表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/270

プロローグ


 ぼんやりとした意識のまま、闇一色の世界を漂い続けていた。


「………」


 歩いているのか、浮いているのか、前に進んでいるのかでさえも定かではない。この状態でどれ程の時が過ぎ去ったのか、いつからこの状態であったかのかさえも分からない。自分が何者であったのかさえも。


「………」


 ただ、薄っすらと"声"が聞こえる。それで初めて"音"という感覚を覚えたのだ。だからというわけではないが、自然とその音に惹かれていた。"何もない"という今の状態から、何らかの変化を期待していたのかもしれない。


「………」


 音の元へと近づくと、黒は閃光によって真っ白に塗りつぶされた。


 その後に映し出された世界は、辺り一面が劫火(ごうか)で焼き尽くされていた。金属や肉の焦げる"臭い"で息苦しくなりそうなものだが、無音無臭のただの映像でしかなかった。


 その景色の中で特に特徴的だったのは、焼けただれ朱色の液体へと溶けていく石の城と、それを天上から見下ろす黒翼の巨獣だ。黒翼が幾つもの呪いの言葉を重ねると、炎は雨となって天から降り注ぎ見える全てを焦土へと変えていく。


「………」


 忘れてはならないと、内側から波立つ"感情"が叫ぶのだ。そうだ、その景色には"覚え"があった。なのに、それ以上を思い出そうとすると、(かすみ)がかかっているかのようにぼやけていく。


 次第に景色も元の完全な黒一色へと戻ってしまった。


「………」


 激情のままに叫ぼうとする。しかし、叫び方が分からない。剣を振るおうとする。だが、腕が無ければ何も振るえない。それでようやく気がついた。この場所で過ごすのに、自我というものは不要の長物でしかなかったのだ。


 先ほどの景色を思い出してしまったが故に、"この場所の恐ろしさ"も思い出してしまったのだ。それからと言えば、ただひたすらに"声"を追いかけていた。


「……………を望むのであれば、もう一度立ち上がるがいい」


 そう、はっきりと少女の声が聞こえた時、世界は眩い光に包まれた。そして……。


「ガアアアアアッ!? ア"ア"ア"ア"ッ!?」


 初めての鮮明な感覚が"痛み"だった。濁流の如く全身を駆け巡る激痛に悶え苦しみ、ただひたすら()()()石床の上を無様にゴロゴロと這いずり回っていた。


「むむむ、これは失敗したかな。自我を残したままゾンビ化するとは運のない奴だな」


 などという、少女の呆れ声が聞こえてきたような気がしたが、転げまわった際に腕がボロっと千切れた痛みと、熱したマグマを一気飲みした後のような体内が内側から(ただ)れる痛みの二重苦のせいでそれどころではなかった。


「はぁ……とりあえずうるさいコレは放っておくか……ついてこい、お前ら」


 少女とその付近にいた存在達は、私を無視して石階段を登って何処かに立ち去ってしまった。そして、光が殆ど刺しこまない暗室に閉じ込められたまま、時間の感覚がなくなるまでの間、一人で延々と叫び転げまわっていた。


「い"で"ぇ"ぇ"え"!!!!!!!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ