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サイサリア/ハイゼ  作者: スマ甘
13/14

ep.6.5

 【格納庫】


 レーザーを誘いながら跳躍して、レーザーが照射された瞬間にブースターを吹かして急降下。


 外付け式の追加ブースターは破損してしまったが、レーザーは回避することができた。

 だが、レーザー照射中のスキを突いてキロネックスを振り下ろしても、腕で攻撃を防がれてしまった。


 ――やっぱり、ハイゼのモーションをコピーするのは難しいな。


 俺は追加ブースターをパージしながら、シールドを人形に向けた。

 内蔵された20mm ポンポン砲を放つと、人形はムチのように指を振るって弾丸を弾いていく。


「クソッ――」


 ――時限信管のセッティングにまだムラがある。


「フェル。 ハイゼたちの状況は!?」

「人形2匹を撃破した。 いま、こちらに向かっているそうだ」


 もう新種を撃破したのか。 あの2人はすごいな……。


「ルドガー! ケガはない!?」


 俺とフェルの通信に、ハイゼが割り込んできた。


「ああ、問題ない」

「ボクたちももうすぐ合流するから、それまで時間を稼いで! あとはボクがやる!」


 ――ハイゼ、なんでお前はそんなことを言うんだ?

 俺を……仲間たちを信頼していないからなのか?

 お前は傭兵だから?

 国連軍の俺達より、実戦経験があるからか?


「……ルドガー?」

「す、すまない。 どうやって人形を攻撃しようか考えていた。 ――とりあえず、時間稼ぎなら任せておけ」


 また嘘をついてしまった。

 本当は『人形くらい俺1人で片付けられる』と応えたかったのに。


「わかった。 気をつけてね」


 ハイゼとの通信が切れた直後に、俺はブースターを吹かして人形に斬りかかった。


「ルドガー!?」


 人形は、腕を剣に変形させてキロネックスを受け止め、俺は人形と鍔迫り合いになる。


「時間稼ぎと言っていただろ!? どうして本気で戦ってるんだ!」


 俺は叫んだ。


「――お前には関係ない!」


 一瞬だけ間合いが開いた瞬間にボイラーを差し込み、ポンポン砲を撃って人形と距離を置く。


(モーションデータ呼び出し。 対象はハイゼ……)


 その間に、パワードスーツのモーションデータを呼び出した。


 呼び出したのは、ハイゼが旧型キロネックスで戦っていた時のデータ。

 俺は、部隊長としての権限を利用してこれを入手し、自分のパワードスーツのCPUにインストールしている。

 おかげで、単純なモーションだけならハイゼの動作に似たものとなった。


(あとひとつ。 あともうひとつだけ、モーションを追加する――)


 切れ味が鋭く扱いが難しい剣を使う兵士は、世界的に見ても少ない。

 そして、ハイゼのキロネックスと似た剣を扱う者は――誰も居ない。

 だから、こうやってハイゼのデータを盗んで、1人で覚えるしかなかったんだ。


 ◇


 "俺だってエースなんだ。 使いこなしてみせるさ"


 ハイゼからキロネックスとシールドを譲ってもらったあの時、俺がハイゼに言った台詞を思い出す。

 でも俺は、あの時まで剣を扱ったことなんてなかった。

 それなのに、見栄を張ってしまった……。


 ◇


「■■■」

「邪魔だっ!」


 伸びてきた人形の指を切り落としつつ、人形に肉薄する。


 キロネックスを左下から振り上げ、人形の胸部、赤く輝くコアを狙った。


「ちぃっ――!」


 だが、人形は素早く伏せて、俺の足を払ってくる。


「■■■■」

「――!」


 バランスを崩した俺は、すぐに姿勢を立て直そうとするも、脇腹に強烈な蹴りが叩き込まれ、俺は吹き飛ばされた。

 あんな華奢な外見なのに、なんてパワーだ……。


「ルドガー!」


 フェルとシャルが人形を撃つが、人形は片手で銃撃を防ぐ。


「だいっ――じょ、う――」


 そう言おうとして、俺は咳き込んだ。

 呼吸をすると、胸の辺りからゴロゴロという音が聴こえてくる。

 もしかしたら、肺をやられたのかもしれない。


 頭部パーツの下に被るヘルメットは、前面がバイザーとなっていて、HUDが故障しても、代わりに映像を投影してくれる。

 そんなバイザーの下半分が、真っ赤な血で汚れていた。


「大丈――夫だ――」

「ウソをつくな! どこをやられた!?」

「うる、さい!」


 俺はキロネックスを床に突き立てて支えとし、ゆっくりと立ち上がる。


「ルドガー!」


 くぐもってはいるが、ハイゼの声が聞こえた。

 もう格納庫に着いたのか。 ――やっぱり、速いな。


「あとはボクが――!」


 ハイゼは両手に持っていた新型キロネックスを投げ、俺に向かって伸びていた人形の腕を両断する。


「ハイゼ――」


 シールドを捨てながら、俺はハイゼの名前を呼ぶ。


 ――どうしてだろう。

 ハイゼが同じ空間に居るとわかっただけで、気分が良くなってくる。

 胸の痛みも、消えてくれた。


「俺は大丈夫だ」

「でも! 画面に血が付いてるじゃん!」


 ハイゼは、普段は大人びた言葉遣いで話すくせに、戦闘で気分が高揚してきた時や、咄嗟に反応した時なんかは、年相応の話し方になる。

 ――今は、本気で俺のことを心配しているんだな。


「頼むよ、ハイゼ。 少しは仲間を……俺のことを信じてくれ」


 今にも泣き出してしまいそうな声で、俺は言った。

 ――いや、俺は泣いていた。

 汗なんてかいていないのに、頬が濡れていたからだ。


 ……みっともないよな。 45歳を過ぎた大人がこんなザマじゃ。


「――無理だと判断したら、割り込むからね」


 少し強めの口調で、ハイゼは言う。


「ありがとう」


 俺は、キロネックスを構え直した。

 次に、ある機能を作動させる。


「――リミッター解除」

「――えっ?」


 ハイゼが教えてくれた秘密のシステム。

 誰も知らなかった機能を、俺は作動させた。

 もちろん、そのあとどうなるのかも、ちゃんと理解している。


「ハイゼ。 オレが合図を出したら、捨ててあるシールドを蹴り上げてくれ。 それだけ……それだけやってくれればいい」

「――わかったけど、リミッター解除に加えて更に無茶なんかしたら、許さないからね」


 俺の体は、リアクターから放出される光に包まれていた。

 一応、ブースターから光を放出して機動力を向上させることもできるらしいが、長くは保たないらしい。


「システム――」


 まあ、壊れたらまた直せばいいさ。


「――オーバードライブ!」


 俺は床を蹴り、体をギリギリまで倒しながら加速する。


「今だ!」

「了解!」


 俺は人形が飛び退く寸前に合図を出し、ハイゼにシールドを蹴り上げさせた。

 次にリモートコントロールでポンポン砲を起動させ、人形が跳ばないように一瞬だけ足止めをする。


「■■■」


 ハイゼがそれ以上邪魔をしてこないと判断した人形は、俺に向かって槍に変形させた腕を伸ばしてきた。

 そのスピードは、とても速い。


「ッッ――!」


 何とか体を傾けるも、伸びてきた槍は左腕に命中していた。

 たった一撃で……装甲まで貫通されるなんてな……。


「やっぱり……痛いな」


 槍に貫かれた左腕を、横目で見る。

 インナーがすぐに応急処置モードを実行したおかげで、大量に出血することは無かった。


「ルドガー!!」


 後ろに居るハイゼが、思わず叫んでいた。


「来るな!」

「でもっ――!」

「いいから来るんじゃない!」


 ガラガラ声で怒鳴りながら、俺は飛び出そうとするハイゼを静止する。


 ハイゼは、一見すると冷たい人間に見えるが、実は仲間意識がかなり強い。

 単に敵陣に突っ込んだように見えて、実は厄介な敵を片付けてくれていたり。


 「油断はダメ」と言っていつも全方位を警戒させるのは、敵の不意打ちで呆気なく仲間が死ぬのを見たくないからなんだな――と、俺は察したんだ。


 ハイゼはまだ12歳。 人の生き死にに敏感な年頃なんだろう。

 もしかしたら、そうさせるきっかけになった出来事が、過去にあったのかもしれない。


「――人類を舐めるな! 人形野郎!」


 "左腕なんて(・・・・・)いつでも捨てられる(・・・・・・・・・)。"

 俺が、エイリアンとの戦いで大事にしている要素(・・)だ。


 俺は貫かれたままの左腕を動かし、槍を掴む。

 ヤツら、再生能力は高いくせに、体の一部を分離させるような動作は一切してこなかった。

 つまり、分離能力は持っていないということになる。


「!?!?」

()った!」


 叫びながら、俺は人形の胸部にキロネックスを突き立てた。

 だが、コアを砕いた手応えがない。


「あの人形、コアだけで脱出する気!?」


 ハイゼの声がする。


 人形の顔を見ると、コアが口の中に収められていることに気づいた。

 伸ばされあ腕は俺を攻撃せず、ハイゼたちの攻撃を防ぐことに専念している。


「――お前」


 油断したな。


 ハイゼから直接伝えられてはいなかったが、このキロネックスには、ある"機能(ギミック)"が搭載されていた。

 それは、鍔のロックを解除することで、刀身の中に隠されているもうひとつの刃が取り出せる――というもの。

 このギミックを使えば、脱出しようとするコアを攻撃できる。


「なんでルドガーがそのギミックを知ってるの!?」


 ハイゼは、俺がギミックを使えた事に驚いているようだった。


(徹底的に調べたから、使えるようになったんだ)


 俺はキロネックスからもう1本の剣を抜き、ボディから分離しようとした人形の頭目掛けて振るった。


「■――」


 オーバードライブによって強化された一撃が人形の顔を砕き、コアを綺麗にスライスした。


「――終わったぞ、ハイゼ」


 オーバードライブが終了し、リアクターから黒い煙が噴き出した。

 そして、倒れそうになった俺を、ハイゼが静かに抱きとめる。


「無茶ばっかりしないでよ。 ルドガーが一番年長なんだから、もっと体を労わって」

「お前だって子供だろ? もっと大人を頼れよ」

「うるさい」


 ハイゼは俺のパワードスーツのシステムへアクセスし、バイタルデータを確認している。

 同じタイミングで、デイビッド達から通信がきた。


「基地の外周に殺到していたエイリアンが撤退し始めた。 どうやら、あの人形が指揮官としての役割も果たしていたらしいな」

「被害は?」

「機械化歩兵は負傷者が数名。

 死者のほとんどは、レーザー照射前に砲台に居た兵士たちだ。 だが、遺体のほとんどが蒸発しているらしくて……」


 そこで言葉を区切り、デイビッドが顔を伏せる。

 暗い表情で、ハイゼもうつむいていた。


「サイは補給後にフェルたちと周辺の警戒を。

 防衛戦で前衛を担当した人も、下がって休息したほうがいいと思う。

 ボクはルドガーを医務室に連れて行くよ」

「わかった」


 ハイゼは、兵士のコンディションにかなり気を使っている。

 1人で戦うことが多い傭兵では、当たり前のことなんだろうか?


「ルドガー、動ける?」

「ああ、なんとかな」


 ハイゼは俺の右側に来て、支えになってくれた。

 そして、俺に合わせて歩き出してくれる。


「いま医務室に行ったら、ドクターにたくさん説教されちまうかもな」

「説教されるのが嫌なら、無茶しなきゃいいのに……」


 俺たちは、兵士達が行き来する通路を抜けながら、医務室へ向かうことにした。

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