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第四十七話:劣等吸血鬼のような何か


 グラーキスの怒りに呼応し、床一面の血文字の幾何学模様が紅く輝く。しかし、その光は即座に失われてしまう。


 ――グッ、魔方陣を一部破壊されて【血の(ブラッディ)代行犠牲(サクリファイス)】が不完全になっているな。これでは【宵闇の霧】の維持はおろか、血操魔術(ブラッドマジック)を使用するのでさえ"俺の血を代償"にするしかない。


「言っただろう。ここからは"我慢比べ"だと。それを使わせるつもりはない」


「キサマ……まさか最初からこれを狙っていたな?」


 硝子の棺に入れられた愛玩奴隷達との魔力回路(パス)が途切れ、その上で儀式部屋の魔方陣自体も【楔】によって破壊されていることにグラーキスは歯噛みする。


 【ブラッドマジック】


 それは、魔素ではなく血や生命力を代償に行使する禁忌術の一種である。本来、術の行使には代償として自身の生命力そのものを使う。それがたとえ、膨大な再生能力を持つ吸血鬼であっても、その代償から逃れきる事は叶わない。


 【ブラッドマジック】を行使し続けた場合、吸血鬼の力の源である"血"そのものを失ってしまう。故に、本来はその使用には慎重にならざるを得ない。しかし、グラーキスは【血の代行犠牲】の魔術によりを自身の代わりに愛玩奴隷達の生命力を肩代わりさせることで強大な【ブラッドマジック】を行使していたのだ。


 今までにコレクションにしてきた全ての愛玩奴隷達の血がこの空間に集まっており、それがグラーキスの無尽蔵の魔力の源であり、権力の象徴となっている。


 だが、それも、砂上の城の如く崩れ去っていた。


――いつの間に、俺の力が削がれている……。それに、奴にこれ以上の時間を与えるのは危険だという確かな予感がある。だが、奴は"隙"を伺っている。だとすれば俺の【ブラッドマジック】の"詠唱"を決して見逃さないだろう


 グラーキスからは油断や慢心は消え去っていた。劣等吸血鬼の一挙一動、そのすべてに布石が仕組まれている事に気づくも、既に取り返しのつかない地点にまで追い込まれつつあるという確信めいた危機感が、奇しくも劣等吸血鬼を"対等の敵"と認めるに至った。


 【楔】の余波で崩れ落ちた天井には夜空が広がり、遺跡に差し込んだ緋色の月光が劣等吸血鬼の姿を照らし出す。


 ぎらつく紅い瞳、全身が赤黒い血に塗れた深紅の鬼。【宵闇の霧】が消えた事で、深淵の門から漏れ出た瘴気が纏わりつき、苦悶、あるいは怒り、あるいは憎悪に満ちた表情が一瞬浮かび上がっては消えていく。夥しい"死"が纏わりついている。アレに殺されていった者達、アレに惹かれてしまった亡霊達の残滓、それらを、グラーキスは垣間見てしまった。


 <<恐怖>>


 その感情は本来捕食者である吸血鬼にとって全くの無縁のものだった。しかし……。


 目の前に居るのは、その所業と佇まいだけで他者を恐れおののかせる根源の恐怖を纏う者。霊感の強い者ならば直視するだけで発狂しかねない悍ましき暗黒の瘴気を従える者。


 それを前にすれば、嫌が応にも"死"を認識させられる。


 それまで【宵闇の霧】に覆い隠されながらもグラーキスが薄々と抱いてしまっていた謎の威圧感の正体だ。


「そうか。どうやら、"この場所"は俺に力を与えてくれるらしい」


 深淵の門。そこは本来、彷徨える死者達の向かう終着点であり、高濃度の死色の魔霧が充満し、アンデッド達が最も力を発揮する場所だ。今までは漏れ出た死色の魔霧を【宵闇の霧】に加工することによって、吸血鬼が住むのに適した地相に作り替えられていた。


 しかし、今はもう、【宵闇の霧】は存在しない。儀式は失われ、この土地本来の地相へと戻り始めているのだ。亡霊達が集い始めている。亡霊は強いアンデッドに惹かれてしまうのだから。


「コロセ。コロセ。コロセェェェ」「カエセ。カエセ。カエセェェエ」「ウバエ。ウバエ。ウバエェェエ」


 亡者は口々に囁く。明確な殺意と憎悪を。亡者は口々に嘆く。喪失の苦痛と怒りを。ただただ感情をぶちまけ、鬱陶しく纏わりつく。


「ここの死霊共には随分と"憎まれている"ようだな。グラーキス」


 亡者は集まり、やがてはっきりと質量の伴ったどす黒い塊へと変容する。そして、黒い蛇へと形を成したそれは、ゆっくりとグラーキスの元へと近づいてくる劣等吸血鬼へ、まるで付き従うように螺旋を描きながら宙を漂い始める。その数は一匹、二匹、三匹と増えていく。


 空間と地相までもが、劣等吸血鬼のようなモノに掌握されつつあった。


――アレは、吸血鬼ではない。何か別のモノだ。一見傷ついている。血反吐も吐いている、見るからに満身創痍だ。なのに、こうしている間にも戦意と重圧がさらに増し続けている。信じられぬ。理解できぬ。一体何なのだ、アレは……ばけ……。


 一瞬グラーキスの脳裏によぎりそうになった言葉を咄嗟に消す。言葉にはしない。言葉にしてしまえば、畏れてしまう。身が竦んでしまう。後ずさってしまう。


「やむをえまい。もはや出し惜しみはせん」


 グラーキスは覚悟を決めると、自身の姿を"血霧"へと変える。吸血鬼の持つ変身形態の一つであり、霧と化したことで実体を持たなくなり、物理的な攻撃はグラーキスに対し完全に意味を成さなくなる。


「赤きよりも紅き血を。昏きよりも暗き血を――」


「霧と化して魔術を詠唱か。殴って止めるのは困難だな。だが」


 劣等吸血鬼は一度震脚し、大地を大きく踏み鳴らした。振動と衝撃で砕けた瓦礫が空中へと浮かび上がった。


 ――小癪な、音で詠唱妨害などと……!? ぐおおお!?


 そして、いくつもの巨大な瓦礫を次々と蹴り飛ばしたのだ。その一つ一つが暴風とも言える衝撃波(ソニックブーム)を伴う速度で飛来する。その瓦礫が一つ通り過ぎる度に、身を引き裂かれるような衝撃がグラーキスを襲った。


 非実体の魔力体と化していても血霧の小さな粒子の一つ一つがグラーキスの本体だ。


 魔力によって粒子同士を一定間隔で結合することで霧という目に見えない群体を作り出して物理攻撃を透過出来るようにしている。


 しかし、魔力体であっても物理現象によって"多少の干渉"は受ける。風の魔素と土の魔素を無理矢理近づけようとすれば強く反発してしまうように。


 故に、グラーキスそのものである血霧をソニックブームの暴風で吹き飛ばし霧散させる。巨大な瓦礫の圧倒的な面積で血霧全てをまとめて面で押しつぶす。そんなばかげた方法で、血霧を構成する魔力体の結合を質量の暴力で解こうとしたのだ。


 グラーキスの血霧形態を維持するために使われる魔力そのものを削り取るために。


「空に飛び、霧に隠れれば逃れられるとでも思っていたか?」


 一発一発が一撃必殺にもなる土の中位精霊魔法【ロックカノン】の乱れうち。それを、一切の魔力を使用せず、ただ己の肉体と技術だけで物理的に再現してしまう【アレゴライズロックカノンストーム】とも言える圧倒的質量の瓦礫投石からなる暴風圏の苛烈さはさらに増し続ける。


 ――なんだ? これは、まだ奴の力が増し続けている!? これ以上血霧を維持できん。だが、間に合ったぞ


「――汝、純潔の美しき乙女ならば隷姫となりて我への永遠なる隷従の祝福を与えよう。汝、醜き痴れ者ならば存在そのものが罪であると知れ。地獄の業苦にのたうちて苦しみ果てるがいい。今、審判を下そう。天から降り注ぐ血雨からは逃れる術はなし。【公正なる血印(サンギゥス)()裁き(イウーディカーレ)】」

Q1:何で急に亡霊がゾンヲリさんの味方してんの?

A:その人らグラーキス君に恋人や許嫁を寝取られて絶賛脳破壊寝取られビデオレターを何度も見せつけられて来た男エルフ連中です。ゾンヲリさんがグラーキス君を殴りつける姿を見て「やります?」「やっちゃいます?」「おう、やっちゃいましょうよ!」とゾンヲリさんが有利になりそうと見るや否や集団リンチに参戦し始めたらしいぞ? 現金なハイエナ共である。

 また、司祭=サンでの一以来、でゾンヲリさんはアンデッド支配Ⅰを習得(本人は無自覚)しているため、低級アンデッドのうち感情を共感できる者に関してはゾンヲリさんの味方をしてくれます。


 なお、アンデッド支配Ⅰは意に反するようなことを強制的に従わせるような効力はない。あくまで目的が合致及び共感してくれた時に協力してくれるor退散させられるだけ。

 アンデッド支配Ⅱの持ち主ならば意に反するアンデッドだろうが無理矢理従わせることが可能。


Q2:何でゾンヲリさん瀕死なのに強くなってんの?

A:イクシードドライブによる自傷ダメージで瀕死になった事で決死Ⅲのトリガーを踏んだせいです。

 決死Ⅲが発動するとゾンヲリさんのステータスが1.5倍になるというひじょ~に頭の悪い仕様です。これにより、オーバードライブやドライブに肉体解放の段階を落としても決死発動前のイクシードドライブ状態並かそれ以上の強さになります。


 また、ゾンヲリさんはレベル格上相手にするとステータスが上がったり、戦闘時間が長引く程ステータスが上がり続けるようなパッシブスキルをメタ的に内部的に持っている(これでゾンビ化の腐敗や肉体破損という極大デメリットを相殺、踏み倒している)ため、ゾンヲリさんのプロレスに付き合ってしまうとバフをモリモリ盛られて大体ロクな目に遭わないわけですね。はい。

 詳しくは次回辺りに投稿する予定の設定資料とゾンヲリさんの所持しているパッシブスキル一覧で説明しますが(ブラック労働で執筆出来ない時間を埋める為に用意し(殴)


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ゾンヲリさんパねぇ…
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