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第十一話:四大魔公? いいえ、二大魔公です


 大魔会館での一件を終えて、私は少女に担がれながら死臭漂う暗室の中へと運ばれた。そこに至るまでの間にすれ違った魔族達の少女に対する視線と顔ぶれだけは、覚えておく事にした。


「【ネクロマンシー】」


 少女屋敷の地下室に来るのも5度目になるのだろうか。少女と出会ってからも一月も経たぬ間にそれだけの数の死を私は経験している。さっきまでの状態にしても、胴体から上半分だけで活動するという情けない有様なのだから。


「悪いな、ゾンヲリ。今しばらくはその肉体で我慢してくれ」


 結局、以前使っていたカイルと呼ばれた戦士の肉体に退避する事になった事に、少女は申し訳なさそうに頭を下げて見せた。


 現在の(カイル)の肉体は死後から数日経過しているせいか中身は大分腐ってきている。この感覚は一度覚えてしまえば二度と忘れられるモノではない快楽(いたみ)なのだが、健常な肉体の感覚を覚えた後だと辛く感じる物がある。


 しかし、これ以上の肉体を用意する術は現状ない。


「……それと、ルーシアの魔法から庇ってくれたことには一応感謝してる。ありがとうゾンヲリ」


 身体を起こし、少女の前に跪いて見せる。


「いえ、そのお言葉だけで十分でございます。ネクリア様」


「だけど、何であんな無茶したんだ。ルーシアは魔族の中でも魔力では魔王様にも匹敵する程の化物だぞ。機嫌が悪ければお前の魂ごと滅されてもおかしくはなかったんだからな」


 ほんの戯れで魔法を放てば上級悪魔グレーターデーモン階級の魔族であっても一撃で屠られる。ルーシアはそれ程の強者だった。本気でその身に宿る膨大な魔力を放とうものならば、あの会場内に居た存在全てを一瞬で灰燼に帰す事も可能だろう。


「気が付けば身体が勝手に動いておりました」


「……呆れる程に馬鹿な奴だな。私なんかの為に身体を張ったって何にも差し出せないぞ」


 大魔会館での出来事を未だに引きずっている少女は、自身を卑下していた。


「私は滅ぼされても替えが利きます。それに、ネクリア様の命以上に優先すべく事もありません」


 ゾンビは所詮消耗品でしかなく、そのゾンビに対して親身になって使役してくれる者は少女の他に居ないのだから。打算的に言ってしまえば、私は順当に生存戦略に則った行動をしたまでだ。


「……お前の代わりが務まるゾンビが居るとは思えないけどな……」


 少女は小さな声でそう呟いた。


「まぁいい。ここに居ても鼻がつまりそうになる。さっさとリビングにでも行こう」


「はっ」


 少女の後を追って地下の階段を上り、客間に着くと、少女はおもむろにソファーに腰をかけた。


「ん? どうした。ゾンヲリも座ったらどうだ?」


「今の私が座れば、床やソファーが汚れてしまいますので」


 既に汚汁が青ざめた皮膚の上に滲み出ており、死臭も遠巻きからでも分かる程に目立つ。少女が快適に生活できるようにと掃除した部屋を、自ら汚すのは忍びなかった。


「気にするなよ。どうせ数日後には前の汚部屋に逆戻りなんだからなっ」


 少女は一週間以内に死体千体分のゾンビを作り出すという仕事を課せられている。その死体の大半は朽ちかけの腐乱死体であるし、それだけの数の汚物が渡り歩けば屋敷などすぐに汚れ堕ちる事になる。


 私がここで突っ立っていた所で何も変わらない。そう少女は言っているのだ。


「……では失礼します」


「うむ」


 少女はテーブル台に飾られたイチゴを一つ摘み取り、一口で頬張る。


「ほむほむ、まずまずだな。お前も食べるか?」


 そして、もう一つのイチゴを摘み取って、テーブルの上に上半身を乗り出そうとする。


「いえ、大丈夫です。私は食事を必要としませんので」


「そっか」


 暫くは無言のままイチゴを頬張り続けていた少女なのだが、今はそわそわしている。どうも見られているのが気まずいようだ。


「いや、黙ってないで何か喋る事とかないのか? 例えばルーシアの魔法(ソニックスラッシュ)を切り裂いて見せたアレについてとかさ」


「斬魔剣の一種です。魔を宿した剣ならば魔法を切り裂く事も可能です。それであのルーシアの放った魔法を切り捨てようと思ったのですが、力量と魔力に差がありすぎて軽減するのが関の山でした」


「なぁ、傍から見ればその考え方は大分クレイジーだぞ。魔法を切れなければ攻撃魔法が直撃するんだぞ? 普通に考えて死んじゃうだろ……」


 確かに、こんな戦い方を続けていては生き残る事は困難だろう。事実、ゾンビでなければルーシアの魔法を一撃受けた段階で即死している。


 何故、魔法を切る事が出来ると発想できたのか。思い返してみれば大分不思議な話ではある。だが、納得できる答えは一つだけある。


「私は戦士です。それに……」


 戦う度に少しずつ記憶が戻ってきている気がした。窮地に立てば立つ程、強者に相対していく程、敵を殺す必要に迫られた時、その手段が脳裏に浮かんでくるのだ。


「そうでもしなければ、私は敵を殺せませんので」


「……はぁ、頭が痛くなる話だな。ゾンヲリ、お前って一体何者なんだ?」


「……分かりません」


 思い出せないというのは、恐らく"どうでもいい"事なのだろう。


「それよりも、四大魔公とは何なのでしょうか? 特に、あのベルゼブルという男のネクリア様に向ける敵意は尋常ではありません」


 ベルゼブルと呼ばれた男は一見冷静さを装っているようだが、少女に言葉を投げかける際には底知れぬ悪意に満ちていた。少女の事を取るにも足らない相手と決めつけるのならば、ルーシアのように歯牙にもかけない立ち振る舞いをする方が自然だろう。


 目先の戦争という重要な話の腰を折ってまで少女をいたぶる魂胆が気になったのだ。


「ベルゼブルに関して言えば親魔王派閥の親父とは政敵だから、と言えるのかな。だから事あるごとに嫌味を言ってくるんだよ。それと、これは私の憶測になるんだけどさ、一年前の人間との戦争では魔王様と親父は包囲されるように最初から仕組まれていたと思う」


「その根拠はあるのでしょうか?」


「人間連合軍との戦闘で殆ど被害を受けなかった唯一の軍は、作戦を考案した本人であるベルゼブルの所だけなんだよ」


 敵対する派閥の勢力を弱体化し、自身の勢力に余力を残しておく。単純な話ではあるが、実に合理的に魔族国内での影響力を高める事が出来る策謀だ。


「先の大戦で親父とギィルガワロス軍はほぼ壊滅し、最強のルーシア軍や中央区の魔族達にすらも多少被害が出る程の激しい戦いだったんだ。それに、ベルゼブル軍と戦闘を行っていた帝国軍が示し合わせたかのように不可解なタイミングで引いたのも気になる」


「……ベルゼブルが帝国と通じているとは咎められはしなかったのですか?」


「無理だよ。そんなの。強く発言できる立場の魔王様は意識不明の重体のまま未だに回復しないし、魔王様の軍が崩壊寸前の所を救出したのは当のベルゼブルなんだからさ。ルーシアは暴れたいだけで他の事はどうでもよさそうだし、私が何か言った所で逆恨みにしかならないんだから」


 少女はひとしきり言い終えると、深い溜息をついた。蝙蝠の羽根も力無く項垂れている。


「ちょっと愚痴っぽくなったな。ごめん」


「いえ、ネクリア様は今までお一人でアレらと関わって来られたのですから、無理もないと思います。私でよろしければいくらでも愚痴を仰ってください」


「むう、あんまり優しい言葉で私を甘やかすなよ? ゾンヲリ」


 少女はこれまで一人孤独に大魔公という立場を背負ってきた。その責任と重圧は私には計り知れない。だから、少女の見た目と年齢相応になるよう少しでも軽くしてあげたかった。


「出過ぎた真似を申しました」


「ま、気持ちだけ受け取っとくよ」


 少女は一瞬笑いかけると、少し表情を引き締めた。


「それより、四大魔公についてだったな。魔族国の外周四区を統括する最も力ある存在をそう呼ぶのさ。東地区の龍魔隷嬢(ドラグスレイブル)ルーシア、北地区の古魔大公(デーモンデューク)ベルゼブル、南地区の黒龍帝(ブラックドラゴンルーラー)ギィルガワロス、そして西地区の親父に代わって私だ」


 少女は自分を指さして精一杯に胸を張って見せた。


「知っての通り、親父とギィルガワロスはもう既に死んじゃってるから、今は二大魔公なんて呼ばれてるけどな……」


 少女はすぐにしょんぼりしてしまった。


「さっきベルゼブルについて話したのでルーシアについてもちょっと触れようか。なぁゾンヲリ、ルーシアのあの痴女みたいな恰好と紋様。気になったろ?」


 素肌を晒していない部位は殆どなく、太ももや下腹部に浮かび上がる紋様は嫌でも目を引く。あの場でなければ目に対する刺激が強すぎる恰好であるのは間違いない。


「い、いえ。そのような事は」


 少女にジト目で顔を覗き見られてしまえば、多少取り繕った所で私の些細な嘘など簡単に見破られてしまう。


「……お前って隠し事下手だな。あの紋様は隷魔紋と呼ばれるんだけど、とある代償の代わりに魔力量を増大させる効果が秘められているんだ」


「代償、ですか」


「主人に対する絶対的な忠誠と隷属を強要されるんだ。それに反した場合、隷魔紋によって魔力の大半が吸われてしまうというものなんだよ。ちなみに、隷魔紋によって魔力が増加している時は白く光り、逆に制約に反している場合は黒色になる」


 大魔会館で見かけたルーシア時点の紋様は黒く塗りつぶされていた。つまり、誰にも隷属しておらず、制約によって封印された状態でアレだけの強さを持っているのだ。


「察したみたいだな。ルーシアは自身で強すぎる己の力を落とすためにわざとあの隷魔紋を刻んでいるんだ。誰の支配も受け付けない隷嬢(スイレブル)ってわけだな。まぁ、噂じゃ自分より強い奴と戦いたいからそうしてるらしいんだけど……酔狂な話だよな」


 まさに力の求道者ともいえる存在だろう。あの紋様が白く光るような事があれば、単身で世界を敵に回す事も可能なのかもしれない。


「末恐ろしい話ですね」

「ま、あの様子じゃ一生独身のままだろうけどな! ゾンヲリ、お前もそう思うだろ?」


 そう軽く言ってのける少女はやはり大魔公だった。


「そ、そうですね」


「なぁなぁ、他に何か聞きたい事とかあるなら今のうちだぞ? 明日からはお前も凄く忙しくなるんだからな」


 ……少女はどうも色々話し足りない様子だったので、話飽きるまで聞き続ける事にしたのだ。

何処かのロマンシングな話でも、アラ〇スとア〇ナスを除いた二体を2魔貴族と呼んだりするしね!

〇にカとかホとか入れないようにね!


ハハッ、ギガワロスワロス


設定補足

四大魔公日本語読み想定

龍魔隷嬢りゅうまれいじょう

古魔大公こまたいこう

黒龍帝こくりゅうてい

屍麗姫しれいきネクリアさん十三歳の異名がこれ


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