第二十話:性の悦び分からせネクリアさん
※ブルメアさんの視点でお送りします
「そんなの……」
「まっ出来るわけないよな。だってゾンビって腐ってて汚いし、お前男嫌いだもんな」
思ってたことを全部ネクリアに言い当てられてギョッとした。
「……うん。でも、それってネクリアだって同じだよね」
「ん? 私はアイツが"望んでくれる"なら幾らでもエッチでもキスでも膝枕でもしてやるぞ?」
「えっ……」
「大体さ、私はず~~~~~っとあの朴念仁の唐変木にいつでもエッチOKのサインを出し続けてるんだぞ? でもさ、アイツって自分から望んでくれないんだよ。なんでだと思う?」
「ゾンヲリはそんな事したいだなんて思ってないよ」
これは、ゾンヲリにそうあって欲しいと思っている私の願望だった。
「違う、アイツは自分では抑えつけてるけど胸に秘めてる性欲は凄いぞ? 一回でも女の身体を知っちゃったらそれはもう枷の外れた飢えた獣みたく激しく貪るくらいにさ。内心は人肌恋しくてたまらないくせしてず~~~~っと痩せ我慢し続けてるのはアイツ自身がゾンビだからだよ」
ゾンヲリの行動でいつも不思議に思ってた事があった。ゾンビの時のゾンヲリはいつも人から距離を取ろうとしてた気がする。前にいたずらでこっそり後ろから近づこうとした時なんかはすっごく怒られた。
「あっ……そういえば、ゾンヲリはいっつも私達から離れた場所に立とうとするよね」
そのゾンヲリがいつも保ってくれる"距離感"が、私にとってはすっごく安心できたんだ。
「そう、単純に"臭い"とか"衛生"とか"外観"とかも気にして離れようとしてくれているけどさ、一番の理由は"死んでる"からだよ。生者の暖かさってゾンヲリにとっては熱くて眩しすぎるからさ、それに慣れて死者の冷たさと無情さを思い知ってしまうことをアイツは恐れている。だから、アイツは私達から常に一定の距離を保とうとするんだ」
ゾンビの時のゾンヲリって常にどこかなげやりで、自分の身体のことなんか全く気にしてないのに、私の身体を使ってる時はケガとかするのをすっごく気にしてるのは分かる。気遣ってくれてるのかな? なんて思うと内心ちょっぴり嬉しかったんだ。
「そっか……、じゃあゾンヲリが私を気遣ってくれるのは」
「アイツは単に死者が生者の領域を侵すべきではないと考えてるだけだよ、お前が期待しているような感情は……多分、あんまり、抱いてない、はずだ」
ネクリアの言葉の端切れが悪かった。
「でもさ、アイツはお前のことはきっちり女として認識しているよ。人並み程度にはエッチしたかったりお前を自分の物にしたいって欲望だってちゃんとあるんだ。その諸々の感情を全部"我慢して"お前に接しているということだけは知って欲しいんだよ」
「そんなの……」
違うと言いたかった。だって、私にとってゾンヲリは、困ってる時に助けてくれる物語に出てくる強くて厳しいけどちょっぴり優しくて、見た目もカッコよくは……ないけど英雄のような人で……そんな悪いこと考えてるなんて思いたくはなかった。
でも、時折胸を見てくるけど。
「……私の事は"ガキ"とか"主人"としてしか見てくれないのにさ。ほんと、好きな男一人も魅了できない自分のこの幼女体型が嫌になってくるよ」
ネクリアは一度自分の胸元に目をやった後、苦笑いを浮かべてた。
「だったら、どうしてネクリアはゾンヲリに頼まないの? ゾンヲリはネクリアの頼みなら嫌って言わないんでしょ?」
きっとイジワルな事を言ってるとは思う。だって、ネクリアはゾンヲリ事をいっぱい知ってる。良い所も、悪い所も、でも私は何にも知らなかった。その事が頭にきたんだ。
「確かにゾンヲリはさ、私の頼みもお前の頼みも拒まないよ。反論はしてもよほどの事がなければいっつも渋々折れてくれるし?」
ゾンヲリは私がやることに反対する時は「後悔するからやめておけ」って言うけどそれでもやらせてくれる。私に何かを手伝って欲しい時は"お願い"から始まって「嫌ならやらなくてもいい」って言ってくれるんだ。
それでもゾンヲリが無理矢理止めようとする時って本当によほどの事なんだと思う。亡霊部隊の人達に出してる"命令"とか……。
「うん……そうだね」
「それで、私がアイツに"命令"してエッチしちゃったらさ、そんなのただの強制レイプじゃん。私はそんな愛のないエッチをアイツとしたくないの」
ああ、そっか。相手の考えとかお構いなしに、何かで脅して自分のやりたいことだけを押し付けるのって、鉱山都市の市長が私にやってたことと同じなんだ。そんな人を好きになれって言われても、困るよね。
「でも、ゾンヲリは望んでないんだよね? それじゃ、ネクリアはどうするつもりなの?」
「ふふん、私は淫魔だぞ? "今"のゾンヲリの考えがそうだからハイそうですかって認めるわけないじゃん。 だから待つよ。アイツが色欲に屈服して私とエッチしたいって頼み込んでくるようになるまでず~~~っと待つの。それで、初めてのエッチの時は頭の中も体もぜ~んぶトロトロになるくらいゾンヲリに性の悦びを分からせてやるんだっ」
正直、ネクリアには勝てないなって思っちゃった。
「あ、はは……すごいね、ネクリアは」
「それで、ブルメアはアイツに何をしてあげたい? 別にエッチじゃなくてもいいよ」
だって、私はゾンヲリに自分の理想を求めるばかりで、何かをしてあげたいなんて考えてもいなかったんだから。
「ごめん、どうすればいいのか分からないの」
身体に触れられるのは今でも嫌、別にゾンヲリが嫌とかそういうのじゃなくて、地下牢の中に居た頃の自分に戻ってしまうような気がして。だから、私がゾンヲリにしてあげられる事って一緒に戦ってあげる事くらいしかないんだ。でも、それって結局ゾンヲリの足手まといになるだけだから。
「だったらさ、お前がどうすればアイツが喜んでくれるのかを教えてやろうか?」
「うん、教えて」
「それはさ、ブルメアが少しでも長く幸せに生きている姿を見せてやることだよ。アイツがお前ら亡霊部隊を身を犠牲にして守る理由はさ、自分が存在したという証を遺したいからなんだから」
「幸せに……?」
「そ、アイツはさ、自分達についてくる奴は必ず不幸になるって思い込んでる。ま、私達の周りって性質の悪い敵ばっかだし実際私もそうだと思うよ? アイツがやるのはいつかは負けると分かりきってる戦だし、負けたら全部失うんだ。だから、戦いに負ける前に新しい暮らしを見つけて泥船から降りてくれっていうのがアイツのささやかな願いなんだ」
ゾンヲリは前の戦いでは自分の事を"時間稼ぎ"だと言っていた。それは囮として敵を引き付けるためだったのかな? それとも、本当に自分の事を時間稼ぎとして割り切ってしまっているのかな。
「だからさ、お前がアイツに少しでも恩を返したいって思うなら、ハルバって奴の所で働くことも一度は真剣に考えて欲しいんだよ。それで、もしその生活が気に入ったのなら時折で良いからアイツの事を思い出してやって欲しいんだ」
「だ、だったら、ネクリアはどうするの?」
「私は、アイツの考えなんて知ったことじゃないし? やりたいことをやりたいようにやるだけだし」
ああ、そっか。ネクリアは、本当にゾンヲリが好きなんだ。
ネクリアさん十三歳の覚悟が決まり過ぎてて重杉? そんな声が聞こえてきそうな今日のこの頃。
なお、次回は一旦教会の悪い奴らのお話が挟まるそうです。はい。
緑髪ヒロインは不運属性付き、ごま塩程度に覚えておいて欲しいのさ……。




