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第二十五話:偽装とマッチポンプと対立煽り

※2話くらい前にユーク君が死んだような気がしましたが、そんなこと全くなくなりました。なのでユーク君が死んだ記憶を持っている読者様はその話と記憶を無かったことにして下さい。


心当たりが無い方は気にしなくて大丈夫です。はい。


 私はユークを、ブルメアはウィロー少年を探すために、それぞれ別行動で宵闇の霧に包まれた集落の中への潜入を始めてからすぐのことだ。


 慌ただしく走り回っているエルフ達の姿が見えたので、物陰から息を殺して様子を伺う。


「生贄にする予定だったあの異種族の女が居ないぞ?」


「ブルメアの家がもぬけの殻だったぞ。ゾンヲリというエルフも居ない」


「不味いぞ、今夜生贄を用意すると吸血鬼にはもう連絡してしまっている手前で今さら中断など出来ない。とにかく探すのだ」


「おい、"見張り"は何をやっていたのだ!」


「それが……寝ていたのです。気持ちよさそうに下半身を丸出しにしたままで」


 察するに、ネクリア様に搾られたのだろうな……。淫魔相手に下半身を丸出しにするなどとただの自殺行為でしかない。


(べ、別に? 外出るのに邪魔だったからちょこっと精気を3回ばかり抜いていい夢見せてやっただけだからな? 魔王様に誓って言うぞ、生でのエッチはしてないからなっほんとだぞ)


 どこか言い訳じみたネクリア様の心の声が頭の中に響いてくる。


(はぁ、ネクリア様……。私はまだ何も言ってはおりませんが……)


(そ~いう説明をしないといけない空気を感じたんだよ! お前私が淫魔だからってよく勘違いするだろ! だからちゃ~んと認識の間違いを訂正しておかないとお前ずっと勘違いしっぱなしになるだろ?)


 つまり、見張りのエルフと3度に渡って如何わしい行為をして気絶するくらい強烈に搾精したのではないか? 認識は何も間違ってはいない気がする。


 ……ネクリア様が一体何に焦っているのかが全く理解できない。


 強いて言えば、生でのエッチとやらをしないことで"搾り殺さないように加減した"というネクリア様の優しさを強調したかったのだろうか……? 魔王様に誓うという非常に強い言葉を使ってまで説明することなのだ。意味がないわけがない。


 とすれば、ネクリア様はなんの躊躇いもなく相手を搾り尽くしてしまうような血も涙もない恐ろしい淫魔である。といった悪印象を私が抱いてしまっているようにネクリア様から思われてしまっているのだろうか。


 それは確かにある意味では問題ではあるし、私が意図せずネクリア様にそう捉えさせてしまうような態度をとってしまっていたというのは、間違いなく否定もしようもなく私の落ち度だろう。今後誤解が無くなるように一層に誠心誠意を込めて改善に努めるべきだろう。


 しかし、今気にするべき問題でもない。


(ネクリア様、今はとにかくお静かに……重要な話を聞き逃してしまいます)


(うぐっ……)


 脳内会話は周囲に聞こえないとはいえ、周囲の音が聞こえにくくはなるのだ。どこか気が緩みかけるのもよくない。今は目的を果たすことだけに集中しなければならない。


「仕方ない。ウィローを使おう」


「それが……居ないのだ。ウィローの家やその周辺も探し回りましたが見つかったのは足跡だけで、それを追うと集落の外へ出ていってしまっている。それと、女達と思われる足跡も近場の泉の方角へと向かっているのを見つけた」


「なんだと!? では守り人以外の生贄候補全員に逃げられたとでもいうのか」


「いや、もしかすれば女達は身体を清めにいっただけなのかもしれぬ。そろそろ様子を見に行かせた者が戻って来るやも」


 とすれば、今集落の中に居る目標はユークだけだ。ブルメアには対吸血鬼用の布石を打たせておく都合上、集落の外に向かわせて逃走経路を確保してもらった方がよさそうか。


 泉に向かった者達が戻ってくればさらに集落の警戒が強化される。これ以上ここで時間を潰していても身動きがとりにくくなるだけだろう。急がねば。


(フリュネル、居るか?)


(なぁに? ゾンヲリのご主人様)


(ブルメアにこう伝えてくれ。ウィロー少年は既に集落の外へ逃げた。目標を確保と同時に作戦の実行を頼む。こちらは予定通りにユークの確保及び説得するために彼の住まう宿舎へと向かう。と)


(わかった~)


 フリュネルの"声"を使えば遠く離れたブルメアとはいつでも連絡がとれる。作戦は計画通りにいかずとも、ある程度は流動的かつ柔軟に対応することが可能だ。


 音を殺しながら宿舎へ向かう最中、二人組のエルフが人を運んでる姿を発見する。


(おい、ゾンヲリ。あの連中に運ばれてるアレってユークじゃないか?)


(そのようですね。既に手が回ってしまっていたようです)


 気絶している大人を運ぶというのは案外手間だ。なんせダインソラウスくらい重い。


 これがネクリア様くらいでたらめな筋力の持ち主であれば片手で腕の力だけで振り回すことも容易いが、何も鍛えていない一般人では全身の力を使って辛うじて持ち上げるのが精一杯、二人がかりでも運ぶのは楽ではないだろう。


 故に、痕跡を消したり周囲を警戒するだけの余裕もない。私ならば一瞬で素人二人程度気絶させることは容易だ。しかし――


(どうしたゾンヲリ? 今なら助けるのも簡単だよな?)


(確かに、助けるのは容易です。ですが、ここでエルフ達を襲えば騒ぎになるのは避けられません。そして何より、このタイミングで無理をして助けたとして、ユーク自身がどう動くのかが読めないのです。)


 まず、ユークがどのように気絶しているのかが分からない。さり気無く食事に遅効性の眠り薬を混ぜられていた場合、本人は疲れから睡眠をとってしまったと考えるだろう。


 そんな中、私が集落の人間に襲い掛かってユークを拉致するかその場で起こせばどうなるか。実際に気絶者を出したという状況証拠から悪者は私達の方だという先入観を与えるし、集落のエルフ達も一気に集まって来る。


 では、ユークを安全な場所まで拉致するにしても"エルフの聴力に察知されない"ように物音を立てず、となるとこれもかなり厳しい。なんせ、幼女体形のネクリア様とユークでは結構な体格差がある。ダインソラウスのように雑に引きずって運ぶわけにもいかないし、こん棒のようにユークの身体を手に持ってダインソラウスと一緒に二刀流で持ち運ぶというわけにもいかない。


 いずれにせよ、最悪ユークとの戦闘状態に突入することになりかねない暴挙だ。もはや説得どころではなくなってしまうだろう。


(一先ず、待てるのならばユークが自力で覚醒するまでは待って……いや、ネクリア様。集落の外で置物にしているゾンビ吸血鬼を使うことはできませんか?)


(え、襲わせるのか?)


(叫ばせる、周囲の物を壊すなどの威嚇だけで大丈夫です。その場からエルフ達を追い払わさせ、ユークが音で目覚めたならば心臓を貫いてゾンビ吸血鬼にトドメをさしたフリをして救出という流れで行きましょう)


 無論、この偽装(マッチポンプ)は集落のエルフ達に対する威圧も兼ねている。吸血鬼を一瞬で仕留めて見せるという武威を示すことで表向きは集落の味方であるという"体裁を取り繕う"事も出来るだろう。


 集落のエルフ達とはまだ一応表向きだけは協力関係にある。つまり、向こうは直接的な手段を講じることは出来ないし、私達やユークに対し何かしらの"搦め手"を用意しなくてはいけないという状況に持ち込める。その間にユークと接触すれば説得するのは難しくない。


 何より、これは吸血鬼側からは血に飢えて制御下から外れた廃棄物(ロスト)が勝手に暴れているのを守り人によって鎮圧されたという状況に見えるだろうし、集落のエルフ達が集落内部で暴れ回る吸血鬼を目撃することで吸血鬼に対し不信感を抱かせることが出来れば対立に持ち込めるかもしれない。


(ふぅん? まぁお前に考えがあるならやってみるけどさ)



 組織Aと組織Bが協力関係にある時、ゾンビを使って組織Aの構成員を装って非人道的な方法を使って組織B襲って対立を煽るとかいう外道プレイ。しかも、善良な組織Cとして介入して恩まで売りつけるとか鬼かな? 鬼だったわ……。と思った今日のこの頃。


 保護されてる民間人を装って病院みたいに戦時法で保護されてる安全地帯から狙撃してくる便衣兵(ちくしょう)にも通じるものがあるよな……。しかも本当の民間人と見分けるのが困難でやり得で裁かれないという……う~んこの……。

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