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サイサリア/ハイゼ  作者: スマ甘
8/14

ep.4.5

 【第二演習場】


 サイに新しい戦い方を訓練させてみた。

 新しい戦い方と言っても、ボクと全く同じ装備をさせただけ。

 ただし、追加スラスターは予備が無いので装備させていない。


 最初は動きがぎこちなかったけれど、1時間後には二刀流がサマになってきているので、数日訓練を続ければ、それなりに動けるようにはなるだろう。


「サイが二刀流できるなんて意外」

「いや、左腕はまだAIで補正させてるから動かしにくい。 ハイゼは補正なしでやってるんだろ?」

「まあね。 ジャグリングとかやってたから、すぐに慣れたよ」


 ボクは持っていたキロネックスを器用に回して、ジャグリングをしてみせた。

 サイは「すごいな」と言いながら拍手する。


「今日はここまでにしようか。 明日・明後日も訓練すれば、ある程度は二刀流もできるようになると思うよ」

「わかった。 じゃあ、ゆっくり休む」


 ◇


 演習場から少し離れたロッカールームに来たボクは、パワードスーツを脱ぎ、インナーから服に着替えようとして、自分のロッカーを開けた。

 すると、ボクの背後にサイが立って、後ろからそっとボクを抱きしめてくる。


「――サイ?」


 なんとか振り向くと、サイの熱っぽいまなざしがボクを追ってきた。


 ここはロッカールームの奥、しかも一番隅のほう。


 高さ180cmはあろうロッカーたちが目隠しになっていて、入口からは死角になっている。

 ……だから万が一人が通りすぎても、見られることはない。


「インナー姿のハイゼ……すごく色っぽい」

「何言ってんの、バカ」


 ボクは言い返すが、サイは何も言わずにボクの首筋に口付けをする。


 そのあと、湿り気のある熱い息が耳にかかり、ボクの背筋を「ぞくり」いや「ぞわり」と、なんとも表現し難い感覚が襲った。


「返事もしてないのに、そういうことをしようとするのは駄目でしょ」


 サイの体を押して彼を引き剥がし、ボクはさっさと服に着替える。


「――ケチ」


 サイは不満そうに呟いたあと、ボクの隣でインナーを脱いだ。


「……」


 全裸になったサイ。

 少し興味はあったが、実際に見てしまうと、何も言えなくなる。


 傷ひとつ無い肌に、鍛えられた逞しい体。

 サイの裸は、大昔の彫刻の裸体よりも美しかった。


 サイに気づかれないように、ボクは静かに唾を飲み込む。


「――――」


 そして、ボクが流し見てしまったのは、太くずっしりとしたサイの自身だ。


 いつか、あんなものがボクの中に入ってきて、ボクをめちゃくちゃに犯してくると妄想すると……正直興奮した。


「サイはまだ12歳だったよな?」

「そうだけど」

「家族は?」

「居ないよ。 親戚は居るけど、交流はしてない。 保護者も居ないから、ボクは全て自己責任で行動してる」


 ボクにはもう両親は居ない。 もちろん保護者も。


 ボクが所属するレジスタンスはただの雇い主であり、プライベートには一切干渉してこない。


 もし誰かが「人としてどうなの?」や「教育上良くない」なんて言ってきたら、ボクは躊躇なくそいつを殺すだろう。

 他人の分際でボクの生き方を邪魔するヤツは、絶対に許さない。 必ず殺す。


 そんなことを言ったのが子供であっても、容赦はしない。

 ボクが、1人で生きていくうえで決めたことだ。


「ハイゼは、(はた)から見ればまともな子だけどさ、中身は狂ってるんじゃないの?」


 笑いながら、服を着ているサイが言う。


 ――ああ、確かにボクは狂っているかもね。

 どこがどう狂っているかなんて、考えてたことはないけど。


「まぁ、細かい話は付き合い始めたらでいい。 ――オレは先に戻るぜ」

「だから、返事はしてないでしょうが……!」


 怒るボクを無視して、サイは先にロッカールームを出て行っく。


 そして1人残されたボクは、ただ静かに、ただじっとサイの後ろ姿を見つめ、立ち去って行く彼を見送った。


 ◇


 【作戦決行日】


 エイリアンの戦艦は、ガルフポート基地から直線距離で30kmの地点に居た。


 イオージマに乗艦したボク達は、作戦の最終確認を行ってから、着替えのためにロッカールームに来ている。


「ハイゼ。 先に格納庫へ行ってるぞ」

「わかった。 ボクもすぐに行くから、あっちで待ってて」

「おう」


 サイがロッカールームから出て行くと、残ったのはデイビッドとボクの2人だけとなった。


 ボクは普通に服を脱いで、インナーを着てからフロントを閉めようとした瞬間、デイビッドはボクの腕を掴んで、インナーをはだけさせてきた。


「――デイビッド?」


 とたん、デイビッドは怒りを(はら)んだ目で、ボクを見る。


「――ハイゼ、首筋の"それ"はなんだ?」


 デイビッドに言われて、ロッカーの扉に付けられた鏡を見る。

 そして、ボクの首筋には赤紫の小さな痕――いわゆるキスマークがついていたのだ。


「あの野郎……」


 ボクは唸るような声で呟いていた。

 隣のデイビッドは、ただ唖然としている。


「サイサリアにつけられたのか?」

「そうだけど、サイと寝てはいないよ。 ただ、首にキスされただけ」


 答えると、デイビッドは頭を抱える。

 どうして、頭を抱えるんだろう?


「別に誰と関係を持とうが、ボクの勝手でしょ?

 だって、ボクはレジスタンスに雇われたただの傭兵なんだから」

「でもな……」


 インナーに着替え終わったボクは、バタンとロッカーの扉を閉めたあと、ロッカールームを出ようとした。

 そして、ドアの前で足を止める。


「"教育上よくない"なんて説教したり、サイに"人としてどうなんだ"とか言ったりしたら、確実にあんたらを殺すから、覚えておいてね。 その言葉、ボクの地雷だからさ」


 ◇


 【イオージマ:飛行甲板】


 パワードスーツを装備したボクは、サイの隣に並んだ。

 そして、武器やスラスターの最終確認を終わらせ、姿勢を低くする。


「ボクとサイは、雑魚を無視して戦艦に直行すればいいんだね?」

「そうだ。 ヤシロ達を追うエイリアンは俺達に任せろ」


 後ろに居るルドガーが、笑いながらボクの肩を叩いた。


「それじゃ、海月ハイゼ」

「サイサリア・グラウゼン」


 2人揃って名乗り、スラスターの出力を上げ――


「発進します!」

「行くぜ!」


 同時に発進した。


 ◇


 イオー・ジマの甲板からスラスター全開で飛び立ったあと、ボクとサイは海面に降りた。

 空を飛ぶと、燃料を早く消費してしまうからだ。


 海面を滑走し始めて間もなく、パワードスーツのレーダーが反応して、巨大な物体を映し出す。


「見えたぞ、戦艦だ」

「想像よりも大きいね。 スピードも速くなってる」


 よくエイリアンが出てくるSF映画で見るような、複雑なデザインの戦艦が空に浮いている。

 全長は300mくらいありそうだ。


「周辺にエネルギー反応! エイリアンのお出ましだぞ!」


 ルドガーが叫び、戦艦の左右にワームホールが展開され、たくさんのエイリアン達が中から現れた。


「雑魚は任せたよルドガー、デイビッド」


 ボクは蹴るような動作でスラスターを吹かし、海面から飛び上がる。


 同時に、アサルトライフルの銃身を切り詰め、近接戦闘向けに改修された「7.62mm ショートライフル」を構えた。


「二丁拳銃もできるのか」

「命中率は低いけどね」


 2丁構えたライフルを巧みに操り、ボクに向かって突進してくるエイリアンを撃ち落とす。


 ショートライフルの装弾数は25発。

 予備のマガジンは持ってきていないため、弾を撃ち切ったらライフルを捨てるしかない。

 ま、戦艦に乗り込んだら、キロネックスだけで十分なんだけどね。


「戦艦の砲は起動していない! 2人とも、行けるぞ!」

「おっけー!」

「了解!」


 ボクはルドガー達に雑魚を任せ、弾切れになったライフルを投げ捨てながら、腰の両サイドに格納されたキロネックスを抜き、くるりと一回転させる。


「緊張するな、近接戦は」


 同じくキロネックスを抜きながら、サイが言った。


「慣れると楽しいよ」


 戦艦の甲板に降り立ったボク達は、一気に走り出し、戦艦の艦橋を目指す。


「ここからは俺たちが相手だぜ!」


 ボク達を狙うエイリアンは、ルドガー達が引き受けてくれる。


「艦橋に穴を開ける。 サイはすぐに乗り込んで、中の敵が攻撃してこないか確認して」

「任せろ」


 前に出たボクはスラスターを一気に吹かし、跳躍した。


 艦橋を飛び越える間に左手のキロネックスで窓に切れ目を入れ、降下する時に右手のエクスカリバーで窓をくり抜いた。


 穴からサイが飛び込み、キロネックスを中に居たエイリアン共に向けた。

 ボクも続いて艦橋に突入し、エイリアン共を見やる。


「さて、地球の言葉はわかるかな? 無駄な抵抗はしないで、降伏してもらうのがベストなんだけど」


 ボクが言うと、目の前に居た赤いアーマーを着たエイリアンが、両手を上げながら近づいてきた。


「どうか……どうかワタシ達を助けてくれ」


 以外にも、そのエイリアンが発したのは、流暢な英語だった。

 発音は、イギリス訛りに近い。

 エイリアンは、人間の言葉も学んでいたようだ。


「助けるのはいいけど、先にこの戦艦を止めてほしいな」

「それはできない。 この艦のエンジンに、ヤツらが爆薬を仕掛けたんだ。

 エンジンを止めたら、(ふね)が爆発する」


 "ヤツら"と言ったから、なんらかの理由で内部抗争をしているのは確かだ。

 しかも、罠もセット済み。 卑怯にも程がある。


「進路は変えられない?」

「ダメだ。 変えても爆発する」


 このエイリアン、今のところは信用できそうだ。

 あとは、どうやってこの戦艦を止めるか、なんだけど……


「物理的に解除はできない?」

「爆薬はエンジンと接続されているが、接続部を破壊し、コンソールで爆薬の不活性化をすれば、なんとかなる。

 だが、エンジンルームに続く通路は1本だけ。

 その通路には、ヤツらから指示を受けたユニットが、大量に配置されている」


 ユニット――アリ型たちのことか。


「通路と爆薬の接続部分はこっちでなんとかする。 他は君たちに任せるよ。

 あと、間違っても馬鹿な真似はしないように。 じゃないと叩き斬るから」


 ボクはキロネックスを構え直しつつ、エイリアンを見る。

 赤いアーマーのエイリアンは、コンソールらしき場所を叩き壊して、中からレーザーライフルらしきものを取り出した。


 「ヤツらにバレないよう隠していたんだ」と言いながら、隣に立つ青いアーマーを着たエイリアンにも、ライフルを渡す。


「残ってる人は?」

「格納庫に非戦闘員が30人ほど。

 格納庫の脱出ポットは溶接されてて使えないが、代わりに補強した。 シェルターとしては十分だろう」


 エイリアンは大きなゲートのそばにあるパネルに触れながら、ボク達を見る。

 ボクとサイはキロネックスを構え、ゲートの解放に備えた。


「5分以内に済ませてくれ。 じゃないと爆弾が起爆する」

「――3分で終わらせるよ」


 大きな音を立てて、ゲートが開いた。

 ボクとサイは走り出し、オスプレイが数十機も入れそうな広い通路を突き進む。


 ◇


 ボクたちに気づいたアリを叩き切り、死骸を足場にして、さらに加速した。


 赤と青のエイリアンは、ライフルを撃ちながらボク達に続く。

 あのアーマーは、パワードスーツと似た機能を備えているようだ。


「通路の中間に、コンソールが設置された部屋がある。 そこからでないと、不活性化作業はできない」


 エイリアンが小さなゲートの前で止まった。

 この通路には、複数のアリが居るから、エイリアン2匹だけで対処するのは無理だろう。


「サイ、2人を援護して」

「なに言ってるんだハイゼ!? ならオレがこの先に行く!」


 肩を掴んできたサイを、ボクは思いきり殴った。


「サイはまだボクより弱いでしょ!

 あんた1人じゃ、この通路は突破できない。 ボクが1人で進むしかないんだよ」


 ボクは、呆然と立ち尽くすサイを抱きしめる。

 そして秘匿回線に切り替え、耳元で囁いた。


「あとで……サイの気が済むまで、ボクのことを抱いてもいいから」


 ボクは頭部アーマーを、サイの頭部アーマーに(こす)りつける。

 ――これは、キスをする代わりだ。


「2人とも、名前はある?」


 突然のことで固まったサイを無視してボクが訊くと、赤いエイリアンが頷いた。


「ワタシの名前はフェル。 青い方はシャルだ」


 なるほど、わかりやすくていい名前だ。


「フェル、シャル。 彼を頼む。 突っ込ませすぎないようにね」

「ああ、任せてくれ」


 ボクはサイの頭を撫でたあと、スラスターを吹かしてその場を後にした。


 ◇


 刻んだアリを踏みつけ、壁を蹴り、天井を蹴りながら、ボクは通路を進んでいく。


 通路に残ったエイリアンは数体だけ。

 サイが相手にしていたエイリアン達も片付いたようだ。


「前方にあるのがエンジンルームのゲート?」

「すぐには開けない、叩き切れ」


 フェルが言った。


 ボクは笑いながらキロネックスを振り、ゲートを四角くくり抜く。


 ◇


 ゲートに作った穴をくぐると、円筒形の物体を中心に据えた部屋に出た。

 あれが戦艦の動力なんだろうか?


「どれが爆薬と接続してるやつ?」

「筒の中心から下に伸びたパイプだ。 それを切ってくれ」


 ボクは指示に従い、細く伸びたパイプを切り裂いた。

 直後、切り裂かれたパイプから青白い液体が吹き出し、筒から放たれていた光が、赤から白い光に変わる。


「こんな単純な方法で平気なの?」

「ヤツらは、ワタシ達のような存在を片付けるのに、手間をかけたがらないんだ。

 だから、簡単な方法で済ませてる」


 納得したボクは、さっさとエンジンルームから出ようとした。


 だが、後ろでガラスが割れるような――ぴしっという不思議な音を耳にする。


「――!」


 殺気を感じて、ボクは跳躍した。


 次の瞬間、ボクの居た場所に細長い物体が突き立てられて、金属を引っかく音を立てる。


「コイツは!?」

「アイツら、エンジンにユニットを潜ませていたのか!?」


 2人も知らなかったらしい……なら2人を責めるのは間違いだね。


「ハイゼ!」

「ボクは大丈夫。 サイはそこを守ってて」

「でも!」

「大丈夫だっつってるでしょ!」


 サイには死ぬほど心配させておこう。

 そんな人に抱かれるのはどんな感じなのか――知りたかったから。


「コアの場所はわかる?」

「恐らく頭部のはずだ。 地球で言うムカデを参考にしているから、あの細い胴体にコアは作れないだろう」


 なるほど、地球の生物を参考にエイリアン――いや、ユニットを作っていたのね。


 ボクはムカデの攻撃を避けながら、細部を観察する。


 ムカデは、強力なアゴを最大の武器とし、鋭く尖った大量の脚を不意打ちに用いるらしい。

 ムカデと同じようにしなやかな動きをするから、体当たりだけでも十分な武器になるだろう。

 甲殻の強度は――ダンゴムシ程度か?


「ただ細くて長いだけがとりえのエイリアンだと良いけど」


 私が呟くと、サイからなぜか映像通信が送られてきた。


「あいつ、オレのと比べると、どう?」


 こんな時でもくだらない質問をしてくるのか、お前は。


「――怒るよ?」


 ボクはただ淡々と返して、ムカデを睨む。

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