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第十九話:性欲を持て余す


 ミイラ化した竜王の肉体で街を歩き回るわけにもいかない。そのため、先代竜王の玄室で殺菌作業が執り行われる事になった。私は(グール)の返り血を派手に浴びてしまったので、布でふき取る。


「ほら、ゾンヲリ、あんまり動くなよ」


 少女は薬草で調合した消毒薬を塗る。


 その、身体を触れられると色々とむずがゆかったりする。少女の小さくて柔らかい指が、触れる度に身体が跳ねてしまうのを抑えきれない。


 それを見て、ニヤニヤしているのが少女の悪い所だ。全く、心臓に悪い。既に心臓は身体から抜かれているのだが。


「す、すみません」


 だが、竜王の身体を再び腐らせてしまっては今後に差し障るため、こんな所で腐らせないようにするための処置だった。

 

「しっかし、ほんと凄かったな~アレ」


 少女は【バイオレットレイ】で紫の光を私に浴びせながら、先ほどの戦いについて振り返っていた。


「ネクリア様。戦士であれば、あの程度動ける者はいくらでもおります」

「耳に痛い話ですね……」


 半分自嘲気味に笑うのはベルクト。先代竜王グルーエルの領域はそれ程までに高く険しく、それを殺した人間(オウガ)の強さを実感せざるを得ないのだろう。


「ゾンヲリ、謙遜も過ぎると嫌味になるぞぉ。よし、終わったぞ」


 少女は手を前にかざすのをやめると、紫の光は止まった。私は玄室に安置された棺の中へと入り、【ソウルスティール】によって魂を抜き取られて少女の体内へと還る。


 これを以て、グール騒動は終息したのだ。


「グールの件は本当に助かりました。私から出来る事はあまりないのですが……」


 ベルクトは壁に立てかけた血錆びた大剣に目をやる。それは、私がこの生をもらい受けてから常に傍らにあったもの。


「その、そちらの剣は見た所かなり年季が入っているようです。よろしければ私の名義で鍛冶屋への紹介状と防具の修繕に使うコバルトインゴットを贈呈しますのでそれを鍛え直されてはいかがでしょうか」


 今の私と同様、全盛の頃の力を無くして錆びついてしまった剥き出しの剣。当然切れ味など一切ない。重量に任せて無理矢理ねじりきるか、貫く事でしか役に立たない。折れない丈夫さだけが唯一の取り得だ。


「あ、代わるな」


 気を利かせてか、少女は私に肉体を受け渡した。


「よろしいのですか?」

「はい。せめてものお礼です。出来れば、今後ともお付き合い出来ればという打算も含んでおりますが」


 今後のお付き合いとは、人間との戦争に関わると言う事だ。それは少女も了承済みであり、断る理由もなかった。


 私の個人的な意見では是非とも断りたい所ではあるのだが。


「ありがたく頂戴しましょう」


 ベルクトから差し出された手を握り返す事にした。


 〇


「あれは……」


 父の墓参りに来たら見知った者達を見かけた。一人は、あの子と思わしき淫魔の少女、そしてもう一人は当代の竜王。


 偉人墓地から二人が揃って出て来た事に、なぜかとても嫌な予感がした。気配を殺して成り行きを見守っていると、二人は別れて夜の街中へと消えて行った。


 普段は踏み入れる事のない父の眠る玄室の中へと足を踏み入れる。


「人が入った後、それに……」


 石棺が開かれた痕跡があったのだ。黒い化物と血濡れの竜王騒動で今夜は騒がしかった。中には父の名を呼ぶ者だっていた。


 だから胸騒ぎがして、ここに来た。なのに……。


「どうして……」


 取り替えられた包帯、一部の部位に乾いた血が付着した父の亡骸。それを見て、頭が真っ白になった。


 〇


 夜遅くではあるが、報酬によって得た金に物を言わせて頼む事で部屋を借りられた。


「ゾンヲリ、見てみろ。久しぶりのふかふかのベッドだぞベッド」


 少女は無邪気に笑い、藁と獣毛で作られたクッションをぽんぽんと叩く。だが、ふかふかと言うのには程遠い程に質素な作りである。それだけまともな睡眠をとるのは本当に久しぶりなのだ。


(ネクリア様、あんまりはしゃぎすぎると眠れなくなりますよ)


 少女は匂い立つ上着を脱ぎ捨てて藁布団の中へと滑り込んだ。


「おほーっちょっとちくちくするな。この布団」


 もぞもぞと動く少女の身体を介して快感が伝わる。ここに居るのは下着同然の恰好をした少女。


 私と少女は二心同体とはいえ、困惑せざるを得ない。


(あ、あの、ネクリア様)


「んん? どうしたゾンヲリ」


(あまりその、無暗に肌を晒すのは……)


「別にいいだろ? 減るもんじゃないんだから。それともアレか? 欲情したか? ほれほれ」


 少女は適当な部位を適当にまさぐる。


(はうっ! お、おやめください、やっ!ネク、リア様、やめっ)


 それから、淫魔の妙技で翻弄(ほんろう)され続け、まともに思考をする事ができなかった。


「ふふん、私に対して意見するとこうだぞ。ゾンヲリ」


(……酷いです。ネクリア様)


 痛みには慣れてもこればかりは慣れない。ありとあらゆる意味で、慣れてしまってはいけない。

 

「いやさ。こうやってお前を(いじ)ってられると何か楽しくってさ。それに、お前だって気持ち良かっただろ?」


(いえ、そういう問題では……)


「それにこれはお前にとってもすごーく大事な事なんだからなっ」


 少女の意図が掴めなかった。一体何が、大切な事なのかが理解できなかったのだ。


(どういう意味でしょうか?)


「楽しい事は楽しまなきゃ損だぞ。だからちょっとくらい性欲を持て余してロリコンの道に踏み外したって問題ないって事だよ」


 やはり意味不明だった。


(その必要があるのでしょうか?)


「はぁ、やれやれ……これは重症かもしれないな。ふぁ……」


 少女は呆れ、大きく欠伸をした。景色に黒いカーテンが下ろされそうになる。


「次はまた別の日にでもするかなぁ……お休みゾンヲリ」


 少女はやがて眠りへと落ちていく。長く平穏な夜は、私にとっては退屈極まる時間だった。


「すぅ……すぅ……」


 少女の寝息を聞きながら、ただひたすらに先ほどの言葉の意味を考える。


 やはり答えなど出なかった。私に求められる役目とは、少女の剣として敵を切り殺す事のみ。

人間性とは一体、うごごごご……

キリングマシーンに感情は必要ありますか? ないですね。はい。


ドラクエ勇者とか死んだ魚の目をしながら一日中敵を斬殺し続けたりするし、こんなもん。

彼らの領域(レベル)になると5桁以上の斬殺死体なんて軽く作り上げますし。

何故彼らは「はい」と「いいえ」しか言わないのか。


過酷すぎる環境が彼らをそう変えてしまったのかもしれない。

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