ユキちゃんは縫う。3
布団の上で何かブツブツ言っていたあの子に近づくと、少しポカンとした様子で私を見た。
それを気にせず、私は籠の中から針と糸切りバサミを出して使えそうな糸を探しながら、あの子にどのタイミングで話しかけようかと思ったら
「何をしているのですか。というか誰?」
とあの子から、聞いてくる。
私から話しかけるつもりが逆に話しかけられたので、どう返したら良いのか分からず思わず、あの子の目と髪をよく見る。
部屋に入ったときから思っていたが、あの子の髪と目は、最初に見たときの薄紫色じゃなくて黒色に変わっていた。もしかしてこれが本当の髪色なのかな。ここに来た時は変身していたのかもしれない。そうなってくると、あの子は私がいたみたいな世界じゃなくて、キキがいたような世界の出身かもしれない。
「ああ、私はユキ、あなたの傷を縫いに来たの。」
自分の名前と、縫いに来たことを言った。
あの子は目をパチパチさせて、私の方を見る。まあ、いきなりそう言われたらわけもわからないだろうなと思いながら、話しかけたそうなあの子を無視して、あの子に使えそうな糸を探す。
あの薄紫色が変身した時の色ってことは、出来るだけそれに近い色を使った方が解けにくくていいのだけれど、あいにく今持っている色にないため、出来るだけ近い色で代用する。
「あったあった、これがあなたにちょうどいい糸の色だ。」
籠の奥底にあった糸束を取り出した。あの子の色と比べるとだいぶ濃いがなんとかなるでしょう。
さっきから私のことを布団にくるまってじっと見ているあの子に向き合う。
布団にくるまっていると縫えないから、あの子には悪いけど、布団を脱いでもらう。
「ごめん、布団邪魔だから」
「うあ、いきなり何……なにこれ」
あの子は布団を退けられ初めて自分の足を見たようで、信じられないと言う風に何度も瞬きをしていた。
糸が抜けすぎて、中身が見えいるし、しかも足のとこから抜け始めたんじゃなくってもっと別の所からちぎれて抜けてる。足以上にひどいところがあるわ。ふむ、
「これはお虎さんが私にたのむわ。
あの人細かいことは苦手だから。ちょっと、痛いけど我慢してね。」
本当は抜け始めた所から縫いたいけど、多分そこは服の下にあるから脱がさないといけない。無理やり脱がした方がいいと思うかもしれないが、驚いて糸抜けを起こした様な子にそんなことをしたら暴れて、もっと糸が抜けたりちぎれたりする。だからあの子に見えている足から縫い始めることにした。
「いや、その糸と針で縫うのですか。
明らかに人の身体を縫うようなものじゃないですね⁈どう見ても、お裁縫道具の糸と針ですね。夢だとはいえ、そういうの使われるのはちょっと、」
抜けている所に針を刺そうとしたらそう言ってきた。まだあの子、夢だと思ってる。まあ大概の人は、これからすることで現実だってわかるんだけどね。私はあの子をちらっと見た後
「まあ、いいから素直に縫われなさい。」
と言って、針をその隙間の一つに刺した。うん、これが地味に痛い。
案の定、あの子も痛かったのか「いたっ」とあの子は声に出した。
ユキちゃんは縫う。終




