位作れちゃいますけど?』って」


静かに朝焼け色に似た瞳が焦点を合わせ、ボクを映す。

困ったように眉尻が下がっているのも良く見えた。

「それは、また……」言い淀む様子に、ボクは態とらしく笑い声上げる。


「レベルの違いを見せ付けられるとさ、本当にコレを渡して良いのかな、とか、思っちゃうよね。考えちゃうよね」


揺らした右手を戻し、頬を軽く掻く。

こちらを真っ直ぐに見詰める崎代くんを通り過ぎ、ボクは視線を扉へ固定させる。

「ぶっちゃけ、ボクなら嫌だね」と言えば、崎代くんもそれには同意だと示すように力強く「俺も嫌だよ」と言う。

まぁ、世間一般、大勢が嫌だろうね。


「皆、良い性格してるって事だよね」

「だよね、って作ちゃん……。あれ、でも、その流れだと作ちゃんは一緒に行かなくてよかったの?」


崎代くんの問い掛けに、ボクは緩慢な瞬きを一つした。

元々僅かに開いていた窓を、大きく開く。

雪こそ降ってはいないものの、刺すような冷たい風が吹き込み、鳥肌が立つ。

熱を逃がさないようにしようという機能故だが、如何せん、役には立たない。


ブレザーとワイシャツの間に厚手のカーディガンを着込んでも、寒さは感じる。

崎代くんもほぼ反射のように「さむっ……」と声を上げた。

窓の片側を完全に開いた状態で、そのまま窓側へ擦り寄るボクは「ボクは、良いんだよ」と答える。


窓の下は春になれば芝生、冬の今は真白の雪だ。

今年は例年よりも積雪量が多いと、お天気キャスターのお姉さんが言っていたな、と思う。

そして、それに相応しく、雪の上には足跡一つ存在しない。


「いいって……」

「バレンタイン当日よりも、今が一番の勝負所だと思うんだ」

「え?何言って……って、作ちゃん?!」


崎代くんが悲鳴混じりにボクを呼ぶ。

窓に寄り掛かって行き、終いには、ズルリと上半身を窓の外へと滑らせたボクは、そのまま重力に従って落ちていく。

「先の事を考えられるのは凄くて良い事だけど、ボクは先ず目先の事を片付けなきゃだよ」落ちる事には慣れっこで、溜息混じりに言ったが、きっと崎代くんには聞こえなかっただろう。

残念、そう思ったところで、ズボンッ、と背中から雪に埋もれる。


体の半分が埋まった状態で、へぷちゅ、とくしゃみが出た。

幾らブレザーの下に着込んだところで、ブレザーはブレザーであって、コートでは無いのだ。

埋まったまま、空を見上げる形でグズグズと鼻を啜れば、慌てた様子で窓から上半身を乗り出す崎代くんが見えた。


しかし、直ぐにその頭を引っ込め、また、覗かせる。

視力に自信がある方では無いが、眉尻が完全に下がり切っている事は分かり右手を上げて緩やかに振った。

それから、薄い笑みを作り、そっと下ろした右手の人差し指を口元に添える。

しぃっ、小さく吐き出した息は白く染って消えた。


***


暫くして、引っ込んだ筈の崎代くんが顔を覗かせ、作ちゃん、とボクを呼ぶ。

咎めるような色を含んだ声に、ボクは「女の子だった?」と問い掛けた。

真っ直ぐ、空に向けるように放った言葉は、校舎の壁や閉め切られた他の窓に反射して良く響く。


崎代くんは遠目から見ても分かる程に、大きく首を傾けた。

「うん」と言いながらも、その声色には不思議そうな疑問の色が混ざる。

それを感じていても、ボクは続け様に「花の髪飾りの可愛い女の子?」と更に問う。

何の花だったかは思い出せないが、素朴な小さな花をモチーフにした髪飾りだった。


傾いている首がますます傾く。

疑問の色を強くした崎代くんの声は「可愛いの定義は人それぞれだと思うんだけど……」と言う。

まぁ、それもそうだ、とボクは頷いた。

今にもうーんと唸り声を上げそうな崎代くんを見上げ、ボクは未だ雪の上に背中を押し付けたまま、両手を広げる。


「崎代くん」

「うん?」

「おいでよ」


体温で背中の雪は溶け、ブレザーが濡れているのが分かる。

頬が寒さで赤くなっているのも感じ、広げた指先も白さを際立たせ、ほのかに朱色を添えていた。

崎代くんは傾けていた首を真っ直ぐに戻すと、え、とか、あ、とか、母音を漏らす。

躊躇、と言うよりは、戸惑い。


「雪、積もってるから大丈夫だよ」


凡そ、幼馴染み達が聞けば、それはお前だけだ、と言うような台詞だとは、我ながら思う。

思うだけで、ボクは続けてもう一度「おいでよ」と言い、広げた両手を緩やかに揺らす。

すると、崎代くんはこちらからでも分かるように大きく息を吐き、窓のサッシに手を掛けた。


身を乗り出して、そのまま勢いで飛び降りる。

しかし、目を閉じ、体には力が入っている事が目に見えて分かり「うぶっ……!!」雪の海へと沈んだ。

そりゃあそうだ、と思い「力むからだよ」と告げれば、空気を求めて雪の中から勢い付て顔を上げた。


「ぷはっ……。いや、力むとか……そんなんじゃないからね……コレ」

「初心者だねぇ」

「そういう問題でもないかな」

「そう?でも良い経験でしょう」

「正直、怖いからもういいかな……」

「まぁ、それが正常だね」


体を起こした崎代くんを前に、ボクもやっと起き上がる。

それから、崎代くんの肩や胴回りに付いた雪を、手の平で叩くように落とした。


「バンジージャンプなんかも、自殺体験みたいなものよね」

「だからこそ、恐怖心を抱く方が正常って話だからな」

「でも、私は作ちゃんと一緒なら怖くないよ!」


雪が落ちた事を確認したところで、ボク達の会話に新たな声が紛れた。

ボクは崎代くんの後ろ、校舎の一階の窓が開いていて、そこから顔を見せている三人が直ぐに見え、おや、と目と口を丸める。

崎代くんもハッとした様子で振り向いた。


そこには三人の男女、ボクの幼馴染みがいる。

こちらを見て、何かを察しているらしい紫混じりの瞳を、黒縁眼鏡の奥で細めた(アヤ)ちゃんは、大きく息を吐いた。

その隣に立つオミくんもまた、お前等は、と言いたげに緩く首を振って見せる。

そんな二人の手前に立つMIO(ミオ)ちゃんは、今日も今日とて鮮やかな赤の髪を揺らし、ニコニコと一人だけ楽しそうな笑みを浮かべてボク達を見ていた。


「作ちゃん、女の子には優しくしなくちゃ」


窓のサッシに肘を置き、笑いながらこちらを見るMIOちゃんに、ははっ、と笑い声だけを上げた。


「優しくしたよ。ちゃんと」


濡れたブレザーから腕を抜き、引っくり返して背中の布地を見る。

濃紺の布地が濡れて黒くなっていた。

きゅ、と纏めて捻れば少ないながらに雫が落ちる。


ちゃんと、なんて抽象的で曖昧な言葉に大して、含むべき感情や事情を察しろとは思わないし言わない。

しかし、知っているMIOちゃんは、きゃらきゃらと笑い、崎代くんは幼げな顔立ちに困惑を乗せる。

文ちゃんとオミくんは、端正な顔を揃って歪め、息がピッタリと称せる溜息を吐いた。


「俺もどっちかと言えば、答えられない好意には反応を示さないに限るな」

「オミくんが言うと、性格悪く聞こえるよね!」

「オイ」

「悪かろうと良かろうと、無駄な期待は持たせない事ね」


軽快な会話のキャッチボール。

慣れ親しんだその空気は心地良く、ねぇ、と文ちゃんから向けられる視線に頷いた。

パンッ、と音を立ててブレザーの皺を伸ばし、再度袖を通す。


「それで、そろそろお茶?」


立ち上がりながら聞けば、三人は顔を一瞬だけ見合わせて、それぞれ「うん!」「あぁ」「えぇ」と肯定を示す。

制服のスカートもお尻の方はすっかり色を変えているようで、裾を翻すようにして確認した。

そうして次に顔を上げた時には、三人が揃って紙袋やラップに包まれた皿やタッパーを掲げている。

反射的に笑ってしまった。


「あ、それなんだけど」

「何?」


思い出したように声を上げた崎代くんに、自然とボクを含んだ四人分の視線が向く。

崎代くんは未だ雪の上にしゃがみ込んだままだ。

そうだ、上靴のままだから、乾かさなくてはいけない、とボクよりも二回りは大きな足を見下ろした。


「俺も本当に参加していいの?」


少し伸びた、色素の薄いクリーム色に近い茶色の前髪を、静かに横に流した崎代くんの問い掛け。

ボクは緩慢な瞬きをした。

オミくんは小首を傾げ、文ちゃんは眼鏡を押し上げる。

今度はMIOちゃんに視線が向き、MIOちゃんが目尻も眉尻も下げた好意的な笑みを浮かべて「うん!だっていっぱいあるから」と答えた。


三人が揃って持ち上げた物々からも、確かに分かる。

しかし、それを更に分かり易くする為に、MIOちゃんの隣でオミくんが指折り「チョコレートケーキ。チョコレートタルト。生チョコ。トリュフ。チョコチップクッキー。チョコレートムース」数えていく。

ラインナップに流されまくっていた崎代くんも、流石に「チョコしかない!!」と叫ぶ。


そりゃそうだ、正常な反応だ。

そう思いながらもボクは「バレンタイン前だからね」と、跳ねていた肩をぽんっ、と叩く。


「フォンデュの機械もあるよ!」


窓のサッシに手を引っ掛け、身を乗り出すMIOちゃん。

「自費でね」と言ったのは文ちゃんだ。

二月に入って、スーパーには沢山の板チョコが積み上げられ、雑貨屋はピンクや赤のラッピング用品が並び立っていた。

チョコレートフォンデュの機械もまた、それと同じような扱いで店頭に置かれていたものだ。


店頭で、目を輝かせて指差したMIOちゃんに便乗して、隣で同じポーズをした結果、オミくんと文ちゃんは苦い顔をして溜息を吐いたが。

結局、四人で折半したので、二人はチョコレートよりも、ボク達に甘い。

ボクが思い出している横で、崎代くんは「ウソ……。チョコへの熱量がスゴい……」と引いている。


「苺は?」

「苺もマシュマロもある」

「直ぐ行く」


家庭科室の冷蔵庫で冷やしていたらしい苺を掲げたオミくんに、即答する。


「飲み物は?」

「あ、ボク、珈琲。苦めの」

「ん」


ブレザーの裾を下に引き、ピンッ、と皺を伸ばして答えれば、小さく頷いたオミくんは左目を隠す長い前髪を揺らして歩き出す。

文ちゃんはそれを一瞬だけ見たけれど、崎代くんを見て「紅茶もあるけど」と付け加えた。

部室には常に、インスタントではあるが、珈琲も紅茶も日本茶も常備してある。

MIOちゃんの方は「ココアもあるよ!」と笑う。


「今回は、ココアはちょっと……。普通に紅茶でお願いします」

「分かったわ。それじゃあ、二人共、早く戻りなさいよ」

「先に行ってるね〜!」


崎代くんの返答に、文ちゃんは静かに頷く。

ボクは後半の言葉に間延びした返事を一つし、MIOちゃんは大きく手を振って、窓をしっかり、鍵も閉めて、歩いて行った。

すると、外は酷く静かに感じる。


「じゃあ、行こうか」


手を差し出せば、崎代くんは素直にボクの手を掴んで、ひょい、と立ち上がる。

眼鏡が僅かに下がったが、それを直す様子も見せずに崎代くんは、珍しく抑揚の無い声でボクを呼んだ。

短く返事をすれば、投げられたのは質問で、聞かれたのは、部室を尋ねて来た――ボクが、窓から外に落ちる要因となった女の子の事だった。


「屋上で会っただけだよ」


ゆるりと手を解く。


「だから、好かれる理由も分からなければ、分かりたいとも思わないし、答えないよ」


崎代くんが勢い良く顔を上げる。

嘘だ、と言いたげな顔がそこにはあった。

それを見ながら、崎代くんの手を離し、重力に従わせて落とす。

「あ」と小さな呟きが聞こえたが、聞こえない振りをして、身を翻した。

大きく足を上げて、雪を掻き分けるように歩く。


「ホラ、早く戻らないと怒られるよ。それに、死ぬ程チョコレート食べるんだから」

「死ぬほど……」

「もうバレンタイン当日は要らないね」


歩き出さない崎代くんを振り返り、首を傾ける。

すると、案の定、崎代くんは「それとこれとは、別だと思うんだ!」と声を張って、踏み出す。

ずぼっ、と足が雪に埋まる、間の抜けた足音を聞き、ボクも前を向いて歩き出した。

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