宇宙冒険家ジョーンズ
冒険と言う言葉には、ブラックコーヒーが良く似合う。
何故コーヒーが似合うのか?
冒険には、苦味と、渋みと、コク深さと、芳醇な香りがあるからだ。
沈みかける夕日に照らされる波止場で、海からの潮風に吹かれながら、男は一杯の熱いコーヒーを胃袋に流し込む。
「うむ、美味い」
年のころは30代前半、細身の身体のわりに、ガッチリとした上半身。長い金髪が後ろで縛られている。
今にも海に沈もうとする夕日を見ながら、渋く決めて見せるこの男であったが、今男の飲んでいるコーヒーが練乳入りの極甘コーヒーであるとは誰も思うまい。
「ふっ、俺の心の渋みを、甘いコーヒーが中和してくれているのだ! わからんのか! そう言う事なのだよ!」
男は、唐突に誰も居ない方向に向かって叫んだ。
勿論、どこからも返事など来る訳がなかった。これは、この男特有の照れ隠しと言う奴なのだ。
「さて、一杯のコーヒーのあとには、壮大な冒険が待っている」
そう、この男のフルネームは『インディ・オブ・ジョーンズ・トイ』
しかし、人は彼の事を『宇宙冒険家ジョーンズ』と呼ぶ。
ジョーンズは次の星に向かう為、宇宙船へと乗り込んだ。
ジョーンズはこれまで大宇宙をまたにかけ、様々な特殊な星を旅してきた。
ちなみに、さっきまで居た星も特殊な星のひとつである。
なんと、さっきの星には夜、昼というものが存在しない。
存在している時間は、夕暮れのみ。
そして、地表の98パーセントは海で構成されている。
そこで導き出せる答えは一つ。
夕暮れ時の海辺で、黄昏ながら格好をつけるのに最適な星なのである。
海辺でカップルなどが、洒落にならんくらい照れくさい告白をしてみたり、会社などでうだつの上がらない中間管理職の中年などが、ナイスガイを気取って見せて、悦に浸って楽しむのだ。
そんな星のどこに冒険があるんだ? そう疑問に思うかもしれない。
「ダメダメ人生の中年が、こっそり隠れて、ダンディを気取って見せるんだぞ! これが冒険でなくて何が冒険か! 奴らにとって見てみれば、大冒険なのだ! もし、もしもだぞ、その姿を会社の部下にでも見られたとしたらどうする! もう泣いちゃうじゃないか!」
ジョーンズは、宇宙船の窓に写る大宇宙に向かって熱弁を振るった。
しかし、うだつの上がらない中年にとっては冒険だとしても、ジョーンズ自身にとってそれは冒険なのだろうか?
「ふっ、うだつの上がらない中年の姿を、こっそり後ろからストーキングし、それをカメラに収める。それをネタに金をせしめるという大冒険をこなしてきたんだぜ!」
冒険=恐喝
そんな方程式が、今うっすらと見てしまったような気がしたが、そんなものこの広大な大宇宙からすれば、些細なことなのだ、見落としてしまってもオールオッケーなのだ。
こうして、小金をせしめたジョーンズは、それを路銀として旅を続けることができるのだ。
まぁこんな事を言ってみても、ジョーンズはれっきとした冒険家だ。
数ヶ月前には、星そのものが生命体だという、恐ろしい星を訪れた。
気の荒い性格のその星は、時に暴れだしては、人類の存亡を危うくさせるのだ。
なにせ星そのものであるから、ほんの少し気分を悪くしただけで、とんでもないレベルの災害が訪れる。
星の機嫌を損なってしまい、火山地帯が一斉に噴火をはじめ、数万人の人間が亡くなった事すらある。
そこで、この星の大統領は、有名な冒険家であるジョーンズに助けを求めたのである。
「わかりました、このジョーンズにお任せあれ」
宇宙冒険家ジョーンズの別名は『安請け合い王ジョーンズ』である。
『とりあえずオッケーしておいて、どうするかは後で考えればイイジャーン』
無責任極まりない考え方ではあるが、もしかすると、そうでもないと宇宙冒険家などというものは務まらないのかもしれない。
そして一週間後。
ジョーンズは颯爽と大統領たちの前に姿を表した。
なんと、見事にジョーンズは星の機嫌を直して見せたのだ。
「はーっはっはっは。この銀河系のムツゴロウと呼ばれた私にかかれば、たとえそれが星そのものであろうとも、生物である以上、心を通わせることができるんですよ!」
さて、ジョーンズは一体どうやって、星そのものと心を通わせることが出来たのか?
「あれですよ、皆さん今までこの星を甘やかせ過ぎてたんですよ! シツケですよ! シツケが大事なんです。今じゃ、ちゃんと私の決めたトイレでおしっこをしますよ!」
そうジョーンズが言った途端、遥か彼方の砂漠に、大量のスコールが降り注いだ。
「あのぉ、ジョーンズさん、まさか、今のが・・・・・・」
大統領は、恐る恐るジョーンズに尋ねた。
「ええ、この星のおしっこです。ちゃんと私の決めたトイレでするようにシツケたのです」
「ちょっとまってください、もしかすると、今までこの星に降っていた雨というのは・・・・・・」
「ええ、勿論おしっこです」
大統領とその側近は、虚空を見つめながら、あんぐりと口を開くと、ブツブツとつぶやきだした。
「私達は・・・・・・星の・・・・・・おしっこを・・・・・・飲んで・・・・・・・」
「大丈夫ですよ、成分は水とほとんど変わらないんですから! ホトンド! ホトンド同じなんですよ!」
『そのほとんどじゃない部分がとても気になる・・・・・・』
そう思った大統領ではあったが、その思いは胸の秘めておいた。
実際知りたくなどは無かったのである。
「ま、まぁ星の機嫌が直ってくれてよかった。これでこの星は安泰なんですね、ジョーンズさん」
「ええ、もう私とこの星は友達ですよ。どんな言う事だって聞いてくれますよ。ちょっと試してみましょうか」
ジョーンズはニヤリと笑って見せた。
その不敵な笑顔に、大統領は嫌な予感を覚えたのだったが、そんな思いは胸の奥にしまっておいた。後に、『あの予感に従っておけば・・・・・・』と後悔する羽目に陥る事になろうとは気がつきもせず・・・・・・
「さぁて、ポチよ!」
ジョーンズは星に名前をつけていたのだ、ポチと。
「ま、まさかね・・・・・・」
大統領の額からは、なぜか! 冷や汗がとめどなく流れ落ちた。
「お手!」
ジョーンズの言葉に反応して、ポチこと、この惑星は、地表の大きく隆起させ、大気圏外にまで届く全長1000キロの『手』を作り出した。
そして、その手は成層圏を突き破り、超音速で地表に向かい叩きつけられた。
ポチのお手を食らった大陸は、完全に壊滅した。
大気圏外から、衛星で写真を撮ってみれば、見事なほどの手形が地表についていることだろう。
ポチのお手により、一つの大陸、無数の国家が滅亡したのだ。
「あ、あれれれ、おっかしいなぁ。じゃ次はチンチンをさせてみますから」
なんとか、この場を取り繕うと、ジョーンズは明るく振舞って誤魔化すのだった。
「こ、このジョーンズを撃ち殺せええええええ!」
大統領の命令により、数十名の警備兵が、一斉にジョーンズに銃口を向ける。
「ちょっと、大統領なんですかこれは! 私が『何を』したっていうんですか!」
何をしたのか、一つの大陸をほぼ壊滅させたのである。死傷者は億単位に昇るであろう。
それなにの、この開き直りよう、このおおらかさが宇宙冒険家たる由縁なのである。
「大統領、あなたがその気なら、私にも考えがありますよ。いいんですか? 私はポチと仲良しなんですよ。私が言えばポチは何でもしてしまうんですよ・・・・・・この意味がわかりますか?」
大統領は、その言葉の意味を理解した、そして深く肩を落とした。
「う、うぐぐぐぐ。ジョーンズさん、あなたはこの私を脅迫しようと言うんですか!」
「そんな事はありません。ただ物事を平和的に解決したいだけなんです」
ジョーンズは、ニコニコと笑いながら、大統領の肩に手をポンと乗せた。
大統領は、奥歯をきつくかみ締めながら、苦渋の選択をせざるをえなかった。
大統領は想像したのだ、もしこの星がチンチンなんぞをやらかした日にゃ、一体どうなってしまうのかを・・・・・
こうしてジョーンズは、大陸の一つを潰したにもかかわらず、無罪放免でこの星を去る事に成功した。
ジョーンズがこの星を去るとき、ポチがキューンキューンと寂しそうに鳴いたという。
その超音波により、数百万人の被害者が出る事になり、大統領はまた頭を悩ませる事になった。
こう語っていくと、ジョーンズはまるで悪人のように聞こえてしまうのだが、いいこともしている。
一年ほど前、ジョーンズは原因不明のウィルスに犯されている星に立ち寄った。
この星に蔓延しているウィルスに感染すると、三年の後に必ず死に至るのだ。
ジョーンズに、この病気の解析が依頼された。
そして、ジャングルの奥地で、このウィルスの性質を分析した結果、恐るべき答えにたどり着いたのである。
「わかりましたよ、この病気は完全に治せます!」
「ほ、ほんとですかジョーンズさん」
「ええ、このウィルスは三年後に確実に死に至る訳ですよね」
「そうです、三年後に死んでしまうのです・・・・・・」
「ならば、三年後にならなければいいのですよ!」
「へっ?」
ジョーンズの前に集まった医療団は、ハトが豆鉄砲食らったような顔をして見せた。
「さぁ、今から時間の表示を変えてしまうのです。一年という呼び方をやめて、そうですね・・・・・・・。一ヒョロンと呼びましょう。これなら三年後は三ヒョロンなわけですから、三年後に死に至るウィルスは無効になるわけですよ!」
「えっ、それってただの屁理屈なんじゃ・・・・・・」
一人を除いて、そこに居る者みんなは、呆れ顔であったが、ジョーンズだけは真剣そのものであった。
そのあまりの真剣さに負け、年月の単位をヒョロンに変えてみたところ、な、なんとウィルスでの死者が無くなったのである。
三年後に死に至るウィルスは、三年後に死に至る訳であって、三ヒョロン後には別に無害なのであった。
これにより、ジョーンズは星を救う事に成功するのである。
しかし、後に『救ってくれて助かったものの、ヒョロンはないよな・・・・・・』と、国民全てがそう思うのであったが、この星に救世主の決めた事は変えられず、宇宙で一番恥ずかしい時間の単位ヒョロンで有名な星として、語り継がれる事になるのである。
さて、そんなこんなで、さまざまな星で冒険を繰り広げてきたジョーンズだが、今向かっている星は一体どんな星なのであろうか。
「ぐふふ、もうすぐだ! もうすぐつくんだぜ! 美少女だけしか居ない星に!」
ジョーンズは、今にも顔から落ちそうなくらい目をたれ目にさせて、頬をニヤつかせた。
こうして、ジョーンズは美少女だけしか居ない星に到着したのだ。
宇宙船から降りて、星に降り立つと、そこには美少女、美少女、美少女だらけ!
宇宙港を歩く人全てが美少女なのである。
「こ、これは大冒険になりそうだぜぇぇ」
ジョーンズは、こぼれ落ちるよだれをふき取りながら、力強く握りこぶしを作って見せた。
しかし、ここでジョーンズの身体に、急激に異変が起こった。
「な、なんだ、こ、これは一体ィィィ」
この星に降り立って、約1分。ジョーンズの身体の細胞に変化が起こった。
その細胞は、全身を変化させ、なんとアッという間にジョーンズの身体を美少女へと作り変えてしまったのだ。
勿論性別もきちんと女になっていた。
ジョーンズは、ここでハッと気がつくのである。
『美少女だけしか居ない星・・・・・・つまり、この星にいる人は全部美少女という訳なのだから、俺自身も美少女でなければいけないと言うわけなのか!』
これこそが、この星の恐るべき所なのだ!
どんな人間も、この星に着いたと単に、美少女にメタモルフォーゼされてしまうのである。
「くそぉ、男の身体のまま、美少女とイチャイチャしたかったというのにー」
そう言って、ジタンダを踏んでみせるジョーンズだったが、よくよく考えれば、目の前を歩いている美少女も、もとは加齢臭のするおっさんだったかも知れないのだ。
そう考えてしまうと、目の前を歩いている美少女全てが、かわいく見えなくなってしまうから不思議だ。
ジョーンズは、力を落とし、ガックリと上半身からうなだれ落ちる。
「はっ、そうか、待てよ! 俺にはまだ大冒険できる所があるじゃないか!」
ジョーンズは、自分の胸にうまれた、大きな二つの山に目をやった。
「へっへっへ、この星に滞在する間、自分の身体の隅々までを大冒険して見せるぜ!」
ジョーンズは、この星に滞在している間、ホテルに閉じこもりっきりだったという。
一週間後、ジョーンズはこの星を後にした。
「凄かった・・・・・・。今までで最大の大冒険だった・・・・・・」
ジョーンズの大冒険は続く!
おしまい☆