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サイサリア/ハイゼ  作者: スマ甘
5/14

ep.3

 【キューバ】


 午前5時。

 場所は、キューバの中では大きな湾。

 名前は……たしか『バイーア・デ・ハバナ』と言ったっけ。


 港に停泊したアーレイ・バーク級から、大量の物資が降ろされていた。


「1日あればキューバに来れるんだな」

「マイアミからなら最速9時間で行けるけどね。 クジラに襲われたせいで、少し時間がかかったけど」


 ボクはパワードスーツを装備した状態で、サイと共に船団護衛にあたっていた。


 ボクは少しの間艦から離れ、破壊された港町を見ることにした。


 トラックを含めた数台の自動車は横転してぺしゃんこ、倉庫だったであろう建物は黒焦げになっている。

 堤防やスロープには、エイリアンの死骸が積み上げられ、死骸の山が発するエイリアン特有の臭いに、ボクは眉をひそめる。


 なんてひどい国……。

 キューバの現状は、ボクの想像を遥かに超えていた。


「キューバ軍には、パワードスーツが足りてないのか?」


 足下に落ちていたボロボロの雑誌を手に取り、サイは呟く。


「それもあるけど、エイリアンとの戦闘に慣れていないんでしょう。 人間相手とは勝手が違うし」


 キューバ軍のデータを呼び出し、戦力を確認してみた。

 リストに書かれた詳細を追うと、パワードスーツは"5機"しか配備されていないらしい。

 普通、街を守るためなら5個中隊――つまり最低40機は必要となるのに、キューバの場合"国全体"にたったの5機しか配備されていなかった。


 アメリカ軍が協力しなかったら、この国はとっくに滅んでいただろう。


「軍艦も一世代以上前の古いやつばかり。 空母なんて甲板が錆びてて使い物にならないじゃん」

「本当に国を守る気があるのかね、この軍は?」


 いざって時は国と民間人を捨てて逃げるんでしょ、とは言わないでおいた。

 余計なトラブルは起こしたくない。

 まあ、ボクはPMCからの指示が優先だから、国連の方針に従う必要はないんだけどね。


「荷物が降ろし終われば任務終了。 今日は早く帰れそうね」


 ボクがぼそっと呟いた直後だった。

 パワードスーツのレーダーが異常な反応を捉え、警報を鳴らす。

 この反応は――


「エイリアンのワームホール反応! 奴らが来ます!」


 驚くオペレーターの声。

 余計なことを言うんじゃなかった。


「全員、戦闘準備! 歩兵部隊は民間人の保護を優先しろ!」


 ルドガーの指示に従って、キューバ軍の部隊が動き出す。


「ハイゼ、行けるか?」

「修理も終わってるから大丈夫。 戦闘中はサイを頼むよ」

「また突撃するつもりだな」


 ルドガーは頭を抱えるようなジェスチャーをした。

 相変わらず察しがいいね、ルドガーは。


 ボクは細かい指示を出すのが苦手だから、指揮はベテランのルドガーやデイビッドに任せるのが一番だ。


「ワームホールから出て来た小型艇はボクが叩く。 船団や市街地に向かうエイリアンはA(アルファ)中隊に任せるよ」

「了解した」


 イオージマの甲板から発艦し、ボクはフワフワと宙を漂っている丸い物体に向かって、急上昇した。


 あれはエイリアンが移動に使っている乗り物で、地球で言うとバスのようなものだ。

 精度の低い機銃しか装備しておらず、パワードスーツの性能をもってすれば、簡単に沈められる。


 ボクは機銃掃射を避けながら接近し、船の周囲を飛ぶコウモリ型のエイリアンを狙って、ネマトシスを構えた。

 内蔵されたポンポン砲から放たれた弾は、コウモリのすぐそばで炸裂し、弾に内蔵された散弾が飛び散って、コウモリをズタズタにする。


「すごいな、その武器」


 ルドガーはポンポン砲の性能を見て感心していた。


「20mm ポンポン砲って言うの。 覚えておいて」

「ポンポン砲……QF 1みたいだ」


 まあ、それを元にしてるし。


 ボクはポンポン砲を撃ちながらさらに船へ接近し、突進してきたコウモリをネマトシスで叩き切る。

 そして船の出っ張った部分、艦橋にあたる部分に取り付くと、ライフルとネマトシスを、艦内に居るエイリアン共に向けた。

 身長(全高?)170cmほどの人型エイリアン達は、ボクの姿を見て驚いているようだ。

 だが、彼らは武器を構えるようなことはしない。

 ただの船員だから、武器は持っていなかったのだろう。


「こんにちは、クソッタレ共」


 軽く挨拶をしてから、ボクは引き金を引いた。

 ガラス状物質で作られた窓を叩き割りながら、ポンポン砲の20mm弾、ライフルの7.62mm弾がエイリアン達に襲いかかる。

 青黒い液体を撒き散らして、エイリアンの体はバラバラになっていった。


「マーカーは付けた。 対艦ミサイルでトドメだけ頼むわ」

「わかりました」


 オペレーターに残りを任せ、ボクは次の船に向かって飛ぶ。


 向かってくるコウモリをライフルで撃ち落とし、落下する残骸を足場にして、さらに加速した。

 いわゆる「八艘飛び」のようなやり方で、ボクは移動を続ける。


 船の艦橋に取り付く前に、ボクはネマトシスをバックパックに格納させ、代わりに、右手のライフルを左手に持ち替える。

 そして、空いた右手でキロネックスを構えた。


「2隻目はどのくらい保つかな!」


 スラスター全開。

 角度を合わせてキロネックスで窓を叩き切り、ボクは艦内に突入した。


 ゆっくりとキロネックスを構え直し、ボクは動揺しているエイリアンを見る。


 赤く光る単眼カメラが、じろりと自分達を睨んでくる状況で、エイリアンは何を考えるのだろう。

 ――知りたくもないけど。


「今日はエイリアンの三枚おろしが沢山できそうね」


 手始めに、真正面の一匹を一刀両断した。

 雑魚が――ボクの前に立つんじゃない。


「へっ、不味そうだな」


 ボクの言葉を聞いて、ルドガーは笑った。

 確かに、エイリアンの肉は毒々しい色をしているので、食べようとは思わない。


 姿勢を低くしてから加速し、次の一匹にキロネックスを突き立てた。

 足でエイリアンの死体を蹴り、キロネックスを引き抜いている間に、バックパックのネマトシスを起動させ、艦橋から出ようとしたエイリアンを撃つ。

 ――もう逃げられないんだから、大人しく殺されろよ。


 キロネックスを投げて違う一匹を壁に張り付け、それとは別の一匹に向かってボクは走る。

 エイリアンは怯えているのか、その場でしゃがみ込んでいた。

 だが、ボクはエイリアンの頭を掴み、無理やり立ち上がらせる。


「コアはどこだっけー? 胸だっけ? 頭だっけ?」


 呟きながら、エイリアンの首にライフルを突き付ける。

 首から胸部にかけて弾丸が貫通するように角度を調整したあと、ボクは何度も引き金を引いた。


「まあ人型は脆いから、コアの場所なんて関係ないけどさ」


 最後に、エイリアンを張り付けにしているキロネックスの柄を握った。

 エイリアンはキロネックスを引き抜こうとしているが、ボクはエイリアンの両腕をライフルで撃って破壊する。


「次の船も任せるー」


 軽い調子で言いながら、ボクはキロネックスを上に振るった。

 背後の壁ごと上半身を真っ二つに裂かれたエイリアンは、青黒い体液を噴き出しながら、その場に崩れ落ちた。


 ◇


 ボクが3隻目の船を制圧すると、残りのエイリアンが、上空に開いたワームホールに向かって移動を始めた。


「撤退するようだな」

「ワームホールの中へ行く気にはならんね。

 奴らが撤退を完了するまで警戒は怠らないで。 攻撃はしなくてもいい」


 船から飛び降り、ボクは地上に居たサイの隣に着地する。


「そっちはどうだった?」

「別に。 訓練通りに動いただけだった」

「でも、スムーズに動けてる。 成長したじゃん」


 サイのパワードスーツに記録されたデータを見て、ボクは感心した。

 あの時よりスムーズに立ち回れているし、訓練で指摘した部分も改善されている。

 もっと鍛えれば、彼は一流の兵士になれるだろう。


「なあ、ハイゼ」


 サイは秘匿通信に回線を切り替え、ボクを呼んだ。

 どうして回線を変えたんだろう?


「なに?」


 ボクは回線を切り替えながら聞く。

 その最中、サイはボクの肩を静かに抱いてきた。


「また部屋に行ってもいいか?」

「なんだ、そんなこと? べつにいいよ。 基地に戻るまでは暇だし」


 ◇


 パワードスーツを整備に出し、一人でシャワーを浴びたあと、ボクは部屋に戻った

  だが、部屋にサイの姿はない。


 ――部屋に来るって言ったクセに、なんで居ないんだよ。

 ボクは毒づきながら、さっさとベッドに潜り込んだ。


 ◇


 体に伝わる不思議な振動と、男のうめき声のせいで、目を覚ました。


 ボクはいつの間にか眠ってしまったらしい。

 枕元の時計を見て、時間は20時と把握し、うめき声の正体を知ろうとして、ボクは部屋の照明を点けた。


「――なにしてんの?」


 思わず、冷めた声で言ってしまった。


 そこには、ボクが寝ていたベッドに裸で寄りかかって、荒く呼吸をしているサイの姿があった。

 ボクが目覚めた事に気づいたサイは、手にしていた瓶のフタを開け、それをぐいっとあおる。


 ――お酒を飲んでるの? 飲めないって言ってたくせに?


「ここ最近溜まってたから、ちょっと――ヌイてた」


 開けてから時間が経っていたのだろうか。

 サイは少し溶けたバニラアイスをスプーンですくい、口に運びながら言う。


 そして、サイの体を見て気づいた。

 よく鍛えられた彼の肉体(からだ)に、白濁としていて、濃厚そうな精液がかけられていたことに。


「ボクの部屋で……そんなことしないでよ……」


 恥ずかしくなったボクは、とっさに枕元へ置いていたミネラルウォーターのパックを取って、サイに差し出す。


「汗もかいてるし、暑いんじゃないの?」

「……別に」


 サイはミネラルウォーターを受け取るが、飲もうとはしない。

 そしてパックを手渡す際、ボクの鼻腔を――甘くて独特な残り香が刺激する。


 その匂いを嗅いで、ボクは無意識に喉を鳴らす。


「さっさと"それ"拭かない? 部屋とかシーツが汚れちゃう」

「うるせえな。 ――わかったよ」


 サイはそう言って体にかかっている精液を指ですくい、口に運んだ。


「いや、飲むなよ!?」


 予想もしてなかったその行動に驚くが、サイは笑いながら口を開け、舌先に乗せた精液を見せつける。


「お前も飲むかぁ? おいしいぞぉ?」

「いらんわ!」


 というか汚いだろ……。

 ボクの反応を見ていたサイは、可笑しそうに笑いながら、精液を飲み下す。


 ――なぜそんな事ができるのだろう?

 サイの行動を見て疑問に思った。


 小さい頃からエイリアンとの戦いに明け暮れ、年相応の環境で育ったことがないボクには、ソッチ方面の経験が無いからだ。

 一応、知識だけはある。


「なんだ、こういうのは知らねえのか?」

「仕事人間だったからね。 それに、ボクはまだ12歳」


 口を尖らせながらボクは答える。


「サイ。 ひとつ聞いていいかな?」


 話を変えるために、ボクは質問する。


「ん?」


 冷蔵庫を開けながら、サイは振り向く。


「そういうことはさ、自分の部屋とか、1人になれる所でするもんだよね? ……なんでボクの部屋でやったの?」


 新しいアイスを開け、口に運びながら、サイは寂しそうな表情になる。


「ハイゼって、よく見ると美人だよな」


 サイはボクの質問には答えず、逆に質問してきた。


「美人? ああ……祖先が頑張ったらしいからね」

「え?」

「競走馬とか家畜と一緒。 ようは品種改良さ」


 祖先がやってきたことを想像すると、怒りがこみ上げてくる。


「大昔、中国で最も栄えた()族と、日本の高名な武家が"雑種(あいのこ)"をつくった。 そこから計画を始めたらしいの」

「計画?」


 ボクはその場に座り、深呼吸する。


「一族は、世界中から基準を満たした人間を取り込み、子孫を増やしていったんだ。

 そして、近親姦にならないよう年月をかけて交配を重ね、DNAをまとめたあと、ついに『世界中の人間の血を引く』1人の日本人――"海月(ミツキ) ハイゼ"を作り上げた」


 こんな話を他人にしたのは、初めてだ……。


 「ほら、話の内容自体はシンプルでしょ」


 誰にも言ったことがない、ボクの生い立ち。

 初めて話したせいか、肩が震えていた。


 常識という枠から外れたボクのことを他人(ひと)に話すことが、怖かったのかもしれない。


「始まりが中国人であること、寿命になると子供に戻って、再び成長することで永遠に生き続ける"ベニクラゲ"の仕組みと、自分たちの家系が似ていたから、クラゲを意味する単語を――この"雛形(ボク)"の姓名(なまえ)にした」


 ボクが言い終えると、サイは黙ったままボクに近付き、そっと抱きしめてきた。


「……サイ?」

「変なこと言わせて、ごめん」


 ボクは首を振った。

 悪いのはボクなんだから。


「――で、なんでボクの部屋でそんなことをしたのさ?」


 ボクが唐突に話題を戻したからなのか、サイは可笑しそうに笑う。


「おまえ、無理やり話しを戻しやがったな」


 今の彼は、態度が悪いところもある。

 というか、こいつ酒が飲めないんじゃなくて、酒癖が悪いから、飲酒を禁止されたのかもしれない。


「オレ、フロリダでハイゼに助けられただろ?」

「うん」

「あの時のハイゼの後ろ姿が、すごく格好良かったんだよ」

「……そうだったんだ」


 あの時は、無意識で体が動いただけだったのに。


「それで、オレも強くなりたくてハイゼの部隊に入った。

 だけど、お前の表情を見ていくうちに、ハイゼと過ごすうちに気づいたんだ――」


 サイは、ボクを抱きしめる腕の力を強めた。

 

「オレ、ハイゼのことが好きだ……って」


 ボクの体に、勃ちあがったサイの自身が押し付けられた。

 驚いたボクは何も言えず、ただ押し黙っているだけ。


 こんな時は、どう応えたらいいのだろう?


「ボク……男だよ?」


 ボクはぽつりと呟く。


「わかってる」


 そう言ってサイは立ち上がり、脱いでいた下着を履いた。


「返事は今すぐじゃなくていい」


 そのあと、酒の瓶、空になったアイスのカップ、脱いでいたTシャツを抱え、部屋のドアを開ける。


「ハイゼがちゃんと答えてくれるまで、オレは何度も告白するし、どんな時でも甘えるつもりだからな」


 笑いながら「おやすみ」と言ったサイは、部屋を出て行った。


「――――」


 1人になったボクは、ただ無言のまま、ベッドに潜り込んだ。

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