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第四十八話:返事も首も無いただのしかばねのような動く死体

 なんか前回から一月くらい時間が過ぎてるような気もしますが、そんなことなかったz(殴

 ブラックブランクで執筆に時間を空けてサクーシャの脳みそが空っぽになったせいで中々筆が乗らないんです、ごめんない許し(殴


 グラーキスの魔術詠唱の完了と共に、質量を持った紅き波動が周囲一面を呑み込んだ。壁、天井、地面、空間、そして、夜の空でさえも、万物有象無象が血と錆びと紅の世界へと変貌していった。


 それは、吸血鬼グラーキスの保有する膨大な血力を解放したことに生み出された血界。その中では世界さえも歪め、グラーキスの意のままに支配されてしまう血操魔術(ブラッドマジック)の極致。


 それが、【公正なる血印の裁き】だ。


「ぐぅっ……!? これは!」


 劣等吸血鬼は血の泥沼に足を囚われ苦虫を噛み潰した。それまで飛び道具として蹴り飛ばすために用意した瓦礫も全て血の底なし沼へと沈み、溶けて消え、地形は平に均されてしまっている。再び大地を力強く踏みしめようにも、ドロドロとした粘り気を持った液体が踏み込みの衝撃を吸収してしまう。


 ――見渡す限り足場や壁面は全て血の泥沼だ。脚を封じられ、瓦礫も使えん。その上、周囲のありとあらゆる存在がグラーキスの血を介した"魔術触媒"と化しているならば、この地相(モード)をグラーキスに完全に支配された状況下では遠隔起動即時行使(リモートゼロキャスト)も撃ち放題になっていると見るべきだろう……。しかしこれではロクに回避も攻撃も防御も出来ん。そして、グラーキス自身は血の泥沼による影響を受けている様子はない、か。こうして奴が"魔術師として本領を発揮し始める"前に何とか片をつけてしまいたかったが……。


 吸血鬼グラーキスの本来の戦闘スタイルは戦士ではなく、魔術師である。


 これまでグラーキスが劣等吸血鬼の近接戦闘に付き合ってきたのは、単なる強者の気紛れというわけでもなかった。儀式魔術【宵闇の霧】の行使と維持には膨大な魔力消費が必要なのに加え、【ブラッドマジック】や血の権能の行使自体に大なり小なり吸血鬼の力の源である血液を消費する。


 血液が失われればグラーキス自身の吸血鬼としての能力が衰えてしまう。故に、【ブラッドマジック】の行使には消極的にならざるをえなかったのだ。


「ククッ……俺にこれを使わせるのだ。誇るがいいぞ。劣等種」


 しかし、グラーキスは劣等吸血鬼を対等の敵として認めた。


 無敵とも言える吸血鬼の再生能力も、損傷の規模に応じて血液消費量が増大する以上、これ以上の肉弾戦の継続は不利と見てグラーキスは【ブラッドマジック】の温存を止めたのだ。


――脚を封じられれば戦技の大半は使えず、地相を完全に掌握された時点で"対魔術師戦"として最悪で絶望的な状況下にある。だが、ミラカの言が正しければこれはまだ序章にすぎんということだ。このままでは、不味いな。ならば……やむをえまい。


 劣等吸血鬼はギアスの解除したことで辛うじて対等な近接戦闘に持ち込めていたのに対し、一方は足を血の沼にとられ、一方は何の制約も無く自由に動ける。ただそれだけで近接戦闘における優位性の天秤は圧倒的にグラーキスに傾いてしまう。


 その上で、対魔術師に対する定石(セオリー)となる近づくことや、魔術妨害のための飛び道具さえも封じられてしまうということは即ち、全く動かない木偶人形を相手に魔術の試し撃ちするのや、水場の鴨撃ち猟をするに等しいのだから。


「口数が増えたな」


「クク……ハハハッ……そういうキサマは随分と口数が減ったな? ああ、そうだ。こうなったからには俺から逃げることも許しはしないぞ。なにせ、俺の血界の範囲は遺跡全域よりも広い。今、確実に、この場で殺してやる。降り注げ、【血死の(インベイル)霧雨(サジタティオス)】」


「チィッ」


 血沼から、血壁から、その周囲一帯に存在する血液が、蒸気と化して天空へと昇る。それはやがて空すらも覆い尽くす密度の積乱雲となり、紅き月光さえも遮っていく。


 やがて、雲は血の雫を垂らすと、それは無数の血矢の形を作り、辺り一面に、無差別に、無慈悲に、驟雨(しゅうう)の如く降り注いだ。


 それは文字通りの驟雨。人が躱せる隙間など一切ありはしない。まだ残る血錆び色の天井を容赦なく貫かれ、崩落し、血の泥沼へと還っていく。


 劣等吸血鬼は手にした小さな瓦礫で直撃する血矢を的確に弾き、僅かな隙間を作り、紙一重に搔い潜ろうとするが、圧倒的密度と物量を伴ったそれを全てはじき返すことは叶わない。


 一筋の矢が肌を掠め、劣等吸血鬼に傷を作った。


「ほぉ、あれだけ降らしてやったというのによく凌ぐものだ。だが、"一滴"、俺の血を体内に取り入れたな?」


「ぐ、ぐぉおおお!?」


 ただのかすり傷であったはずにも関わらず、劣等吸血鬼の全身に耐えがたい激痛が走った。


「これでキサマは、俺の眷属となった。眷属は血主に決して逆らえぬ。それが吸血鬼の絶対の法則だ。血主に逆らった罪人たるキサマにこう判決を下してやろう。自ら首を刎ね、心臓を抉り取って自害するがいい! 劣等種」


血死の(インベイル)霧雨(サジタティオス)


 その魔術の神髄は岩盤すらも容易く貫く血矢の威力そのものにあらず、回避不能の血の驟雨にほんの一滴にでも触れた者を強制的に吸血鬼化及び眷属化し支配する、広域殲滅戦術級魔術である。


 どれほどの大軍を用意したとしても、これを行使された瞬間、その全てが一瞬でグラーキスの眷属の軍勢へと変わり果て、支配されてしまうのだ。


 そして、グラーキスにとって"必要の無い眷属"は常にこうして処断されてきた。


「ぐ、ぐおぉおおおおお! がぁああああああ!??」


 劣等吸血鬼は自らの手で自らの心臓を貫き、空いた手で首を切り落とし、壮絶な断末魔を上げながら倒れ伏した。首と心臓の両方を失った劣等吸血鬼の末路とは、あっけなかった。


「ククッ……ハハハッ……ハァーーハッハッハッハッハ!!」


 グラーキスの勝利の高笑いが周囲に木霊する。


「ハッハッハ……はぁ。…勝った、勝ったぞ……思いの外、血を失いすぎたが……。おい、ミラ」


 といつもの調子で死体の後始末をさせる命令をかけかけてグラーキスは気づいた。この劣等吸血鬼はミラカを犯していると。つまり、グラーキスは今、手ごろな手駒が誰一人も居なくなっていることに。


「ぐぉおおおお! 居城は破壊され、集めてきた愛玩奴隷や生贄共は奪われ、宵闇の霧の儀式も潰され、挙句の果てにブラッドマジックで力まで浪費するハメになるだと!? この突然現れたクズ一匹のせいで何もかもが滅茶苦茶だ! ふざけおって!」


 グラーキスは八つ当たりに地団駄を踏む。


「ああ、既に死体とはいえ、今一度この手で八つ裂きにしてやらねば気がすまん。乙女であればまだ犯して奴隷にしてやるというのに、よりにもよって男なのが猶更性質が悪い。ミラカめ、こんなものを生み出したからには覚悟しておけよ」


 グラーキスは沼に沈みこんでしまった死体を探すために、一面の血の泥沼状態を解除する。沼の水位が下がったことで、徐々に首の無い死体の姿が浮かびあがってくる。


「……」


 グラーキスは徐に死体に近づこうとして一旦足を止めた。


――何か、嫌な予感がする


 グラーキスはもう一度よく目を凝らして死体を眺める。全く身動きはしていない。間違いなく、即死しているようにグラーキスの目に見えた。


 念の為に、グラーキスは血の矢を一つ作り、死体に目掛けて撃ち込んで胴体にもう一つ風穴を空けてみせる。しかし、全く反応が無い。ただのしかばねのようだ。


「……気のせいか」


 ――アレに吸血されたことで何らかのギアスの影響下になっている可能性がある以上、今のミラカや愛玩奴隷共は安易には信用できん。下手をすればあの状態からでもアレを蘇生されかねん。となれば、やはり自らの手で直接アレを完全に処分せねばならんか。女を犯した廃棄物の返り血がこの身に付着するなどと……全くもって度し難いが……


 グラーキスは頭を左右に振るう。


「ふん、馬鹿馬鹿しい。これでは俺が奴を過剰に恐れているようなものではないか。勝者は俺だ。戦いも終わっ――」


 警戒を解いたグラーキスが、首の無い死体を眼前に見下ろせる位置まで近づいた時。



――いいや、まだだ。


 重苦しい重圧が発せられる。霧散していったはずの亡霊共が再び集い始めていた。


 そして、突如首の無い死体の腕は動き出し、グラーキスの足首を掴んだのだ。血主のギアスに逆らった大罪により、全身の血管を破裂させ激しい血飛沫を上げながら血達磨は、再稼働する。


 戦士が最も得意とする間合いにのこのこと入り込んだ魔術師を殺す。その瞬間を、息も肉体も殺して待ち続けて、ついにその時がやってきたのだから。


「うっ、うわぁ!?」


 本来、吸血鬼は力の源である心臓を失ってしまえば、吸血鬼の強力な肉体再生能力は失われてしまう。劣等吸血鬼程度であれば、即死するか、もって数秒だけ生きながらえるのが精々だ。だが、その数秒の間に吸血を行えば心臓を再生し助かる可能性が生じてしまう。故にその吸血すらも行えなくするために頭部も同時に切り落として再生の芽すらも完全に潰し切る。


 無論、高位の吸血鬼でさえも、再生できなくなるまで延々と自分の心臓を潰し、頭を切り落とす自害自傷を続ければいずれは死に至る。


 それが、グラーキス最大の切り札にして必殺のギアス【自害せよ】だった。そして、劣等吸血鬼は【自害】し、再生能力を完全に喪失した段階で、完全な死を迎えた。


 そう、最大の切り札を使って完全に殺し切った。勝利した。はずだった。その甘美な思い込みが、グラーキスに思考と理解を拒ませた。これまでグラーキスという吸血鬼の権威にして、全幅の信頼をおいてきた最大の切り札を耐えられる姿など、信じたくはなかったのだから。


 だが、それは動いたのだ。首も持たず、心臓も持たず、ただ死の淵を這いずって。されど、その悍ましき重圧と殺意は衰えるどころかさらに増し続けていることに、グラーキスは戦慄を覚え、狼狽したのだ。


「今こそ、誓いを果たそう」


 地面に転がっていた生首は、紅く染まる殺意の眼光を灯しながらそう言葉を血反吐と共に吐いてみせた。

ゾンヲリさんさぁ……もうやだこのトンチキゾンビ……ってなるよね。


 グラーキス君にはサクーシャの温情で血霧形態と対近接メタの全世界泥沼化まで追加アップデートしてあげないと計算式上一方的に見切りで攻撃全部100%見切られてボコボコに殴られるだけで戦いどころかプロレスにすらならなくなるのが本当に酷い。しかも受けたダメージの大半が自傷ダメージな挙句、自傷ダメージで勝手にHPゼロになりやがったよ。なんだよこいつ……マゾかよ……マゾだったな……というお話


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やっぱゾンビと吸血鬼のはーふ?は最強なんやなって カレコレはいいで(殴 ずびばぜんでじだ
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