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サイサリア/ハイゼ  作者: スマ甘
4/14

ep.2.5

 事態が急変したのは、マイアミを出航して、数時間経過した頃のことだった。


 ◇


 ――時間は17時前後。


 ボク達がB(ブラボー)中隊と交代して出撃し、とりあえずイオージマの甲板から飛んで後方を確認した際、海面から無数の目だけを出したエイリアンを見つけたのだ。

 数は三つ。

 昔の資料にあった、水中戦用のエイリアンかもしれない。


「総員、戦闘配置! エイリアンがイオージマのケツについてる!」


 艦隊が体制を整えている間、ボクは甲板に置かれたコンテナに向かった。


「1番コンテナに入ってるパーツをバックパックに装備して。 ライフルとキロネックス、ネマトシスじゃ足りない」

「いいですけど、なんなんです? これ」


 細長い箱状の物体を取り付けながら、整備士が聞いてきた。

 ボクはFCS(火器管制システム)のセッティングを変更しながら、イオージマやアーレイ・バーク級2隻のソナーとリンクさせる。


「少し古い武器だよ。 サイ、行ける?」

「――ああ」


 声をかけると、隣に居たサイは、ぐっと右手の親指を立てた。

 ボクも同じ合図で返し、2人仲良く甲板から海上へ降りていく。


 ◇


 海上を滑りながらボク達は移動し、レーダーが、飛沫(しぶき)を上げながら泳ぐクジラを捕捉した。

 まず、ルドガー率いる第1小隊が発砲するものの、クジラは急速潜航して攻撃を回避する。


「海中に向けて撃っても意味が無いな」


 舌打ちしながら、ルドガーはライフルを格納した。


「弾が水の抵抗を受けるからね」


 レーダーでクジラの位置を確認しながら、ボクは考える。


 パワードスーツは水中でも活動できるが、角張ったデザインのせいで水の抵抗を受けてしまい、十分な機動力を発揮することができない。

 水中戦用パワードスーツも存在するが、イオージマにもアーレイ・バーク級にも、そんなものは積んでいなかった。


「タイミングが合えばなんとかなりそうだが、狙うにしても潜るまでが早くてな……」

「――クジラのくせに」


 クジラは数回浮上するものの、接近すれば潜って逃げていく。

 アレが海中からボクらを見て笑っていると思うと、無性に腹が立った。

 ――あまり人間を舐めないほうがいいと思うよ。


「ボクが前に出る。 周辺の警戒はサイ達に任せるわ」

「その剣じゃ無理だろ」


 ルドガーは、ボクが剣で斬りに行くと思ったらしい。

 まあ、攻撃に使うのはこれじゃないけどね。


「あいつらの居る深さは15mくらいか。 ――いける」


 ボクは加速してクジラに接近するが、クジラはまた潜ってしまった。


 クジラの体長は10mほど――火力不足にはならないだろう。


「潜ってれば安全だと思うなよ」


 潜ったままのクジラを追い越しつつ、バックパックに装着された箱を展開させる。

 箱からは筒型の物体が3つほど落下して――静かに沈んでいった。


 レーダー上で、クジラがちょうど筒に重なった瞬間。

 小さな爆発音が数回聞こえたあと、水しぶきと濃密な泡に混ざって、クジラの肉片が舞い上がった。


「1匹撃破した」


 冷静に確認しながら、残ったクジラの様子をうかがう。


「今の武器は?」

「ただの爆雷だよ。

 基地に来るときに持ってきたやつだけど、保管しておいてよかった」


 こいつは、レーダーやソナーを参考に爆発する水深を設定して、水中に居る相手の前方に位置取りながら、一気に投射するもの。

 爆薬には、フォトニック結晶の欠片を利用した新型爆薬を使用しているので、手に持てるサイズでも、十分な威力が出せる。


「でも、残った2匹は爆雷を警戒するんじゃないか?」


 ルドガーの言う通りだった。

 海中のクジラが不規則に動き出し、爆雷を投射する位置を決めさせないようにしている。

 無駄に頭がいいんだよね――コイツら。


「イオージマ。 残った爆雷を投射したら一度着艦する。 甲板にある3番コンテナ、用意しておいて」


 指示を出しながら加速し、イオージマを追い越してから、適当な位置に残りの爆雷を投射した。

 そして、爆雷が無くなった直後にスラスターを吹かし、航行するイオージマに着艦する。


「これ、どこに取り付ければいい?」

「両ふくらはぎの外側に。 セッティングはこっちでやる」


 即座に爆雷の無くなった箱が外され、他の整備士が、足に四つの筒を取り付けた。


「固定完了。 行けるぜ!」


 整備士がボクの頭を叩く。

 「行ってきます」と言ってからボクは跳躍し、再び海上に降りた。

 同時に、さきほど投下していた爆雷が炸裂したのか、数ヶ所で飛沫が上がっている。


「状況は?」

「爆雷は避けられたみたいだ」


 悔しそうな表情で、サイは映像通信を送ってきた。


「そう。 ――やっぱり行くしかないか」


 サイが「どこに?」と聞いてきたが、ボクは答えないまま姿勢を変え、海に飛び込んだ。


「ハイゼ!?」

「付いてこないでよ」


 ――さすがに海中だと動きにくいな。

 ボクは後方を泳ぐ2匹のクジラを見ながら、なんとか姿勢を安定させる。


 ボクに気付いたクジラは、体を反転させると、さらに深くへ潜っていった。

 あのまま深海まで潜るつもりか?


 だが、ボクはスラスターを全開にして、急旋回した。


「やっぱり、噛みつきが武器か」


 直後、大きく口を開けたクジラが浮上してきたのだ。


「大丈夫か!?」

「ああ、平気。 だけど、あのクジラの突進はやばいね。

 歯も頑丈そうだし、艦の装甲も余裕で噛み砕けそう」

「どうするんだよ!」


 クジラが動いたってことは、これからもっと攻撃が激しくなるかもしれない。

 早く決着をつけないと。


「援護はいらない。 艦隊は全速力で航行を続けて」

「また無茶するのかよ!」


 「そうだよ」とボクは心の中で言った。


 ――ボクは大丈夫。 だから、サイはそこで見守ってて。


 言ってみたかった台詞は、恥ずかしくなったので言わないでおく。


 1匹のクジラが再び潜り始めた。

 なんだか攻撃パターンがホホジロザメだ。


 ボクは潜ったクジラを睨み続け、機会を待った。

 もう1匹は、距離を置いてこちらの様子を見ているだけだ。


「――来た」


 クジラが口を開け、迫ってくる。

 その距離、30m。


 ――口を開けるのがちょっと早すぎじゃない?

 両足のユニットを起動させ、ボクは口を開けたクジラに狙いを定めた。


「20mm 四連装酸素魚雷8発。 召・し・上・が・れ!」


 ボクの言葉を合図に、ユニットから魚雷が発射された。


 酸素魚雷は、通常の魚雷とは違い雷跡(らいせき)を残さないため、発見するのが難しい。

 そして、クジラは気付かないうちに魚雷を飲み込んだ。


「味はどうだい? クジラ野郎」


 フォトニック結晶の欠片を混ぜた爆薬の効果で、クジラはぶくぶくと膨らんだあと、目の前で破裂する。


「ぎょ……魚雷」

「これも前に作ってたやつ。 パーツのほとんどは誘導ミサイルと共用だから、安いんだよ」


 魚雷が無くなったユニットを捨てながら、最後の1匹となったクジラを見る。


 さて、どう仕留めるか。

 あのクジラはただボクを睨んでいる。

 そして、速度を上げて突進してきた。


「戻れよハイゼ! 武器がもうないだろ!」

「こっちには盾がある」

「盾でどうやって倒すってんだよ!?」


 サイはボクを追って潜ろうとしたらしいが、ルドガーに止められていた。


「ルドガー。 そのままサイを止めといて」


 ボクは再度突進してきたクジラを見ながら、速度を調節する。

 攻めるなら今しかない。


 クジラが口を開けて足に噛みつこうとした瞬間、バックパックのスラスターを全開にして、ボクは足の装甲をパージした。

 クジラが、パージされた足の装甲を噛み砕く間に、ボクはクジラの頭部に取り付き、ネマトシスの刃を脳天に突き刺す。


 ギョロ――っとクジラの目が一斉に動いてこちらを見るが、そんなことはどうでもいい。

 ボクはネマトシスに搭載された射撃武装を起動させた。


 その名は『20mm ポンポン砲』。


 これは、時限信管によって任意に起爆させられる能力を持つ20mm弾を撃ち出す武装で、本来は牽制に使うもの。

 けれど至近距離――しかも体内に何度も撃ち込まれればひとたまりもないだろう。


 ボクがポンポン砲に内蔵された25発全てを撃ち切るころ、クジラは絶命していた。


「こちら、ミツキ・ハイゼ。 クジラを殲滅した。 これより帰還する」


 死んだクジラの頭からポンポン砲を引き抜き、ボクはイオージマに向かって浮上した。


 ◇


「なんでいつも無茶ばかりするんだよ! もっと仲間を頼れよ、ハイゼ!」


 艦内格納庫に戻った直後、サイが後ろで怒鳴ってきた。


「だって、みんなの武器じゃクジラは倒せないと思ったんだもん」

「輸送任務だから倒す必要はないって、そうハイゼは言っただろ!」

「だけど、あのクジラは速かった。 放っておいたら(ふね)が危なかったよ」


 ふうっと息を吐き出しながら、ボクは頭部アーマーを外す。

 装甲が無くなり、インナーが剥き出しになったボクの足を、サイは見た。


「装甲をパージしたのか?」


 サイは戸惑った。

 まあ、戦闘中に装甲を捨てるなんてこと、普通はしないからね、当然の反応か。


「囮に使ったの。 パーツの予備はあるし、すぐに修理できるよ」


 武器や装備を使い捨てにする戦い方は「人さえ無事ならそれでいい」という、ボクの考えによるものだった。


「ハイゼ」


 パワードスーツを脱いだボクがその場を去ろうとした時、サイが小さな声でボクを呼んだ。


「オレ、もっと頑張るよ。 サイに頼られるくらいに。

 だから、もっとハイゼを見て、戦い方を覚える」


 ボクから学べることなんて何も無いのに。

 本人がそれでいいなら、止めはしないけど。


「――まあ、頑張れ」


 ボクはサイの頭をぽんぽんと叩いてから、格納庫を立ち去った。


 ◇


 夜中。


 整備士に散々怒られたあと部屋に戻ったボクは、さっさとベッドに潜り込み、眠ろうとしていた。


 そして、ベッドに入ってから少し時間が経った頃、部屋のドアが開く音がした。


 コツコツという足音が、ボクの方に近づいてくる。

 この足音は、何度も聞いているものだ。


「サイ……?」


 振り返ると、サイが脇が大きく開いた……たしか、ディープカットタンクトップ……と、黒のローライズというラフな格好でそこに居た。


「起こしたか?」

「まだベッドに入ったばかりだけど」


 ボクは上体を起こし「どうしたの?」とサイに訊いてみる。


「……一緒に寝てもいいか?」


 ホームシックにでもなったのかな?

 それとも寂しがり屋か、子供っぽいのか――理由はわからない。


 ボクは無言で体を壁際に寄せ、マットレスをぽんぽんと叩く。


「落ちても知らんよ」

「大丈夫」


 そう言って、サイはボクの隣に潜り込んだ。


 ボクは再び横になり、気になってサイを見てみると、少し熱を帯びたサイの目が――ボクを見つめていた。


 怯えるチワワみたいな目で、ボクを見ないでよ。

 なんて反応すればいいのかわからなくなる。


「――狭いなら、抱きついてもいいけど」


 何を言えば良いのかわからなくて、冗談のつもりで言っただけのに、サイはボクを抱きしめてきた。

 ぬいぐるみを抱きしめるみたいな、絶妙な力加減で。


 いや、普通は逆でしょ。

 まあ……いいか。


「普通は逆じゃない?」


 ボクが呟くと、サイはきょとんとした表情でボクを見る。


「別に。 でも、胸筋とかそういうのが無いからかな? ハイゼの胸って……なんか硬い」


 ああ、痩せてるからか。


「痩せてるからね。 というか、まな板みたいだとでも言いたいの?」


 サイは考える。


「フルフラットボディ――いや、ヘリコプター甲板。 でも、この固さなら空母の飛行甲板の方が近いか?」


 おい、ボクの胸をさすりながら考えるんじゃない。

 ていうか例えがおかしいし、空母の飛行甲板みたいとか――どこぞのRJを思い出すからやめろ。


「やかましい」


 むっとしながら、ボクはサイの頬を強めに引っ張っていた。

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