外伝:帝国の悪い奴ら
※帝国の財政についてちょっぴり触れる。そういうお話
黒雲平野より南には、魔術と技術を融合して作り出した魔導兵器によって一大勢力を築き大陸の覇権を握っている国が存在する。魔導帝国ヴォイオディアと呼ばれたその国を治めているのは雷帝ライオネス・ヴォイオディア。血の雨が降り、砲弾の轟く音が鳴りやまむ大粛清すらも容赦なく強行するその治世を形容するならば、天上天下唯我独尊、帝王の法の元では貴族も騎士も聖職者も平民も農民も商人も亜人も奴隷も、全ての臣民は等しく平等であった。
「――これにより、聖騎士ワロイス閣下の率いる魔道機甲師団1万が龍魔隷嬢ルーシアと交戦して消滅致しました。以上が……、黒雲平野の戦況となります」
「ご苦労、下がるがよい」
「はっ」
帝王の前で跪いた姿勢で文を読み終えた伝令は頭をあげて立ち上がり、最大限の敬意を表した後に帝座を守る百にも渡る兵列へと加わった。
「さて、今年度の第一次魔族征伐遠征における対ルーシア方面軍が敗北したわけだが、その影響について卿らからの忌憚のない意見を聞きたい。まずは財務大臣ゴールドマン並びに軍務大臣ソルジアよ、発言を許可する」
「はっ……遠征の際に聖騎士ワロイスに貸し与えて消滅したジャガンナート級ミスリル製魔導戦車100両ですが、これの製造には年の国営予算にしておよそ2割にも相当する額の膨大な資材がつぎ込まれております。また、魔導機甲師団に随伴させていた魔導技師や魔術師達の再育成にも十数年単位という長い歳月を要しますので、近日中の再生産は絶望的と言えますが……」
「ジャガンナート級は想定敵である上位悪魔や飛竜や恐竜相手であれば一定の戦果を挙げておりました。しかし、貴族悪魔階級と戦闘させるには力不足であるのは否めません。やはり、前年の魔王征伐戦で失った最精鋭の黒騎士団や超重騎士団の穴埋めをさせるには、少々荷が重すぎたと言えるでしょう」
「英雄は金で買うには高すぎる、か。まぁよい、来年度までにジャガンナート級を150両作らせろ」
帝国の最精鋭にもなれば、その一人一人が幾百もの戦いに勝ち続けてきた百戦錬磨の修羅達である。しかし、それ程の経験を兵士に積ませるには幾百の闘争と幾万にも折り重なる敗者という名の犠牲を必要とする。よって、一年という非常に短い歳月で半壊した黒騎士団を完全に再編するのは不可能であり、代わりに生み出されたのがジャガンナート級ミスリル製魔導戦車であった。
「ラ、ライオネス皇帝陛下、それはいくら何でも無茶があります。既に昨年度に70両作らせるために税率を1割程引き上げており、臣民達からは疲弊と不満の色も見えて――」
「それが、どうかしたのか? 金が足りぬのなら税率をさらに引き上げれば良かろう。技師が足りぬのなら帝国魔道院に奨学金と特例制度を設けて才能ある平民を無銭入学でもさせればよかろう」
「帝国魔道院は帝国貴族達の聖域です。平民達を優遇するような措置をとれば、また貴族達による内乱が――」
「構わぬさ、今此処に顔見せにすら来ぬ腰抜け共にこの俺を降ろせるというのならば、な」
雷帝が聖白金細工の施された龍牙の両手剣を引き抜けば、眩しい程の紫電の雷が迸り、その先ぶれに触れただけで大理石の床や黄金細工の玉座は一瞬にして炭化したのだ。
それが、雷帝の怒りに触れた者の末路である。
「椅子に座るのにも飽いて退屈しのぎに余興の一つでも欲していた所だ。なんなら今すぐにでも構わぬぞ? この場にいる者すべてに、この俺に攻撃を加える事を許可しよう」
その不遜とも言えるほど自信に満ちた挑発に乗る者は、この場には誰も居なかった。ただただ、畏れ、敬われるのみ。
「……滅相もございません。どうかお静まり下さいませ、ライオネス皇帝陛下」
雷帝は紫電の剣を鞘に納めると、黒色に炭化した玉座に腰を下ろした。
「ふん、魔王が復権する前に魔族の根は確実に絶やさねばならぬ。そのためにはいかなる犠牲も払わねばならぬことを、卿らも心せよ。それがひいては、ヴォイオディア帝国による大陸統一へと繋がるのだからな」
「ははぁ……」
「さて、今年度の税制及び教育制度の改革案については追々審議するとして、今劣勢に置かれつつある黒雲平野の戦況をどのようにして覆すか、意見のある者はおらぬか?」
すると、老齢のローブ姿の男が立ち上がり、手を挙げた。
「ライオネス皇帝陛下、一つ発言してもよろしいですかな?」
「オルヌルよ、許可しよう」
「黒雲平野戦線に鬼人兵を実戦投入してみるのはいかがでしょう?」
「確か、凡才の兵士でも卿の魔術によって身体能力を劇的に強化すれば、英雄に準ずる兵士として使えるのであったな?」
「ええ、もうじき最終試験も済みますが故、そろそろライオネス皇帝陛下にもお披露目できるのではないかと」
「……ふん、ではその件については色々と楽しみにしておこう。ところでオルヌルよ」
雷帝は鷹のように鋭い眼光でオルヌルを睨んだ。
「何でございましょうか、皇帝陛下」
雷帝に一度睨まれてしまえば、大抵の者達は恐怖のあまりすくみ上ってしまう。しかし、オルヌルは至って平静に返事をしてみせたのだ。
「ここの所、帝都内並びに帝国領内周辺で獣人や浮浪者から行方不明者が多発しているらしいな? それについて何か心当たりはないか?」
「いえ、さっぱり。亜人でしたら奴隷売買を取り仕切っている地方領主や辺境伯にでも問い合わせるべき案件かと具申致しますが……」
「まぁいい。オルヌルよ、下がってよいぞ」
「ははぁ……」
貴族下げて平民上げして重税も課す帝王とか絶対内外に敵作りまくってる。でも敵作りまくっても全部俺が鎮圧するから問題ないよね! 文句あるなら喧嘩はいつでも受け付けるぜ! という脳筋スタンス。
なお、齢にして13歳でギガースナイツを率いて時速100kmのスピードマラソンしながらクーデターを一夜で鎮圧した実績もあるらしい。雷魔法使えるやべー奴なのに、肉弾戦の方がなお大好きというやべー奴。毒盛られたり暗殺とか日常のように狙われてるけど雷帝は元気です。
なお、童帝でもある




