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第十五話:平等に不平等

区切りが微妙だったのでちょっと短め。


 城塞都市ビースキンの入口に獣人達が大勢で並んでいた。傷を負っている者、鎖などの拘束具がつけられたままの者、浮浪者。いずれにせよ、先日の同時刻の風景と全く違っており、ただ事ではない。


「何かあったんでしょうか?」


「黒い化け物に突然村が襲われたんだ」

「奴隷農場で働かされていたんだが、急に化け物がやってきたから何とか逃げて来たんだ」


 といった具合である。


 グールによって周辺の村々が一斉襲撃されていたのだ。住処や職場を奪われ、難民と化した獣人達の行き先はビースキンだった。


「都市への転入は許可できない」


 転入管制を行う衛兵達によって無情にも叩きつけられる現実。


「なんでだよ!」


 衛兵の対応に対する不満を隠さない難民達から剣呑な雰囲気が漂っていた。それも当然の話、城塞都市は天然の要塞にして、壁で四方が囲まれているために住める場所は限られている。


 食料、住居、仕事、何もかもが不足しているのに、人だけが余り、すし詰め状態になるのだ。そんな事が認められるわけがない。


 そんな事をしてしまえば、一斉に飢餓が襲いかかる事になるだろう。


「……困りましたね」

「おねいちゃん、これからどうなるの?」

「少しここで待ってなさい。どうにかしてくるから」


 このまま手を子招いても門前払いがオチだろう。ならば権力にすがるより他にあるまい。


 行列を無視し、衛兵の一人に声をかける。


「竜王ベルクト殿にお目通りを願いたい」

「何者だ、てっあんたか。前よりは臭くなくなったな」

「その首をへし折られたいか?」


 声の主の正体を思い出した。少女に対する無礼は極刑に値する。


(おい、ゾンヲリ、拗れるからやめなよ)


 運がよかったな。少女の慈悲に感謝するがいい。


「な、なんだよ。随分怖い顔しやがるな……今ベルクト様は御取込中だ」


「この大魔公ネクリアが用があると言ってもか」


 衛兵は一瞬、驚愕の表情を浮かべた。


「……えっあんたがネクリア様なのかい。身分を証明する物は……なかったよな」


 無礼な衛兵は考え込む、大方、少女の身分を疑っているのだろう。


「……まぁ、この街に滞在している淫魔なんてアンタくらいだったな。少しここでお待ち頂いてもよろしいでしょうか」


「ああ、構わない」


 衛兵は都市の中へと消えてゆく。恐らく確認に向かったのかと思われた。


(……なぁ、ゾンヲリ、もしかして私って最初から名乗ってれば良かったのか?)

「今代の竜王に会ってなかったら話は通らなかったと思いますよ」


 幸運だった。ネクリア様を知り、尚且つ交渉の余地がある相手は他国には早々いない。

 交渉に使えるカードも辛うじてあった。だから入国にこぎつける事ができたのだ。


(しかし、これは一体何が起こってるんだ?)

「グールによる襲撃は、恐らく人間による策謀の一手なのでしょう」


 獣人国の各地の村々にグールをけしかけ、一斉に襲撃することで食糧生産を停止させるのが狙いだろうか。襲ったのが化け物ならば人間には責任はない。


 また、農業奴隷が難民として獣人国へと亡命しにきている。これは、人間側の領土にも多少は被害が出ているのだ。つまり獣人国側からの攻撃と捉えられてもおかしくない。

 

(はぁ、グールを使うだなんて愚かな真似をする)


 少女は魂の声でぼやいてみせる。


 だが、獣人国を追い込むならばこれ程有効な手もない。

 グールに襲わせる事で戦争の大義名分を得て、敵国の食糧事情に深刻なダメージも与えたのだ。獣人の戦闘能力では高い戦闘能力を有するグールに対抗するのは困難。


 遠からず、争いは起こるだろう。

 

「お~い、通っていいぞ」


 先ほど都市の中へと消えて行った衛兵が帰ってくる。


「あの子も連れて行って良いだろうか?」


 行列の後ろで待っている獣人の少女を示してみせる。


「本来通行を許可してるのはネクリア様だけなのですが、構いません。兵舎の場所はご存じですか? よろしければご案内致しますが」


「いや、それには及ばない。恩に着る」


 衛兵に一瞥をくれてやり、獣人の少女の手を引いて例の孤児院を目指す。交渉は後でも出来るし、少女を連れて行くような場所でもない。


「私だけ入れてもらっていいのかな?」


 ちらちらと後方の行列を見る獣人の少女。中には同い年に見える少年や少女もいる。


「良いんだよ」


 だが、悲しいかな。


 誰にでも平等に手を差し伸べて救う事は出来ない。そうする義理もない。運と権力という不平等を嫌でも認識させられる事になるのだ。


 彼方(あちら)此方(こちら)の違いとは、出会いと運の違いによって決定づけられる。それが運命と呼ばれるものだ。運命に微笑まれなかった者は魔獣が跋扈する外での野宿を強いられる事になる。


「うん……」


 せめて、この獣人の少女には不幸の中でも恵まれた生活を与えてやろう。それが私に出来る唯一の施しだった。


 そして、記憶にある孤児院にまで、少女の手を引いて歩いていく。

実はたまたまロリコンネタでぶっこんだベルクトさんが居なければ、

入国できなくなるという事態に陥っていた罠。神の見えざる手が働いている……


思いつきだけで作った話が繋がる事が稀によくあるらしい。

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