第二十四話:痛みには同じ痛みを
※時系列的に色々と矛盾が発生したりユーク君が殺せない現象が発生したり、視点がヒュンヒュン変わるのはあまりよろしくないなぁということで、旧二十四話は一旦取り下げることにしました。また、旧二十四話の読んだ記憶がある方はその記憶はなかったものにしてください。
どうかご理解とご協力をお願いしm(殴
集落の外れにある泉で水浴びをしていたネクリア様達と合流してから間もなくしての出来事だ。
もちろん、女性陣二人が全裸で水浴びしている最中ゴキブリの身体で踏み込むといった無粋で面倒ごとを増やすような真似はしていない。フリュネルの"声"を介してブルメアに状況を伝え向こうの準備が終えてから合流している。
「おい、ゾンヲリ。ここはふつ~水浴びを覗く場面だろ」
などと言われても困る。水浴びしている女児の肢体をこっそり覗いて欲情していたら本格的に危ない人だろう。
既に殺人、収奪、扇動、疫病のばら撒きと、この世の悪を成し冥府魔道に堕ちる外道の身であると言えど、そこだけは、その一線だけは超えるわけにはいかない。
(あ~……話を変えますが、ネクリア様、何故急にこのような場所へと移動されたのですか?)
「集落の周囲を【ソウルコネクト】で"感覚共有"して置物にしてたゾンビ吸血鬼がちょろちょろ近づいてくる吸血鬼の気配を感じ取ったからなっ。だから、臭い落とした方がいいと思ってさ。奴ら嗅覚はいいんだろ?」
(流石はネクリア様、見事なご判断です。しかし、ゾンビとの"感覚共有"が出来たのですね)
「いや、ゾンビとの視覚とか嗅覚の共有は臭いと充血した視界が本体の私の感覚と二重にダブって感じてほんと気持ち悪いから極力やりたくないんだけどさ。吸血鬼は"上位吸血鬼"と血で繋がってるから五感をカットして"ただの置物"にしておいても接近してきているのは何となく分かるんだよな」
ネクリア様は事前に吸血鬼の接近に気づき、その上で吸血鬼の鋭い嗅覚の対策に泉で臭いを落とし、嗅覚に対する煙幕に使える"エクソサンソンの涎"を収集していたというのか。
ネクリア様は普段ノリと勢いだけで行動しているようで案外抜け目がない。それでいてしっかりと知識に裏付けされた行動をとれる点は思わず流石だと感心してしまう。
(まさか、そのような方法で吸血鬼の接近を一早く察知するとは……流石です、ネクリア様)
「ふふん。そう何度も褒めるなよな~照れるだろ。でさぁ、多分居るぞ、貴族吸血鬼が。お前なら勝てるか? ゾンヲリ」
(実物を目にするまで判断は出来かねますが……。廃棄物の強さからするに、恐らく今のままでは勝ちめは"ほぼ"無いでしょう。私としては今すぐにでもエクソサンソンの涎の詰まった小瓶をばら撒いて敵の嗅覚を攪乱しつつ集落からの逃走を勧めますが……)
勝ち目があるとすれば敵の油断や驕りに乗じるしかない。だが、ソレを突くには一度相手を実際に"目視"して具体的な強さ、性格、仕草、傾向を把握し粗を探し弱点を突かねばならないのだ。
だが、五感全てに優れた貴族吸血鬼を相手に気づかれないように目視できる距離まで接近するのはほぼ不可能だろう。そして、一度向こうに察知されてしまえば嗅覚による広い探知範囲と圧倒的な身体能力差から追跡からの逃走は困難を極め、援軍も見込めない状態に陥る。
ようするに、敵を目視した時点で準備する間も与えられずに自動的に戦闘状態に突入する危険性がかなり高い。
「まぁ、無理だよな。分かってたけどな。純血の吸血鬼はアビスゲートの向こう側の住人なんだ。ようするに、"オウガと同等以上"の強さがあるってことだからさ」
仮に、現時点で最強の肉体候補であるネクリア様の身体で私がオウガと真っ向勝負で戦ったとしても、まず五体満足での生還が絶望的な死闘になる上で勝率は1割を切るだろう。つまる所、作戦として論ずるに値しない。
ここで死体特攻を仕掛けて貴族吸血鬼の性格や能力の一端を調べるという手もあるが、それは同時に"ゾンビが使える"という手札を相手に晒すことに他ならない。そして、それがバレた場合真っ先に脅威として狙われるのはネクリア様になる。出来ればそれも避けたい。
(しかし、龍の巣穴に入らねば財宝は得られぬように、吸血鬼から逃げ回っていても何も進展しないというのも事実ではあります。丁度集落には"囮"も多いことですし、私が一人殺して成り代わっておいて、貴族吸血鬼を目視して情報を得るという手もあるでしょう。"万が一"を考えるとあまりお勧めはできませんが)
そして、ここからは生身、あるいは付近にネクリア様がいるという"万が一"の状況下で貴族吸血鬼との戦闘状態に直面してしまうという最悪のケースに備えた最悪の方法としてネクリア様にはあえて言わない作戦がある。
何故なら、ネクリア様が"まず絶対に止めようとするであろう方法"を使うことになるからだ。
それならば1対1にさえ持ち込めば互いの手札次第で互角からやや劣勢程度にまでは持ち込める可能性があるだろう。だが、それを行うリスクは計り知れない。
そして、もう一つ同じくらい最悪の方法として、【聖絶の光槍】を使用できるヨムを頼るというものがある。あれの投射速度は音速を遥かに超える。目視範囲外から発射されてしまってから反応し回避動作に移っているようでは、吸血鬼がいかに高い身体能力と動体視力に優れていても不可能だ。つまり、貴族吸血鬼であろうが遠くから一撃で葬れる必殺の奇跡を私が"一度きりの奇跡"をヨムに頼んで使うという方法がある。
尤も、それだけの攻撃手段を持っていてもなお、ヨムには"全く動く気が無い"ということは、即ち吸血鬼相手に傍観すると決めているのだろう。
しかも、貴族吸血鬼が"一体だけ"であるとは限らない。同時に2体以上現れた場合はこれらの方法を用いたとしても打開は不可能だろう。
「さらりと集落民殺したり囮にする作戦立てるなよな……。ま、気持ちは分かるけどさ。ゾンヲリからの意見をまとめると戦うも逃げるも"賛否両論"ってところだな。で、一応聞くけどブルメアはどうしたい?」
「え……?」
意見を求められると思っていなかったのか、ブルメアはぽかんとしていた。
「一応さ、お前の故郷なんだろ? ここ。 だったらなんか思うところとか無いのか?」
「え、ええ!? でも、私がわがまま言ってもゾンヲリが困るかもだし……」
ブルメアはもじもじオロオロと視線を泳がせている。その様子から、明らかに本音を隠したがっているのは明らかだった。
「は~い、困った時にゾンヲリに意見求めるの禁止~。ゾンヲリ、お前もそれでいいよな?」
彼女は自分を抑えつけて私の言う事を聞こうとしてしまう傾向にある。それが例え、明らかにただの"無茶ぶり"であったとしても、私の言った事をその通りにやろうとしてしまうのだ。
ネクリア様はそれが分かっているからこそ、こう話を振ったのだろう。ならば私は、ブルメアに対して何も言うべきではないのだろう。
(そうですね。私はネクリア様の決定に従いましょう)
ああ、そうだ。どちらの方法を選んだのだとしても、無茶を押し通すだけで何とか出来ると言うならば、いくらでも無茶を押し通せばいい。
「うむ、じゃあ私はブルメアの決めたことでいいぞ。はい、決定~」
「え、えぇ……?」
「や~何というか、場当たり的だよね~キミ達」
近くに居た天使ヨムはやれやれと呆れ気味に首を左右に振ってみせた。
「えっと……それじゃあ……ユークさんと、ウィローを助けてられるなら助けてあげられないかな……?」
「ふぅん? なぁ、ブルメアはさ、今言ってる事の意味、ちゃ~んと分かってるか?」
「どういうこと?」
「ゾンヲリからの話を聞く限りそいつらってさ、集落の連中が私達以外で吸血鬼に差し出せる生贄の予備候補なんだろ? その生贄を全員助けるって事はさ、ココの連中は吸血鬼の要望を満たせなくなるってことだぞ。 で、その状態で吸血鬼が集落に現れてしまったら何が起こるのかってちゃ~んと分かってて言ってるか?」
「分かってるよ……でも、ユークさんは悪くない人だもん。ウィローも……」
「ん、分かってるなら別にいいんだ。別にさ、私にとってここの連中がどうなろうかだなんて、ぶっちゃけすご~くど~でもいいし。私だって結構むかついてるからな。むしろブルメアが全員助けようなんて言い出さなくて安心したよ」
その点に関しては私もネクリア様と同じ意見だった。
アレらを助けて恩を売る利点は何一つ感じられない。むしろ、助けたところで保身のために敵に内通し、平気で背中から弓矢を射かけてくる類の連中だろう。味方にすると足元をすくわれるどころか首を刈り取られかねない。
無論、集落の者ども全員がそうというわけでもないのだろうが、一々そんなものを見分けていられる時間も余裕も無い。仮に"人が悪くなかった"のだとしても、"運が悪かった"のだと思って諦めてもらおう。
集落で迫害を受けて来たブルメアに名前を挙げられることもなく記憶にも残らなかった人物などと、つまるところそういうものだ。
誰かを殴りつけておいて誰にも殴りつけられず、誰にも手を差し伸べて来なかった者が誰かに手を差し伸べて貰おうなどと、虫がいいにも程があるのだからな。そして、コレと同じ考えを持つ誰かによって殴りつけられたのだとしても文句を言えないのもまた道理だろう。
悪には悪を、痛みには同じ痛みを、糞袋には糞袋相応にな。
(では、使える死体の数には不便しなさそうですね)
故に、私は、ブルメアがそうしたいと言うのなら、止める気はない。この集落の中で生きてきたブルメアにとって、ウィロー少年が僅かな救いになっていたというならば、ウィロー少年くらいは救えるように努力はしよう。
「だからなお前な~……っていうのはおいておいてさ、本当に大丈夫か? ゾンヲリ」
(大丈夫かどうかはわかりません、ですが、一つ私に考えがあります。ただ、その場合ブルメアには吸血鬼を引き付けて貰わねばならないので大きな負担をかけることになりますが)
「ん、じゃあ詳しく話をしてみろ」
(はっ)
ロールバックは作業負荷的にもあまりやりたくはないのですが……、展開が色々と詰んでしまったので致し方ないのです。はい。どうか許してくださ(殴
なのでまだユーク君は死んでいないことになりました。安易な視点変更を使って時間を飛ばすとこういうことを稀によくやらかすので以後再発防止に努めます。はい。




