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第一話

第一話だけ乗っけませう

 杉の木によって日の光が遮られ、鬱蒼と苔だの草だのが生い茂る森の中。

 草は鬱陶しく腰ほどの高さまで背を伸ばし、根本にある苔むした滑りやすい石を隠しており、そのうえ掻き分ければやたらとがさがさ音が鳴りやがる。

 俺はそんな森の中で、ちょいと周囲の草を刈り、ある程度の見晴らしを確保して休憩していた。


「不思議だねぇ……」


 この疑問は何度目だろうか?

 俺は何も持ってない手をじっと見る。

 その手をすっと上げてふっと下げれば、指の間に一枚の円盤が挟まれていた。

 円盤は非常に薄い輪であり、大きさはほんの10センチ、輪幅は2センチほど。

 何よりもの特徴は、輪の部分が刃となっていることだろう。

 これはチャクラム、日本語では戦輪という武器だ。あるいは八つ裂き光輪と言えばわかりやすいだろうか?

 ただ俺が不思議と言ったのは、手の中に戦輪が出てきたことではない。

 こっちはただの手品、俺の大道芸だ。


「―――ッ」


 とにかくそれを指に挟み、手首のスナップを利用して投擲する。

 音もなく飛んだ戦輪は、草むらから飛び出してきた緑色の小鬼の喉に突き刺さり、半ばまで切り裂いて止まった。


「ギィッ!?」


 ご覧のとおり、切れ味は抜群だ。

 下手をすれば刃に触るだけで指が切れるのだからさもありなん。

 で、俺は地面に刺していた両刃剣を引き抜き、のたうち回る小鬼へ向けて振り下ろす。


「よっこいせ」


 60センチほどだった両刃剣は振り下ろす途中、ばらりとその刀身をいくつもの刃に崩し、殺傷距離を急速に拡大した。

 小鬼には俺の手元から四つ目の刃がぐさりと突き立ち、残りから切っ先までは茂みの奥へ。

 そして、俺の持つ蛇腹剣は伸びた時以上の速さで身を縮め始めた。

 結果、哀れ小鬼は蛇の通り道となり、残りの刃を受けてずたずたに。


「うぅむ……」


 で、不思議はこれからだ。


 当然、切り裂いたからには小鬼の真っ赤な血が蛇腹剣にべったりなわけだよ。

 血脂は著しく切れ味を落とすと聞くし、骨に当たれば当然刃こぼれも起こる。

 この剣も刀身は血塗れ、脂でてらついてるし骨に当たったのか細かい刃こぼれも見える。


 が。


 刀身は見る見るうちに血脂を吸い込み妖しい金属の輝きを取り戻し、同時に刃こぼれしたところは盛り上がり、元通りに自ら鋭くなった。


「んー……」

「何を唸っているのだ木繰朗(でくろう)?」

「うぉびっくりした。なんだ、百鬼丸か」


 しゅたっと俺の後ろに降り立ったのは、この暗い森に溶け込むような暗い深緑の忍装束を着込んだ少年。

 といっても面頬も頭巾もないが。

 目立つ点を挙げるとするなら、帯が黒い蛇革だってことか。


 日本人らしい黒髪黒目に凛々しい顔つきに線の細いその体つき。

 将来的な美男が確定しているって感じか。

 得物は俺の知る限りじゃ苦無なんかの各種暗器。

 この年(たぶん前世で言う小五か小六)で天才の名を欲しいままにする学年首席様だ。

 出来杉くんポジだな。で、俺はのび太くん。傍らに猫型ロボットはいないが。


 ちなみに格好自体は俺も同じだ。

 小太刀は持ってないし、苦無より戦輪の方が好みって違いはあるがな。

 あと、俺はちょいとした仕掛けがある手袋をしているのと、木箱を背負子で背負っている。


 あぁ、うん。


 俺の二度目の人生、どうやら漫画みてぇな忍者らしい。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「それで、何が不思議なのだ?」

「いやな、血ぃ吸って刃こぼれが直るってのは、いつ見ても不可思議だなあと思ってな」


 そう言って蛇腹剣をぷらぷらと振って見せる。

 

「妖刀とはそういうものだ。『魂鋼(たまはがね)』とはそういうものだ」


 『魂鋼』。

 この世界はどうやら和風ファンタジーなヤツらしく、モンスターだの魔法だのを日本語変換したようなのがたくさんある。

 モンスターは妖怪、魔術は方術、貴族は公家で教会の聖女は巫女さんってところだ。

 ダンジョンもあるぞ!魔王もいるぞ!勇者は知らん。(ちなみにダンジョンは魔窟(まくつ)と呼ばれている)


 それで『魂鋼』っていうのが、なんだろう、妖刀の材料と言えばいいか。

 相応しい人間を選んで憑りつく妖刀で、使い手に力を与える代わりに、定期的に血を求めるそうだ。

 今、刃こぼれが治ったように『生きて』おり、なおかつ使い手とともに『成長する』。

 そして一度使い手を決めると、そいつに融合するため殺さない限り離れない。

 んー、ファンタジー。


 で、俺が何をしているかと言えば、その妖刀に選ばれるための儀式……のようなことをしているわけだ。


「それで、それがお前の『魂鋼』か」


 面白そうな顔で百鬼丸が蛇腹剣を見てくるが、残念、そうじゃあない。


「いんや、違う」

「違う?どういうことだ?」

「いやどうもこうも……」


 言いながら蛇腹剣を先程と同じように地面に突き刺す。

 何故か『魂鋼』の武器には鞘がない。というか使うなとまで言われた。

 何故だ。


「“あなたじゃ嫌よ”とさ」

「……は?」

「いやー逢引き(デート)には漕ぎ着けたんだがな、ねんごろにはなりたくねえとさ」

「え、いや、そんな馬鹿な。自在に動かしてただろう?」

「動かしてないんだなこれが。適当に敵目掛けて振り回したら勝手にコイツが殺すのさ。妖刀なだけあって血に餓えてやがる」


 でなきゃばーっと伸びてがーっと元に戻るような剣なんて扱えるかよ。


「……ちょっと待て、待てよお前」

「おう」


 なんか頭に手を当ててすんごい頭痛が痛そうな顔してらっしゃる。

 おお、歪んでても端正な顔は端正なんだな。歪なのに正とはこれいかに。


「……じゃあ何か?貴様この一週間ずっとこいつを振り回してたと?ひとりで?」

「いんや?こいつで20本目」

「……はあ?」

「何をお前、ぱいらいふみたいな顔してんだよ。そんなおかしなことかい」

「どうやって二十本も試した?」

「いや普通に」


 握ろうとして柄に針が生えたり刃が出来たら外れ。

 握れても鞘から抜けなかったら残念(何故かこの鞘は持ち出し禁止らしい)。

 試し切りに付き合ってくれたら御の字ってとこだ。


 という話をしてみれば、百鬼丸はまたすんごい顔になった。

 こうくると逆にどこまでやれば端正でなくなるのか試したくなるな。


「……わかった。とりあえず瀬戸物翁(せとものおきな)と話がしたい。戻るぞ」

「んあ?なんでじいさんと?」

「いいから行くぞ……ちっ」


 百鬼丸の有無を言わさぬ雰囲気に連行されようとした、その時だ。

 草むらを掻き分け踏み越え、こちらに走る何かの音。


「騒ぎ過ぎたな」

「だな」


 草むらの中から、妖怪どもが飛び出してきた。


 襤褸一枚を着け手には刃こぼれした鉈を持ち、濁った汚らしい緑の肌にぎろぎろと動く血走った目。

 白髪混じりのざんばら頭、その額には短くも鋭い一本の角がある。


『若葉小鬼』。


 この大魔窟『鬼ヶ島』に最も多く出現する、いわゆる初心者向けモンスターという奴である。

 和風で言ったら木っ端妖怪と言うべき存在だ。ちなみにさっき蛇腹剣で刻んでやったのもこいつ。

 それがひーふーみー……10匹か。


「わらわらわらわらと数だけは立派だなコイツら」

「ふん、雑草と同じだ。さっさと刈り尽くして戻るぞ」

「あいよ。そんじゃ―――」


 俺は蛇腹剣を手に、取らない(・・・・)


「人形を出すかね」


 両手の指を大きく広げ、腕を前へと伸ばした。


「さあ、出で座せい」


 そのまま右手と左手で別々の印を結び、腕を交差するように降り下ろす。


「『(きりぎりす)』」


 俺の手袋、その指先から背負った木箱に繋がった『鋼線』がピンと張り、木箱の中の『からくり』を動かした。

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