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第七十四話:戦場視察 日喰谷


 鉱山都市(ミンヒルズ)へと続く峡谷道。そこは、断崖絶壁の岩壁で挟まれており、正午になるまで陽の光が差し込まない事から、日喰谷(ひぐらいだに)と人間の言葉で呼ばれている。このような仰々しい名前を持つ砂と塩の道だが、魔獣の類が寄り付く事はあんまりない。


「ゾンヲリ殿、ここは私達の遠いご先祖様が途方もない年月をかけて掘り削って出来た道なんですよ」


「私から言わせれば、山を削るより周囲の森に火を放って道を作る方が手っ取り早いように思えるが」


「ははは、確かにゾンヲリ殿からすればその方が楽に見えるかもしれませんね。ですが、緑を侵せば魔獣達は餌を求めて人里を襲いに来ます。私達のような兵士はともかく、農民達は狡猾な魔獣と戦う術を持ちませんから案外大変なんですよ」


「つまり、魔獣の領域を侵さずに、左右が強固な防護柵で囲まれている安全な連絡通路を作るために山を掘ったと」


「ええ、私達コボルトは岩堀りだけは得意ですから」


「随分と馬鹿げた話のように聞こえるのだが、これほどの見事な要塞をこの短期間で建造されてしまえば、もはや何も言えなくなってしまうな」


 鏡銀(コバルト)色の二頭の竜人が見上げたのは、峡谷道を横断する厚手の岩壁。それは、関所を模したような構造の簡易砦だった。


「ゾンヲリ殿、これは神官達に【アースウォール】を使わせて表面だけはそれっぽく加工しているだけで、中身は精霊魔法でかき集めて出来たただの土くれや砂なんですよ。ですので強い衝撃、例えば【ファイアーボール】やバリスタと呼ばれる人間の使用する兵器や魔法を一発でも撃ち込まれれば簡単に倒壊してしまいます。言わば、砂上の砂城のようなものですね」


「その方が都合が良いさ。これは"敵に見せる"ための単なる囮でしかない」


「……しかし、敵は本当に"陽動"に引っかかってくれるものでしょうか?」


 高度な作戦を考える。実の所、考えるだけならそれ程難しい事ではない。しかし、実際の行動に移すとなると、そこには莫大な経費と責任が発生する。大がかりで変則的な奇策であればある程、万が一に敵に看破されでもすれば、間違いなく窮地に陥る。


 例えば、"陽動前"に不意に【ファイアーボール】を一発でも放たれれば、それだけで砂城は崩落し、要塞の警備隊が一瞬で全滅しかねない。このリスクを承知の上で作戦を遂行しなくてはならないのだから、実行部隊には常に不安が付き纏う。


 当然、ベルクトも疑心暗鬼に囚われかけていた。


「その時はその時だ。もしも"最悪"が起こりえる場合には、私が出て何とかしよう」


 ゾンビウォーリアーはプランBの存在を匂わせた。そう、匂わせただけである。


「でしたら、ゾンヲリ殿には最初から前線に出て頂く方がよろしいのではないでしょうか?」


 隘路(あいろ)という数の暴力を封殺する地形にゾンビウォーリアーという強力な戦士を配置すれば、正面から戦ったとしても練度と地形効果の差から有利に戦闘を展開できる。優秀な兵士を控えに遊ばせておくのは無駄という考え方もある。それがベルクトの指摘だった。


「その場合、敵は私という戦力を最初から念頭においた上で攻め込んで来るだけだ。防御に徹して時間をかけすぎれば、敵の我々に対する脅威認識が次第に改められ、"強力な増援"を派兵される可能性も否めない。決定的勝利を収めるには、相手の計算を崩して凌ぎきった上で迅速に攻撃に転じて鉱山都市を攻め落とす必要がある。その為には、私の存在は可能な限り伏兵として秘匿しておく方がいいだろう」


「ではやはり、敵の第一波は可能な限り私達コボルトだけで凌がなくてはならない、と」


「そうだな。獣人(コボルト)が己の手で掴んだ勝利という"演出"は、これまでの敗北者としての歴史を終わらせ、軍の士気と統制を維持していくためにも必要になるだろう」


 コボルト軍の構成の大半は義勇軍、つまり農民や職を失った者達による志願制ではあるが、実際の所はほぼ強制徴用も同然である。そうして仕方なく戦争に駆り出された者達の多くは"己の命を守る"ために戦っているのだから、何かのきっかけで戦線が一気に崩壊し、脱走者だらけになったとしてもおかしくはない。


 故に、戦いの継続には勝利という美酒が必要だとゾンビウォーリアーは訴えたのだ。


「……ふぅ、こういう時にゾンヲリ殿が居てくれると心強いですね。もし、私が一人であったなら、とてもこの場所に立とうとは思えなかったかもしれません」


 作戦が一つ崩れるだけで大敗が確定し、完璧に作戦を遂行したとしても勝ちの目が薄い敗勢の戦。それでも尚、ベルクトが戦う事を諦めずにいられるのは、かつての大敵が今は心強い味方で居てくれる事に他ならない。


「一人で戦に勝てる気でいる者とは、ただの狂人か、身の程知らずか、あるいは死にたがり位のものだ。ヒトが一人で戦って勝てる程、戦いは甘くはない」


「はは……かつて私達を一人で蹴散らした戦鬼(オウガ)の台詞とは到底思えませんね」


「あの時は魔術師の作り出した混乱に乗じて強襲を仕掛けただけに過ぎない。逆に言ってしまえば、軍の統制が乱れていない間は私も安易には敵地に踏み込めないのだ。それに今、こうして死人として立っているのは私の方だろう?」


 二頭の鏡銀鎧の竜王は互いに自嘲気味に笑い合った。


「……そろそろ覚悟を決める事にしましょう。私はこれから司令部でフルクラム殿と作戦の最終調整に入りますが、ゾンヲリ殿はどうしますか?」


「私はこれから要塞線の迂回路となる北の湿地林の地形を下見する予定だ。恐らくそこが私の指揮する部隊の主戦場となる可能性が高いのでな」


 日喰谷を経由しなくても鉱山都市から獣人領へと侵入する通路は幾つか存在する。そのうちの候補の一つが、谷を迂回した先にある広大な湿地林である。道路が整備されておらず、迂回路であるために移動には長い時間を要し、魔獣も生息しているので大規模な軍の進軍ルートには適していない。


 しかし、少数の精鋭ならば湿地林を通過して獣人国内に秘密裏に潜入し、日喰谷の要塞線を背後から奇襲、あるいは獣人国内の村を略奪して混乱を発生させる、といった戦術をとられる可能性があったのだ。


「分かりました。では、何時までもゾンヲリ殿を"お借り"していては申し訳が立ちませんので、ここで失礼しましょう」


 竜王ベルクトが背中を向けてその場を立ち去ろうとする。


「ベルクト殿、待ってくれ」

「何でしょうか?」


「もしも、現状到底勝てないと思える相手が現れた時の対処法は三通りある。一つ目は奇襲して不意打ちを仕掛ける、二つ目は一先ず逃げて有利になるまで機会を待つ、最後は援軍が来るまで防御に徹して耐えて"数の暴力"で仕留める事だ。ヤケになるのはその後からでも遅くはない」


「……覚えておきましょう」


 竜王ベルクトを見送ったゾンビウォーリアーは一息をつくと、岩陰に目をやった。


「で、貴女はいつまでそこで見ているつもりなんだ」

「あ……、もしかして、バレてた?」


 ひょっこり岩陰から顔を出したのは翠髪のエルフ、ブルメアだった。


「ある程度の実力を持つ戦士ならば下手な潜伏は気配で気づく。少なくとも、ベルクト殿は尾行には気づいていたようだぞ」

「あ、あはは……なんか重要そうな話してたから邪魔したら悪いかなって思って」


いきなり戦闘入るべきか迷ったけど、戦場の地形を若干描写する事にしたらしい。またブン……ブン……と尺が伸びるのは御愛好……。


なお、ゾンヲリさんは人には御高説を垂れ流すけど、自分でそれを守っていない模様。ネクリアさん十三歳が絡むと、毎回ヤケクソの万歳特攻ばかりになってるからね!


下記が万歳特攻例

 1.女騎士さん

 2.ヴァイス君

 3.不死隊=サン

 4.グール=サン

 5.一般通行魔獣=サン

 6.鉱山都市傭兵隊 総勢2000名


う~ん、この……。

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[良い点] 少なくとも死にたがりの狂人すね
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