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サイサリア/ハイゼ  作者: スマ甘
10/14

ep.5

 時間は23時20分。


 疲れたからといって、部屋に戻ってすぐに眠りにつくのはやめにしよう……。


 ボクは、サイに馬乗りされ、強引にキスを交わしながら考えた。

 というか、サイが行為に移るまでが早すぎる。

 12歳の子供を襲うことに、躊躇いはなかったのだろうか?


「ハイゼって、寝てると無防備なんだな」

「う、うるさい……」


 下着姿のクリストファーは、何度も何度も口付けをしながら囁き、やがてボクが着ているシャツの中へ手を差し入れてくる。


「サイ、キスしすぎ……。 息ができないよ……」


 顔を背け、肩で息をしながらボクが言うと、サイはすまなそうな表情を見せる。


「――悪い」


 次は、ボクの首筋にキスを落としてきた。


「やっと、ハイゼに触れる――から」


 荒く呼吸をしながら、サイはボクのシャツをはだけさせていった。


 ――もう……逃げられない。


 豹変したサイを目の当たりにして、怖くなって、泣き出しそうになった。


「ずっと、お預けだったもんね。 すぐ隣に居たのに――さ」

「――うん」


 唸るような声で応えながら、サイはボクの胸元や腹にキスをし始める。

 さらに、ボクの膝へ下半身……すっかり硬くなったイチモツを押し付けてきた。

 ――大人の男のナニって、こんなに大きくなるんだ……。


「オレ、お前とヤったら、セックス依存症になっちまうかも」

「ばっ――バカなこと言わないでよ!」


 けだもののように舌なめずりしながら、サイはボクを見つめていた。

 熱を帯びた目は、ぎらぎらと不気味に輝きながら、こちらをただじっと見つめている。


「そうだ。 ハイゼ、これ見て」


 サイは、左腕に着けていた黒いリストバンドの中から、小さな何かを取り出した。

 それは、コスメの試供品みたいな、薄っぺらい袋だった。


「なにそれ?」

「コンドーム。 知り合いのをひとつ盗んできた」


 軍で検査は受けているし、男同士だからいらないと思うんだけど……。


 ボクが心の中で呟いていると、サイはボクのズボンを脱がせようとして、指を引っかけてきた。

 ああ――、ついにこの瞬間が訪れてしまったんだ……。


「――ハイゼ。 ちょっといいかしら?」


 レジーナさんの声がしたあと、いきなり部屋のドアが開いた。


 サイのバカ! なんでドアをロックしてなかったの……。


「ハイ――ゼ?」


 裸で抱き合っているボクたちを見て、レジーナさんは絶句していた。


「サイサリアと……何、してるの?」


 まあ、見られても恥ずかしくないんだけどね。


「見ての通り、これからサイと楽しむところなんだけど?」


 ボクは笑いながら答える。


「おかしいでしょ! サイサリアはともかく、ハイゼはまだ子供じゃない!

 子供がそんなことするのは……間違ってるわ!」


 レジーナさんが怒鳴っている間に、ボクの手が枕元に向かって動いていた。

 枕の下には、全兵士に支給される9mm口径の拳銃が隠してある。

 あとは、レジーナさんがボクの地雷を踏むかどうかの問題だ。


「ボクはもう12歳。

 それに、両親も保護者も居ない。 だから、なにをするのもボクの自由。

 このことはみんなに話しても良いけどさ、ボクに対して余計な事は言わないでね?

 ――――ボクの地雷を踏んだら、例外なくぶち殺す」


 枕の下からそっと銃を取り出し、レジーナさんに見せた。


「――――どうなっても知らないわよ」


 吐き捨てるように言ったあと、レジーナさんは踵を返して立ち去ってしまった。


「――あんたにとやかく言われる筋合はないよ」


 レジーナさんが去ったあと、ボクはサイを見る。


「どうする? 続ける?」


 サイの興奮は、収まってしまったのだろうか。

 ボクは、このまま続けたいんだけど――


「邪魔者も居なくなったし、続けようぜ。 ハイゼだって、このまま終わりにしてほしくないんだろ?」


 サイに心を読まれていた。


「――うん」

「じゃあ、続ける」


 サイが、ボクの首筋へ噛みつくようなキスをしてきた。

 そして、ローライズを脱ぎ捨てる。


「ねぇ、サイ……」

「ん?」

「初めてだから、痛くしないでね?」

「わかってる。 ま、オレも初めてだから、すぐに終わっちまうかもしれないけどな――――」


 ◇


 ――翌日。


 サイと一緒に食堂へ来た。


 ボクが食堂に入ると、それまで喋っていた人たちが一斉に黙り、ボクとサイを見る。

 レジーナさんが他の人に喋ったんだろう。

 ――口が軽いヤツなんて、誰からも嫌われればいいのに。


「サイ、なに食べようか?」


 ボクはサイと腕を組みながら、カウンターへ向かう。

 その間、ボクはみんなに対して勝ち誇った顔をしてやった。


 ◇


「ハイゼは居るか?」


 ちょうど食事が終わったタイミングでルドガーが食堂に姿を現し、ボクを呼んだ。


「どうしたの?」

「いや、あの異星人……フェルが、ハイゼとサイサリアに会いたいって言っていてな。 会いに行ってもらえるか?」

「いいけど」

「なら、格納庫に行ってくれ。 フェルとシャルはそこで待ってる」


 2人は、自由に動けるようになったみたいだ。


 ボクはサイと一緒にトレーを片付け、並んで歩き出す。


 ◇


 食堂を辞したあと、ルドガーはボクたちの後ろを静かに歩いていた。


「本当に、ハイゼはサイと付き合いはじめたんだな」


 ルドガーが、どこか寂しそうな調子で呟く。


「なんか文句ある?」


 ボクは、ただ静かに問いかけた。


「俺は、恋愛に性別は関係ないと思っている。 誰を好きになるかは、ハイゼの自由だ。

 ハイゼには、保護者も居なければ、親も居ないんだしな……」


 ルドガーは、どっかのバカ女とは考えが違うらしい。

 でも、ボクらに味方が居るのは嬉しかった。


「フェル達は、いまどんな感じなの?」

「監視付きだが、基地の中なら自由に行動できるようになった。 所持品は解析に回している」


 話している間に、格納庫に到着した。


 格納庫の中央に、赤いアーマーを着た異星人や兵士たちが集まって、ポーカーをしている。


「ハイゼ!」


 ふと、ボクらを見た赤いアーマーの異星人が、ボクの名前を呼びながら走ってきた。


「――もしかして、フェル?」


 ボクが訊くと、異星人はうなずいた。


「そうだ。 アーマーは着ておいたが、ヘルメットもかぶっておくべきだったかな?」


 フェルの顔は初めて見たけど、スタイリッシュなトカゲ? に見える、黒い甲殻に覆われた顔をしていた。

 もっと不気味な顔をイメージしていたんだけど、どうしてなかなか精悍な顔立ちだった。


「意外と色男だったから、びっくりしてる」

「そうか、ありがとう」


 フェルは優しく微笑む。

 うん……"アリ"だね。

 サイと出会っていなかったら、フェルと親密になろうと努力していただろう。


「地球の文化とか、人間の感情は理解してるの?」


 ボクはそばにあったコンテナを引っ張り出し、それに座った。

 サイはボクの隣に座って、自然と肩を抱いてくる。


「ああ。 我々の星は、数百年前から地球を観測していたから、ある程度の知識は保有している……つもりだ」


 フェルも、同様にコンテナを持ってきて座る。


「そうなんだ。 それで、フェルはボクたちに会いたいって、言ってたよね?」

「ああ。 あの時のお礼を言いたくてな」

「別にいいのに。 当たり前のことをしただけなんだよ?」

「――ワタシ達にとっては特別なんだ」


 赤い目を細めてフェルは笑う。


「それで、フェルたちはこれからどうするの?」

「ワタシ達反体制派は、国連と協力して帝国軍と戦うことになった。

 この基地で保護された者には、元軍人も居る。 戦闘で足でまといにはならないと思うのだが……」

「パワードスーツと似た装備もあるみたいだしね。 部隊編成は?」


 フェルは考えるような素振りを見せた。


「この基地の編成と同じように部隊を作ったが、ワタシと弟のシャルだけ(あぶ)れてしまったんだ。 だから……」


 フェルはじっとボクを見つめてきた。

 自分たちを、ボクの部隊に入れてほしいってことね。


「ボクの部隊に入りたいの?」

「――ハイゼが良いなら」


 ボクの小隊は、あと2人足りない状態だった。

 だから、フェルとシャルを入れてもいいんだけど、サイが文句を言いそうで……。


「サイ……」

「――いいよ、2人を隊に入れても。 オレ達だけじゃできないことも、できるようになる」


 サイはやや食い気味に返事を返してくる。 しかも、OKなんだ。


「だって、ハイゼがオレのモノなのに変わりはないんだろ?」


 そのあと、小さな声でサイの呟きが聞こえた。

 ボクも、サイ以外の人と付き合う気はないけどさ。


「それじゃあ、2人とも宜しく」

「ああ、よろしく頼む。 ――シャル、ちゃんと挨拶をしなさい」

「……よ、よろしく」


 フェルに頭を叩かれ、薄紫の甲殻を持った小柄な異星人がぺこりと頭を下げる。

 この子が、フェルの弟なんだ。


 「シャルは人間で言う"引っ込み思案"でな」とフェルが付け足す。

 見た目も幼い感じだし、彼はまだ子供ってことなのかな?


「2人は何歳なんだ?」


 サイが2人と握手を交わしながら聞いた。


「ワタシが30歳で、シャルが15歳だったかな? 人間の年齢で換算するなら、だが」

「なんだ、フェルはオレより年上だったのか……」

「フェルに失礼なことできないね、サイ」

「うるせえ」


 サイがボクの頭を小突く。


「ハイゼとサイサリアは仲がいいな。 2人は付き合っているんだろ?」


 フェルの言葉に、ボクとサイは面食らった。

 なんで異星人の君たちが知ってるの――?


「ワタシ達は超能力が使えるんだ。 個体差はあるがね」


 超能力……?


「だから、ボクやサイの頭の中を覗いた……ってこと?」

「2人のことが気になったからつい。 悪いことをしたとは思っている」


 最後に、すまなそうな表情でフェルは頭を下げた。


 2人の前じゃ、隠し事はできそうにない。 ……嘘もつけないかも。


「言っておくが、超能力はずっと使えるわけじゃないぞ。 意識を集中させるから疲れるしな」


 フェルは息を吐きながら、伸びをする。

 能力を使うのを止めたらしい。

 というか、いままで使っていたってことか。


「でも、その力は戦闘で重要になるかもしれないから、乱用しないでね」

「わかった。 必要のない時は使わないようにするよ」


 これで、ボクやサイの頭の中を覗かれなくて済む。


「様子がおかしかったら、能力を使うかもしれないな……。 特に朝や深夜」

「――やめて! 絶・対・に、朝や深夜のボクらには使わないで!」


 フェルの肩をおもいきり掴み、彼の体を前後に揺すぶりながらボクは懇願した。


「わかった! 使わないから、揺するのはやめてくれ! 目が回りそう、だ……!」


 サイと一夜過ごした時の記憶や、サイに犯されているボクの姿を視られるのは嫌だ!

 ボクがどんな風に乱れていたかなんて知りたくないし、知られたくない――!!

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