表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
X NightS ~スラム育ちと騎士団長の叛逆譚~  作者: 夢莉
1章:鳥籠の大帝国
3/6

3:運命共同体

「それじゃ晴れて僕と君は契約者同士、協力者同士、共通の目的を持ったいわば同志になったわけだが、何かこれについて異存はあるかい?」



「うまい事言ったつもりか!異存はねえ。…異存はねえが聞きたいことが多すぎる、何から聞けばいいかもわからねえがとりあえずはっきりさせたいことが一つある」



「なにかな?」


「これまでずっと気になっていたんだが―――お前、いったい何者だ?」



それは初めて会ったときからこの青年に対する大きな疑問だった。


大柄な男数人の前に現れた青髪長身の美丈夫な青年。自分を助けると安全を確保したいと言い出す。

その高貴な容姿や立ち振る舞いもさることながら、最も気になるのはその力だ。


かなり大振りなナイフを片手て爆散、そんな芸当が出来る人間は世の中にそう多くはないはずだ。

これから背中を預けあう仲なのだ、それぐらいはハッキリさせておいた方がいいだろう。



「…んー」



あの饒舌な青年が珍しく黙り込んだ。やはり何か裏がありそうだ。



「言いにくいって事は後ろめたいって事だな。お前の事、がぜん興味が湧いてきたぜ。命の恩人さんよ」



「違うんだよ、僕の事を語れば君はきっと信じない、それどころかいまにもまして警戒心を増すだろう」



「なんでだよ。お前がある程度いい身分にある、あるいはあったことぐらい無知の代名詞である俺にだってわかる。お前の心配は杞憂だと思うぜ?お前が何者だろうと俺は大して驚かない…はずだ」



「…わかった」



そう言うとルクスは最初に出会った時も背負っていたバックパックから綺麗なブローチを取り出し、よく見えるよう寄せてきた。

装飾が鮮やかで、いかにも高級そうだ。ブローチの中心をそのまま交差点として、赤い十字が刻まれているが印象的だった。



「君はこのマークをどこかで見たことは無いかい?」



「いや、ないな。スラム育ちの無知なめちゃいけねえぜ?」



「そうか。――――これは帝都センタジア所属、聖十字騎士団。その団長を証明するために用いられたものだ」



「なっ―――ッ!!じゃあお前は!」



「そうだ、僕はこの帝国センタジア所属、聖十字騎士団、団長ルクス=バーリアルだ」



「―――」



金槌で頭を思い切り殴られたような衝撃だった。

確かに高貴な容姿、異常なまでの武力、その観点で見ればそのぐらいの地位にいる事には納得がいく。


だが、先ほど自分が結んだ契約、それがどうしても彼の立場とは矛盾しすぎている。

「なん…だと?団長であるお前がどうして、それだけじゃないだろう、団長であるお前が国家反逆罪に手を突っ込んでいるということは…まさか…クーデター!?」



「それは早計だよ。トーマ君、僕は今君になんと伝えた?」



「?。どういうことだ…?俺は聞いたまんまだ、お前が聖十字騎士団―――」



「ストップ、そこで矛盾が発生するんだ」



「矛盾?もういい全部まとめて話してくれ、全く話が見えてこない。」



迂遠な言い回しにいい加減腹が立ってきた。ルクスの身分に納得はしたが未だ彼が真に伝えようとしていることがわからない。



「今この国に聖十字騎士団なんて騎士団は存在しない」



「…は?」



「それどころか、僕には騎士団長であった時の記憶が一切ない。覚えているのはこのブローチが騎士団長の証であるということ、自分の名前、―――あとはこのデンタパークが今とは考えられないぐらいに栄えていた時の記憶だ」



「なんだって?デンタパークが栄えていた時の記憶?うそつけ、この街は俺の知り合いの老人が赤ん坊の頃からスラム街だったって聞いてる。そんな記憶、ありえるはずが…」



「だが僕はそれを覚えている。理由は未だ不明だ、自らに課された使命、誰に言われたわけでもないのに不思議だね。僕はこの街を、この国を救うべくここにいるみたいだ」



「なにをいってるのやらさっぱりなんだが…」



「あははっ、だからわかってもらえないと思ったんだよ。僕ですら把握してないこの状況を他人に説明する術なんて僕には持たないからね」



弾けるように笑ってルクスは取りだしたブローチをバッグの中に再び戻した。



「さて、これが僕の語れることのすべてだ。どうだい?目的の情報は聞き出せたかい?」



「いいや、全く。ますます疑問が増えた。だが―――」



記憶が無くて自分の事がさっぱりわかりません、そんな説明を聞いて納得できる者などこの世のどこににいようか。



「―――嘘では、ないんだな」



「神に誓って。今語ったことは全て僕が語れる真実だ」



「わかった。わからないことだらけだがわかったことにしておく」



「それは助かる」



確かに色々疑問点はあるが、それ以上語れないというのならそれは野暮という奴だろう。それが真実でないとしても、スラム街に住んでいる人間に王国の関係者だとは明かしづらいことだろう。


わざわざそこまでして嘘だとは思えない。その点、この男は信頼に値すると言っていいだろう。



「じゃあ続けてで悪いんだが俺とお前との契約内容の話だ。自慢じゃないが俺はこの街から出たことが無い。すなわち外界の事が全く分からないわけだ」



裏路地で男たちに襲われて、それをこの青年に助けられ、さらには起きた直後に意味不明な契約を結ばされる。今まで生きてきて一番濃密な一日を過ごしているに違いない。


逐一質問していては話が進まないのでわざわざ聞くことはしなかったが、治癒魔法もこの腕に刻まれた大量の術式もまるで意味がわからない。そもそも魔法なんてものがこの世に存在してること自体今日初めて知ったのだ。



「まずはこの腕に描かれた術式みたいなやつだ。これはいったいなんだ?文字みたいに見えるけど意味のある言葉が書かれてたりするのか?」



そう言って左袖を捲し上げ朱色に染め上げられた社会的に痛々しい自らの腕を差し出す。



「ああ、そうだね。これは呪文の一種なんだ」



「呪文?」



「そう呪文だ。本来は詠唱を必要とするこれは文字に起こしても同じような効力を発揮する。かつて呪文で栄えた集落があってね、そこに刻まれてるのはその集落で使われていたものだ。契約内容の拡大解釈を防ぐため、やや厳重過ぎるほどに呪文を上書きした。そう言ったところだね」



「なるほどな。人様の体に勝手に落書きするとかお前教養なってねえだろ」



「君の言葉遣いには負けるよ」



ルクスのところどころ入ってくる皮肉は置いておいて、なるほどこの刻印はそういった意味があったのか。

呪文など未知の存在を知ってもそこまで動揺しなかったのはトーマ個人の飲み込みの早さが由来か、あるいはそれほどまでにルクスの説明に惹き付けるものかあったのか。



「ふむ…つまりはこういうことか。口約束だけじゃ契約に関する細やかな部分に齟齬が生じる。だから呪文とかいうわけわからん媒体を使って契約書代わりに俺の体を使ったって理由だ」



「そう。つまりはそういうことだ。未だこの世界に呪文を使える者は少ない。そういった契約は一般人にでさえ経験が少ないだろうね。皮肉だが君は貴重な体験が出来たわけだ―――ふっ、どうだい?新しい道へ踏み出す丁度いい一歩になっただろう?」



「あはははは〜。面白い冗談ですね〜」



踏み出す一歩ならもう少し優しいタッチでも良かったのではないだろうか。



「…はぁ。色々ありすぎて疲れちまった…」



「それは困った。まだあの時の傷が体に響いているんだね。もう少し休んでいるといい」



「いいや、そういう訳にはいかない、まだ一番大事な事を聞いていない」



「ほう」



「この街を救うってったよな。悪いが俺はそんなこと絶対に出来ないと思っている。具体的な話を聞きたい」



「わかった。なら少し外に出ようか」



「あ?」



「実際に見てみようじゃないか。君が絶望しか見ることの出来ないこの街をね」



美丈夫は微かに笑うと席を立ち。身支度を始めた。








****************








300年前、世界を戦火の渦に巻き込んで破壊に破壊の限りを尽くし、絶望を振り撒いた悪夢の体現とまで言われる大戦―――「革命戦争」。その大戦で他の追随を許さない圧倒的な強さを誇り、絶望の中心地となったとなった「大帝国センタジア」。


おぞましき歴史をもつかの帝国だが―――大戦中の記録が一切無く、現代まで伝わるのは絶対的戦勝国であること、その事実のみだ。


そんな謎に包まれた帝国―――その西端に位置するのが現在トーマ達が拠点にしているスラム街、通称「デンタパーク」だ。


巨大な壁に隔てられ、国外へ逃亡すること、帝国内に入る事も許されない。


生まれて死ぬまでデンタパークと運命を共にする、それがこの街に生まれたものの運命となる。


しかし、どうやら初めからこんなどうしようもない街でもなかったらしく、街に残る面影には不思議な乗り物や見たこともないような武器―――そのような廃材が多く転がっていた。何分歴史的資料が残っていないため詳しいことはよく分かっていないのだが。


残っているのは結局廃材ばかり、外から入ってくるものとしたらセンタジアでのゴミの回収日。その日に次々と投入されるゴミばかりだ。トーマはその中から使えそうな本や資料を探し出し、独自に勉強をしていた。デンタパークの中でも中々外界の情報には詳しいのではないだろうか。


だが、結局はそれも蓄えるだけ無駄。外の世界に思いを馳せるばかりで自分では何も出来ない。何をする資格もない。



それが絶望以外一体どんな形で形容できるだろう。





「…で、ルクスさんよ。こーんな高い建物まで来て、一体何が見えるっていうんですかい?」



「そうだね。見せたい景色は時間が過ぎれば…いや気持ち次第でいつでも見られるはずなんだが」



「なんだよその訳わかんねえ言い回し…」



「それはそうと、時にトーマくん、君があの時男達に追われていた理由はなんだったんだい?」



「ん?あぁ、あれは…」







―――時間を遡ること数時間。


トーマは死の淵に立たされていた。



「これ…は…マジでやばい…死ぬ」



最後にまともな食事をしたのはいつだっただろうか。月に3回しかない食料支給日、その3回ともまともに食料を獲得することが出来なかったトーマは冗談抜きで死に目にあっていた。



「俺もついに天に見放されたみたいだ…と。ん?あ、あれは…!!」



足元をおぼつかせながら食料を探すために歩いているとそこに居たのは昼間からバカ騒ぎしていたこの街の自警団を名乗る集団だった。


自警団と言うにはやや、周りへの配慮が足りていないというか横暴と言うか…そんな様子からデンタパークで決していい目では見られていない集団だった。



「相手の数は5…いや6か…。こちらは数日間ろくな食事もとっておらず腕力も脚力も…今は胆力も…ない!!」



しかし、それを身につけるために今必要なのは食事だ。今の食欲の権化であるトーマには周りへ配慮している場合では無かった。狙うはあの大きな袋に入った食材、その一点のみ―――



「ラッシャァァァ!!ざまあみさらせ!自称自警団共がァァァァ!!」



気合いだけで雄叫び、エネルギー不足も気にしない勢いで地面に置かれていた袋を強奪し、来た方向へ再び全力疾走。



「うおっ。何だこのガキ!お、おい!待てこの野郎ーーー!!!」



後からは慌てふためく自称自警団の足音が聞こえる。だが、これは負けるわけにはいかない戦いだったのだ。









「…と、まあまとめると食べ物に困っていたので一番近くにある食材を奪ったらたまたま自警団でした…みたいな」



「そこに僕が現れたわけか…全く、ほんとに命知らずだね」



「今思うと本当にそうだな。悔しいが助けてもらった挙句食事もご馳走になって…あれ?めちゃくちゃ助けられてない俺?あ、ありがとうございます」



「やめてくれたまえ。君にしおらしくなられるのも何だか気味が悪い。僕はね、僕の目的のため以外では動かないんだ」



「…」



最初のルクスへの印象は美丈夫で言葉遣いもよく出来ていて、完璧超人みたいなイメージが強かったが。…だんだんそのイメージが崩壊しつつある。


ルクスはこういう男だ、自分の利益以外では決して行動せず、案外自分にも他人にも厳しい一面を持つ。この器があったからこそ、架空の騎士団で団長を受け持つことになっていたのだろう。段々わかってきた。



「…で?ここからは何が見えるっていうんだ?」



「すぐに結論を求めようとするのは君の悪いところだと僕は判断している。考えてみたまえ、僕の質問した意味を、君がそんな境遇に陥った原因を…。自分の力で考えてみてほしい」



「…だから何を…。ん?あれは…ッ!!」



ルクスに説教を受け。見慣れた街を再び見回す。―――そこには先程の自称自警団に襲われている一人の少女の姿があった。



「畜生ッ!何が自警団だコノヤロウ…!!ただの犯罪者となんも変わらないじゃねえか!行くぞルクス!―――ルクス?」



「残念だが―――」




ルクスはこれまでに無いほどの冷酷な視線をトーマに向けて飛ばしてきていた。





「―――僕は何もする気は無い。行くのなら一人で行くといい」



「なんだと…!目の前で人が襲われているんだぞ…!助けに行くんだよ!俺を助けた時みたいに!」



「何か勘違いしてるみたいだが」



見るものを凍らせそうな凍てつくような視線はそのままに、眼下で襲われている少女とあの自警団に視線を落とした。



「『アレ』を助けても僕に何もメリットはない。救わなければ助からないようなら、幾分死んだ方がマシだ。あの時君のコンディションは最悪だった。あのまま死なせるのは惜しい、僕がそう考え、前もって協力させる事を前提に助けただけだ。今の君なら充分戦えるはずだよ。あの巨漢六人組を相手にどこまで出来るかは知らないけどね」



「……あぁ、そうだよな。そういうやつだったよなお前は!いつだって自分の利益の事しか考えてねえ…!!…お前もあいつらと同じだ!そこで大人しく待ってろ!」




そう言うと落下するような勢いでトーマは階段を駆け下りていった。いくら止めたって今のトーマは決して止まることはしないだろう。自分の利害も考えず一心不乱に他人を思う気持ち、そんなことをしているから―――。





「…全く、どっち譲りなのだろうね。君のそれは」




空から見下ろしていた月は、いつにも増して輝いていた。





今回のお話、いかがだってしょうか!?

初めての後書き投稿で緊張しております!お話を書くのと自分の言葉を書くのじゃやっぱり重さが違う!重過ぎる!

と、まあこっちの話はさておき、今回でクロスナイトは三話目の投稿となります!

展開の早さに定評のある僕ですが今回はめちゃくちゃ早い!マッハ!!

そんな超高速展開でもこうして後書きまで読んでくれるそこのあなた!本当に感謝の気持ちでいっぱいです!ありがとうございます!


さてさて、お礼も滞りなく済んだところで本題に入ろうかと思います!

今回は更新頻度のお話を少しだけ…。

これまでの三話を見て頂くとわかるとおり絶賛不定期更新中でございます!!(五日に一度程度かな

?)

これは良くない、仮に!もーしーも楽しみにしてくれている方がいらっしゃったら心が物すごく痛むので明言させてもらいます。


更新頻度は週一でやっていこうと思います!


これを最低更新頻度として頑張っていこうと思います!場合によっては2度3度になるかもしれませんがそこはどうかお許しを!


それでは今回はこの辺で!次回もよろしくお願い致します!!

それでは!!



                                           夢莉

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ