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ストレー街道と二つの戦闘

 旅の準備を終えた俺達はヒボク村を目指しブル・ウォータを出発した。ヒボク村まではストレー街道を通る。交易で使われる道で、石畳がとても美しい街道だ。本来であればモンスターがあまり出ない街道だそうだが、今日は事情が違っていた。


「オークが近くにいるとモンスターが変化する場合が多い。念のため『ファインダー』を展開する」


 シーザリオはそう言うと、大剣を空に掲げた。白っぽい薄い膜が俺達の周りを囲むように広がる。


「大体200メートルほどの探査能力だ。接近してきたモンスターはすぐに分かる」


「『ファインダー』ですか、私は始めて見ました」


 リリーが感心したように言った。確かにこの能力は心強い。視界の悪い戦闘や野宿をした時には特に重宝するはずだ。


「そこまで珍しい能力ではないぞ。暇が出来たら後で教えてやろう」


「本当ですか!? 嬉しいです、お姉様!」


「もちろんだ」


 新しい魔法を教えてもらえるのがかなり嬉しいようで、馬と一緒に飛び跳ねて喜んでいる。王女様だけあって馬術はかなりのものだ。俺的には今持っている魔法を頑張っていただきたいんだが。


「そういえばオークの目的は分かったんですか? 村を襲うようなモンスターではないと言ってましたが」


 俺は気になっていた事を聞いてみた。ヒボク村の男との会話の中でシーザリオがそんな事を言っていたのを思い出したからだ。


「ああ。多分『エルフ』が村のどこかにいる可能性がある」


「それなら、オークがヒボク村を襲う理由になりますね」


 どうやらリリーには理解が出来るらしい。悪の心を持ったエルフがオークへと変化をすると言っていたし、何か関係があるのだろう。


「まあ、あくまで推測だがな」


※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ 


 ストレー街道を半分程過ぎた頃だ。シーザリオが展開していた『ファインダー』に反応があったようだ。


「止まれ。三体のモンスターが接近している。この反応は―――――『ウル』だ」


 『ウル』―――――狼型のモンスターでとても素早いのが特徴だ。あごの力も強く、一度掴んだ肉は離さない。俺も奴隷仲間達と戦った事がある相手だ。素早い動きにさえ注意すればそこまで強敵ではないが、三体同時となるとかなり厄介な相手でもある。


「どうしますか、シーザリオさん?」


 今回は早めにモンスターを発見出来ている。間違いなく気付いておらず、相手にせず無視してしまっても問題ない。


「いい機会だ。自己紹介も兼ねて私一人で戦おう」


 本当かよ……。まさかの提案だった。ギルドのSランクってのはそこまで強いのか。俺は思わず笑ってしまう。


「ぜひお願いします」


「私の戦う姿を見たら惚れてしまうかもしれないぞ」


「いや、それはないです」


「年上の魅力が分からんやつめ」


「がんばって下さい、お姉様」


「ああ。私は女性でも問題はないぞ、はっはっはっ」


 そう言うとシーザリオは馬上でゆっくりと剣を構えた。それは2メートルもあろうかという大剣。冗談を言いながらも目には覇気が宿っている。行く先には、既に三体のウルが待ち構えていた。


※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※


「へあっ!」


 シーザリオの掛け声と共に馬がトップスピードになる。俺も邪魔にならない距離をとりながら追いかける。


 威圧感を持った突進にウルが一瞬ひるんだように見えたが、すぐに牙をむき出しにし、一体ずつこちらに向かって来た。


「シールド展開!」


 先程までモンスターの探査として使用してた魔力が変化をし、彼女と馬の身体を覆った。間違いなく防御魔法だ。


 その後、決着はあっという間だった。まさに電光石火とはこの事だ。

 襲いかかるウル達を一撃で倒していった。素早く方向転換をした相手でも全くバランスを崩す事なく急所を突き、同時に飛びかかってきた相手には、体に触れさせる事なくその首を落とした。


 満足気な顔でシーザリオが戻って来る。


「本当に強いですね」

 

 他に言葉は見つからなかった。なるほど、これほど心強い味方はいない。ギルドの男達の気持ちが分かった。伊達に露出が多い格好をしている訳ではない。ただ、一つだけ疑問に思った事があった。


「あそこまで力に差があったら『シールド』はいらないんじゃないですか?」


 魔力にも限りはある。俺には魔力の無駄使いに見えた。


「はっはっ、私の愛馬が怪我をしたら可哀想じゃないか」


 俺は妙に納得してしまった。


※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※


 それからまた、俺達はストレー街道を進んでいった。途中モンスターに出会う事もなく、ヒボク村まであとわずかと迫った地点だった。シーザリオは足を止めた。


「いるな。堂々と道の真ん中でお待ちだ」


「またモンスターですか? お姉様」


「フレイムスライムだ。さっさと倒して先に進もう」


 いい機会だと思った。いくらシーザリオが強いと言っても、共に戦う仲間として、俺とリリーの戦い方を見てもらった方が絶対にいい。


「俺達も自己紹介してもいいですか?」


「そうだな。見せてもらおう」


「えっ? 自己紹介するんですか?えっと、私はリリー・ローファンといいます」


「いやいや、俺とフレイムスライムを倒すってことだから」


「す、すいません。そういう意味だったのですね」


 リリーは顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。


「二人とも怪我はするなよ」


「分かりました」


「お優しいですね、お姉様は」


 気遣いの言葉はありがたいのだが、このままでは完全に子供扱いになってしまう。しっかりと戦える姿を見せる必要が出来た。

 そしてもう一つ、リリーが『魔力爆弾』を上手く使えるかどうか確認しておく必要があった。どっちかといえば、こちらこそ重要だ。リリーとはしっかりと打ち合わせをしよう


※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※


「さあ、やろうぜ! リリー!」


「はい! スキルも気をつけて」


 俺は馬を降り、フレイムスライムに向かっていった。馬に乗りながらの攻撃はまだ慣れていない。一番早く動ける形で戦う。


 フレイムスライムはゼリー状の身体から火を放った。火の早さはそれ程ではない。左右にステップを踏みながら、時には飛び、時には火を掻い潜る。難なく全て避けた。リリーは馬に乗ったまま間合いを詰めている。馬術に長けているだけあって、自分で動くよりよっぽど回避能力が高い。


 剣先が届くほどに距離が縮まると、フレイムスライムはツル状の攻撃に変化する。剣先を上手く使いながら一つ一つ切り落とす。ツルは強烈な熱を持っているため触れると大火傷だ。ここで一度左手を上げ、リリーへ合図を送る。魔力爆弾(水属性)の投擲とうてき合図だ。


 俺はすぐにその場から離れた。巻き添えを避けるためだ。


 ここで予想外の事が起こった。予想していた威力よりも爆弾の威力が強かった。ギリギリで避けたものの、当たっていたら確実に出血していた。

 ただ、幸いにもフレイムスライムには大きなダメージになっているようだ。動きが鈍ったところを見逃さず、俺は真っ二つにした。

 勝った。リリーとの連携では初勝利だ。


「やったー! スキル! やったー!」


 馬を飛び降りリリーが駆け寄って来た。思いっ切り両手を握ってくる。


「怪我はありませんか? あ、ちょっとり傷ありますね。今『ヒール』をかけます」


 自己申告通りのヒールだ。治っている気がしない。いや、自己申告よりは強力かもしれない。

 だが、こうやってリリーにヒールをしてもらえるのは悪い気はしない。擦り傷くらいなら、これからは自分で治療せずにリリーにお願いしよう。


「いい戦闘だった。思っていた以上に強かった」


 シーザリオが声を掛けてきた。


「まだまだです」


「次は本気で戦ってる姿が見たい」


 さすがに人の動きをよく見ている。別に手を抜いている訳ではないのだが『ヒール』を使ってはいないので、本気という訳でもない。


「それに、リリーも面白い魔力の使い方をする」


 その言葉が何を意味しているのかすぐに分かった。『魔力爆弾』の威力が上がっていた事だ。


「え、私は特別何もしてませんが? 爆弾の導線に魔力を込めただけですよ?」


 リリーにはゆっくりと説明する必要がありそうだ。


 多分、彼女が今回見せた能力は『アイテム強化』だ。この能力は、魔法が使い物になっていないリリーにとって、今後大きな力になるはずだ。



 

 太陽が傾き始め、夕方もそろそろ深まってきた頃、俺達はついにヒボク村に到着した。

いつも読んでいただきありがとうございます。また、ブクマをしていただきありがとうございます。

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