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サイサリア/ハイゼ  作者: スマ甘
6/14

ep.3.5

 ガルフポート基地に戻ってきたのは、21時を過ぎてからだった。

 ――移動中、サイと話すことはなかった。


 ◇


「輸送任務、ごくろうさま」

「レイチェルさん」


 帰還後の作業を終えてから食堂に向かうと、調理師のレイチェルさんがボク達を待っていた。


 レイチェルさんが示したテーブルには、美味しそうなスイーツが沢山並んでいる。


「イオージマで夕食は済ませたって聞いたから、デザートを用意したの。 甘さ控えめで、さっぱりした物が中心だけどね」

「……チーズケーキにティラミス、冷凍庫にはチョコレートフラッペ! ボクの大好物ばっかりだぁ!」


 好物ばかりが並んだテーブルを見て、ボクの顔が綻んだ。

 隣のサイは、そんなボクを見て微笑んでいる。


「これだけの量、喰えるのか?」

「大丈夫。 スイーツは別腹だって言うし」


 席についたボクは、まずティラミスを選び、スプーンでひと口頂く。

 ――スッキリした甘さに、ほどよいコーヒーの苦味が口の中に広がる。

 やっぱり、レイチェルさんの作るティラミスは最高だ。


 一方、サイは手作りのアイスバーを食べている。

 アイスバーを最初に食べるというのは、やはりというか……なんというか。


「他のも食べれば?」

「アイスバーを食べたらちゃんと食べるよ」


 ルドガーは抹茶のパウンドケーキ、デイビッドはチーズケーキを食べているようだ。

 ティラミスを食べ終えたあと、ボクはサイが食べていたアイスバーを手にする。


「――スッキリして美味しいね。 このアイスバー」

「だろ? いつも買ってるやつも美味いが、レイチェルのも良いな。 今度、オーダーしても?」

「お昼の時間が終わった頃なら、大丈夫よ」


 「やった」と呟いたサイの表情は、おもちゃを買ってもらって喜ぶ子供みたいだった。


「……」


 アイスバーを食べていて、なぜか昨日のことが頭をよぎってしまう。

 アイスバーは関係無いはずなんだけどな……。


「寒いのか?」

「少し、口の中が冷たくなっちゃった」


 サイの質問に、ボクは笑いながら答えた。

 レイチェルさんが調理場に引っ込み「コーヒー? 紅茶?」と聞いてきたので「紅茶で」と答えておく。


 すると、サイが誰にも見られないよう慎重に動き、ボクの耳元に顔を近付けた。


「――それとも、オレのホットなバーでも食べるか?」


 ――なに言ってるんだコイツは。

 表情を変えずに、ボクは静かにサイの鼻をつまんだ。


「バカな事を言わないの」


 ボクは小さな声で呟き、戻ってきたレイチェルさんから紅茶を受け取る。


「あら? どうしたの?」

「ボクのアイスを食べようとしたから、ちょっとお仕置きしただけ」


 ◇


 ――ガルフポート基地 格納庫。


 翌日の午前11時。


 輸送作戦中に荷物が届いていたと知らされ、ボクは荷物の確認に来ていた。

 格納庫には、ボクとサイ、整備士以外、人は居ない。


「やっと残りの荷物が届いたみたいね」

「大事な荷物なのか?」

「そうだよ。 なんせ貯金の半分を使って作った装備だからね」


 荷物を見ていると、ボクの胸が高鳴った。

 早くコレを使ってみたい!と。

 

「まずはこの装甲。 胸部装甲を汎用型から10%軽量化、そして肩部/腰部を大型化させてスラスターを増設した。

 頭部も、通信アンテナを追加しつつ、単眼だったメインカメラを四ツ目にしたんだ」


 画像を見せると、サイはそのスタイリッシュなデザインを見て、目を丸くしていた。


「カッコイイ……。 ロボットアニメの主人公機みたいだ」

「でしょ!? デザインするの大変だったんだよ、コレ!」


 ボクは上機嫌に話し続けながら、次は武器の画像を見せる。


「4本の剣は、キロネックスの改良型。

 こっちのバックラーは『テンタクル(触手)』と言って、クローの部分がアンカーとして射出できる」


 ボクが説明している間、サイは何かに気づいたらしく、ポケットからスマートフォンを取り出した。


「このキロネックスの番号――M982はエクスカリバーの名前だよな?

 それに、テンタクルの番号……AGT 1500は戦車(エイブラムス)のエンジンの名前じゃないか」

「だって、レアメタルとか使ってたし、セキュリティ不安だったし」

「でもな、仲間を混乱させるようなことをするなよ」


 説明には納得したようだが、サイはまだ文句を言いそうだった。


 荷物の確認を終え、コンテナを閉じた直後、サイがボクの手の上に――手を重ねてきた。

 そして、ボクの手をしっかりと握りしめてくる。


「なぁ、ハイゼ」

「なに?」


 猫なで声で呼ばれて、ボクはゆっくりと振り向く。

 するとそこには、熱を帯びた瞳でボクを見つめるサイが居る。


「――好きだ」


 昨日と全く同じ、ストレートな告白。

 答えに詰まったボクは、ぐいっとその手をどける。


「まだ、返事はできないよ。 ボク、子供なんだよ?」

「そうか……そうだよな」


 唸るようなサイの声。

 彼の青い瞳が、じっとボクを見つめている。


「まだ12歳だもんな、ハイゼは。 わかった……無理に答えなくていいぜ」


 白い歯を見せながら笑ったあと、サイは静かに立ち去っていった。

 ボクは、彼の背中を見ているだけしかできなかった。


「どうして……どうしてわたしは、はっきりと答えられないんだろうね」


 彼の姿が見えなくなったあと、ボクは天井を見ながら呟いた。

 誰に言うでもなく、ただ1人で。


 ああ、それはなんて――――孤独だ。


 ◇


 自分が何を考えているのか、分からなくなってしまった。


 あれから部屋に戻り、ベッドで横になったあと、すぐに熟睡してしまったらしい。


 目覚めたのは、朝の9時。

 今だけは、正式な国連の兵士でなかったことを喜ぶべきだろう。

 国連の兵士だったなら、腕立て100回……いや、グラウンド100周はやらされてるはずだ。


 とりあえず軽くシャワーを浴びてから着替え、食堂に行くことにした。

 最新の情報を得るなら、食堂かラウンジに行くのが手っ取り早いからだ。


 ◇


「おはよう、ハイゼ」

「おはよう、ルドガー」


 食堂に着くと、トレーを持ったルドガーと会った。


「ルドガー、サイがどこに居るか知らない?」

「アイツなら、さっさと食事を済ませて、パワードスーツを見に行ったんじゃないか?」


 「わかった」と答えて、ボクは食堂に設置されたモニターを見る。


「会いに行かないのか? ここ最近、一緒に居るだろ」

「ボクはこのあと用事がある」


 ボクが朝食を選んでいる最中、整備士の1人が食堂に来た。


 何かあったのだろうか?

 整備士は、頭をポリポリと掻きながらリストを睨んでいる。


「あ、ルドガー少佐。 ちょっと良いですか?」

「どうした?」


 ルドガーが聞くと、整備士は持っていたリストをルドガーに見せる。


 ――あれ、何のリストだろう?

 リストの内容が気になって、ボクはトレーを持ったまま、ルドガーの隣に並ぶ。


「3ヶ月の間に、基地へ搬入された装備品のリストなんですけど、いくつかモノが無いのがありまして」

「なんだ? 不正か?」


 そのリストに書かれた装備品の名前を見て、ボクは固まる。

 これって……全部ボクの装備じゃん。


「M982 エクスカリバーが2発に、AGT 1500が1基――か。

 エクスカリバーを使える砲はこの基地には無いし、エイブラムスも、エンジン交換が必要な車両は無いぞ?」


 指でひとつひとつ確認しながら、ルドガーはリストに書かれた名前を見ていく。


「20mm ポンポン砲? ――これ、ハイゼのじゃなかったか?」


 気づいたルドガーが、隣に居たボクを見る。


「ポンポン砲って、あの盾――ネマトシスに内蔵したやつですよね? ハイゼさん」


 なんで余計なことまで言うんだバカ。


 リストを凝視したままのボクに、ルドガーからの視線が突き刺さる。


「――どういう事か説明してもらおうか?」


 これは……もう正直に言わないと怒られるよね。


 観念したボクは、スマートフォンを取り出して、自分の装備品達を見せる。


「ネマトシスはシールド、20mm ポンポン砲はシールドに内蔵された射撃武装。

 M982 エクスカリバーとして登録したやつは、新しく持ってきた2本の剣のことで、AGT 1500は2つのバックラーの名前だよ」


 画像とリストを照らし合わせ、ルドガーは納得したのか、小さく頷いている。


「なんで名前を偽装したんだ? ややこしくなるだろう」

「だって、武器の名前考えるの面倒だったし、レアメタルを使った武器もあったから、盗まれたら困ると思って……」


 ぼそぼそと小さな声で説明しているボクの頭を、ルドガーは軽く小突いてきた。 その顔は、笑っている。


「次からはわかるようにしておけよ? わかったな?」

「――怒らないの?」


 ボクが聞くと、ルドガーは大笑いした。


「別に違法行為をしてたわけじゃないんだ、怒るわけないだろ。 逆に、そういう"おふざけ"は面白いと思うぞ」


 ルドガーは、ボクの頭を撫でる力を強くする。

 子供扱いはやめてって、何度も言ってるんだけどな……。


「まあ、次からはみんなにも伝えるようにするよ。

 このあとは、演習場で武器のテストをするつもりだったし」

「なら、俺達も見に行っていいか? 」

「もちろん」


 ◇


 【ガルフポート基地 第一演習場】


 食事を終えたボクは、パワードスーツを着用し、新たな装備と共に演習場に来た。


 両腕にはクローが付いたバックラー『テンタクル』が取り付けられ、両手には2本の剣『キロネックス』を持った。


 ――追加したスラスターの調整も終わらせてある。 いつでも戦える。


「ターゲット、用意するぞ」

「はいよ」


 ルドガーの言葉の後、演習場に使い捨て式の標的が現れた。

 今回は動くタイプではなく、その場で起き上がる固定式の標的だ。


「じゃあ、全力でやるわ」


 軽くジャンプをして体をリラックスさせたあと、強く踏み込んでからスラスターを全開にする。

 全身が引っ張られるような不思議な感覚には、まだ慣れない。

 でも、数秒でターゲットに接近するほどの速度を叩き出していた。


「なんて速度だ!」


 最初の標的を斬り飛ばした直後、ルドガーが声を上げる。


「Gによる負担は抑えられてるあるけどね」


 次は左腕のテンタクルからアンカーを射出し、少し離れた位置の標的を捕らえる。

 そして、アンカーを巻き取りながら加速し、すれ違いざまに標的を切ってから、右のバックラーよりアンカーを発射して、別の標的に当てた。


 ボクは機体が加速した状態のまま標的に近付き、縦に切り裂く。


「高機動によるヒット&アウェイ。 脆いアリの群れや、弱点を狙いやすい大型種には効果抜群だろうな」


 ルドガー達は、ボクの新たなパワードスーツの性能に魅せられていた。


 両腰の装甲へキロネックスを収めてから、ボクは鼻を鳴らしてみる。

 ――すごいでしょ? この装備たち。


「これなら、近いうちに大規模作戦を決行しても良さそうだな」

「え――また大規模作戦?」


 待機所に戻ったボクは、何かのデータを見ているルドガーに聞いた。


「作戦の内容は?」

「簡単な内容だ――エイリアンの戦艦を鹵獲する。 それだけ」


 これはまたすごい作戦を――

 ボクは思わず肩をすくめた。


 ペーパープランだけはあったあの作戦を、ついに実行するのね。


「明日からは忙しくなるぞ。

 ハイゼは装備の調整を続けながら、サイサリアを鍛えておけ」

「OK、任せて。 どうせ、サイには新しい戦い方を覚えさせるつもりだったしね」

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