ep.5
時間は23時20分。
疲れたからといって、部屋に戻ってすぐに眠りにつくのはやめにしよう……。
ボクは、サイに馬乗りされ、強引にキスを交わしながら考えた。
というか、サイが行為に移るまでが早すぎる。
12歳の子供を襲うことに、躊躇いはなかったのだろうか?
「ハイゼって、寝てると無防備なんだな」
「う、うるさい……」
下着姿のクリストファーは、何度も何度も口付けをしながら囁き、やがてボクが着ているシャツの中へ手を差し入れてくる。
「サイ、キスしすぎ……。 息ができないよ……」
顔を背け、肩で息をしながらボクが言うと、サイはすまなそうな表情を見せる。
「――悪い」
次は、ボクの首筋にキスを落としてきた。
「やっと、ハイゼに触れる――から」
荒く呼吸をしながら、サイはボクのシャツをはだけさせていった。
――もう……逃げられない。
豹変したサイを目の当たりにして、怖くなって、泣き出しそうになった。
「ずっと、お預けだったもんね。 すぐ隣に居たのに――さ」
「――うん」
唸るような声で応えながら、サイはボクの胸元や腹にキスをし始める。
さらに、ボクの膝へ下半身……すっかり硬くなったイチモツを押し付けてきた。
――大人の男のナニって、こんなに大きくなるんだ……。
「オレ、お前とヤったら、セックス依存症になっちまうかも」
「ばっ――バカなこと言わないでよ!」
けだもののように舌なめずりしながら、サイはボクを見つめていた。
熱を帯びた目は、ぎらぎらと不気味に輝きながら、こちらをただじっと見つめている。
「そうだ。 ハイゼ、これ見て」
サイは、左腕に着けていた黒いリストバンドの中から、小さな何かを取り出した。
それは、コスメの試供品みたいな、薄っぺらい袋だった。
「なにそれ?」
「コンドーム。 知り合いのをひとつ盗んできた」
軍で検査は受けているし、男同士だからいらないと思うんだけど……。
ボクが心の中で呟いていると、サイはボクのズボンを脱がせようとして、指を引っかけてきた。
ああ――、ついにこの瞬間が訪れてしまったんだ……。
「――ハイゼ。 ちょっといいかしら?」
レジーナさんの声がしたあと、いきなり部屋のドアが開いた。
サイのバカ! なんでドアをロックしてなかったの……。
「ハイ――ゼ?」
裸で抱き合っているボクたちを見て、レジーナさんは絶句していた。
「サイサリアと……何、してるの?」
まあ、見られても恥ずかしくないんだけどね。
「見ての通り、これからサイと楽しむところなんだけど?」
ボクは笑いながら答える。
「おかしいでしょ! サイサリアはともかく、ハイゼはまだ子供じゃない!
子供がそんなことするのは……間違ってるわ!」
レジーナさんが怒鳴っている間に、ボクの手が枕元に向かって動いていた。
枕の下には、全兵士に支給される9mm口径の拳銃が隠してある。
あとは、レジーナさんがボクの地雷を踏むかどうかの問題だ。
「ボクはもう12歳。
それに、両親も保護者も居ない。 だから、なにをするのもボクの自由。
このことはみんなに話しても良いけどさ、ボクに対して余計な事は言わないでね?
――――ボクの地雷を踏んだら、例外なくぶち殺す」
枕の下からそっと銃を取り出し、レジーナさんに見せた。
「――――どうなっても知らないわよ」
吐き捨てるように言ったあと、レジーナさんは踵を返して立ち去ってしまった。
「――あんたにとやかく言われる筋合はないよ」
レジーナさんが去ったあと、ボクはサイを見る。
「どうする? 続ける?」
サイの興奮は、収まってしまったのだろうか。
ボクは、このまま続けたいんだけど――
「邪魔者も居なくなったし、続けようぜ。 ハイゼだって、このまま終わりにしてほしくないんだろ?」
サイに心を読まれていた。
「――うん」
「じゃあ、続ける」
サイが、ボクの首筋へ噛みつくようなキスをしてきた。
そして、ローライズを脱ぎ捨てる。
「ねぇ、サイ……」
「ん?」
「初めてだから、痛くしないでね?」
「わかってる。 ま、オレも初めてだから、すぐに終わっちまうかもしれないけどな――――」
◇
――翌日。
サイと一緒に食堂へ来た。
ボクが食堂に入ると、それまで喋っていた人たちが一斉に黙り、ボクとサイを見る。
レジーナさんが他の人に喋ったんだろう。
――口が軽いヤツなんて、誰からも嫌われればいいのに。
「サイ、なに食べようか?」
ボクはサイと腕を組みながら、カウンターへ向かう。
その間、ボクはみんなに対して勝ち誇った顔をしてやった。
◇
「ハイゼは居るか?」
ちょうど食事が終わったタイミングでルドガーが食堂に姿を現し、ボクを呼んだ。
「どうしたの?」
「いや、あの異星人……フェルが、ハイゼとサイサリアに会いたいって言っていてな。 会いに行ってもらえるか?」
「いいけど」
「なら、格納庫に行ってくれ。 フェルとシャルはそこで待ってる」
2人は、自由に動けるようになったみたいだ。
ボクはサイと一緒にトレーを片付け、並んで歩き出す。
◇
食堂を辞したあと、ルドガーはボクたちの後ろを静かに歩いていた。
「本当に、ハイゼはサイと付き合いはじめたんだな」
ルドガーが、どこか寂しそうな調子で呟く。
「なんか文句ある?」
ボクは、ただ静かに問いかけた。
「俺は、恋愛に性別は関係ないと思っている。 誰を好きになるかは、ハイゼの自由だ。
ハイゼには、保護者も居なければ、親も居ないんだしな……」
ルドガーは、どっかのバカ女とは考えが違うらしい。
でも、ボクらに味方が居るのは嬉しかった。
「フェル達は、いまどんな感じなの?」
「監視付きだが、基地の中なら自由に行動できるようになった。 所持品は解析に回している」
話している間に、格納庫に到着した。
格納庫の中央に、赤いアーマーを着た異星人や兵士たちが集まって、ポーカーをしている。
「ハイゼ!」
ふと、ボクらを見た赤いアーマーの異星人が、ボクの名前を呼びながら走ってきた。
「――もしかして、フェル?」
ボクが訊くと、異星人はうなずいた。
「そうだ。 アーマーは着ておいたが、ヘルメットもかぶっておくべきだったかな?」
フェルの顔は初めて見たけど、スタイリッシュなトカゲ? に見える、黒い甲殻に覆われた顔をしていた。
もっと不気味な顔をイメージしていたんだけど、どうしてなかなか精悍な顔立ちだった。
「意外と色男だったから、びっくりしてる」
「そうか、ありがとう」
フェルは優しく微笑む。
うん……"アリ"だね。
サイと出会っていなかったら、フェルと親密になろうと努力していただろう。
「地球の文化とか、人間の感情は理解してるの?」
ボクはそばにあったコンテナを引っ張り出し、それに座った。
サイはボクの隣に座って、自然と肩を抱いてくる。
「ああ。 我々の星は、数百年前から地球を観測していたから、ある程度の知識は保有している……つもりだ」
フェルも、同様にコンテナを持ってきて座る。
「そうなんだ。 それで、フェルはボクたちに会いたいって、言ってたよね?」
「ああ。 あの時のお礼を言いたくてな」
「別にいいのに。 当たり前のことをしただけなんだよ?」
「――ワタシ達にとっては特別なんだ」
赤い目を細めてフェルは笑う。
「それで、フェルたちはこれからどうするの?」
「ワタシ達反体制派は、国連と協力して帝国軍と戦うことになった。
この基地で保護された者には、元軍人も居る。 戦闘で足でまといにはならないと思うのだが……」
「パワードスーツと似た装備もあるみたいだしね。 部隊編成は?」
フェルは考えるような素振りを見せた。
「この基地の編成と同じように部隊を作ったが、ワタシと弟のシャルだけ溢れてしまったんだ。 だから……」
フェルはじっとボクを見つめてきた。
自分たちを、ボクの部隊に入れてほしいってことね。
「ボクの部隊に入りたいの?」
「――ハイゼが良いなら」
ボクの小隊は、あと2人足りない状態だった。
だから、フェルとシャルを入れてもいいんだけど、サイが文句を言いそうで……。
「サイ……」
「――いいよ、2人を隊に入れても。 オレ達だけじゃできないことも、できるようになる」
サイはやや食い気味に返事を返してくる。 しかも、OKなんだ。
「だって、ハイゼがオレのモノなのに変わりはないんだろ?」
そのあと、小さな声でサイの呟きが聞こえた。
ボクも、サイ以外の人と付き合う気はないけどさ。
「それじゃあ、2人とも宜しく」
「ああ、よろしく頼む。 ――シャル、ちゃんと挨拶をしなさい」
「……よ、よろしく」
フェルに頭を叩かれ、薄紫の甲殻を持った小柄な異星人がぺこりと頭を下げる。
この子が、フェルの弟なんだ。
「シャルは人間で言う"引っ込み思案"でな」とフェルが付け足す。
見た目も幼い感じだし、彼はまだ子供ってことなのかな?
「2人は何歳なんだ?」
サイが2人と握手を交わしながら聞いた。
「ワタシが30歳で、シャルが15歳だったかな? 人間の年齢で換算するなら、だが」
「なんだ、フェルはオレより年上だったのか……」
「フェルに失礼なことできないね、サイ」
「うるせえ」
サイがボクの頭を小突く。
「ハイゼとサイサリアは仲がいいな。 2人は付き合っているんだろ?」
フェルの言葉に、ボクとサイは面食らった。
なんで異星人の君たちが知ってるの――?
「ワタシ達は超能力が使えるんだ。 個体差はあるがね」
超能力……?
「だから、ボクやサイの頭の中を覗いた……ってこと?」
「2人のことが気になったからつい。 悪いことをしたとは思っている」
最後に、すまなそうな表情でフェルは頭を下げた。
2人の前じゃ、隠し事はできそうにない。 ……嘘もつけないかも。
「言っておくが、超能力はずっと使えるわけじゃないぞ。 意識を集中させるから疲れるしな」
フェルは息を吐きながら、伸びをする。
能力を使うのを止めたらしい。
というか、いままで使っていたってことか。
「でも、その力は戦闘で重要になるかもしれないから、乱用しないでね」
「わかった。 必要のない時は使わないようにするよ」
これで、ボクやサイの頭の中を覗かれなくて済む。
「様子がおかしかったら、能力を使うかもしれないな……。 特に朝や深夜」
「――やめて! 絶・対・に、朝や深夜のボクらには使わないで!」
フェルの肩をおもいきり掴み、彼の体を前後に揺すぶりながらボクは懇願した。
「わかった! 使わないから、揺するのはやめてくれ! 目が回りそう、だ……!」
サイと一夜過ごした時の記憶や、サイに犯されているボクの姿を視られるのは嫌だ!
ボクがどんな風に乱れていたかなんて知りたくないし、知られたくない――!!




