第九話:変なおじさん
※モヒカンFもといバラックさんの回です。
食糧を積んだ荷馬車の護衛、まぁよくある話だ。エージェントからは積み荷の中は絶対に見るなと硬く言われている。この依頼を引き受けた面子は俺含めて五人。
まぁ、どいつもこいつも俺を含めてロクでもない奴ばかりだ。暗殺、誘拐、奴隷売買、禁制品密輸で名の通ってるクズ共。一人、得体の知れない女も混じってるが、似たようなもんだろう。
「しっかしこんな楽な仕事で金貨20枚とはなボロい商売だな」
「最近の市長は随分羽振りがよさそうだな」
「獣人を売りさばいて帝国から金を貰ってるんだろ?」
「さぁな。何に使われてる事やらな」
どうでもいい話だ。興味もない。
「……」
「おう、ねぇちゃんもさっきからずっとだんまりしてねぇで何か言ったらどうだ?」
「……」
「チッ」
フードを深く被っているため横からでは表情を窺う事はできない。まぁ、俺らのような胡散臭いおっさんとは関わりたくないのだろうよ。
荷馬車の護送は順調に行われている。途中、はぐれ狼やら猪やらには遭遇したが、流石にこんなのにやられてちゃあ話にならん。全体の半分を踏破した辺りで狭い山道に差し掛かった。左右には木々が茂っており、奇襲するにはもってこいという地形だ。
「止まれ」
矢がロバの足元の近くに撃ち込まれ、それに驚いたロバは足を止めちまいやがった。
「その積み荷を置いて去れ、ならば命までは取らないでおいてやる」
案の定、獣人連中に奇襲されるわな。数は10人かそこら、見る限りにガリガリでロクに食い物も食えてない連中だ。まぁ、雑魚だ。なんたって奴らは腰抜けだからな。
「うるせぇ、くたばれクソ犬共が!」
怒ったクズの一人がボウガンを獣人の頭へと目掛け、引き金を引く。ゲチャっというグロテスクな音と共に潰れた頭部の残骸が周囲に飛び散り、木々の葉っぱが季節外れの紅葉となる。
俺もそこいらに潜んでる連中目掛けてボウガンを適当に撃ち込んでやる。おっと、うっかり当てちまったよ。身体はすっかり訛ってもボウガンの腕はそこまで落ちないもんだ。
「ひぃっ!」
「殺されるっ!」
数匹程頭をミンチにしてやればこの通り、蜘蛛の子散らすようにして逃げてっちまうわけだ。
「ハッ雑魚共が」
「違いねぇな」
俺らのような獣人狩りも居りゃあ、さっきの雑魚共のように人間狩りをする連中もいる。食うに困った連中のやる事なんて皆こんなもんだ。
まぁ、獣人共相手にするなら、いっそそこいらのワンコの方が数段面倒くせぇくらいだがな。荷馬車の護衛は驚く程に順調だった。昼下がりも終えた頃になる。
「そろそろ国境沿いだ。ここいらで休憩にするか」
その一言でキャンプが設営される事になった。男四人で火を囲んでむさくるしいこった。
あ"~俺もイリス教国の女神官だとか、王都の女騎士だとか、帝国の魔導士女とかを連れまわしたいもんだぜ。
「しっかしよ。この積み荷に"何"が入ってんのかねぇ」
「開けんなと言われると気になってくるよな」
「食料なんだからちょっとくらいちょろまかしたってバレないよな」
クズ共が口々に言い始める。ああ、面倒くせぇのなんの。フードの女が睨んでんだよ。馬鹿共が。
「やめとけ。何処で何が見てるか知ったもんじゃねぇよ」
「ビビッてんのか?アアッ!?」
「はぁ、なら俺はちょっと外を見張ってくるよ」
冗談じゃない。巻き沿いなんて食らいたくはないからな。
「ハッ腰抜けが」
クズ3匹と得体の知れない女の居ない茂みの中へと進む。まぁ、女が黒なら戻る頃には死体が3人分出来てる事だろうよ。一瞬顔を拝んだがアレはやべぇ。同じ人間かと一瞬疑いたくなったくらいだ。こういう時はご機嫌の煙草で一服でもしながら、時間が過ぎるの待つの吉ってもんだ。
ガサッと奥の茂みから音がなる。
「誰だ!」
「ひっ」
出てきたのは年端もない獣人のガキだった。武器は持っていない。さっきの連中からはぐれた奴かなんかだろう。
「お願い!殺さないで!」
「うるせぇ騒ぐな。他の連中が来るだろうが」
よく見ると女だった。まぁ、どっちだっていい。ガキにゃ興味ねぇからな。それに、今の"そういう"仕事でもない。
「殺さない?」
「ああ」
腹の音が鳴る。ガキの方からだ。いっちょ前に恥ずかしそうにしてやがる。まぁ、数日は食ってないんだから当然か。
「これでも持ってさっさとどっか行け」
糧食の干し肉を一つくれてやる。ガキは手にした干し肉と俺の顔を見比べてやがる。
「おじさんって良い人?」
どっか行くどころかおずおずと近寄ってくる獣人のガキ。ああああああ、これだからほんとガキは面倒くせぇ。
「俺は自他共に認める程のとびっきりのクズだぜ? さっさとどっか行きな。しっしっ」
「皆と逸れちゃって、どこに行けばいいのかわかんないの」
「はぁ……」
宗教狂いのイリス教司祭みたいに頭の中お天道様かよこのガキは。生意気に服までつかみやがる。獣くせぇことこの上ねぇな。
いっそぶっ殺してやれりゃあ楽なんだがな。流石に趣味じゃねぇ。
「地図は読めるか?」
「ううん」
「方角は分かるか?」
「うん」
「あっちに真っすぐ進め。そうすりゃ村に着く。分かったらさっさとどっか行け」
まぁ、俺らの目的地である獣人奴隷が住んでる農村だ。行けば警備兵に掴まって奴隷になるのがオチだろうがな。だが、クソガキとくれば離れようとしない。
「おじさんも一緒に付いてきて」
「嫌に決まってるだろ。俺にゃやる事があるんだよ」
20枚の金貨の仕事をやり遂げて遊んで暮らす……わけねぇよなぁ。こういう依頼ってのは最初っから報酬なんて払う気がねぇのさ。
あのフードの女は始末屋だ。
裏と繋がってる俺が市長の汚職を世間にばらす前に処分するのが目的なのさ。依頼を受けなきゃ暗殺され、依頼を受けてもぶっ殺される。見知った奴もそうやって消されていったのを知っている。
そういう奴を俺が消した事もある。どうしようもねぇ、袋小路なのさ。俺は。
「おじさんはどうしてそんなに悲しそうなの?」
「さぁな。歳食ってゴリラババアみたくなりゃあお前も分かるんじゃねぇか」
「変なおじさん」
「うるせぇよ」
ずけずけと居座ったかと思えば、ずうずうしく人の弱みに付け込んできやがる。だからガキは嫌いだ。それから、特に口を開くでもなく、煙草を吹かしてる俺から離れようともしない。
「おめぇよ。そんなんじゃ長生きできねぇぞ?」
「私がしてもいいのかなぁ? 私って皆の役にも立てないし……」
仕事もできねぇガキに価値なんてない。労働に使える体力もなけりゃ、性奴隷にも使えねぇ。加虐趣味の変態共にゃ人気だそうだが、全く理解に苦しむ話だ。
「生きてりゃそのうちいい事はちっとくらいあんだろ」
「あるのかな……?」
まぁ、クソみたいな人生しか生きてこなかった俺が言っても説得力ねぇか。いい事なんて何もねぇよ。ただ死にたくねぇから生きてきただけだ。そのためになんだってやってきた。
強盗、殺人、暗殺、人身売買、復讐代行、スパイ、密売、ありとあらゆるクソみたいなモンをやって、見て来た。どいつもこいつも最後にクソみたいな事を喚き散らして、死んでいった。
このクソガキも生まれがこうじゃこの先生きのこれないだろうがよ。運が良くなけりゃ人生なんてこんなもんだ。
「でも、おじさんに会えたのは良い事だったね。ごはんありがとう」
クソガキが……だからガキは嫌いなんだよ。
クズで下種で小物で自己中でクソ野郎なモヒカンさんだからこそ思う事もあると思うの。
普段はロクに描写もされずヒャッハーしてる所を一瞬でぶち殺されて拷問されたりする。
モヒカンさんにも五分の魂。ごましお程度に覚えておいてほしいのさ……




