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第十九話:イケるか?

 獣人国の食糧調達及び帝国へ献上する税金対策計画、黒死病の対応、鉱山都市の治安維持、亡霊部隊の今後、死亡した市長の後処理、すっかり真夜中も過ぎたという辺りで少女との話もようやく一段落がついた。


「ん、これで重要な話は一通りすんだかな? 」


「ええ。残りはベルクト殿と調整するくらいでしょう。これで2,3日程鉱山都市の様子を見てトラブルが発生しないようなら一旦ビースキンへ帰還しましょうか」


「ふぁぁ……、ようやくかぁ。もうここ1週間くらいほんとしんどい日の連続だったから少しくらいはゆっくりしたいよ。もうしばらくの間は病人と死霊の顔は見たくないぞ」


「お疲れ様です。ネクリア様、もう少しですので頑張って下さい」


「うむ、頑張る。で、ゾンヲリ、ここからは無駄な話を一ついいか?」


「なんでしょうか?」


「ふふ~ん。それはなっ、お前にとっての理想の女性のタイプを教えろ! 私が教えてやったのにお前が言わないのは不公平だからなっ」


 少女はいきなり突拍子もない事を言い出したのだ。


「はぁ……?」


「あ、言っておくけど今【ソウルコネクト】したから嘘言ってもバレるからな」


 少女はニヤニヤと小悪魔的な微笑を浮かべていた。最近魔獣体を使用していないから殆どご無沙汰だった【ソウルコネクト】まで使用するだと……。


「あ、あの。やめませんか、それ」


 【ソウルコネクト】は今こうして頭に思い浮かべている思考の中身が少女に筒抜けになってしまうという悪魔の秘術だ。


「やだ。やめない。いいから教えろ」


 ……ネクリア様の求めている答えは大体決まっている。


「ネクリア様こそ理想の女性です」


「おい、ぜ~んぜん心が全然籠もってないぞ~ゾンヲリ。ほら、私のどういう所が理想なんだ? ほれほれ言ってみろ」


 ……どうしてこのような羞恥プレイをなさるのか。いや、よそう。今は思考を空っぽにしてネクリア様の素晴らしい点を列挙するのだ。


「小さい所です!」


「うんうん、お前はロリコンだもんなっ。わかるわかる。はい次言ってみよ~」


「理知に富んでいて聡明な所です!」


「それはちょっと前に聞いたぞ~。はいはい次々~」


 少女はつんつんと尻尾で首筋をなぞるように遊びだす。ゾクリと背筋が跳ねそうになった。


「はひ、強くて逞しい筋肉を持っているところです!」


「……はぁ?」


 一瞬、部屋の温度が下がった気がした。不味い、外したか?。


「なぁゾンヲリ、お前今の言葉をもう一回、く・わ・し・く言ってみろ」


 

 いや、ここで思考を廻らせてはさらに不利になる。巧遅は拙速に如かずだ。

 ……戦士は、時には敗北が見えていても前に進まなければならない時がある。それが今、この時だ! このまま押し通る!!。


「はい、ネクリア様の筋肉は面積に対して密度が非常に詰まっており、少ない筋肉量で大きな力を発揮出来ます。その恵まれた筋力は成人男性並みの重量を誇るダインソラウスを片手で振り回し、握力で魔獣の頭蓋骨や岩石程度ならば握りつぶして容易く粉砕できます。そして、被弾面積と空気抵抗が少ない事で攻撃を回避しやすく、防具をオーダーメイドする際に必要な素材の量を削減するのに適しています。まさに、ネクリア様は戦士として理想的な肉体をお持ちなのです!」


 ……イケるか?


「イケるか? じゃない! そんな褒められ方されて嬉しい女が一体何処にいる!」


 なん……だと……? 少なくとも私は、人生をかけて磨き上げてきた己の肉体を認めてもらえたら嬉しい。だが、少女はそうではなかったというのか……。


「いや、うん。まぁ、アレだな。これはお前に誤解を抱かせるような私の質問の仕方が悪かったな。うん。だからこうしようゾンヲリ」


 飲み下す固唾はないが、少女の次の言葉を待つ。


「私のおっぱいとブルメアのおっぱい。どっちを揉みたい?」


「ブルメアのおっぱいに決まってるじゃないですか。そんなの当たり前ですよ。………あっ」


「あァッ!?」


 し、しまった……。あまりにも自然に即答してしまった。


「……ネ、ネクリア様、い、今の質問は、卑怯です」


「ゾンヲリお前さぁ、戦場に綺麗も汚いもない。卑怯こそが正道とか、前に亡霊部隊の前ではカッコつけてたよな?」


 退路も望みも断たれた。


「どうか一つだけ……いや、一言だけ弁解する機会をお許しください」


「良いだろう。言ってみろ」


 ……かくなる上は、背水の陣(ヤケクソ)だ。


「ネクリア様、私は全てのおっぱいが好きです。初めに、胸の大きさだけがおっぱいの価値というわけではございません。だからといって形の美しさもおっぱいの全てというわけではないのです。見て愛でたくなるような小さなおっぱいも、歴史を感じさせてくれる垂れて崩れたおっぱいも私は好きなのです。お茶で例えますと、ミルクティーに合う甘い茶も、頭をスッキリさせてくれる渋い茶も、しっかりと焙煎した風味豊かな紅茶も、茶葉の若々しさを感じさせる緑茶も、どちらも美味しい茶であり、単純に優劣を付けられるものではございません。つまるところ適材適所というものであり、おっぱいにも同様の適材適所というものがございます。例えば、"揉む"という評価軸でどちらかのおっぱいを揉みたいかという判断を下さなければならないのでしたら、ブルメアの豊満で柔らかそうで何もかもを優しく包み込んでくれそうなおっぱいの方に手が伸びてしまうのも致し方ないことなのです。で、ですが、ネクリア様のツンと張っていて謙虚で健康的なおっぱいは実に優れた実用性と機能美をかね揃えているのです。それは、もはや見るだけで畏敬の念を抱いてしまいかねない程の絶対的な"美"、其れに触れる事すらも畏れ多く感じてしまう。そんな素晴らしきおっぱいであるからこそ、私はブルメアのおっぱいを揉みたいと言ってしまったのです」



 ……いや、ここはブルメアのおっぱいを揉みたかった言い訳をするべきではなく、少女のおっぱいのみをひたすら褒め称えなくてはならなかった場面だったか……?。


「なぁ、ゾンヲリ。一言いいか?」


 少女の表情は……。やはり、ダメか……。


「はい」


「気持ち悪いぞ」


 …………馬鹿だな、私は。


「……はい。頭を冷やしてきます……」


 〇


 ゾンビウォーリアーがとぼとぼとテントから出て行った後の事である。


「で、い~~つまでそこで寝たフリしてるつもりなんだ? ブルメア」


「ね、ネクリア、気づいてたんだ」


 ブルメアは少女のいる方向の逆を向いた状態で寝ている姿勢のままだった。


「そりゃあさ、おっぱいの下りで一々耳をビクビク動かして身体をモゾモゾ動かしてたら普通気になるって。まっ、ニブニブチンチンなゾンヲリの奴は常在戦場がどうとか普段は偉そうな事言ってるくせに気付いてなかったみたいだけどなっ」



「あ、あはは……」


 尖った耳の裏が真っ赤になっているのを両手で隠しながら、ブルメアは少女のいる側へと振り返ると、引きつった笑いを浮かべていたのだ。


「それでさ、ゾンヲリからエロくて気持ち悪い視線でねちっこく見られてた事についての感想はどうなんだ? 正直に言ってもいいぞブルメア」


「どうって言われても……たまに、その、見てるのは分かってたから……」


 サラシで押し付けてある豊満な胸に視線を落とす。


「なんかさ、お前、満更でもなさそうだよな」


「え~、そんなことないよ? でも、見られるくらいなら全然平気だし……ていうか皆見てくるからそんな事言ってられないもん」


「ふ~ん? じゃあ男に触れられるのは?」


「絶対嫌!」


 以前、鉱山都市で捉えられていた時に受けてきた仕打ちを思い出し、ブルメアは思わず叫んでいた。


「だったらゾンヲリなんてモロに危険人物じゃん。アイツお前のおっぱい触りたがってるし」


「ゾンヲリは……そんな事しないもん」


「そうだよな、アイツはムッツリスケベだからそんな真似をしないだろうさ。内心ヤりたいって思うだけに留めるよ。じゃあ質問を変えようか、お前ゾンヲリの事をどう思ってる」


 淫魔少女に問われ、ブルメアは一度思案した後、少女の目を見据えた。


「尊敬してるよ。私がこうしていられるのってゾンヲリのおかげだもん。戦い方とか武器の使い方とか色々教えてもらったし、今じゃ一人で魔獣だってやっつけられるようになったんだから」


「うん、お前はもう一人でも十分生きていける。一人前になれたってことだよな」


「えへへ……」


「じゃあさ、もう自立してもいい頃合いなんじゃないか? ほら、今丁度飛竜狩りのハルバとかいう凄い冒険者にスカウトされてるんだろ? そいつの元で働くとかいい機会だと思うんだよな」


 褒められたと思って緩んでいたブルメアの表情が固まる。


「え……?」


「ん? 私は何かおかしい事言ったか?」


「ま、まだ早いんじゃないかな……。ほら、まだまだゾンヲリに教えてもらいたいこと、沢山あるし」


「あのさ、ゾンヲリの奴はもうお前に教えられるような事は殆どないって言ってたぞ。素質ある戦士でも本来は一月以上かかるような課題もたった数日でこなしてしまうんだから凄い才能もあるって褒めてたし、あとは経験と実戦をひたすら積むくらいだってさ」


「そんなことないよ、だってまだ私は夜狼の頭蓋骨や岩石を素手で握りつぶせてないし、目を瞑りながら気配を察知して隠れている魔獣を射貫いたりできないし、崖登りだって一人でやるのはまだ怖いもん」


「……いや、アイツ、お前に毎晩何やらせてるんだよほんと。っていうのはおいておいてさ、そういう訓練なら別にゾンヲリの元じゃなくても出来るだろ? それこそ、ゾンヲリより強いハルバって奴の所に行けば手取り足取りしっぽりと教えてくれるだろうし、冒険者なんだから実戦経験だって沢山積めると思うぞ?」


「そうじゃなくて……えっと……」


 ブルメアは、しどろもどろになりながら次の言い訳を考えていた。しかし、上手い言葉が出て来ず、言い詰まってしまう。その様子をじっと見ていた淫魔少女は呆れたように深くため息を吐いてみせた。


「はぁ……じゃあアイツの代わりに私がはっきり言ってやる。正直、私達はお前や亡霊部隊の面倒をこれ以上見ていられる余裕なんかないんだ。だから、今回の戦いで得た"戦果と報酬"の大半はお前達の再就職先や新しい生活の為につぎ込んでるんだよ。当然だけどブルメア、お前の分もちゃ~んとな」


 今までの亡霊部隊は殆ど自給自足の生活を行っていた。魔獣を狩ってその肉をくらい、牙や毛皮を金や外衣に変える事で軍備の増強と訓練を行ってきたのである。


 しかし、魔獣は狩り尽くされていくにつれて警戒感を強め、姿を隠すようになっていく。得られる肉の量も次第に細くなり、周辺で夜行訓練を行うのにも限界が訪れ、亡霊部隊を維持することも金銭や食糧が原因で困難となっていくのである。そこで、安定しない狩りに頼らない新たな活動基盤が亡霊部隊には求められていた。


 鉱山都市の治安維持も亡霊部隊の新たな仕事の一つであった。


「私、そんなこと全然頼んでないよ」


 そして、鉱山都市攻略戦の"戦果"としてブルメアに与えられたのは銀貨20枚、慎ましく過ごせば鉱山都市で1年は生活できる程の大金だ。これは、本来はゾンビウォーリアの活躍であったものを亡霊部隊全体の活躍として報告した結果によるものである。


「でもさ、そうやってず~~っとまとわりつかれても正直なところ困るんだよ。ゾンヲリの足手まといになるからさ」


「そんな言い方……」


「じゃあ聞くけど、今回の戦いでゾンヲリの奴、二度大ケガしてるのは覚えてるか?」


「うん、レイアさんって魔術師の爆発魔法を止めた時の反動と、オウガにやられた時だよね」


「その両方の原因ってどこから来てると思う?」


「……亡霊部隊を庇ったんだよね」


 一度目は魔術師レイアの自爆を食い止めなければその場にいた亡霊部隊が爆破に巻き込まれる可能性があったためである。


 二度目はもしもゾンビウォーリアが途中で逃走を図った場合、征伐軍背後に回り込んで補給連絡線を攻撃していた亡霊部隊への対処が集中し、敵地奥深くで孤立している亡霊部隊の逃走が困難になってしまうためであった。


「そう、ゾンヲリが一人で戦ってたなら本来起こらなかったケガなんだよ。強力なグルーエルの肉体だって壊さず温存できたはずなんだ。だけど、ゾンヲリはお前ら亡霊部隊に戦闘経験を積ませて尚且つ生存させるために囮部隊の囮をやるなんていう馬鹿みたいに危険な敵陣特攻と時間稼ぎという無茶をやったんだ。アイツ一人だけなら逃げて態勢を立て直して何度でも奇襲を仕掛け直す事だってやれたはずなのに」


 グルーエルの肉体と亡霊部隊どちらに戦術的価値があるのかと考えれば、間違いなくグルーエルの肉体とゾンビウォーリアそのものである。兵卒のために将兵を失うなどと馬鹿らしい。故に、淫魔少女は亡霊部隊を"足手まとい"と痛烈に非難したのだ。


「でも、私は役に立ったってゾンヲリは言ってた。足手まといにも……ならないよ」


「ゾンヲリはツンデレで"甘い"からお前らを褒めてるだけだよ。大体さ、本来アイツが求めてる水準って才能ある戦士が10年以上、あるいは人生をかけて剣のみを振るい続けてようやく到達するような領域だぞ。武器を手に取り始めて一月すらも経ってないお前らの成長を悠長に待ってられないの」


「それなら私、もっともっと沢山頑張るよ。だから……えっと……」


 ブルメアは何とか食い下がろうとしていた。


「……なぁブルメア、お前のその謎な原動力がどこから来てるのか教えてやろうか? お前ゾンヲリの事が好きだろ」


「……うん。好き、なのかもしれない」


「それじゃあ聞くけどさ、お前はゾンヲリの為に何をしてやれる?」


「それなら、から――」


「身体を貸してやるからってのはなし。第一、それは繰り返せば寿命を大きく削るし、ブルメアの場合は精々三日間身体を貸し続ければ衰弱死するのがオチ。そんなのはゾンヲリが望まない」


「えっ……?」


「お前さ、ゾンヲリに身体を貸してたら猛烈な眠気に襲われただろ?」


「うん」


「それは"魔力欠乏症"の初期症状だよ。人は体内に保有している魔素(マナ)が不足し始めると睡眠をとる事によって大気中から魔素(マナ)を摂取して急速回復しようとする。だけど、ゾンヲリが憑りついている間はお前は睡眠をとれないし、ゾンヲリはお前の体内魔素を消費して活動し続けるんだ。魔素枯渇状態でさらに魔素を無理矢理消費しようとすると下痢や嘔吐といった形で身体機能に異常をきたしはじめ、最後は衰弱死するってわけ」


「だったら、身体を貸してあげる事以外の事ならなんでもするよ!」


「ふ~ん? ()()()()、ねぇ」


 淫魔少女は訝しげにブルメアを睨んだ。


「じゃあ、ゾンヲリが今すぐ死体の身体でお前とエッチさせろと言ってきたら、どうする?」

ようやく(ラブコメ)らしくなってきたな……(修羅場)

独占欲を発揮するネクリアさんとブルメアさんのパーティ追放をかけた戦いが今、始まる!


そして、今話題の異世界転生者殺しチートスレイヤーでも屍姦(ネクロフィリア)を取り扱っている……。つまり、ようやく時代が追い付いてきたらしいn(殴


ということでもうちょっとだけ修羅場は続きます。はい。

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