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第三話:淫魔の少女とちんちんする

※KENZENなのでエッチな表現とかはあんまりない


 魔物除けのための石壁で囲まれた村の門前で、少女は私の背から飛び降りる。村の守備隊にあたる門番の劣等悪魔(レッサーデーモン)がじっとこちらを窺っている。恐らく暗爪獣の肉体を持つ私を警戒しての事だと思われた。


「この村に来るのも1年振りになるかなぁ」

 

 警戒されているにも関わらず、少女は呑気に門番に近づこうとする。


「私はネクリアだ。悪いんだが村に入れてくれないか」

「これはネクリア様、こんな辺鄙な村にどういったご用件でしょうか」


「いや、その、西地区が人間の騎士団に焼かれちゃってさ、命からがら何とか逃げてきたとこなんだ。悪いんだが暫く匿ってくれないか」


 少女は駆け引き等を一切せず、単刀直入かつ素直に要望を述べた。私はその成り行きを見守っているだけだ。


「分かりました。案内致しますので村長屋敷までお越しください」

「おお、助かる」


 村の番兵は受け入れてくれるようだ。これも少女の人望が成せるのだろう。


 門は開け放たれ、少女は招かれ、門の内側に踏み入れようとするも足を止めた。


「ん? ゾンヲリ、お前も早くこっちこい」


「グルルア、ガルッグウッ!」(ネクリア様、私が入って大丈夫ですか?)


「ひぃっ」


 少女に対して私の意思は【ソウルコネクト】によって伝わる、しかし、私の見た目は傍から見れば血を垂れ流す飢えた獣。他人には私の声は咆哮にしか聞こえないのだ。


「ああ、そうだったな。コイツは無害な奴だから大丈夫だ。入れてやってくれないか?」


 厳密には無害と言い切れない。獣臭、病原菌、垂れ流し続ける不浄な血液。ゾンビという存在はそこに在るだけで公害となる。私は外で待っている方が面倒事は少ない。


「しかし……」


「しかしもカカシもない。この私に逆らうつもりか?」


「分かりました……」

「ほら、ゾンヲリ、こっちこい」

「ガルッ!」


 少女は大魔公という権力を振りかざす事によって私を村に入れてくれたのだ。私は少女の品位を損ねぬように極力無害な生物であると態度で示す。


 守備兵に連れられながら、村長の屋敷を目指す。


「おいぃ? あれなんだ」

「すっげ、暗爪獣(ダルガロウ)だぜ。俺初めてみたぜ」

「うわー、カッコいい!」


 いつの間にか村で遊ぶ少年達の注目の的となっていた。少年と少女達は物陰に隠れながらゾロゾロとついて来る。

 

「申し訳ございません。ネクリア様、無礼な者共ですかどうかお許しを」

「良いって良いって。ふふん、どうだ凄いだろガキ共。私のペットだぞ」


 ついて来る小さな悪魔達に対して向き直り、謙虚な胸を精一杯に張る少女。私からすれば、どちらの年齢は大した差があるようには見えない。


「すごいな~憧れるな~臭いけど」

「ねーちゃんくせぇけどすっげ!」

「オルゴーモン臭きつい……」


「ううっお前ら……」


 小悪魔達から反撃を受けて萎んでしまった。


「こら、ガキ共、とっととどっかに行け。申し訳ございません。どうかご容赦ください」


 守備兵は小悪魔達を追い散らし、少女に対して謝罪する。


「まぁ、いいよ。私はガキ相手に本気怒るような大人げない大人じゃないからなっ」


 少女の優しさが守備隊のデーモンを救った。

 

 村の中を歩き進めて知った事はと言えば、悪魔であっても、生活基盤は人間と大して変わらないと言う事だ。


 家の付近にある小さな畑や家畜小屋を除けば、他には何もないような素朴な村だった。恐らくは本来の農場は外壁の外側にある。だが、外には魔獣が徘徊している。子供のような弱い魔族は壁の内側で過ごす事になるのだろう。


「ヴォーーッ!」


 家畜小屋の中から猛烈な鳴声が発せられた。


「相変わらずここのゴルゴンは煩いな」

「はは、元気な証拠ですよ」


 ゴルゴンという魔獣は、額に石化の魔眼を持つ猛牛であり、少女が好むチーズを産む家畜だ。少女曰く、本来は気性が荒い狂暴な魔獣なのだそうだが、どのようにして家畜化されているのかは知る由もない。


「ここが村長の屋敷です」

「おお、そうか、案内ご苦労!」

 

 少女は案内役の守備隊のデーモンを労い、村長の屋敷の中へと足を踏み入れる。屋敷と言っても他の建物と違いはない。


 石材の壁と木の屋根で出来た扉がある簡素な住宅だ。


「たのも~」

「どちら様で、私が村長です」


 そう言って扉を開け現れたのは劣等悪魔(レッサーデーモン)、即ち何の特徴もないハゲの者だ。口元に髭すらも生えておらず、悪魔は外見からでは年齢を判別できない。


 村長の後ろから、ネクリア様とは違う淫魔の少女が顔を覗かせていた。


「私はネクリアだ。ワケあって村に来たんだがーー」


 少女は村長に事情を説明し、村長は頷いて話を聞いていた。その間、淫魔の少女はちらちらとこちらを見ていた。視線を合わせると「キャッ」と村長の後ろに隠れ、またそのうちに顔を覗かせようとしてくる。


 ……子供にとっては私は珍しい存在なのだろう。


「分かりました。詳しい話は中で聞きましょう。どうぞお入りください」


「おお、助かる。流石にゾンヲリを中に入れてやるのは無理だから、ここで待っててくれ」


「ガル」(はい)


 少女は招かれ、屋敷の中へと消えていく。平凡でのどかな村。下らない戦いとは本来は無縁であるはずの者達の住む場所。だが、付近では凄惨な殺し合いが行われていたのだ。


 戦禍が広がれば、いずれこの村にも火の粉が降りかかる。戦争と欲望と憎悪とはそういうものだ。望まなくても向こう側からやってくるモノ。……何故、私はこんな事を考えているのだろうか。


「ねぇ」


 不意に声をかけられる。先ほどから影でちらちらと私を窺っていた淫魔の少女。


「ガル」

「キャッ」


 真っ先に糧にされてもおかしくはないというのに、子供の好奇心は時に恐怖をも無視する。今の私は大人の劣等悪魔(レッサーデーモン)ですらも恐れおののく魔獣、宵闇の狩人だ。


 だが無知とは恐ろしい。淫魔の少女は無警戒に、興味深々といった有様に近づいてくる。そして、そぉっと手を差し出してくる。どうやら私の頭を撫でたいらしい。


 ふっ好きにするがいい。


「グゥ……」

「わぁ……」


 子供は学習する。相手が無害な存在だと分かった瞬間に牙を剥く。私の喉元を、鼻先を、額を、触りたいだけ触っていく。


 人に触れられるのは慣れない。むずがゆさと、少女の指の温かさに悶え蠢いてしまうのだ。


 くっ……こんなはずでは……。


「犬さん名前は何て言うの?」


 等と声をかけられても「ガル」だとか「ガルァ」としか返答することが出来ない。獣との意思を疎通しようなどと考えるだけ馬鹿らしいものだ。


「じゃあ、君はガルだね! 私、ヴァージニア」


 無責任に名前を付けられてしまった。私の御主人様はただ一人。ネクリア様だけだ。だが、不思議と悪い気持ちはしなかった。


「お手」


 所詮(しょせん)は子供の遊び。飽きれば私の事など忘れるだろう。前足の爪を可能な限り引っ込め、淫魔の少女の小さな掌にそっと乗せる。


「わぁ、おりこうさんだ!」


 淫魔の少女は顔に思いっきり抱きついてくる。私は、服従する事の気持ちよさを教え込まれている。


 そんな……馬鹿な……。


「おかわり!」


 別の前足を淫魔の少女の掌にそっとのせる。


「えらいえらい!」


 淫魔の少女は再び抱きつき、頭を撫でてくれる。


 うあっ……違う、こんな、はずでは……。


 服従したいという、抗えない欲望がこみ上げてくる。私は獣、獣であるからにして、獣の理に逆らう事ができない。


「じゃあ、次は。ちんちん!」


 ……思考が止まった。


 私は今、人として、獣として、後に引けない所にきてしまった。これは完全なる服従を示す行為。これはネクリア様への背信にあたる。そうだ。これは拒否しなくてはいけない。人として。


「ちんちん!」


 淫魔の少女は再び、強制命令を発する。誰が真のご主人様であるのかをその身に知らしめようと。私は首を振って拒否する。ダメだ。これを聞いてはいけない。


「ちんちん……」


 淫魔の少女は悲しそうに言葉を紡ぐ。そんなにして欲しいのだろうか。私に服従のポーズを示せと。淫魔の少女の強欲にして傲慢にして色欲に満ちた命令を……。


 私は受けいれる事にした。


 所詮……所詮、子供の遊びだ。


「ガル」


 尻を後ろに付けながら、後ろの両足だけで立ち上がって見せる。傍から見れば少女に襲い掛かる野獣にしか見えない。それ程までに危険な体格差だ。


「わぁ!おっきい! ガル大好き!」


 調教を終えた淫魔の少女は満足げな様子で思いっきり私に抱き着いた。私は、これを、拒絶せずに受け入れている。服従する事の快楽に、抗う事ができなかった。


「おい、ゾンヲリ。お前何やってるんだ」


 ……思考が再び止まった。

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